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道すがら食堂  作者: 木下源影
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     5


ここは道すがら食堂。


…には違いないが、真剣な顔の人々が宙に浮いたモニターを見ている。



「…源次郎、なかなかの切り返しだな。

 …だが決定的なことを何故言わないんだ?」


皇、前田と女優たち、そして澄美は地下訓練場にいて、


木下と真奈美の様子を盗み見している。


雛が少し心配そうな顔をして皇を見ている。


「決定的なこと?

 なんなの、お兄ちゃん…」


「これからオレは澄美ちゃんに死刑宣告をする。

 オレが放つ言葉により、

 澄美ちゃんは全てを諦めざるを得ないだろうな。

 その覚悟があるのなら、オレの口から言うが、

 本来ならば源次郎が言うべきことなんだ。

 だがオレとしてはどちらでもいいぞ」


澄美はモニターに向けていた視線を素早く皇に移し、軽くお辞儀をした。


「私には何のことやら…

 是非お聞きいたしたく…」


澄美は挑戦的な目を皇に向けた。


「源太兄さんと契れ」


皇の言葉に、澄美は一瞬戸惑ったが薄笑みを浮かべた。


だが、次の瞬間、驚愕の顔を皇に向けたのだ。


「ハマったな。

 さすが才女は違う。

 だからこそターゲットにしたんだ。

 …澄美ちゃん、今の気持ちをひと言で言ってくれ。

 簡単な言葉があるよな?」


澄美は皇から半歩引いた。


挑戦的な澄美はもうどこにもいなかった。


澄美は様々な想いの涙を流し、激しく首を振った。


「…そう、言えるのだが言えない。

 これはできれば言いたくない言葉なんだ。

 …雛、オレはお前を愛している。

 オレと添い遂げてくれ」


雛は驚愕の面持となり、そしていきなり澄美を見てすぐに理解したようだ。


「…言えない…

 ううん、言いたくない…

 言っちゃったら…」


「大丈夫だぞ。

 オレが言い出したことだ。

 オレは答えを知っているからな」


「でもこんなのっておかしいもんっ!

 …でも、間違ってない…」


「その通り。

 間違っていないが言ってはいけない言葉なんだ。

 特に家族にはな…」


女優たちは今の状況からひとつの言葉を思い浮かべた。


「…わかりました…

 答えは、おぞましい、です…

 凄い矛盾です。

 家族って親しいはずなのに、もし異性の関係を迫られたらおぞましく…」


さつきは少し身体を震わせなから言った。


「正解だ。

 仲のいい家族でも悪い家族でも、このおぞましさは変わらないはずだ。

 平気で受け入れられる者はきっといないはずだとオレは思っている。

 …澄美ちゃんと真奈美ちゃんは源次郎にそれをしていることと同じなんだ。

 澄美ちゃんは今思い知ったが、真奈美ちゃんはまだそれがわかっていないはずだ。

 …さつき、このおぞましさの正体はなんだろうな?

 オレにもよくわからないんだ」


さつきはすぐに純也を見た。


皇にはさつきの行動が理解できなかったのだが、


別の理由で納得してしまったようだ。


その純也が口を開いた。


「詳しくは良くわかりませんが、人間として…

 いえ、動物としての防衛本能だと感じています。

 近親交配は、脳に障害を持った子供が生まれる確率が格段に跳ね上がります。

 これはあまり質のよくない遺伝子が積み重なる要因になりやすいからだ

 と言われています。

 このおぞましさはきっと近親交配の防衛本能の一種だと感じました」


皇は納得したように大きく頷いた。


「逆に言えば、近親交配が平気でできる者は、少々特異な病気だとも言えるわけだが、

 オレの知り合いではいないな。

 純血を守るため、

 この国を創った者がやっていたと言うことは知っているけどな。

 …純也は医療系のドラマにでも出た事があるのか?」


純也は答えにくそうにして、少し下を向いた。


さつきは純也に済まなさそうにして顔を覗きこんでいる。


「…なるほどな…

 だったら、言わないでおこうか。

 オレは察しがついているが、言う必要もないだろう」


皇は笑みを純也に向けた。


「…私、源次郎さんにひどいことを…

 …でも、赤の他人なのに…」


澄美は皇に顔を向け、すぐに伏せた。


「血が繋がっていても繋がっていなくても、全く関係のないことだ。

 源次郎は澄美ちゃんとも真奈美ちゃんとも妹と思い育ってきた。

 澄美ちゃんは源太兄さんは兄と思い、源次郎は恋愛対象として育った。

 結局は源次郎の気持ちが、近親交配の拒絶を促しているんだよ。

 …そうならない方法はあったのだが、残念なことになってしまったな」


「…はい、今、気付いてしまいました。

 もっと子供の頃から、異性として付き合うべきでした…」


「その通り。

 そうしておけば、ごく普通に源次郎と結ばれていたはずだ。

 源次郎だって、異性としての澄美ちゃんを好んだかもしれないからな。

 だが望みがないことでもないぞ。

 この先は源次郎の気持ち次第だからな。

 だが、強要はやめて欲しい。

 源次郎は優しい男だ。

 こんなことを言わなくても澄美ちゃんが一番良くわかっているはずだ。

 あいつの妨げにはなって欲しくはないんだよ」


「いいえ、全然わかっていなかったことを今思い知りました。

 …眼が覚めました。

 本当に、ありがとうございました。

 そして、恨みます…」


澄美は燃えるような目を皇に向けたが、皇は笑みを以って澄美を見ている。


「オレは先に断っておいたはずだぞ。

 もう忘れたのか?」


「あ、そうでした…

 申し訳ございません。

 全てが吹っ飛んでしまっていました」


皇は澄美に向け苦笑いを向けた。


「子供心も複雑だからな。

 今の子供たちはそう言ったことを平気で言うが、

 オレが子供だったころは、そんなことを言う者はまずいなかったからな。

 不運だったと諦めるべきだろうが、

 可能性がゼロになるまで諦めなくてもいいと思うぞ」


皇の言葉に雛が激しく反応して皇を睨み付けた。


「お兄ちゃんっ!

