依頼-3
「前払い……。構いませんけど、何か理由が?」カラルルさんは疑っているのではなく、純粋な興味だろう。
「長時間歩くことや、山へ入ることを考慮すると、やはり靴が必要だと思いましたので、先に買っておくべきだと」ぼっさんが考えを述べる。
ぼっさんの見解にカラルルさんと僕ら三人は肯首する。
「それでしたら、喜んで報酬の前払いさせていただきます」と手を合わせるカラルルさん。
「良いのですか? 私たち、報酬を受け取ったら、トンズラするかもしれませんよ」なぜかおんちゃんが不安を煽る。
「んー。心配はしていませんけど……そうですね。それじゃ前払いは半額の二万五千ルンにしまして、無事依頼を遂行できたら残りを渡します」笑顔で話すカラルルさん。「それと……」
「それと?」四人の声が重なる。
「鈴知こもかさんを人質にします」ビシッとうにやんのTシャツに指を差す。
「…………」
「エエエエエェェェェェーー〜〜〜ー」うにやんの絶叫ソロパート。
僕たちは依頼を承諾し、うにやんの上半身はシャツ一枚というセクシィな格好となった。こもかTシャツはカラルルさんの隣で丁寧に畳まれている。
「今更ですが、いくつか質問良いですか?」いざ、仕事をするとなれば疑問点が見えてきてしまう。
「はい。なんでしょう」ご満悦のカラルルさん。
うにやんは「余計なことを言うから、こもかが、こもかが……」とおんちゃんに文句を言っている。おんちゃんは笑いながら謝罪対応。
「エルミア鉱石は簡単に見つかるものなのですか?」
「ええ。麓から少し歩けば急な斜面がありまして、そのあたりにゴロゴロと転がっています。つるはしやスコップを使って探すということは無いですよ。山菜採りの気分で大丈夫です」
山菜採りと言われて、とても気が楽になった。比喩表現って大事ね。
「次の質問ですが、危険な動物、生物に遭遇することは?」
「うーーん」少し考えるカラルルさん。「私も何回か往復していますが、危険な生き物には出会ったことないですね。帰り道雨に打たれたことはありますけど……。あ、でも虫はもちろんいますし、蛇とかもいると思いますので、そこは気をつけてください」喋り終わりお茶を一口飲むカラルルさん。「他はどうでしょう?」
んー。もう聞くことはないだろうか。また一晩経てば出てきそうだな。
「やはり場所が不安なのですが、地図はありますか?」ぼっさんが質問する。
「町の地図はあるのですが、シルム山周辺の地図というものは無いですね。申し訳ないです」
「いえいえ。無いのなら止むを得ないですよ」ぼっさんが両手を振る。
「しかし、ご安心ください」カラルルさんの声が大きくなる。「そんなことも、こんなことも、あーんなこともあろうかと」ヌッとテーブルの下からハンドベルを取り出した。
チロンチロンとカラルルさんがベルを鳴らすと、ドアノブが下がり先ほど退室したファレサさんが入ってきた。だが入室はファレサさんで止まらず、さらに人が続く。
次に入ってきたのは青髪でスーツ着用の男性。ファレサさんと同じ二十代前半っぽい。その後ろには、先ほど庭で出会い、この部屋まで案内してくださったお母様。服装は変えて紺色のワンピースを着ての登場だ。
「さぁ。この三人から選んでください」いつの間にかカラルルさんは立ち上がり、三人の斜め前に立っている。
「えっと。話が見えないのですが……」
「あはは。失礼しました。地図が準備できない代わりに、この三人の誰かが道案内役を致します」
「……。提案は嬉しいのですが、本人たちの意向は良いのですか?」
「はい。問題無し無しですッ!」テンションが高いカラルルさん。前に立っている三人も頷いている。「さぁさぁ、誰にします?」
「みんなで相談します」と手を上げる。
「なんか、RPGの選択肢っぽくなってきたね」おんちゃんが興奮している。
僕たちは部屋の角に集まっている状態だ。
「そうかもしれないけど、そんな呑気に構えて良いのかなー」
「良いんじゃない。別に悪魔への生贄を選ぶ訳でもなく、人間に化けている魔物がいるので当てなさいでもない。ましてや結婚相手の選択でもない。ただ道案内をしてもらうだけなんだから」とぼっさんが腕を組んでいる。
「でも、それぞれ付加価値があるかもしれないよ。ほら、男性を選べば鉱石運びを手伝ってくれるかもだし」うにやんが人差し指を立てて前後に振る。
よし、それではとカラルルさんたちの前に向き直る。
「決まりましたか?」カラルルさんのボルテージは維持されている。
ここで、雰囲気作りのため、しばしの静寂を作っておく。
「…………」
「みなさんのアピールポイントを教えてください」




