シャヌラ-7
「合計八点で七五〇〇ルンです」店長の乾いた声が店内の衣服に吸収される。
お金の単位はルンというらしい。うにやんがジーパンのポケットから折りたたまれた犬が描かれている封筒を取り出し、一万ルン札を店長に手渡した。僕とぼっさんはハーフパンツでポケットが緩いので、消去法でうにやんがお金の管理をしている。ちなみに購入した八点の内訳は、下着のボクサーパンツ五点、おんちゃんの衣服として鈍色の無地Tシャツ一枚、カーキ色のカーゴパンツ一本、ベルト一本だ。
下着が入った手提げの紙袋を片手にみんなと店を後にする。おんちゃんは購入した服をそのまま着ている。
「ようやく、まともな格好になってきたな」裸足であることを忘れているのか、ぼっさんはおんちゃんを見て満足している。
食料を買うために大通りに戻ってきた。まだ他人からの視線を感じるが、感じるだけかもしれない。考え方を変えて、自分たちは常人であると意識して歩けば不安は払拭できる。と思う。
「食材は何を買うの?」うにやんが残金を手のひらに出す。
千ルン札二枚に、百ルン硬貨五枚だ。五百円硬貨、ではなく、五百ルン硬貨というものは存在しないのか?
「腹持ちして長持ちする食材がいいんじゃない?」ぼっさんのメガネレンズが陽の光を反射している。
「コメ? 小麦粉?」服装をキめているおんちゃん。
「小麦粉買ってもパンって作れるものなの? 自分たちで」
「うーん。発酵させるためのなんとか菌が必要だね。急にど忘れした。名前が出てこない」とぼっさんが眉間にシワを寄せて目を瞑る。「後、焼くために石釜とか必要なんじゃない。よく知らないけど」
「フライパンじゃダメかな」キッチンを思い出す限り、石窯はなかったけど、フライパンは見かけた。
さぁっと首をかしげるぼっさん。
おんちゃんもクッキーは作ったことはあるけど、パン作りは未経験なのでわからないらしい。
「アニメではよくオーブン使って焼いてるよね」とうにやん。
「……うん。そうだね」申し訳ないが流させてもらう。「でも、パンは作れなくても、小麦粉があればお好み焼きとか、たこ焼きとか作れるのでは?」
「たこ焼きは専用の金型が必要だけど、お好み焼きは作れそうだね」っとぼっさん。「卵や砂糖もあれば、お菓子のようなものも作れる?」おんちゃんを見る。
コクンと頷くおんちゃん。
小麦粉を主軸にして適当に野菜と卵、調味料を買うということで話がまとまり、大通りを歩きはじめた。昨日初めて来た時は冷静では無い、動揺、緊張、不安、まぁ色々な感情がコーヒーにミルク、砂糖、キャラメル、チョコレートを入れたかのように混ざり合って、商店街の店や陳列などほとんど覚えていない状態であったが、二回目(服屋探しのときを含めれば三回目)ともなれば多少視る余裕というものが出てくる。
パン屋や肉屋、魚屋、果物屋、もちろん野菜屋もある。さっき見かけたキャベツっぽいものは、キャベツで合っていた。ただし桃色だけど。
「天使がいる」おんちゃんがとある建物の窓ガラスを覗きながら口ずさむ。
僕らも気になり窓ガラス越しに中を見ると、チヴェカさんの姿があった。
木造の建物を見上げると看板には「はこび処 コルアーノ」と書かれている。さらに扉近くの立て看板には「運べないものもありますが、短時間で運べます」と素直なキャッチコピーが掲げられていた。
僕が建物を見渡しているうちに、三人はチヴェカさんに向かって、手を振り、足を振り、体を振り、チヴェカさーんと呼んでいる。
建物の中の人たちはこちらに気づき、ざわつき始めた。チヴェカさんのように羽が生えている人、有翼人も大半いることが確認できる。すぐにチヴェカさんもこちらに顔を向け、あっという表情をして、建物の外へ出てきてくれた。
「みなさんシャヌラの町へ着けたんですね」興奮気味なチヴェカさん。
「はい。チヴェカさんのおかげです」前かがみになるぼっさん。
「昨日、アクアサの町から帰ってくるのが遅くなってしまいまして、みなさんが無事に到着したか気がかりだったんですよ」と心ときめかされる言葉をおっしゃる。「あ、私休憩取ってきます。一緒にご飯を食べましょう。色々話したいですし」
是非ッと我ら一同返事をして、チヴェカさんは「はこび処 コルアーノ」の中へ戻っていった。
「お待たせしましたー」数分後、コルアーノから笑顔で出てくるチヴェカさん。
いえいえ、全然待ってませんよとジェスチャーをする僕ら。
「あっ!」可愛い笑顔から一転、驚愕の面持ちへと変化する。
「ど、どうされました?」不安になり声が出てしまう。
「…………」
「おんさんが服着てる」




