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フォックスの翼  作者: ジョニー
第1章
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5.それは突然に

5


それからさらに1カ月が過ぎ、街は完全に赤と白のクリスマスカラーに包まれていた。小学校では終業式が行われ、今日は校長先生の話がいつも以上に長く一時限目のチャイムが鳴ってもまだ終わらなかった。冬休みの過ごし方についてこれだけ語れる校長先生は、全国探し回ってもこの人だけに違いない。


凝り固まった首をポキポキとならしながら教室に戻っていると、翔が僕の肩をトンと叩いた。


「なあ、コン! 今日どうする?」


「かくれんぼだろ? いいよ、やろう」


「よし! 小鳥も誘ってくるわ」


翔は生徒達の間をぬって小鳥を捕まえに行った。


教室に戻り席に着くと今年最後の帰りの会が始まった。司会の健太が進行表を読み進める。


「宿題多くない?」


隣の正樹がヒソヒソ声で聞いてきた。


「うん。多い」


「だよな。何が『冬休みの友』だよ」


冬休み用の小冊子の問題集は表面がツルツルとしていて、夏休みにも似たようなものが配られていた。


「それでは最後に先生からのお話です。大井先生、お願いします」


指名された大井先生は教壇に立ち、ふぅーっと息を吐いてから、ゆっくりと話し始めた。


「えー明日から冬休みですね。ですがその前に、みなさんに大事なお知らせがあります……柊さん」


すると、呼ばれることが分かっていたかのように小鳥がスーとイスを引き先生の隣に並んだ。小鳥の顔にはいつもの笑顔はなかった。嫌な予感がする。


「えー、みなさんに大事なお知らせがあります。突然ですが、柊さんが転校することになりました」


「お父さん仕事の関係で、来年から東京の学校に転校します。ですから今日でこの学校とお別れです。そしてみんなともお別れです。柊さんの希望で、今日みんなに伝えることになりました」


「じゃあ、柊さん」


「えーと、小鳥です。みんなごめんね。伝えるのが遅くなって。寂しくなるから、最後まで言いたくありませんでした。本当にごめんなさい。なんて言えばいいのかな? えっと、まず、今日まで小鳥と仲良くしてくれてありがとう。本当に楽しかった。本当に。東京に行っても、みんなのことは絶対に忘れません。毎日みんなのことを毎日思い出します。本当にありがとうございました」


「はい。ありがとう、柊さん。えー、お友達が1人いなくなるのは寂しいですよね。先生も寂しいです。東京に行っても、みんなのことを忘れないでね。みんな、小鳥ちゃんを拍手で送ってあげましょう」


半ば強引に迫られた拍手が教室にパチパチと散らばったが、僕はしなかった。できなかった。


「柊さん、ありがとう。席に着いて」


大井先生に背中を押された小鳥が、席につく。僕と翔を見ないようにしているのが分かった。


小鳥の隣の席の伊瀬さんは、まだ現実を受け止められていないようで下を向く小鳥の顔を覗きこもうとしていた。


「えー、では冬休みの注意事項ですが」


小鳥はまだ下を向いたまま顔を上げない。


「これで帰りの会を終わります。次の日直は吉村さんです。それではみなさん、よいお年を」


無理矢理締めくくられた帰りの会は教室に大きな爪痕を残し明日から始まる冬休みに浮足立つ僕等の高揚を剥ぎ取っていた。クラスの女子たちが一斉に群がり小鳥を中心に小さな円を作っていた。小鳥ちゃんというフレーズと鼻をすする音が教室の中でループする。よもや隙間なく作られた女子たちの円の中に一般の男子が入り込む余地もなく、健太や蓮は一声かけに行くのを躊躇しているようだった。


「コン」


翔が僕の隣にやってきた。


「翔…」


「俺も今、いろいろ混乱してっけど、小鳥、かくれんぼには来るって言ってたからさ。話しはその時にしよう。今はそのままにしといてやろう」


「分かった」


僕と翔は先に帰ることにした。家までの帰り道、僕と翔は道路の小石を翔と交互に蹴り合いながら歩いた。


「コン。知ってたか?」


「いや、知らなかった」


「だよな。転校って」


その後、僕達は何も話さなくなった。


家に戻りランドセルを放り投げ自転車のチェーンを外し学校へ向かう。昨日と同じ光景だが、今日は違って見えた。気分もペダルもずっしりと重い。自転車から通り過ぎる風景がいつもよりかなり遅く感じた。

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