 私の味方じゃないのっ?!」


「オレは平等な意見を述べたまでた。

 雛の肩を持ちたいオレも当然いるぞ。

 お前の気持ちも良くわかっているからな。

 だがオレは源次郎のためを思って言ったまでだ。

 未来はまだ、決定してはいないからな…」


雛は憮然とした顔を皇に見せた。


今言っておこうかと皇は思ったようだが、モニターにいる真奈美が動きを見せた。



「この根性なしが…」


真奈美は木下に詰め寄り、木下の股間を握っている。


「…お前ヒドイな…

 こんなことをしてもお前を嫌いにはなれないぞ…

 それに立たないな…

 潰されるとでも思って、恐怖心でも沸いたかな?」


真奈美は苦笑いを木下に見せて、すぐに手を放した。


そして今更ながらに大声で泣きわめき始めた。


「オレはお前たちを妹だとしか思えない。

 いくら血が繋がっていなくてもだ。

 血などそんなことは関係ない。

 …お前が股間を触った瞬間、寒気がしたぞ。

 …なんだろうなこれ…

 気持ち悪い…

 いや、おぞましい、か…」


真奈美は大声で笑い始めた。


そして、木下に抱き付いて大声で、


「嫌いにならないでっ!」と繰り返し謝り始めた。


「ならない。

 今までの思い出がオレにそう言わせるようだな。

 きっと、真奈を恋人と思うようになるには、相当な時間が必要だと思うぞ。

 それほど簡単に真奈を異性としては見られないだろうな。

 …簡単な方法もあったのだが、それはやめた。

 ショックが大きいと思ったからな。

 真奈にはきっと無理だ。

 我慢の限界というものがあるからな。

 ずうずうしい澄美だったら、きっと問題はない。

 …そうだよな、澄美…」


真奈美は木下から身体を放し、辺りを見渡した。


「この部屋は監視されている。

 オレ達にはプライバシーなんてないんだよ」


「はい、すでに皇様から手酷い痛手を負わされました。

 どうか、成敗して頂きたく…」


トイレから出てきた澄美の言葉に、木下は大笑いを始めた。


「なんだ、早かったな。

 …成敗はしない。

 一輝は敵ではないからな。

 オレの大切な友人だ」


「私のように真奈にも痛手を…

 …お父様の股間に触れるなどと…

 …羨ましい…」


真奈美は恥ずかしそうにして下を向いているだけだ。


「羨ましがるな…

 オレの気持ちも察しろ…」


「…はい、十分に思い知りました。

 女優たちも一層人間の心に触れたものと感じました。

 家族の絆、さらに大切にしたいと感じました。

 …真奈ちゃん、罰を受ける勇気、ある?」


真奈美は驚いた表情をまずは木下に見せ、澄美に向かって首を振った。


「…ま、嫌だろうな。

 お姉ちゃんは怖いからな」


「今回はやめておきましょう。

 でも、いずれ気付きます。

 その時に苦悩しなさい。

 自分の罪の深さを…」


「おいおい…

 もう言ったも同然だろ…

 …真奈、気にしなくていいからな。

 さっさと訓練に行って来い」


真奈美は木下に素早く一礼をして、食堂を出て行った。


真奈美は昔から具体的に説明しないと理解できないという、


大人にあるまじき成長を遂げてしまったので、


澄美の言った事では気付いていないだろうと、木下は思った。


「…お前、本当に悪だな…

 だが、それほどでないと、オレとは共に歩めないからな…」


「…はい、さらに覚悟が固まりました。

 では、私も仕事に行って参ります」


木下は澄美も見送り、またひとりになった。


そして徐に、きんぴらごぼうの仕込みを始めた。


… … … … …


ここ道すがら食堂は、昼食の時間で少々混み合っている。



「女優たちをここに迎えて、少しばかり気になっている事があるんだが…」


きんぴらを嬉しそうにして食べている雛に木下が聞いた。


「麻里子さんとひと言も話していないと思うんだが…」


雛はきんぴらを大皿の上に落とした。


「…言えないわ…」


雛は、木下の話をなかったことにしたようで、


きんぴらを落とす前の雛に戻ったように木下は思った。


「…やっぱり、言っておいた方がいいわ…」


雛は大皿の上にゆっくりと箸を並べて置いた。


「…私たちってね…

 凄く仲がいいの…」


雛はごく自然に普通に語ったのだが、顔には緊張感が窺えた。


木下は雛の表情から逆のことを言っているのだろうと察した。


雛はライバルとして麻里子を受け入れたのだろうと予測した。


「…いや、わかった。

 もういい、食べてくれ…」


「…仲が良過ぎてね、

 話しが終わらないの…

 だからね、もうここ三年ほど、話をしていないの。

 話し始めるとね、疲れて眠るまで止まらないのよ…

 だからね、みんなに迷惑掛け捲っちゃったの…」


木下は笑うことなく安心してしばし考え、


時間があるのなら来てくれと澄美を呼んだ。


「雛と麻里子さんのトーク番組を企画したいのだが。

 ふたりはかなりの仲良しらしい。

