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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第一章
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シャヌラ-8

 チヴェカさんの勧めで、歩いて数分の食堂へ入店した。その道中、おんちゃんはチヴェカさんになぜ裸だったのかを説明していた。


 石造りの食堂は昼時ということもあり、賑わいを見せていた。


「ご馳走しますから、好きなものを頼んでくださいね」木製のテーブル席に座りチヴェカさんがメニューを見せてくれる。


 道中、食事代をどうしようかと考えていたので、ご馳走してくれるのはとても助かる。この際、謙虚さは胸ポケットに包み込み、大いにご好意を受け入れよう。Tシャツなので胸ポケットは無いけど……。


 グプ貝のバター焼き、キャクタフィッシュステーキ、テンランカの煮物、うーん。メニューを見るが、想像できそうで、できないモノばかり目に入ってくる。


「テンランカって何ですか?」とりあえずチヴェカさんに聞いてみる。


「テンランカは野菜ですよ。平たい楕円型で紫色の」


 えええ。何だろ。紫? ナスのこと?


「チヴェカさんは決まってますか?」参考にしよう。


「私は牛ステーキのランチセットです。セットだとパンとスープが付いてきますよ」


 ふむふむと顔を揺らす僕。そういう普通のメニューもあるのね。


「俺も同じのにします。ランチセットで」ぼっさんも牛ステーキを選択した。


「じゃあ僕はキャクタフィッシュステーキのランチセットでお願いします」みんなが牛肉なので魚を選択した。


 おんちゃんは牛ステーキとズズズダケのトマト煮、うにやんは豚肉とキャベツの炒め物のランチセットを注文する。僕は商店街で見た桃色のキャベツを座頭市の抜刀の如き速さで思い出したが……黙っていた。


 注文後、店員さんからグラスに入った水をいただく。


「そういえば、あの瓶ってどこいった?」ぼっさんが会話をスタートさせる。


「……チヴェカさんからもらった水が入った瓶?」


「そうそう」


「最後に飲んだのはおんちゃん……だよね」うにやんがおんちゃんの方を見る。


 あぁっと遠くを眺めるおんちゃん。


「町長さんの家までは、手に持っていたのは覚えているから、きっと町長さんの家だね」おんちゃんが思い出しながらゆっくりと口ずさむ。「あ、入り用でした?」チヴェカさんに顔を向ける。


「いえいえ。入り用ではないです」両手を横に振るチヴェカさん。「それはそうと、町長さんの家にも行けたんですね」


 僕たちは町長さんに教えてもらったことを含め、チヴェカさんと別れた後から今に到るまでを脚色無くダイジェストで説明した。


「それでは、まだまだ必要なものを買い揃えないといけませんね」チヴェカさんが話を静かに聞いてくれた後、唇を上下させる。


「そうですね。やはりどうにかしてお金を手に入れることになります」正直、本日中にはどこかのタイミングで、お金の問題についてみんなに切り出すつもりではいた。


「毎度、町長さんの家で家事手伝いっていうのも迷惑だろうし」ぼっさんがグラスを回転させている。


「手伝い……。それなら、依頼処ギネガラで仕事を見つけるのはどうでしょう」とチヴェカさん。


 チヴェカさんの声は滑舌良く、澄んでいるので聞き飽きない。


「依頼どころ……ギネガラ……」


「えっと、依頼処ギネガラというのは、個人の依頼を受けつけ、その依頼を誰かが引き受けるという場所でして……」


 なるほど。短期バイトのようなものか。いや違うか。


「クエストだね。ゲームでいうところの」両ひじをテーブルに置いているうにやん。


 クエストか。それならしっくりくる。ハッ!


「じゃあ、じゃあ。ドラゴンを退治して、奥歯を手に入れてきてとか、第四の心臓をホルマリン漬けにして持ってこいとか、そういうのがあるってこと!?」僕の中二病エンジンに火が付いた。


「いやいやいや最初はスライムでしょ」おんちゃんもアクセルを踏んでくる。


「スライムだから弱い、最初に持ってくるというのはナンセンスだよ。最近ではスライムは弱いという印象を逆手に取って、強いスライムを登場させるというのもあるからね。この世界でもスライムが強いか弱いかを見極めてから行動するべきだよ」うにやんもエンジンの回転数が上がってきており、喋りも早口だー。


「君たち、まぁ落ち着きたまへ」僕たちが熱をあげているところで、ぼっさんが冷静にエンジンを冷ましてくる。「もっと、他にも考えるべきことがあるでしょ」


「というと……」


 静かに水を一口飲み、喉を鳴らすぼっさん。


「…………」


「職業を決めないと」


 ハッッ!! 我ら三人に稲妻が走る。


「俺、戦士!」おんちゃんが即座に手を挙げる。


「じゃあ僕はファイター」遅れて挙手をする。


「戦士もファイターも一緒の意味でしょ。ボクは弓使いのアーチャーで」ツッコミを入れながらも主張してくるうにやん。


「ぼっさんは?」


「戦士も良いけど、魔法使いも良いよね。ということで魔法戦士、ルーンナイトだ」ニヤリと口角を上げるぼっさん。


「うわっ。強欲ー」


「良いでしょ。名乗るぐらい」


 それから僕らは魔法武闘家だの、竜使い忍者だの、木こりの退魔師だの職業の組み合わせで言い争った。


「あのーみなさん」とチヴェカさんの口が開いた。


 チヴェカさんの声で我を思い出し、静かになる僕たち。


「賑やかなところ水を差して申し訳ありませんが……」


 いえいえと手を横に振る。


「みなさんが口にしていたような依頼内容は無いと思います」


 テーブルからガクンと肘が滑り落ちるぼっさん。

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