依頼-2
カラルルさんもソファに座り本題に入る。
「シルム山やエルミア鉱石というのは僕たち知らなくて依頼の応募をしましたが、問題ないですか?」
「大丈夫です。問題無しです。シルム山というのはシャヌラの町の北にありまして、徒歩二時間ほどで着きます。そして……」カラルルさんはポケットから布の小袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
カラルルさんは中を開けてみてくださいというように手を差し向け、小袋を開けると中には緑色の石が入っていた。
「手にとって見ても」
どうぞどうぞとカラルルさんの許可をいただき、小袋を傾け手のひらに石を転がした。
見た目は宝石のように透明度が高く、まるでエメラルドのようだ。丁寧に加工されており、指に引っ掛かりを感じない。このような貴重そうな鉱石を一〇キログラムも採掘するのは、とても骨が折れる作業になるのではないかと少し心配になる。
僕は隣のぼっさんに手渡し、うにやん、おんちゃんと順番に石を見ていき、カラルルさんの元へ戻っていった。
「これがエルミア鉱石ですか……」おんちゃんが呟く。
「いえ、これはエメラルドです」
ガンッと僕たちはテーブルに頭を打ち付けた。
「すみません。すみません。袋から出てきた時に間違えたと気づいたんですが、つい邪な心が出てしまいました」平謝りするカラルルさん。
「いえいえ、俺たちもそういう時はありますので、気持ちは分かります」ぼっさんが寛容な言葉を笑いながら送る。
そうですよねーっとカラルルさんも笑い、僕たちも釣られて笑った。
コンコンとドアがノックされ、扉が開いた。
「何やら楽しそうですね。カラルルさん」と見知らぬ女性がお茶とお菓子を乗せたトレーを持ち入ってくる。
女性は赤髪で白の半袖シャツに白黒チェックのロングスカート、赤の靴下を履いている。二十代前半というところだろうか。
「ありがとうございます。依頼の話をしていただけですよ」カラルルさんは女性にお礼を言う。「えーと、こちらが先ほど話していた、住み込みで家事のお手伝いをしてくれているファレサさんです」
初めましてと挨拶をして下さるファレサさん。お茶とお菓子をテーブルに置くと、そのまま退室してしまった。
「お手伝いさんに制服とか無いのですか?」ぼっさんが質問する。
おそらくお手伝いさんと聞いてメイド服を想像していたのだろう。無論僕も思っていた。
「お手伝いさんといっても、もう一人男性の方がいて、合わせて二人だけですので、特に決まった服装は無いですね。人数が多ければ統一した方がいいかもしれませんが」
「確かに」ぼっさんが納得する。
「でも、二人とも常にフォーマルな格好をしていますね。指定はしていないのに」少し不思議に思うカラルルさん。「そういえば、今日は鈴知こもかさんは居ないのですか?」うにやんの方を見る。
僕たちも合わせてうにやんを見る。うにやんは素早くシャツのボタンを外し、観音開きする。
「はあぁ。またこもかさんを見ることができるなんて幸運です。私はシャヌラ一の幸せ者です」うにやんのTシャツに惚れ惚れしているカラルルさん。
「そろそろ本題に戻りたいのですが」脱線しそうなので、頑張って戻す。
「失礼しましたー。エルミア鉱石のことですね」照れ笑いながら本筋に戻ってくるカラルルさん。ポケットからまた小袋を取り出した。
カラルルさんはテーブルに白のハンカチを置き、その上に小袋の中身を振り出した。出てきた物は、路肩に転がっているような石に緑色の粉をまぶしたようなものだった。
「これがエルミア鉱石です」
へーっと乾いた反応をする僕たち。
「何に使用するんですか?」ぼっさんが質問する。
「絵の具の顔料とするんですね」うにやんが答える。
「さすが、うにやんさん。その通りです。これらの鉱石を砕いて油で練り上げて絵の具にするんです」
へーっと、また同じような反応をしてしまう。
「今までは自分でエルミア鉱石を採りにいってたんですけど……」
ですけど?
「採りに行くのに飽きてしまいまして」
飽きたのでは仕方がない。
「それに、一回で一、二キロしか持ってこれないので、一気に大量に仕入れようと思いまして」
ふむふむ。
「依頼処ギネガラに依頼を出してみたのですよー」
なるほどー。
「店では売ってないのですか?」おんちゃんが質問する。
「売ってないですねー。古来よりシャヌラの町には画材屋が無くて……。大きな町に行けばあるんですけども」唇を尖らせるカラルルさん。
「では次に報酬の件なんですけども」ぼっさんが切り出す。「依頼書の報酬欄には依頼主と相談と書いてあるんですが」
おんちゃんが依頼書をテーブルに出す。
「はい。報酬は五万ルンを用意しています」
五万ルン!? これは高いのか? 安いのか? さっきシルム山まで徒歩二時間と言っていたから、往復四時間。採掘作業にどれくらいかかるかは分からないが半日掛かるとしても、一日で終えることができる。日給五万ルンなら良さそうな気がする。
問題は一〇キロという量。一人で一〇キロを運ぶのであれば断るところだが、四人いるので一人二・五キロで済む。イケルのではないか。楽観的だろうか。
「少なかったでしょうか」みんなが無反応なので、カラルルさんが不安になる。
「僕は問題ないと思うけど……」みんなの顔を見る。
うにやんとおんちゃんがお菓子を咥えながら頷くが、ぼっさんは顔を下に向けている。
「…………」
「報酬の前払いは可能ですか?」とぼっさんが顔を上げた。