 みんなは全く知らなかった様で、唖然としているんだけどな。

 …ふたりの眼が合うと危険なんだそうだ。

 眠りに付くまで話し込んでしまうらしい。

 きっと、3か月分ほどの撮りができそうだから、

 空いている時間帯で差し込めないか?」


澄美は徐に木下に礼をしてから、麻里子、雛の順に話を聞いた。


「ふたりのオフが、劇場柿落としの翌日から3日間あります。

 休みの初日に撮りましょう。

 大物女優同士の対談ですので、きっと視聴率も取れるはずですわ」


澄美は早速テレビ局に行き、番組編成会議にかけるようだ。


テレビ番組の変り種としては、細田による子供向けの科学番組などもあり、


社員の特技を生かした個性的な番組を用意している。


当然映画などもあり、案内人は雛が担当することに決まっている。


自分でも演技をするが、当然のごとく観て得る訓練もしているのだ。


スポーツ系では、SKグループとしてプロ野球チームを持っている。


半数が女子なのだが、女子リーグに進まず、一般プロリーグに参加した。


ほとんどの女子が、どう見ても男にしか見えない、


元SKセキュリティーの正社員だ。


SKセキュリティーは、ドラフト会議には非協力的で、


名が売れる前にテスト生としてすでにチームに登録している。


こうしておけば、優秀な選手の流出はまずありえないのだ。


よってここ五年ほどは、日本一に三度輝いている。


女性にコテンパンにのされる男を見て滑稽だと、


女王澄美はいつも高笑いをしている。



支援しているスポーツとして、射撃や武道全般がある。


これはセキュリティー会社としては当然のことだと、常に木下は語っている。


だがここ日本では、一般人が銃を携帯することはできない。


だが、優秀な者に目を付け、常に社員としている。


武術系では、空手の世界チャンピオンの柿木を獲得している。



いつもニコニコ元気銀行口八丁支店で強盗事件があり、


偶然その場に居合わせて、すぐさま身を隠した柿木が、


緊急連絡用の装置で木下に連絡して、


あっという間に皇と柿木により解決した。


この件は所轄の手柄とするように皇が言ったのだが、


警視総監の耳に入り、皇と柿木を表彰したのだ。


当然の如く報道もされ、SKグループは更なる顧客を獲得した。



雛と麻里子は喜び視線が合いそうになったのだが、社員一同で止めて事なきを得た。


この件はもう話す事をやめようと木下は思い、前田と仲のいい純也に視線を移した。


純也はどこからどう見ても前田の息子ではなく娘にしか見えない仕草をしていたのだ。


木下は純也に顔を近づけた。


「…純也、女が出てるぞ…

 …前田さんはかなり鈍いようですね…

 …全然気付いてなかったでしょ…」


前田は純也をマジマジと見て、今それに気付いたようだ。


「…そうか、それだったのか…

 皇の旦那が言いかけてやめた…」


「…やはりね。

 …一輝は気付いていたと思っていました。

 …純也、手術して、心身共に女になるか?」


純也はコクンと頷いた。


「…だが、女の役しかできなくなるんだぞ。

 …それとも、雛を目指すか?」


「はいっ!

 よろしくお願いしますっ!!」


純也はすぐさま立ち上がり、泣き顔を笑顔に代えて木下に向けて叫んだ。


そして、今までの苦悩をこの場で打ち明けようとしたところ、


役者以外が席を立とうとしたが純也が止め、今いる全員に向け語った。


「性同一性障害は今はごく普通にある話しだからな。

 だが、好奇の目で見られる事が本人に取って一番の負担になる。

 …話せて、少しは楽になっただろ?」


「はい。

 でも、この食堂でならそんな眼で見る人はいないと思っていました。

 ここに来られて、本当によかったと思っています」


純也にサツキと美波が飛びついて喜んでいる。


真樹は今日は仕事でいないのだが、三人はこの件を知っていたようだ。


「手術はいつでもいいぞ。

 その手の事もSKグループがバックアップできるから、

 何も心配はいらない。

 そのほかの件も安心しておいて構わない。

 女王様が守ってくれているからな」


「はい、とっても心強いのです。

 でも、できれば報道して欲しいのです。

 私のように苦しんでいる人が、

 この業界にもまだいると思います。

 …木下静香さんは、私と同じだと思っています」


祐馬は一瞬だけ驚いたようだが、思い当たる節がある様で、俯き目を伏せた。


「なるほど…

 ドラマの演技を見たが、かなりの戸惑いを感じたな。

 純也とは違い、女の役を嫌がっているように今そう感じた。

 だが、俳優として一念発起する勇気がなかったから止まってしまったんだな。

 …祐馬さん、どうされますか?

 純也と共に、手術、受けさせますか?」


「明日から来る予定ですので、話を聞いてやってください。

 純也君、よろしくお願いします」


祐馬は純也に頭を下げた。


「はい!

