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フォックスの翼  作者: ジョニー
第1章
17/46

17.やり直し

17


「ダメって…どういうことですか?」


僕が予想した答えとはほど遠くて。


力が入らなかった。


もはや、この紙コップを握ることさえ難しくなっていた。


「…小鳥が言ったの。『この絵は、ダメ』って。私は好きよ、コンくんの絵。嘘じゃない」


「……」


「でもね、小鳥が言ってるのも、なんとなく分かる気がするの。こんなことになって本当にごめんなさい」


「…」


「それからこれ、小鳥が作者さんに渡してって」


そう言うと、彼女は変わった折り方の手紙を僕に渡した。小学生の時に女子がよく折ってたやつだ。


僕は、手紙を読んでみることにした。











『絵を描くのは楽しいですか?』











時間が止まった。


正確には、自分の存在が世界から消えた。


確信をついた言葉に動揺した。


鼓動が速い、喉が焼ける、息ができない。


首元が苦しい。


ネクタイなんてしてたっけ?


なんだ、この感覚。


うるさい。うるさい。うるさい!


指が震える。


寒い、怖い、黙れ。


「コンくん…大丈夫?」


「え?」


「息…荒いよ…」


自分が自分じゃないみないに、僕は壊れた。


「あれ? パパ、俊。来てたの?」


手前のエレベーターが開き、柊誠と俊が出てきた。


「入れ違いになったみたいだね。今小鳥に会ってきたよ」


「そっか。って、何? もう帰るの?」


「うん。ちょっとね。机の上の紙を触ろうとしたら、怒られてさ。僕も俊も追い出されちゃったんだ。まあ元気そうで良かったよ。今から俊と駅前に行ってくるよ」


「なるほどね。りょーかい。俊もありがとね。昼からかなり暑くなるみたいだからパパも俊も熱中症気をつけて」


「うん。ありがとう。それじゃ。狐野くん、また」


柊誠の挨拶に会釈もできなかった。


会話が目の前を通り過ぎていく。


まだ喉が熱い。


俊が僕を凝視していたように見えた。


俊の目には、どう映っただろう。


「はい、飲みな」


彼女がウォーターサーバーから水の入った紙袋コップを僕に手渡した。


「ありがとうございます」


「手紙、なんて書いてたの?」


「や、そのなんでもないです」


「嘘だね。汗びっしょりだよ」


もう見せた方が早いか。


彼女に手紙を渡した。


「これって…」


僕の意思ではなく、口が勝手に動きだした。


「小1の頃の話です。遠足で動物園に行きました。せこで先生は、好きな動物の絵を描くように言われました。僕は、仲が良かったクラスの子4人と一緒に、ライオンの絵を描くことにしました。でも、僕はライオンを一切見ませんでした。みんながライオンを見ながら一生懸命描いてる中、僕は隣の女の子が描いていたライオンの絵を見ていたんです」


「え?」


「そうです。彼女の絵を見て描いたんです。その後、その絵が県内のコンクールで金賞を獲りました。初めてもらった賞状でした。すごく嬉しかった。両親からも褒められ、クラスメイトからも、すごいねって。でも、その絵は他の子が描いた絵を僕が盗んだ盗作なんです。後からその子に言われました。わたしの絵と似てるって。物凄い罪悪感が残りました」


「……」


「親戚に、絵を自慢する母親を見て、寒気がしました。どこかであの子が見てる気がして。以来、絵を描くのが怖くなりました。それから3年が過ぎ、4年生になった頃、時図工の授業中で、仕方なく絵を描いてると。『絵を描くの楽しい?』って、小鳥が聞いてきたんです。この手紙と同じです」


「……」


「僕が『別に』と適当に答えると、小鳥は特に何事もなかったかのように言いました。『楽しい絵が描けるようになったら言って。待ってる』って」


「あっはは。小鳥らしいね」


「はい。でもその言葉に救われました。そして、楽しい絵を描くには、自分が描いてて楽しくなきゃいけない。やっと理解しました。以降、僕が絵を描く度に、小鳥はみんなに僕の絵を自慢しに行くようになりました。それを見て、何かが報われたような気がして、嬉しくなりました」


「それで?」


「今僕が大学に通って描いてる絵はお手本に忠実にっていうか、なんていうか。陰影法やらグラデーションやらゴチャゴチャした知識が邪魔して、自分でも何が描きたいのか分からなくなって」


「実際この絵も、完成させるのに必死で、描いてて楽しくありませんでした。そんなところも小鳥には全部見抜かれていたんでしょうね」


「かもしれないね」


「おかげで目が覚めました。自分が本当に描きたい絵は、こんなものじゃない。描いていて楽しく、そして、小鳥がまたみんなに自慢しに行きたくなるようなそんな絵を描きたい。そう思います」


心にぽっかりと空いていた穴が塞がった気がした。


「君は強いね。素晴らしいよ。今の君なら、もう一度頼めるかな。小鳥の絵、描いてくれない?」


「その言葉を待ってました」

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