メーネ-2
メーネさんは白のブラウスに白のロングスカートを身につけ、シャチホコのような黄金色の髪は胸元までの長さがある。顔は整っているがどこかあどけなさがあり、カラルルさんと同じくらいの年齢に感じる。
「こちらもよかったらどうぞ」とお菓子がローテーブルの上に置かれ「それとこちらも必要であれば」とミルクピッチャーが差し出される。
「先ほどの《飲んでしまいましたか》というのは?」僕は気になりすぎて質問する。
「先にコーヒーを出した際、ミルクを一緒に渡し忘れましたので……苦くなかったですか?」メーネさんは対面の窓際のソファへ腰掛ける。
「……苦かったと思います」動揺しており味を意識していなかった。「そういえば、コーヒーを持ってきてくれた方は…?」
「…………あぁ」
メーネさんは立ち上がり、キッチンへと向かい、カビが生えたような大きな饅頭を両手で運んでくる。再度ソファに座り「ピィノくんです」と饅頭を紹介された。
直径約三〇センチメートルのわさび色のピィノくんの前面には目と口が付いており、つぶらな瞳がこちらを覗いてくる。
僕が右手を軽く上げて手を小さく振ると、ピィノくんの左側面から突起が伸びパタパタと振ってくれる。あ……かわいいかも。
「ピィノくんは生物界では何界に入るんですか?」
「んー。界は分からないですけど。ディクピードという魔物です」ピィノくんはメーネさんに撫でられ、気持ち良さそうに目を閉じている。
「あぁ。魔物だったんですね」僕はディクピードという名前に見覚えがあり、魔物図鑑を一生懸命思い返す。
…………あっ。思い出した。
「ディクピードは図鑑のイラストで見たことありますけど、もっと足がたくさん生えてるフォルムをしていたと思うんですが」
「はい。合ってますよ。歩くときに足を出しますので」とメーネさんはテーブルの上にピィノくんを置く。
「ピィノくん。歩いてみて」メーネさんが呼びかける。
ピィノくんは閉じた目を少し開けるが、また戻してしまう。
「お願い。ピィノくん」手を合わせて懇願するメーネさん。
聞く耳持たずのピィノくん。文字通り見た目では耳を持っていない。
「お願いします。見せてください」僕も加担して手を合わせる。
「…………」
「お菓子は食べないのですか? ピィノくん」僕はメーネさんに聞く。
「好きですよ」メーネさんはテーブルに置いてあるビスケットを一枚手に取り、小さく割る。
それからメーネさんは僕の隣へと着席し、ピィノくんと距離を離して「ビスケットだよ」と眠れる饅頭を呼び起こす。
ピィノくんの側面から突起がにゅっと伸び、カエルが舌で虫を捕食するかのごとく、手のひらのビスケットを捉え口へ運んだ。
「…………」
「まぁ。さっきコーヒーを頂いた際、少しだけ足が見えましたので大丈夫です」僕はメーネさんをフォローする。
「そうですか……」メーネさんは表情は変わらずとも、少し残念そうに声を出し、元の席へと戻って行った。
そして僕の心拍数も戻っていった……。
お互いにコーヒーを一口飲み一旦仕切り直しをする。
「蜘蛛がお好きなんですか?」僕は先ほど触っていた蜘蛛の重石が目に留まり質問してしまう。
「私は好きでも嫌いでもないですが、両親の趣味ですね」
「ご両親の……」
「両親は蜘蛛の研究をしていまして、それで本やら置物が部屋の中にあるんです」
「あぁ」と納得。
「両親の部屋には本物がいますよ。見ますか?」
「……いえ。遠慮しておきます」両手の手のひらを見せる。
僕はビスケットを摘みながら、そろそろ本題に入ろうという気持ちを整える。
その時、ピィノくんが目を開け立ち上がった。底面には数多の触手が生え、ボディを支えているのが分かる。そのままピィノくんは寝起きの犬のように欠伸をして伸びをした。伸ばす必要があるのかどうかは疑問だが、そのような仕草もまた愛くるしい。メーネさんが側に置いておく気持ちが理解できる。
「ピィノくんは一年前に両親が拾ってきまして、それから一緒に暮らしているんです」メーネさんがピィノくんを抱き上げ出会いを教えてくれる。「蜘蛛みたいに足がいっぱい生えてるからって」両肘を曲げてピィノくんの底を見せてくれる。
水族館で見たイソギンチャクを想起させる光景だ。
「……そうですか。そのご両親は現在部屋で研究をしているのですか?」
「いえ。今は学会参加のため王都へと外出中です」
「王都で学会……」
「数日は戻りません」
「…………」
「今は私一人です」
胸の高鳴りが指数関数グラフのように上昇した。