 喜んでっ!」


純也はいつもよりもかなり高い声で言った。


もう心は完全に女になっているようだと、木下は嬉しく思った。


「前田さん良かったですね。

 娘ができましたよ」


木下は照れる前田の顔を見ていたが、視線の端に純也の悲しそうな顔を捉えた。


「余計なことを言ったようだ。

 後は前田さん次第かな?」


前田は何のことなのかわからず、キョトンとした目になっている。


純也は僅かに笑顔で木下に頭を下げた。


… … … … …


「木下の旦那、そろそろコードネームくれ。

 そうすれば、さらに気合が入る。

 それに敬語はやめて欲しい。

 上官であれば命令口調で構わない」


ここ、道すがら食堂は昼食の時間を過ぎたのだが、


純也の一件で食べていない者が大勢いたので、


少し暇な者たちは我慢してもらい、皇たちは少し遅い昼食を摂り始めた。


「わかりました。

 …いえ、わかった。

 コードネームは決めている。

 前田や慶造はマズいからな。

 コードネームは巌剛。

 これでいいだろ?」


「おうっ!

 今までで最高のコードネームだ!

 ありがとう、ボスっ!!」


「前から聞こうと思っていたのだが、巌剛は菜食主義か?

 野菜が入った定食が好みのようだが…」


「飯が好きだからな。

 肉にはあまりこだわらない。

 焼肉屋に行っても肉は数切れで、飯ばかり食っているな。

 サラダバーのある店はきっといつも泣いていただろうなっ!」


巌剛は大声で笑った。


「なるほど、サラダバーか…

 さすがに富山から送ってもらうのは厳しいな…

 方法はあるが…

 地下訓練場の空きスペースに、小さな農園でも造るか…

 温度が一定で冬でも暖かいから、夏野菜、茂り放題だな…

 30人程度が食べる分なら、それほど広くなくてもいいだろうな。

 問題は手入れをどうするかだが…

 …シャドウ、あ、いや、オレがする」


「大丈夫だよ、今日の分は終わったから。

 何出すの?」


「野菜工場の情報だ。

 それを参考にして、地下に農園を造る。

 生で食べられる成長の早いもの、ピックアップしてくれ。

 そうだ、ごぼうも作るか。

 今まで何故そうしなかったんだ…

 これは大失態だな…」


「早いものはほとんどがハッパ系だよね。

 でも収穫できるまで2ヶ月はかかるね!

 でもその収穫が終わった頃、根菜も小さいものなら収穫できそうだよ!

 大根とホウレンソウなら早いかも…

 工場の設備だけど、ほとんど手入れ要らないよ。

 雑草、多分生えないもん」


「それもそうだな…

 工場にする必要もないか…

 午後から少し耕すか…」


木下は食堂の片付けが終ってすぐに、地下訓練場に行き、


誰の邪魔にもならない場所に小型のユンボを持ち出した。


そして芝をめくり始め、鍬で耕し始めた。


「柿木さんが使い物にならなくなったから手伝うわ」


真奈美が上気した顔を木下に見せた。


「なったんじゃなくてしたんだろ…

 まあいいけど…」


木下は鍬を真奈美に渡し、シャベルを取りに行った。


木下が現場に戻るともう終わっていた。


「早いな…

 耕運機よりも早いんじゃないのか?」


「小さいもの、箱庭と変わらないわ!

 でも、ミミズ、いないよね…

 肥料だけかあー…

 食堂って食べ残し、出るの?」


「ほとんど出ないが、皮やヘタなどの生ごみは大量に出るからな。

 それをミミズの代わりにするか…

 風は自由自在だからな、手作業はほとんどいらない。

 これほど楽な農地はないなっ!」


「そうね、詰まんない農地だけど、収穫の喜びは一緒だわっ!

 私の家にも農地作ったけど、ここの面倒も見ていい?」


「きっと雑草すら生えないぞ。

 本当につまらないと思うな…

 後は人口太陽と、一応ビニールハウスにするか。

 トマトときゅうり、早く食いたいな…」


「ここって明るいけど、UVはカットしてるのね」


「そう。

 70パーセントほどカットしている。

 芝が何とか維持できる程度でいいからな。

 だがカットしていない太陽を作る必要がある。

 数時間前に伝えたから、きっと今日中にできるだろう。

 だとしたら、ハウス、いらないかもな…

 後は水路だが、ホースで十分だが、ひと工夫する必要がありそうだ。

 気候が変わらないから、ニ世代目から全く同じものが収穫できそうだ。

 問題は病気を発生させないことだな…

 これも技術部に相談するかな」


「ここじゃ、農薬、使えないものね。

 無農薬農薬、たくさん持ってきたから、明日運び入れるわ」


「そうだな、それは頼んでおこうか。

 24時間日照時間にすると、病気になりやすいかもしれないな…

 マメにチェックしないと、ダメにしてしまいそうだ。

 野菜工場、もう一度チェックするか…

 だが新しいことをする楽しみはあるなっ!」


「…源ちゃん、愛してる…

 って言えないのが凄く辛いわ…」


真奈美は少し泣き顔になった。


「言ったじゃないか…

 …だが、それもオレの落ち度だ。

 気付いてやるべきだった。

 呼び名の違い…」


「…えっ?

 …なに?

