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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第一章
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依頼-6

 《異世界はアニメ、ゲームよりも奇なり》


 この世界のドラゴンは足が八本で壊れた蛇口のようにヨダレを垂れ流し、アスパラガスのような生き物が二本足で闊歩し、スライムというファンタジー世界ではほぼ登場するような生物は存在しない。らしい。まぁスライムについては別の名前があるのかもしれないし、ファレサさんが知らないという可能性もある。なんにせよ、シャヌラに帰ったら図書館にでも行って魔物図鑑を拝見しようではないか。


 魔物談話が過ぎ去り、ファレサさんの家事手伝いのこと、シュモイン家のこと、我々の生活事情を他愛有りきで話しつつシルム山へと前進した。


「あの赤い木で休憩しましょうか」ファレサさんの視線の先にポツリと一本の木が生えている。葉っぱは紅に染まり、まさにTHE・目印、THE・待ち合わせ場所、THE・死体を埋める場所という感じだ。


 死体? そうか。この場所に誰かが死体を埋め、偶然にも木の種が蒔かれ、その種が死体の養分、血を吸い取り、この木へと成長したんだな。そして葉が血の色に染まった木は、今もここで誰かが死体を埋めるのを待っていると。ふふっ。我ながら見事な妄想だ。


「どうしました? シキさん。にやにやして」ファレサさんが頭の中のファンタジーから僕の意識を引きずり出す。


「いえいえ。大丈夫です。思い出し笑いです。それよりも今何時ですか?」


 ファレサさんに時計を見せてもらうと、十一時半を回っており、一時間半近く歩いたということを知る。


 そのまま昼ご飯も兼ねることになり、僕たちはファレサさんが用意してくれた布製のレジャーシートに腰を下ろした。昨日の帰り際、カラルルさんから昼ごはんは準備するというお言葉を頂いたので、特に用意はしていない。ファレサさんがリュックからカゴを取り出し蓋を開けると、野菜サンドとフィッシュ&チップスが敷き詰められていた。


 早速、いただきますをして食べ始め、木製のコップに注がれたお茶も受け取る。初めての依頼がこんなに至れり尽くせりで良いのだろうか。今後の依頼が心配だ……。


「昼食の用意もして、身体は大丈夫ですか?」ぼっさんがファレサさんを憂う。


「心配要りませんよ。私は十分な睡眠を取っていますし、カラルルさんの付き添いで長時間の歩きは慣れていますので。それに……」


「……」フィッシュ&チップスのフィッシュを頬張る僕。


「昼食の準備はソルドくんがしましたので、本日の私はお喋りしながら歩いているだけです」野菜サンドをパクッと咥えるファレサさん。


「……これ、ソルドさんが作ったんですか。へぇー」ぼっさんがチップスを見ながら感嘆する。


 僕とうにやんもぼっさんも旨い、美味しいと褒めちぎる。


「帰ったら本人に伝えておきます……。ちなみにソルドくんが道案内役に選ばれていたら、私が昼食を作っていましたから……」


 遠回しに私も料理できますと伝えたかったのか、ソルドさんが褒められて少し不満を感じたのか真意は分からない。どちらの意味だったとしても……可愛い。


「是非また今度食べさせてください」とぼっさんが声を掛けている。フォローしているのか、本当に食べたいと思っているのか、こっちの真意も不明だ。


 昼食を食べ終わり、少し休憩をする。その際、ファレサさんはコンパスを取り出し方角を確かめていた。


「あとは北西に進み、少々歩けばシルム山の麓に当たります。その後緩やかな斜面を登ればすぐエルミア鉱石の採集場所に着きますよ」コンパスと方角を示しながら教えてくれる。


 

 言葉通り、三〇分程歩くと山の麓にたどり着いた。この先は雑木林が広がるエリアに入るが、有難いことにけもの道が作られている。山に入る人たちによって、はたまた野生動物たちによってできた道なのか……。ファレサさんを先頭にして、いざ入山。


 登山を開始して少ししか経たないのに息の乱れを感じる。角度が小さいといっても斜面は斜面。今までより太ももを大きく上げるので体力を持っていかれてしまう。それにけもの道ではあるが、もちろん地面の凸凹があるので、歩きにくさが出てくる。うにやんとぼっさんも同様の疲れが見え、おんちゃんだけがファレサさんにぴったりと付いてる状態だ。


 前の二人がこちらに気づき止まってくれる。


「おんちゃんも僕たちと同じインドア派なのに、よく体力があるね」僕は追いつき話しかける。うにやんとぼっさんも追いついてきた。


「へっへっへ。君たち。この世界に来た初日に私がどのような行動をしていたか覚えているかね」少し高いところで腕を組んで見下ろしてくるおんちゃん。


「初日……」疲れているが、過去の出来事を思い浮かべる。


「あっ。裸で林の中を走っていた」うにやんの閃き。


「そう。その時と比べれば、今は服もあり靴もある。ハードモードを経験した私にとって、今はイージーモードにしか過ぎないのだ。小さな坂道なぞ、赤子の手をひねるようなもの」両手を大きく広げるおんちゃん。


 くぅぅぅ。若干腹が立つが、馬鹿馬鹿しさも感じてしまう。


 これが苦難を越えし者の姿なのか……。


 これがいわゆる俺TUEEE系という奴なのかあぁぁぁ…………。


 僕とうにやん、ぼっさんは膝をつき、おんちゃんは「あーはっはっはっは」と高らかに笑っている。


「裸で走り狂っていたんですかっ!?」


 僕ら三人が顔を上げると、ファレサさんが怪訝な顔をしていた。


 訝しい面持ちも麗しい。

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