プロローグ
歩幅が蟻のようだ。一歩歩けば前の人にぶつかりそうになる。京都三大祭の一つとはいえ、何もこんなに混まなくてもいいのに、と東京育ちの佑暉は肩を落とした。
七月十七日の京都市河原町通近辺は人で溢れ返っている。午前六時五十分、佑暉は東大路通を南に向かって歩いていた。七時に八坂神社の西楼門前で待ち合わせの約束をしているのだ。
葵祭、時代祭とともに京都三大祭として知られる祇園祭。七月一日から一ヶ月間に渡って行われるこの祭のメインイベントとも言える山鉾巡行には、毎年十万人を超える人々が訪れると言われる。この日がまさにその山鉾巡行の日であった。
祇園祭は前祭と後祭に分けられ、前祭に当たる十七日には二十三基、後祭に当たる二十四日には十基、合計三十三基の山鉾が京都の街を練り歩くのである。午前九時頃から四条烏丸を出発し、その後、四条河原町、河原町御池、新町御池と順に巡っていく。
間近でそれを観覧しようと思えば、何時間も前に行って席を確保しなくてはならない。佑暉もこの日、山鉾を見るために頑張って早起きしたのだが、足を速めようとしても通行人が多く、思うように前に進めない。
目眩く朝陽が京都市内を照らし、道行く人々は皆、眩しそうに目を細めている。佑暉もまた、太陽の光を避けるように足許に視線を落としながら、八坂神社へと急いだ。
神社の境内は浴衣を着た人の姿が多くあった。その他には、恋人同士と思われる男女や家族連れ、年寄り、外国人など多彩であった。
しばらくその風景を恍惚とした気分で見渡していた佑暉は、ようやく待ち合わせの相手を見つけた。真っ赤な異彩を放つ荘厳たる楼門の傍に、一人の少女が後ろ向きで立っている。佑暉は声をかけようと、その少女に歩み寄った。
「サキ!」
名前を呼ばれた少女は、ゆっくりと佑暉の方を振り返った。赤を基調とし、牡丹がふんだんに描かれた浴衣は周りの景色に溶け込んで見え、彼女の背後にある神社の楼門の一部のようにも思われた。彼女の艶やかな髪が、太陽の光に照らされて輝く。
笑顔で見つめ返す彼女の顔は、ひと夏の始まりを告げているようだった。
会話文が少なめなので、読みにくかったらすみません。
一話あたりの文字数ですが、読みやすくするために1000〜3000字としています(分けにくい場合は3000字超えると思いますが)。
よくわからないところがあったら、感想欄などで教えていただけると幸いです。