 …ああ、源太兄と源ちゃん…

 そうだわ…

 私はお姉ちゃんのマネをしただけだもん…

 お姉ちゃんらしいわ…」


「熊の首、ふっ飛ばしたんだって?

 お前、恐ろしいな…」


「みんなを守るためだもん。

 全力で戦わないとっ!」


「まあ、その通りだが…

 お前の代わり、大蔵で大丈夫なのか?」


「みっちゃんもいるから、何も問題ないわ。

 …由真ちゃん、戻ってくるそうよ。

 夫の浮気が原因で離婚したって。

 羨ましかったんだけど、由真ちゃん、酷く疲れた声してたわ。

 そんなことになるのなら結婚しなくていいかなって思っちゃった」


木下はどう答えようかと思案していたところに雛がやってきた。


女優たちを使い物にならないようにしたようで、みんなは芝生の上に寝転んでいる。


「みんな疲れちゃったようだから見に来たの」


雛が平然とした顔で言った。


「ようだからじゃなくしたんだろ…

 同じようなことを言わせるな、化け物どもが…

 どちらかと言えば雛の方が酷いな。

 どうやったら寝転ぶまで辛い目にあわせられるんだ?」


「ただの発声練習よ。

 いつもの数倍早くしたから、少し酸欠気味かも!」


雛は笑顔で答えた。


「みんな有名女優なんだから潰すなよ…

 だが、この程度では潰れないよな。

 …ほら、純也は起き上がったぞ。

 だが美波は本気で寝てるんじゃないのか?」


「純は気合が乗ってるから、もっと厳しくてもよかったわ…

 美波はいいの、昨日遅かったから。

 丁度いい睡眠時間の追加よ」


「それならいいんだけどな。

 …打ち合わせに行って来る。

 ふたりとも、あまり厳しくするなよ。

 仲間、逃げちまうぞ」


雛も真奈美も木下の言葉に同じようにして右手で胸を押さえた。


木下は軽い笑みを浮かべて、雛と真奈美に視線を合わせ、螺旋階段の扉に向かった。



「…源ちゃんと私の時間だったのに…」と真奈美は少し雛をにらんで言った。


「…そうね、意地悪く邪魔しちゃったわ。

 女優らしいって思わない?」


「私の台詞を取らないで。

 私らしい戦いに持ち込もうかしら…」


「…羨ましいわ。

 源ちゃんを守れるチカラがあるんですもの…

 でも源ちゃんが言ってくれたわ。

 雛のできる方法でオレを守ってくれって。

 凄く嬉しかったわっ!」


「そうね、私もそう思うわ…

 私にはチカラしかないけど、身体ごとで源ちゃんを守れるの…」


「源ちゃんを悲しませることだけはやめてね。

 盾になることはご法度よ」


雛の言葉が真奈美を一歩あとずさりさせた。


考えてもいなかったのだが、その時になればそうするだろうと、


真奈美は思ったのだ。


「源ちゃんを蹴り飛ばして逃がすことにしたわ。

 優しく蹴れば、50メートルほどは吹っ飛ぶもの…」


「その蹴りの方が致命傷を負いそうだわ…

 でも、守れる自信があるっていうことは本当に羨ましいわ。

 …源ちゃん、子供を作る決意をしたわ」


雛の言葉に真奈美は目を見開いた。


「…あら、聞いてなかったのね。

 お兄ちゃんがね、今のままじゃ成長しないないだろって言ってね。

 これは私のためじゃないわ。

 源ちゃんのために…」


真奈美は息を飲み涙ぐんだ。


「選ばれた人は余裕ね。

 …でも、まだまだ流動的…

 源ちゃんらしくないわ…

 恋だけは想い通りにならなかったようだわ。

 …妹のままじゃダメなのね…

 このまま迫っても拒絶されるだけ…

 …ねえ、どうしてなの?

