休日
「おんちゃんってどこか出掛けたー?」
僕はキッチンで出汁を取っているぼっさんに声を掛ける。誤解無きように伝えると、ぼっさん自身がお湯に浸かって旨味を抽出しているのではなく、大鍋に野菜やら肉やらを入れて煮ているということです。
「さっき、散歩してくるって言ってたよー」
我々も金銭面は多少改善され、毎日依頼をこなさなくてもよくなり、休日を挟むようにしました。そして、そんな休日の昼下がりから現在お届けしております。
「何か用事だった?」ぼっさんが鍋の様子を見ながら質問してくる。
「いいや。暇だから声掛けて外出しようと思っただけー」
午前中に風呂、トイレの掃除を行い、衣服の洗濯、ミミクックへのご飯も済ませた。そして午後はやるべき事が無くなってしまう。
ぼっさんは時間さえあれば、ああやってキッチンに向かっている。うにやんは部屋にこもり、カラルルさんから頂いたお古の画材で絵を描いている。そして、おんちゃんはいつの間にか何処かへ出掛けていってしまう。それでもって僕は……。
「僕も散歩してくるねー」ぼっさんに伝え、靴を履き、鈴知こもかに行ってきますと声を掛け玄関のドアを開けた。
僕も何か趣味を作ろうかなーと思いつつ、買ったばかりのバニベアの顔が描かれたバニベアTシャツとベージュのチノパン、そしてカラルルさんの依頼前に購入した革靴を履き、シャヌラの町を散策する。
空を見上げれば鳥や有翼人の方が飛び交い、道通りには買い物かごを掲げる人、犬の散歩をしている人、カフェテラスでおしゃべりをしている人たちを観ることができる。
はこび処コルアーノの前を通るがチヴェカさんの姿は見当たらず。特別行きたいところも無いので、御世話になっている依頼処ギネガラへと自然に入ってしまう。癖になっているな。
僕は身体に染み付いた動きで、そのまま掲示板へと向かい、左上から右下へと視点をスライドさせる。特別目ぼしい依頼は無いな。
いや、あるっ!!
僕は視点を戻し、その依頼書を確認する。
『一緒にバーベーキューをして下さい。 メーネ・オールトベーク』
これは以前チヴェカさんが話してた依頼内容。もう現れないと思っていたが、相まみえるとは……。
早速、依頼のことを聞くために受付へ行くと「今日はお一人なんですね」と窓口のお姉さんであるアンリスさんに声を掛けられる。アンリスさんは僕たちに最初の依頼受付をしてくれた方で、もう何度もやり取りをしているので名前を覚えてしまった。
「今日は僕たち休日ですので……」
「おやすみの日に依頼処へ?」
「えぇ、まぁ。それよりも、あのメーネ・オールトベークっていう人の依頼なんですけど」僕は無理矢理目的の話題へと変えていく。
「受けるのですか?」
「気にはなってます。依頼主ってどんな方ですか?」
「んー。私は受付してないから分からないけど……」ちょっと待ってと言い、隣の窓口の女性に聞いてくれる。
僕の人望も少しは上がったのかもしれない。
「金色の髪で肌の白い、可愛らしい女の子ですって」報告してくれるアンリスさん。
ふ〜ん。
「じゃあ受けようかな……」
「依頼主がかわゆい女子だと分かったからですか?」
「珍しい依頼内容だからです。依頼主を聞いたのは怪しい人かどうか確認するためですよ」
「パニラが嘘を教えてくれたかもしれませんよ。本当は男かも」アンリスさんは隣の窓口の女性を見る。
「えっ! 嘘なんですか!?」僕は前かがみでパニラという名の人に顔を向けた。
ぷるぷると首を横に振るパニラさん。
その後、僕は二人の粘りつくような視線を感じながらも受付を済ませ金髪美少女とバーベキューできる権利、もといメーネ・オールトベークさんからの依頼書を頂いた。




