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フォックスの翼  作者: ジョニー
第1章
20/46

20.新聞読みますか?

20


見知らぬ電話番号の相手は、大阪の勧誘業社だった。まさか電話の相手が、こんな貧乏大学生だとは気づいてないらしく、「マンション経営に興味をお持ちでしたら」と、一方的に話しかけてくるので、母親仕込みの「結構ですから」撃退法で断った。


最初は、「もしや」と思ったが、そんな都合よく思い人から電話はこない。

携帯をカバンにしまい、信号の先にある自販機でジュースを買うことにした。


喫茶店を出てまだ10分も経ってない。

にもかかわらず、これほどまでに喉が渇いてしまうのだから、今年の暑さは、異常だ。

こんなことなら、氷を口に含ませてから出てくればよかったと後悔したが、もう遅い。


折り目を直し、投入口に真っ直ぐ1000円札を入れると「いや、それはちょっと」とご丁寧に突き返された。再度挑戦したが結果は同じだった。いい度胸だ。


怒りをグッと押し殺した僕に、不幸は続く。財布のファスナーを開ける。見える限り、ジュースが買えるだけの小銭は残っていなかった。


こういう時に使う言葉なのかはよく分からないが、とりあえず叫んでみた。


「マジまんじ


翌日、彼女が待合室にやってきたのは、約束したはずの12時から、さらに40分も過ぎていた。


「小鳥と一緒にご飯食べてたらさー、気づいたらこんな時間になっちゃって。もう、ビックリだよ。あっははは……」


「…………」


「ごめんなさい」


沈黙を保つというのはかなり効果的らしい。


「早くしてもらっでいいですか? あなたを待ち続けていたせいで、お昼ご飯まだ食べてませんから」


わざと魚が死んだような目を彼女に向けると、彼女は申し訳さそうにガサツにカバンを漁り始めた。


相変わらず整理されていないカバンからは、物と物とがぶつかり合うガサゴソという雑音を奏で、僕のイライラをさらに刺激した。


「おっと、その前に…」


忘れ物に気づいた様子の彼女は、ウォーターサーバーに向かって歩き出すとコップに水を注ぎ、手に持っていた何かを口に含み水で流し込んでいた。


食後に飲み忘れたビタミン剤やらの類だろう。プチプチっという錠剤フィルムを開ける音がしていたので間違いない。


「ごめんね。ほい、9ページ目の原稿だよ。ちゃんと覚えてた翼ちゃん、すごくない?」


彼女を無視して、渡された原稿を読む。


♦︎♢


キツネさんはかんがえました。


「コトリさんの羽根はねおなじだ。もしかして、コトリさんは、ここにていたのかもしれないぞ! ん? あれはなんだ?」


小川おがわからすこはなれた場所ばしょに、ちいさなあか羽根はねちていました。


キツネさんはをポンッとたたいていました。


かったぞ! コトリさんはそらんでげたんだ。この羽根はね辿たどってけば、コトリさんにえるかもしれない」


キツネさんはちた羽根はねひろあつめながら、コトリさんをさがたびかけました。


♢♦︎


なるほど、一度整理してみよう。


1ページ目は『サル、キツネ、コトリの紹介』

3ページ目で『サル抜きのかくれんぼの始まり』

5ページ目で『コトリが空を飛んで逃げる』

7ページ目は『キツネが羽を見つける』

9ページ目は『コトリを探す旅にでる』


スクッと背筋を伸ばすと、カバンを漁っていた彼女が話しかけてきた。


「まあ、こんな感じになるよね」


「そうですね。なんとなく予想はできてましたけど。あとはこの『旅に出る』って部分、実際どうなんでしょうね。そんなに遠くまでコトリは逃げたんでしょうか?」


「だって東京まで逃げたぐらいだからね」


「ははっ」


思わず笑ってしまったのは、本と小鳥の行動の類似が素直に面白かったからだ。


「だからさ、コンくんも旅に出ないといけないね」


「旅ですか?」


「そう。ちゃんと書いてあるじゃん。コンくんて旅とかしたことある?」


「ないですよ、一度も」


敢えて倒置法にしたつもりではなかったが、一応、念押しとして。


「そっか。じゃあ、してみたいと思ったことは?」


「ないです」


「やっぱりね。だと思った」


予想通りで満足したのか、彼女はニヤリと笑った。


「覚えてる? 小鳥が『クラスのお泊まり会に一緒に行こう』ってコンくんを誘った時、『行かない』って断ったこと、あったでしょ。コンくんてさ、小鳥と翔くんとよく遊んでたけど、他の子とはあまり遊ばなかったよね。ってちょっと、そんなに怒らないでよ」