 どうして私、源ちゃんの彼女になれないの?」


「私に聞かないで欲しいわ…

 でもその答えを私は知っているの。

 でも、源ちゃんも澄美さんも言わなかったようだから私からは言えないわ…

 自分で考えてみた方がいいわ。

 …一方通行じゃ、伝わらないことが多いのよ」


雛は真奈美にとって謎めいた言葉を残し、ゆっくりと女優たちの元に戻って行った。


真奈美は頭を抱えそうになったが、ふと、木下の立場になろうと思った瞬間に、


酷い違和感を覚えた。


その違和感の正体が掴めず、頭を抱え込んだ。


だが、今は切り替えなければと思い、まだ寝転んでいる柿木に歩み寄った。


相当痛かったようね、などと真奈美は思い、柿木を見下ろした。


「隊長、そろそろ起きてください。

 訓練になりません」


「オレは今訓練中だったんだ。

 …お前の成長のために、どういうことなのか説明してもいいぞ。

 今のままじゃ、先に進めないようだからな」


どうやら柿木は、それほどのダメージはなく、


地に耳をつけて三人の話しを盗み聞きしていたようだ。


「だが、雛さんの言ったように、会長も社長もその答えを話さなかった。

 オレが言っていいものかどうか、会長に聞いてくるかな…」


「何かが浮かんだのですけど、まだわからなくて…」


「…そうか、ヒントは掴んだんだな。

 だったら言うのはよそうか。

 だが、今よりも酷くなったらオレから伝えることにする。

 オレの首をかけて、お前に協力しよう。

 …オレはお前に惚れてしまった。

 その強さ、腐らせてしまうのは惜しいからな」


真奈美は軽い眩暈を感じた。


今まで誰にもこのようなことを言われたことがなかったのだ。


いきなりのプロポーズのような言葉に、真奈美は戸惑ってしまったようだ。


そして柿木は誰が見ても逞しく個性的でいい男なのだ。


「…おい、立ったまま気を失ってるんじゃない。

 …オレ、何か妙なこと言ったか?」


普通であればここで、惚れていると言った、などと答えるのだが、


真奈美はそれすら口にできないほど初心なのだ。


「…いいえ、何でもありません。

 組み手、続けますか?」


「そうだな。

 次は勝つからな。

 自信があるんだ」


真奈美は柿木に笑みを浮かべた。


その笑みは、真奈美にとって嘲笑だった。


真奈美には構えはなく、完全に自然体だ。


柿木はスポーツ空手のフットワークを使い、前後に揺さぶりをかけてくる。


ここまではつい数十分前と同じなのだが、柿木がいきなり消えたのだ。


いや、真奈美には消えたように見えただけだ。


正面を突くと思わせて、右斜め前に飛んでいた。


その素早さは、真奈美の目では追えなかった。


だが真奈美は、両腕でガードを造り、腹にチカラを溜め込んだ。


左手に触れたと感じた瞬間に、真奈美は右斜め前に一歩踏み出し、


体を左に90度回転させた。


だがそこにはもう柿木はいなかった。


真奈美はすぐさま両腕で左右のガードを行ない屈んだ。


視界の右端に柿木の空を切った蹴りを確認し、真奈美は素早く右脚を旋回させた。


だが手ごたえはなく空を切った。


真奈美は柿木の姿を確認した方向に前転すると同時に左足のかかとを落とした。


重い手ごたえを感じたが、体勢が悪く簡単にガードされたが、そのガードが吹っ飛んだ。


それを確認した後、真奈美は意識を失った。


… … … … …


「…お、早いな…

 もう起きちまったか…

 自信、失くしてしまいそうだ…」


真奈美が目覚めると、まだ地下訓練場の芝の上だった。


「…一体…

 どうして…」


「オレが勝つって言っただろっ!

 あーはっはっはっ!」


「決め技が何だったのか教えてくださいっ!」


真奈美は怒った表情と声で柿木に言った。


「お前と同じ蹲踞そんきょからの回し蹴りだ。

 それが首筋に決まった。

 そのまま気を失ったから運び出そうと思ったらもう眼が覚めていた。

 一体どんな鍛え方をしたらそれほどタフになれるのか聞きたいほどだな…」


「素早いですね。

 全く気付きませんでした。

 かかと落としを防御されてから記憶がありません」


「すでにその時、オレも回し蹴りを放っていたからな。

 お前の自信が負けに繋がったな」


「自信?!

 自信、なんて…

 …あ、防御…」


「そういうことだな。

 蹲踞からの蹴りも防御をしておいた方が確実だ。

 だがそうすると威力が落ちる。

 だが威力よりも防御優先だ。

 空手はそう言った防御主体の武道だ。

 殴る蹴るが楽しいというスポーツではないぞ」


「そんなことくらいわかっていますっ!!」


真奈美は腹が立っていた。


きっとしばらくは柿木には勝てないと感じていた。


時間外での練習相手を真奈美はこの場で目敏く見つけた。


「これから付き合ってくれないかな。

 今度はオレの修練をしたいからな」


柿木の言葉に、真奈美はさらに腹が立った。


今まで完全に手を抜いていたという意味に真奈美は受け取れた。


だが、断れるはずもない真奈美は、シャワールームに行き汗を流し、


着替えてから道すがら食堂にひとりでいたシャドウを見つけ、


その目の前に座った。


「…ロボットだなんて信じられないわ…

 それに、源ちゃんにそっくり…

 身長は高校一年の頃くらいかな?

 …源ちゃん、とっても、好きだったの…

 今も…」


「そうみたいだね。

 でもダメだよ、相手の気持ちを考えなきゃ…」


「相手の、気持ち…

 源ちゃん私のこと嫌いなのかしら…」


「好きの種類が違うんだ。

 木下は真奈美さんのことを妹として好きなんだ。

 まずは木下の妹を卒業する必要があるんだ。

 本来なら時間を戻して幼い頃の真奈美さんに戻るべきだろうね!

 でもそれができるはずがないよね!

