依頼-7
「裸でしたけど、狂ってはいなかったですよ」おんちゃんがファレサさんに弁解する。
「でもある意味狂ってはいたよねー」「毒されていた」「人の尊厳を忘れたナニかだった」各々傍聴席から言葉を投げかける。
それからおんちゃんは裸の経緯を話し、ファレサさんを承服させた。チヴェカさんや町長夫人にも説明のために、おんちゃん裸物語を聞かせていたが、まさか服を手に入れてからも、このような珍話を語らないといけないとは、自身も思っていなかっただろう。だが、今回は自業自得だ。
皆落ち着きを取り戻したところで、登山を再開した。
見渡す限り木々に囲まれており、ところどころに木漏れ日が差し込まれている。何気なく地元の小さな山に登ったときのことを思い出し、今の景色と大差無いことを感じる。
足元にも注意しながら歩いていると、木の根元に青色のキノコが生えているのを発見した。直径十五センチほどのキノコは艶があり弾力性もありそう。そう、まるでおんちゃんが食堂で食べていたズズズダケに……似ている。
「あれってズズズダケですか?」僕はキノコを指差し、ファレサさんに尋ねる。
目を細め、ううーんっと考えるファレサさん。
「すみません。分からないです」
「そうですか……。いえ、気にしないでください。ふと思っただけです」
「ケイラさんなら分かったのに……」ファレサさんに聞こえないように耳元で囁いてくるおんちゃん。
僕は大きく肩を振り妖怪を退けた。
それから数分後、エルミア鉱石の採集場所へと到着した。登山途中立ち止まることもあったので、時間が掛かったが、何事も無ければ麓から二〇分弱で来れるだろう。
目の前は崖っていうほどではないが、親戚の家の階段のように急な角度の斜面が続いている。その下には緑な石が点在していることが確認でき、これがエルミア鉱石だろう。
僕らはファレサさんから布袋を頂き鉱石集めを始めた。ファレサさんも手伝いますと願い出たが、お茶でも飲んでてくださいと断りを入れ、現在彼女は大きな岩の上に座りお茶をすすっている。
「そういえば重さってどうやって量るの?」うにやんが鉱石を袋に入れながら聞いてくる。
「あっ」完全に失念していた。「ファレサさーん。量り持ってますかー??」座っているファレサさんに大きな声で質問するが、即ファレサさんの両手でばつ印が作られた。
「ちょっと多めに入れていけば大丈夫でしょ」おんちゃんが提案を持ちかける。
そうしようかと言いかけたところで、ぼっさんの手が挙がった。
「それは俺に任せてくれ」メガネのブリッジを中指でクイっと上げる。
久しぶりにその仕草を見た。
エルミア鉱石を集め始めて一時間ほど経っただろうか。袋が半分以上溜まったので、ぼっさんのところへ持っていく。
ぼっさんは無言で袋を受け取り、両手にて体の前で持ち上げた。袋を上下させ、時には目を瞑り重さを量る。
「二・二キロ」機械のように数値だけを出力するぼっさん。
自分の袋から鉱石を取り出し、僕の袋に入れ、再度袋を両手で持ち上げる。
「これで二・五キロだ」
本当に合っているのかと聞いたが、正しいと一点張りなので、ぼっさんを信じることにした。
残りの三袋にも手分けして鉱石を入れ、ボッサンという名の計量器へと持っていく。アルファベットでBOSSANの方が格好よいだろうか。
そして四袋全て集め終わり、口を紐で縛る。読書中のファレサさんに声を掛け、時刻が午後二時四十五分であると教えてもらい、三時まで休憩することにした。
「みんなして袋を担ぎ、山道を下りていると、お金持ちの家から財宝を盗み出した後みたいだね」休憩が終わり、復路を歩き始めた我らに、うにやんが小粋な例えを出してくれる。
「もしくは盗賊のアジトから、盗まれた金目の物を取り返すとかね」ぼっさんも会話に乗っかった。
「うーん。ドラゴンに守られし伝説の秘薬を手に入れたとか」僕も頑張って捻り出す。「あっ」自分で言っておいて、八本足のよだれドラゴンを想像してしまった。別に気分を害した訳では無い。ただ、思い出してしまったというだけ。
それよりもエルミア鉱石の負担が徐々に来るのが分かる。袋を担いだ時、二・五キロなんて余裕だなっと思っていたけど、少しずつエネルギーを消費させられる。これで二時間歩くのはしんどい。小刻みに休憩が入りそうだ。
「ウサギがいるよ」前を歩いていたおんちゃんが振り向き教えてくれる。
どれどれと僕たちも前に出ると、確かに前方左の草むらからウサギの耳が突出しているのが分かる。
「ウサギって食べられるのかな」おんちゃんが呟く。
お金が無く近い将来の食事に不安を感じる我々にとっては、自然に出てきてしまう言葉だ。
「食べられるけど、捕まえることができたらの話でしょ」ぼっさんが袋を担ぎ直す。
それを聞き、おんちゃんが袋を下ろし、草むらににじり寄ろうとする。ウサギの耳はヒクついている。
「待ってください」ファレサさんが制止する。
ピタッと動きを止めるおんちゃん。
「あれはウサギではなく、バニベアかもしれません」




