魔王-13
荒野のゾンビ達を無事払拭することができた。全てキヌモアさんとリオリネさんのお陰と言っても過言では無い。
キベロスさんも襲ってくるモノがいなくなったことにより静かになり、立ち尽くしている。
そんな彼に僕らは近づく。静止しているとはいえ、警戒心を緩めてはならない。だが、そんな心は不要だったようで、キベロスさんには問題なく接近することができた。
キベロスさんが跨ぎ化してから長い長い時間が経っているので、既に衣服のイの字もなく、お天道様に曝け出している肌も茶黒くなっている。足元には複数の傷跡や武器が刺さっており、見ているだけで心が痛み、目を逸らしたくなる光景である。
「それでは、改めてポエさんお願いします」トナルさんは依頼する。
ポエさんは頷き、キベロスさんの頭部がある真上へと羽ばたいていった。
僕らは距離を取り、二人の様子が見やすい位置へと移動する。
キベロスさんの目の前にポエさんが到着した。彼はしばらく動くことはなかったが、右手をゆっくりと鼻の高さまで上げる。
ポエさんはその右手人差し指の爪先へと降り立った。
「…………」
「…………」
「…………」
しばらくの静寂後、キベロスさんの体は砂のように細かくなり、瓦解し、直下の地面へ吸収されるように、荒野の風に吹かれることもなく居なくなってしまった。
その後、ポエさんは僕らの元へと帰ってくる。
「お疲れまです。何か言ってましたか?」トナルさんは報告を聞く。
「ううん」ポエさんは少し首を左右させる。
「そうですか」
「だけど……。綺麗な眼をしてたよ」
キベロスさんを解放した後、僕らはシュウムさんが待機している馬車へと戻り、ガトガの町へと帰還した。
時刻は既に夕方であり、キヌモアさんとリオリネさん、そして大役を果たしたポエさんを労うためご飯を食べてから解散。みんな疲労が溜まっているはずなので。
次の日は正午まで自由時間に設定されているので、僕はポエさんの付き添いで庭園へと足を運んだ。
入場料などはなく開放された場所みたい。幅広い歩道の周りには多彩な花が咲き誇っており、朝の散歩やジョギングをする人々を目にすることができる。また、水辺には違う種類の植物が展開されており、水鳥や水車も存在する。庭園の隅には温室も作られており、多肉植物や寒さに弱い花を見ることができた。
正直、植物には全然興味がなかったが、丁寧に見ていくことによって少しだけ魅力を感じられた気がする。
ポエさんは終始、花の香りを一つ一つ嗅いでおり「これは違う、これは好き」と吟味。そして、帰り道のお店でメーネさんのために花の種を購入していた。
あと、庭園周辺のお店の一角でキヌモアさんとリオリネさんがテラス席でアイスクリームを食べていたのを見かけた。二人とも楽しそうに会話をしており、あれが本来の二人の仲なのかもしれないと思えた。
正午に馬車乗り場でみんなと合流する。トナルさんはキベロスさんの事後調査があるためガトガの町に残るらしく、それ以外のメンバーは馬車に乗り込みガトガの町を離れた。報酬はシャヌラの狩処に預けてあるので、そこで受け取って欲しいとのこと。
帰りの馬車はどこを観光してきたか何を買ったかなど適当な話をしながら、口数は少なくほとんど皆眠りながらの移動であった。
シャヌラに帰ってきてから一週間後。トナルさんが僕らの家に訪ねてきた。
トナルさんの調査によると、あれからキベロスさんが姿を現すこともなくなり、ゾンビも出現しなくなったとのこと。
そして、キベロスさんが沈んだ場所には草花が生え始めたという報告を頂いた。