 さすがにボクもこれはできないなぁー…」


「好きの種類…

 もし源太兄が…

 …あっ!!」


真奈美は酷いショックを受けた。


真奈美は自分が源太に迫られたと仮定して考えたのだ。


今の真奈美の気持ちがもし木下と同等であるのならば、


真奈美は木下に酷いことをしていたと感じ、


申し訳ないことをしてしまった気持ちと、恥ずかしい気持ちで一杯になった。


「なんだ。

 みんなが心配しているほどじゃなかったね。

 真奈美さんがひどく落ち込むと思って、

 決定的なことを言わなかったんだよ。

 もう25才だもんね。

 大人だったら、これくらいのこと平気なんだろうね!」


「…ううん、きっとね、いきなり聞かされていたら、

 もうここにはいないと思ったわ。

 情けなくって恥ずかしくって、きっと実家に帰っていたわ…

 …そうだ、源ちゃんは本当に本気で私のこと、

 妹だと思ってくれているんだ…

 お姉ちゃんは諦めていないみたいだけど、私はもう諦めるわ。

 …柿木さん、彼女いるの?」


「いたはずなんだけどね…

 どうやら別れちゃったみたいなんだよね…

 あと25秒でここに来るから、聞いてみる?」


「…今はいいわ。

 シャドウ君、ありがとうっ!」


そして25秒ピッタリで柿木が現れた。


「彼女、いないんですか?」


真奈美のいきなりの問いかけに、柿木は少し口篭ってしまった。


だが思い直した様に、姿勢を正した。


「確かにいたんだが、すれ違いが多くてな。

 自然に別れたようになっているんだが、オレにもよくわからん…

 自然消滅っていうヤツになっているのかな…」


「はっきりさせた方がよろしいかと。

 そうでないと、次に現れた方に失礼ですわ。

 さあ、今すぐに確認を取ってください」


押しの強いところは澄美に良く似ているが、


真奈美の思考には少々子供っぽさが残っている。


「…え?

 まあ、構わんが…」


柿木は携帯電話をかけ始めた。


そしてどうやら、消滅の確認になってしまったようだ。


「もっと楽しみたかったって呟かれて、いきなりオレのせいだと言って怒られ、

 もう連絡してくるなと言って切られた。

 出会いもこんな感じだったな…

 いきなり迫られて、付き合い始めた。

 オレ、ほとんど話をしていなかったと思うな。

 あいつばかりが話していた記憶しか残っていない。

 だがスッキリしたことは確かだな。

 いいアドバイスだった、ありがとう」


「いいえ、いいんです。

 私、今から何事もはっきりさせようと思っただけなんです。

 はっきりさせなかったから、源ちゃんのこと、

 忘れなきゃいけないって思ったんです。

 でもこれは、女としての私のことで、

 妹としては源ちゃんに寄り添ってもいいっていうことだから、

 それほどショックはありません。

 私、酷いことをしていたんだと、今気付いたんです…」


「酷いこと…

 そうかもしれないな。

 会長の気持ちを考えると、やるせない気持ちで一杯だろうな。

 だがわかってもらえたのなら、

 会長にとってこれほど嬉しいことはないと思うぞ。

 社長はまだ何やら考えているようだが、この国の女王様だからな。

 きっと、気長に構えているんだと思うな。

 …さあ、行こうか、動物園」


真奈美はいきなり大声で笑い始めた。


「何をしに行かれるんですかっ!

 動物園って、幼稚園児じゃあるまいしっ!!」


「笑いたかったら笑え…

 主役はお前なんだぞ」


「…えっ?!」


真奈美ははっきりさせたいので詳しく話を聞いた。


「…わかりました。

 檻の中に入って、猛獣をやっつければいいんですね?」


「…いや、違うぞ…

 檻の外から殺気で猛獣を脅してくれと言っただけだ。

 ここからがオレの修行で、その動物の同行をつぶさに観察する。

 殺気が何たるかかが良くわからんからな。

 だが動物にならきっとわかるはずだと感じているんだ。

 …実は昨日はひとりで行って来たんだ。

 鳥や草食動物はオレの気合に敏感に察知して逃げようとしたが、

 猛獣類はオレに戦いを挑んできたんだ。

 きっと恐怖を感じたんだと思うが、お前とどう違うのかを知りたいんだ」


「…なるほど…

 デート、いえ、動物を見に行くわけではないと。

 わかりました、お付き合いしましょう」


柿木と真奈美は肩を並べて商店街を歩いて行った。


… … … … …


ここは道すがら食堂。


今は夕飯も終わり、女優たちも引き上げ、


木下、皇、巌剛そして澄美だけがカウンター席に座って話をしていた。


「真樹ちゃん、やっと帰ってきたよっ!」


「了解だ!

 きっと腹をすかせていることだろう。

 だが、妙に遅いよな…

 撮り、夕方には終わっていたはずだが…」


「ただいま戻りましたっ!

 お腹すきましたぁー!!」


木下はまずは腹ごしらえさせようと、真樹に注文を聞き、手早く調理をした。


「お好み焼きが好評で…

 ずっと食べずに作っていたんです。

 いつもは苦味虫を潰したような顔をしていた役者たちも

 信じられない笑顔になって!

 いつもはNGを出さない出崎さんが、

 『おおっ! 美味いなこれっ!』って食べることに

 夢中になったのが切欠だったんですよ!」


「そうか、それはよかったな。

 現場の雰囲気がいいのは役者のメンタル面にも大きく影響するからな。

 演技も楽しくなったことだろう。

 …材料の指示もしたんだな?」


「はい!

 やっぱりあのソース、美味しいですから!

 いつもはスタッフさんが嫌々食べているのに、

 今日は残らなかったのでがっかりしてました!」


「やっぱり、食べているんだな…

 スタッフたちも大変だな…」


「捨ててるなんて噂になったら問題ですもの…

 でも、演者が帰ったあとは知りません」


「もっともなことだなっ!」


みんなが笑みを浮かべた。


「シャドウちゃん、ありがとう!

 今日は気持ちよく演技ができたの!

 何かお礼がしたいわ、何がいいかな?」


シャドウが木下の影から照れくさそうにして現れた。


一度は木下の後ろに隠れたのだが、木下に肩をつかまれ、


真樹の正面に立たされて少し怒っている。


だが思い直して、真樹に顔を向けた。


「…デ、デデ…

 デートとか…

 なーんちゃってねっ!」


「うん!

