魔物-1
「依頼終了の報告は僕らから依頼処ギネガラへ行えば良いですか?」
「いいえ。依頼主が報告することになっていますので、みなさんは何もしなくても問題ありません」
そう言いカラルルさんは残りの報酬二万五千ルンを渡してくれた。また、忘れずにTシャツをうにやんに返却するカラルルさん。無事、鈴知こもかは救われたのだった。
シュモイン家から退出した我々は、そのまま貸家へと直帰し、みんなすぐに部屋に戻り静かになってしまう。僕も初日以上の疲れを感じ、ベッドに入ると直ぐに意識が薄くなっていった。
次の日、十分な睡眠が取れたおかげでスッキリと目覚めれた。トイレの後、リビングへ行くと、キッチンでぼっさんがお湯を沸かしており、「おはよう」とお互いに挨拶をする。
大鍋でお湯を沸かしていることからお風呂の準備をしているのだと分かり、僕も手伝うことにする。
「今回の報酬の使い道はどうする?」
二人で鍋が沸騰するのを見つめている。
「俺とシキさんのズボンと服が必要じゃない?」
僕とぼっさんはこの世界に来てから、同じTシャツとハーフパンツのままずっと生活をしている。
「服はTシャツを購入するのであれば、うにやんもぼっさんも一枚ずつしか持ってないから、四人分必要では?」
「それじゃTシャツ四枚とズボン二本購入で、あとは下着も追加で買おうか」
「そうだね。あ、沸騰したよ」
よしっとぼっさんは眼鏡を曇らせながら鍋を浴室へと持っていった。
朝の入浴、朝食後、みんなで図書館へ行くことに。昨日、シルム山への往路でファレサさんから「魔物のことを知りたければ図書館か本屋へ行くと良い」と教わったからだ。買う余裕はないので本屋へは行かない。
町長さんから頂いた町の地図を頼りに図書館へとたどり着く。
図書館は藍色のレンガ造りで、二階建の建物である。幅や奥行きはカラルルさんの家と同じくらいではあるが、シュモイン家は平屋であり、図書館は二階構造という違いがある。
「おはようございます」扉を開けると図書館の人がカウンターの中から挨拶をしてくれる。カウンターの向こうには、何人かいて、本の貸出、返却作業を行なっているようだ。
僕らは色々な本を見ながらも魔物図鑑を探し当て、二階の窓際のテーブル席へと移動した。
目次を見る限り百体程魔物が載っている図鑑であり、適当にぱらぱらとページを進めていく。
「これ、ファレサさんが言ってた魔物じゃない?」おんちゃんがページに描かれていると魔物のイラストに反応する。
「ああ、アスパラガスに似たやつね」
『名前:ガスパララ 体は細長く、目は上にあるが、口は真下にある。二本足で草や水の上へ移動し、しゃがむことで食事をする。高さは二メートル程だが、三メートルに達する個体もいる。性格は温厚』
「魔物なのに性格は温厚なの?」うにやんが突っ込む。
「獣でも種類によって気性が荒い、荒くないはあるからね」ぼっさんの意見。「おんちゃんも優しさに満ち溢れたおんちゃんと、冷酷強欲残忍なおんちゃんがいるからねー」
ぼっさんの言葉に合わせて、おんちゃんは朗らかな顔をしてから、目を大きく開きニタァと不気味な表情をする。
「なるほど。魔物にも多様な性格がいるってことか」肯首するうにやん。
「これも面白いよ」僕はいくつかページを進めて、気になった魔物を紹介する。
『名前:ウルフレーム 木製のハリボテでできたボディを持ち、狼の顔がデフォルメされたようなヘッドを付けている。ハリボテボディを隠すためか、ファッションなのかは分からないがマントを羽織る』
「体がハリボテでスカスカだと食べた物はどこで消化されるの?」うにやんの指摘。
「食べないんじゃないの」ぼっさんの考察。「こういう見た目をしてる魔物はきっと魔力のようなものを動力源にしてるんだよ」
ああーっと頷くうにやん。
「おんちゃんも食事をしなくても……」ぼっさんが再び口を開け、おんちゃんもリアクションのため身構える。
「考えつかないや。面白いこと」
おんちゃんは肩透かしを喰らい、椅子からずるりと落ちていった。




