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フォックスの翼  作者: ジョニー
第1章
13/46

13.待合室

13


「いやー遅れてすまないねー。お見舞い品のぶどう食べてたらさー、時間忘れちゃっててねー。つい遅くてなっちゃったよ」


予定されていた時間よりも40分遅れて彼女は今、僕の肩をポンポンと叩きながら、ケラケラと笑っているのだって。


「電話したんですよ」


「覚えておくといい。病院では携帯の禁止だよ」


この返しには、さすがの僕も腹が立った。


「はい、小鳥の絵本。ここなら小鳥来ないから、ゆっくり読めるよ」


「ちょっと柊さん!」


彼女の後ろから、かなりご立腹の様子の看護師が突進してきた。彼女のネームプレートには「浜崎」と書かれていて、この人がまた何かやったに違いないのは明白といっていい。


「バレちゃったか。コンくん、後でまた来るからさ、その絵本読んでて。すぐに戻るからー」


「さあ行くよ。生田先生が待ってる」


そう言うと彼女は看護師に連行されていった。こんなシーンをまざまざと見せつけられると、やはり小鳥の病気の深刻さを改めて実感させられた。


小鳥には時間がない。僕がやるべきことは決まっていた。 絵本を開き、1ページ目の内容は。


♢♦︎


むかしむかし

あるところに、おサルさんとキツネさんとコトリさんが仲良なかよらしていました。

3さんにんはとても仲良なかよしで、毎日まいにちかくれんぼをしてあそんでいました。

ぼくおにをやるよ」

キツネさんがいました。

「キツネさんはつけるの上手じょうずだから、わたし、すぐにつかっちゃうわ」

コトリさんがいました。

「よし、今日きょうこそは、キツネさんにまいったとわせてやるぞ」

おサルさんはいました。

「それはどうかな?よし、それじゃあはじめよう」


はじまってすぐに、キツネさんはくさむらのなかにいたコトリさんをつけました。

「ことりさん、ーつけた」

「またつかっちゃったよー」

コトリさんはかくれるのが苦手にがてです。

さらにすこしして、今度こんどうえにいたおサルさんをつけました。

「おサルさん、ーつけた」

「くっそー!つかったー。キツネさんはすごいなー」

おサルさんはくやしそうにからりてきました。かくれるのが得意とくいなおサルさんも、キツネさんにはすぐにつかってしまいます。


♦︎♢


途中で気づいた。


間違いない。


これは翔と僕と小鳥のことだ柊誠は、僕たちの記憶がないと言ってたけど、小鳥は忘れてなんかいない。


左の2ページ目には、真ん中に「絵」と書いてあるだけだった。ここに僕が絵を描くのか。


実感が湧かないまま、次のページをめくった。


♦︎♢


そんなある、おサルさんが隣町となりまちにおつかいにくことになったので、今日きょうはキツネさんとコトリさんの2人でかくれんぼをすることになりました。

かくれるのが得意とくいなおサルさんがいないので、キツネさんはすこさみしくなりました。

そんなキツネさんをてコトリさんはいました。

「キツネさん、キツネさん、今日きょうわたしをみつけられるかしら?」

するとキツネさんはこうました。

なにっているんだい、コトリさん。すぐにつけてやるよ」

そういうと、キツネさんは数字すうじかぞえました。

「いーち、にぃー、さーん、しーぃ…」


♦︎♢


ここで3ページ目が終わり、4ページ目にはまた「絵」と書かれていた。5ページ目をめくる。


♦︎♢


コトリさんは小川おがわのそばでかんがえました。

「そうだ。そらんでとおくの場所ばしょかくれよう。きつねさんはつばさがないから、ってこれないぞ。おかあさんには、ぶのはまだはやいってわれたけど、こんなに立派りっぱはねがあるんだもの。大丈夫だいじょうぶよ」

そううとコトリさんはあかはねひろげ、大空おおぞらんでいきました」


♦︎♢


そしてまた6ページ目には「絵」。7ページ目。


♦︎♢


そのころ、なにらないキツネさんはずっとかずかぞえていました。

「きゅうじゅきゅ、ひゃーく。よし、かぞわったぞー。もーいーかい?」

コトリさんの返事へんじがありません。

返事へんじがないってことは、もうさがしていいんだな。すぐにつけてやるぞー」

キツネさんはコトリさんをさがしにきました。

しかし、今日きょうはなかなかつかりません。

「おかしいなー。いつもならすぐにつかるのになー」

キツネさんは一生懸命いっしょうけんめいさがしました。うえ丸太まるたなかいわいわ隙間すきま…。

だけどどんなにさがしてもコトリさんはつかりません。

「コトリさんー。降参こうさんだよー。てきてよー」

キツネさんはさけびました。

ですがいくらんでも返事へんじがありません。

本当ほんとうにどこにかくれたんだろう? ん? あれはなんだ?」

キツネさんは小川おがわのそばでちいさなあか羽根はねつけました。


♦︎♢


7ページ目が終わり、8ページ目にはまた「絵」と書かれていて、次のページをめくったが真っ白だった。


「小鳥の絵本は面白かったかい?」


看護師から解放された彼女が、腕を後ろでクロスさせながら僕の顔の前にひょっこりと現れた。


「あ、はい」


「そーりゃ良かった。んじゃあ、はい、これ。今できてるとこまでのコピーねー」


彼女はそう言って、喫茶店に持って来ていた手提げカバンから文章のコピーをサラッと渡してきた。


「ずっと気になってたんだけど、コンくんが右手に持ってるのは何だい?」


「え? あ、これですか」


小鳥からもらった手紙と羽根だった。


「実は昔、小鳥にもらった物なんです」


「そっか。その羽根…大事にしてね……」


彼女はなぜか遠い目をしていた。


その後、彼女と別れ病院を出た。


家に帰って晩飯を食べ、風呂に入り寝る準備を整える。


天井の蛍光灯を見つめながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。


最後に見た彼女のあの目が、まだ脳裏に焼き付いていた。

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