依頼-1
コンコン。夕食を食べ終わりお茶で一服しているとドアがノックされた。
出ると町長さんが立っており、様子を見にきたとのこと。僕たちはおんちゃんを見せながら、何を購入したか報告し、夕食も済んだことを伝えた。町長さんも安心したようで、すぐに帰ろうとしたが、依頼処ギネガラの件を話し、この貸家の住所を教えてもらった。ついでにこのシャヌラの町の地図も下さった。そして胸を撫で下ろしながら帰宅する町長さん。
次の日。
僕たちは依頼処ギネガラの前に立っていた。ドアを開け中に入ると、昨日のお姉さんが窓口にいることを確認した。相手もこちらに気づくが顔色を変えることはない。
窓口は三つあり、他の人に対応してもらうことも可能だが、敢えて同じ人でいく。僕の中にある極めて小さなプライドが輝いているのだ。
「おはようございます。住所を調べてきました」
「おはようございます。はい。ではこちらに」と昨日と同じ名前と住所欄を記入する紙を差し出してくる。
僕は住所のメモを見ながら書き写し、お姉さんに渡した。
「はい。問題ありません」お姉さんは紙を受領し、僕たちは声は出さずとも、お互い顔を合わせ喜んだ。
「カラルル・シュモインさんの依頼でしたね」お姉さんは手元にあるファイルを開き、紙を一枚取り出した。
その紙は掲示板に貼られている依頼書と同じ内容だが、押印が付いていることが分かった。
「それでは、今後はこの依頼書を持って、直接依頼人の方とお話をして進めてください」お姉さんが依頼書を裏返すと住所が記されていた。
「はい。ありがとうございます」僕たちは依頼書を受け取り、ギネガラを後にする。
一つの山場を越え、僕たちはこの町、この世界に存在を受け入れられた気がした。
町長さんから頂いた地図を見ながら、僕たちは依頼書の住所へと足を運んだ。
歩きながら気づいたが、各家の敷地が広くなってきている。僕たちが住んでいる周りの住居より明らかに雰囲気が違う。ここがシャヌラの町の高級住宅街なのか!?
住所の示した場所にたどり着くと、鉄柵に囲まれた屋敷があり、奥には横幅いっぱいの赤煉瓦造りの家が構えている。敷地の広さは町長さんの家の七、八倍ほどあるのではないだろうか。町長だからといって、お金持ちではないということだろうか。いやお金はあるけど、質素に暮らしているだけかもしれない。まぁ町長さんのことは綺麗な座布団の上に置いておくとして、今はカラルルさんである。
「これ勝手に入っていいのかな?」ぼっさんが警戒する。
「んー。分からない。門は開放されているから、用事がある人は家屋までどうぞということでは?」
「例え警察を呼ばれても、依頼書という盾があるのだから大丈夫。大丈夫」おんちゃんは気楽に構えている。
しかし、対応策を考えることは、気持ちの余裕にも繋がるので大事なことだ。今回ばかりはおんちゃんには頭が下がらない。
「あそこに人影が」うにやんが中庭を指差す。
確かに、屈んで植物の手入れをしている人がいる。
「使用人じゃないの?」ぼっさんが口走る。
「え、家の人でしょ」
「こんなに広いお屋敷なんだから使用人の一人や二人いるでしょ」
「どうかなー」
「とりあえず、呼んでみようよ」とうにやん。「すみませーん」と珍しく大きな声を出すうにやん。
屈んでいる人は立ち上がりこちらを視認し、近づいてくる。
白のTシャツにの茶色のズボン、木靴を履き、首にタオル、そしてエプロンをしている四十代ほどの女性だ。
「御用ですか?」
「こちらにカラルル・シュモインさんはいらっしゃいますか?」うにやんが尋ねる。
「はい。失礼ですがどのようなご用件でしょうか」女性が僕らの姿を見ながら聞く。
怪しまれるのはしょうがない。
「私たちカラルルさんの依頼の件で伺いました」おんちゃんがポケットから依頼書を取り出し答える。
「あー。はいはい。お待ちください。いえ、こちらへどうぞ」心当たりがあるのか、依頼書を見るとすぐに理解し、家へと案内してくれた。
玄関のドアを抜けると、奥に長く幅が広い廊下が伸びていた。僕たちが裸足であることに気づいていたのか、すぐに拭く物を持ってきてくれた。足の汚れを取り除き、スリッパに履き替える。その後、廊下の突き当たりを右に進み一つの部屋へ案内された。
本人を呼んでくるとのことで、しばらく待つことに。部屋にはソファと足の短い長テーブルが置いてあり、壁には港町の風景画が飾られている。
ソファでソファソファ……。そわそわしているとドアがノックされる。
「あ、やっぱりみなさんだったんですね」昨日道案内をしてくれたカラルルさん登場。
みんな立ち上がり、こんにちわと笑いながら挨拶をする。
「裸足で四人組の男性が依頼を受けにきたって聞いたので、もしかしたらと思ったんですよ」はははっと可愛く笑うカラルルさん。
「ちなみにあの女性はカラルルさんの……」僕は質問する。
「母親ですよ」
僕はその返答を聞き、隣にいるぼっさんを肘で小突く。
「あ、何かありました?」カラルルさんが僕の小突きを見て疑問を浮かべた。
「いえ、ぼっさんが使用人の方じゃないかって言ってたので」
「あはは。そうだったんですね。でも使用人というか住み込みで家事を手伝ってくれている方はいますよ。あ、それが使用人か。ははは」笑顔が途切れないカラルルさん
ぼっさんの肘が当たる。