シャヌラ-9
「依頼処ギネガラでよく見かけるのは、庭の草むしりをお願いします。とか、出店の手伝いをお願いします。とか、一緒にバーベキューをして下さい。みたいな内容ですよ」チヴェカさんが教えてくれる。
「そうなんですね」僕も三人もさっきの勢いが無くなっている。
「あ、でも、もしかしたら、害獣を駆除して下さい。という依頼ならあるかもしれません」僕らの反応を見て気を使ってくれている。
「お金を手に入れることが目的だから、とりあえずギネガラへ行ってみようか」チヴェカさんの気遣いを無駄にしないように僕もみんなに話しかける。
そうだねと先ほどの勢いは無いが普段通りになってきた。
「お待たせしましたー」店員さんがタイミング良く料理を運んで来る。
「さあさ食べましょう。食べましょう」チヴェカさんが食事を勧めてくれる。
一つずつ、注文の品がテーブルに置かれ、うにやんの前に桃色成分七割ほどの豚肉とキャベツの炒め物が出される。うにやんは何だこれという目をしており、僕はその表情を見逃さなかった。
それから僕たちは食事をしながら、チヴェカさんの仕事や自分たちの世界のことについて話し楽しんだ。チヴェカさんの休憩時間も多くはないので、お互いの話も少なく、消化不良な感じはした。だが、また会って話せば良いと思う。
料理について説明すると、僕が食べたキャクタフィッシュステーキは厚い白身魚を焼いたものだった。ナイフとフォークで食べる時、肉崩れが多少あったが、塩味が効いており美味しく頂けた。牛ステーキは想像通り、僕たちも見たことがある景色が皿の上に構築されていた。おんちゃんが頼んだズズズダケのトマト煮は手のひらサイズのぷりっぷりのキノコがトマトの池に浸かっていた。おんちゃんは美味しそうに食べており、僕も次回頼んでみようと思える品だった。最後にうにやんが注文した桃色な豚肉とキャベツの炒め物は、気になり一口頂いたが、見た目関係無く、洋風出汁で味付けされたものであり美味だった。ただ、視覚的に食欲の減退を招いているのが勿体無い。こちらの世界の人にとっては、気にならない問題ではあるが。
チヴェカさんに依頼処ギネガラの場所を教えていただき、食事のお礼を誠心誠意伝え、別れ、そしてギネガラへと足を動かした。
ギネガラという荘厳な名前のわりにシンプルなコンクリートの建物であった。ドアの上にはギネガラと名前が彫られている。
扉を開けると、入って右側に窓口が三つあり、左側にはガラス越しに紙が多く貼られた掲示板がある。あとは椅子と観葉植物が置かれているぐらいの簡素な場所であった。
勝手が分からないが掲示板を見ることに。チヴェカさんが言ってたとおり、依頼内容は草むしり、出店の手伝いに加えて、木の枝の剪定や旅行に行くから犬の世話をして下さいなど、一般家庭でよくあるちょっとした問題というか悩みというか、誰かが代わりにしてくれたら嬉しいなぁぐらいの募集がほとんどだ。魔物の魔の字もモンスターのモの字も見当たらない。残念ながら害獣関連も無し。一緒にバーベキューをして下さいも無し。バーベキューは少しだけ興味があったのに……。
「これこれ」うにやんが掲示板の端にある貼紙を見てくれと合図してくる。
「シルム山からエルミア鉱石を一〇キログラム採ってきて下さい。 依頼人カラルル・シュモイン」僕は貼紙の内容を読み上げた。「昨日道案内してくれたカラルルさん?」
「分からないけど、そうかもしれない」うにやんが答える。
「最初の仕事なんだから、依頼人が知り合いであれば、少しは気楽にできるんじゃない?」ぼっさんが間に入ってくる。
「シルム山とか、エルミア鉱石のことは分からないよ」
「そこは、依頼人に直接聞いてみるんでしょ。クエストの流れとしては。できそうになければ断ればいい」
ぼっさんの言葉もあり、僕たちはカラルルさんの依頼を受けることにした。
「掲示板に貼ってあります、カラルル・シュモインさんの依頼を受けたいのですが」窓口のお姉さんに話しかける。
「ご利用は初めてですか?」
「……はい」
「それでは、こちらの紙に名前と住所をお願いします」と紙がカウンターにスッと出された。
「住所……」僕はみんなの顔を見る。
首を横に振る三人。
「すみません。住所が分からないのですが……」
目を細めるお姉さん。
「えーと。この町には住んでいますが住所が分からなくて」お姉さんの圧に少し気押される。
「家をお持ちでないということですか?」
「いえ。その、この町に住み始めたばかりで……住所が……わから……にゃ」
微動だにしないお姉さん。
「出直してきます」