どうやら顔に出たらしい。


「でもまあ、それでも唯一参加してたのが星空観察会だけどね」


「そんなこともありましたね」


とにかく話題を変えたかったので、めんどくさそうに返事をすると、何かを察したように彼女の方から話題を変えてきた。


「コンくんてさ、新聞読む?」


「え? 急に何ですか?」


「いや、別に。読むのかなって思っただけ」


「あー、全然読まないです」


「でしょ。んっ、これ」


押し付けてきたのは、カバンから取り出したクッシャクシャの新聞の切り抜きだった。


「鼻かんだりしてないですよね、これ」


「2、3回ね」


「え!」


「あっはは。ウソウソ。そんなわけないでしょ。もう、病院でそんな大きな声出さないでよね」


誰のせいだよ。


「いいから読んでみて」


言われるがまま、記事を読んだ。というより、まず最初に、写真が飛び込んできた。


「コレって…」


「そう、翔君。去年の8月の新聞なんだけどね。『プロのカメラマンを目指して』だって…。すごいよね。特集まで組まれて。日本各地をいろいろ旅して写真を撮ってたみたいだよ。翔君、写真好きだったもんね。今も旅してるのかは分からないけど」


そこには、カメラを覗く翔が写っていた。


旧友との再会がまさか新聞の切り抜きを通してになるとは想像もつかなかった。


「翔くんとは、連絡取り合ってる?」


「いや…」


それまでに留めた。それ以上踏み込まれないよう、悟られないように注意したつもりだった。その話題には触れて欲しくない。


僕が黙って記事を読み進める作戦に移行した僕に、彼女はニヤリと笑ってから、語り出した。


「小鳥が昔のことをどれだけ思い出してるかは分からないし聞けないからさ、これは私の個人的な想像の話だけどね。小鳥は、コンくんにいろんな外の景色を見て欲しいと思ってるんじゃないかな? 」


「え?」


「ほら、 小学生の頃ね、小鳥によく、神社のお祭りとか誘われたでしょ? あれさ、コンくんにいろんな子と友達になって欲しくて、小鳥が強引に誘ってたんだよ。知らなかったでしょ? もしかすると、『キツネさんは旅をすることにしました』って書いたのも、そういうことじゃない?」


「待って下さい。だとすると小鳥は今も、昔の記憶があって僕のことも覚えて…」


「それについてはさっきも言ったでしょ。小鳥に聞けないし、分からないって」


「ですよね…」


「ちょうど今、夏休みなんでしょ? これを機会に、いろんなところを旅してみるのはどう? 今のコンくんには大切なことじゃないかな。それにね、もしかすると、翔くんなら、その辺、詳しく知ってるかも。なーんてね。言い過ぎちゃったね。私の独り言でした。はい、終わり。新聞回収ー」


そういうことか…。まったく、この人は。


「…分かりました。ちょっと考えてみます」


「コンくんのそういうとこ、好きだよ」


「言っておきますけど、あなたにそそのかされて行くと決めたワケじゃありませんから。小鳥のために行くんですからね。勘違いしないで下さい」


「んもぅ、コンくん。可愛いいなぁ、この子わぁ。よしよし、小鳥のためなんて、このこのぉ」


「んもう、離して下さい。ほんと、怒りますよ」


「あっはは。あー、おかしっ。よし、それじゃぁ、私も小鳥を探す旅に、しゅっぱぁーつ」


「5階でしょ」


「イッエース」


彼女はそう言い残し、両手を大きく振り上げながら、エレベーターに入っていった。


はぁ…なんだか疲れた。


今日はこのまま家に帰るとするか。


実家に帰る途中で、気がついた。


昨日のお金を返してもらってない。


仕方がないので、とりあえず夏の空に叫んでみた。


「マジ卍」

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