表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォックスの翼  作者: ジョニー
第1章
16/46

16.ぎこちない会話

16


約束の水曜日。


青い空のキャンバスには、白い入道雲がもくもくと自分の城を築きあげていた。


僕は病院の待合室にいた。


約束の時間は11時、だったよな。いや、間違いない。


「おっ待たせー。今日は時間通りだろぉ」


どこがだよ。


「じゃあ、約束の例のブツを渡してもらおうかー」


右手を前にして手招きする仕草は、刑事ドラマでよく見る薬物の売人のマネなのだろう。


「はい、どうぞ」


僕は、自分が描いた絵を裏向きにして彼女に渡した。


「なんだよコンくん。さては、自信がないのかい? おやおや、図星かな?」


そう言って柊翼は僕の絵を開いた。


途端に彼女の目がゆっくりと沈み、優しく微笑んだ。


「コンくん、すごくいい。すごくいいよ。こんな絵を描くんだね、コンくんは。小鳥からコンくんの絵の話を何度も聞かされてたけど、一度も見たことがなかったからね。さっそくこの絵を小鳥に見せてくるよ。その間、ちょっとここで待ってて。すぐ戻るからー」


「はい。お願いします」


そう言うと、彼女は今まさに閉まりかけのエレベーターに、猛然と突っ込んでいった。


「あ、待って下さーい、待って下さい。乗ります、乗りまーす」

間一髪のところで、エレベーターに飛び乗った彼女。


「セーフ。いやー助かりました。ありがとうございますー!ギリギリセーフってやつですね。ほんと。なんだろう、今日の私」


「いやー本当にツいてますねぇ、柊さん」


同乗者のネームプレートには浜崎の文字。


「病院内は走るなって、あれほどいつも言っ……」


扉が閉まった。この世で1番恐ろしい光景だった。


彼女の地獄はさておき、待ち合い室をグルリと見回すと、観葉植物の脇に設置されたウォーターサーバーが目に飛び込んできた。


ありがたい、一口頂こう。


紙コップを取り、レバーを下げて、ゴクリ。うまい。


これは是非、うちの大学にも置いて欲しい。


喉を潤し、気分が良くなった僕の目に次に飛び込んできたのは、見覚えのある男子高校生の姿だった。


小鳥の弟、柊俊だ。


僕の喉の清涼感が一気に吹き飛んだ。


僕はコソコソと俊には決してバレないように、休憩スペースの座椅子に戻ろうとした。


「あの。もしかして、狐野さんですか?」


バレた。


「あ、はい」


「お久しぶりです」


「あ、 えと、お久しぶりです」


僕達はその場に立ち尽くした。


何やってるんだろう。


しかも年下に敬語って。


俊が黙ったまま、その場を動こうとしなかったので、仕方なく僕から話しかけた。


「えっと、俊くんだよね」


「はい柊俊です」


「あ、やっぱり」


「ねーちゃんのこと好きだったんですか?」


いきなり内角高めのデッドボールギリギリの球を投げきた俊。ほんと、怖い。


「えっと、小鳥さんのことかな?」


「俺にねーちゃんは1人しかいません」


知ってるよ。


「あ、そうだよね。ごめん。小学校の時、よく一緒にかくれんぼをしたような」


「質問を変えます。何でここにいるんですか?」


思い返せば、俊とまともに話したことなんて、一度も無かった。こんなに絡みにくいとは…。


「ねーちゃんに会いに来たんじゃないんですか?」


「あ、いや。そうじゃないんだけど」


「じゃあ何でここにいるんですか?」


年下からの必要な攻め立てに、イライラしていた僕の後ろから、聞き覚えのあった声が飛んできた。


「俊、何してるんだ」


「父さん…」


白いカッターシャツが汗ばんでいる柊誠。


今日も駅前に立っていたのだろう。


「学校には行ってないのか?」


「行った。けど、なんか頭痛くて…」


「そうか。小鳥には会ったか?」


「いやまだ、今から…」


「じゃあ父さんと一緒に行こう。狐野くん、すまないがまた」


「あ、はい」


そう言うと柊誠と俊はエレベーターに乗り込んだ。


緊張感から解放された僕は、ドサッと座椅子にもたれかかった。


俊と話すだけでこんなに疲れるなんて、予想もしなかった。


手に持ったままの紙コップにもう一度水を入れ、再び待合室でゆったりとくつろいでいると、手前のエレベーターが開き、彼女が出てきた。


「コンくん」


「あ、早かったですね。小鳥は何て言ってました?」


「ダメだって」


「え…」


水が温く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