 いいわよ。

 どこか行きたい所ってあるの?」


「えっ?!

 いいのっ?!」


シャドウは真樹の顔を見てから木下の顔を見た。


「お前の代わりの影二号と三号がいるから大丈夫だ。

 だが行く時は一応言ってくれ。

 引き継いでもらわなきゃいけない事もあるだろうからな」


シャドウもそして真樹も笑顔で木下を見た。


「…デートだなんて始めてかも…

 私…

 女優デビューする前まで、ただの都合のいい女だったから…

 でも、女優になっても地獄だった…

 好きなものを食べられないっていう…

 でもここが私を変えてくれました!

 雛さんに、もっともっとお礼言っておかないと、バチが当りそうだわ!」


「そうだな、叱られるまで礼を言ってもいいぞ。

 真樹の気の済むようにしろ」


真樹は楽しそうにしてシャドウとどこに行くか相談を始めた。


「柿木さんと真奈美さん、帰ってきたよ!」


影ニ号が皇の影から現れ、みんなを驚かせた。


「ああ、言ってなかったな。

 影二号は一輝に三号は巌剛に取り憑いているからな。

 もしものための用心だ。

 少しだけでもコミュニケーションを取っておいて欲しい」


「…いつも通り驚かせてもらった。

 だが、取り憑いてるって…」


皇は笑みを以って影二号の頭を撫でた。


巌剛も影三号とコミュニケーションを取り始めた。


「だが、一度撃退しただけで、出てこなくなったな…

 警察からの情報もないようだが…」


「それどころではなくなったそうだ。

 大人と子供がケンカを始めたそうなんだ。

 今のところ、暴走族の方が優勢らしい。

 両方とも一気に潰すはずが、暴力団の方だけが消滅するかもしれないな。

 だが、油断は禁物だ。

 別の組織も絡み始めた。

 …アメリカマフィア…」


「そうか…

 いきなり第二段階ということか…

 願ったり叶ったりだな!」


巌剛に気合が入った。


皇は笑顔で木下を見ている。


「場合によってはスーツを持ち出してもらう。

 始めは派手な銃撃戦はないだろうが、報復攻撃が過激になるかもしれないからな。

 根城の候補は抑えてあるから、今すぐ行って潰してもいいんだけどな。

 だがここの法律に乗っ取って受身でなくてはならないところが面倒だ。

 問題を起こさない限り、何もできないという歯がゆさが、オレを焦らせてしまうが、

 どっしりと構えておくことにしようか…

 それに、グランだが、日本に入って来たかもしれない…

 巌剛は要注意だ」


「急激に仕事をこなすのも、ここの危険手当てに含まれているからな。

 戦地では普通のことだったし、オレとしては慣れている。

 ナイフの手入れでもしておくかな…」


「ジャングルのゲリラ戦、か…」


「そうだ。

 オレたちは罠にハマった。

 オレとグランだけが対峙するように仕向けられたんだ。

 特にプレッシャーはなかったな。

 動きは速いが並だった。

 オレが瞬歩を見せた時、

 かなりあせった様で視線を外した時に瞬歩で近付き腹と顎を連打して気を失わせた。

 やっても良かったんだが、

 聞きたいことがあるらしくできれば生け捕りにせよと命令があったからな。

 素直に聞いてやったんだよ。

 それに仲間の方がかなり劣勢だったからな。

 すぐさま駆けつけ、終わって現場に戻るといなかった」


「オレも命令するぞ。

 生け捕りにしろ」


巌剛は苦笑いをこぼし、皇は笑みを浮かべて目を瞑った。


「死人だからな、有効利用させてもらう。

 巌剛に並だと言わせる男はいないと思っているからな。

 よろしく頼む」


木下が頭を下げると、巌剛は笑みを浮かべた。


「わかった、そうしよう。

 …オレは戦地が楽しくなくなったんだよ。

 オレよりも格下ばかりにしか出会わなくなった。

 これでも、かなり粘って15年、色んな場所を転々としたんだがな…

 自惚れてはいないが、金も使い切れないほど溜まったことだし、

 戦地で見つけた子供たちと共に、日本に帰って来たんだよ」


「その情報もやっと揃った。

 巌剛を避けて通っていた節があるな。

 部隊、負け知らずだろ?」


「そう。

 負けた記憶はあまりないな。

 正面にいた敵が忽然と姿を消した事もしばしばだ。

 オレが今のオレになるまではハーフだったんだがな。

 …どうやら戦地ではオレが死神だったようだな」


巌剛は大声で笑った。


柿木と真奈美が真剣な顔で道すがら食堂に入って来た。


「少々問題発生です。

 グランに、追い掛け回されました。

 申し訳、ございません…」


柿木は丁寧に頭を下げ、真奈美もバツが悪そうにしてすぐにそれに倣った。


「…大体想像付いたけどな。

 真奈美がへまをやったか…」


真奈美が木下に半歩近付き、軽く頭を下げた。


「はい…

 親切心が仇となってしまいました。

 あんなに愛想がいい悪者がいるとは知りませんでした…」


「お前なぁー…

 悪人ほどいい人そうに見えるものなんだぞ…

 だがお前の場合、自分で自分の身を守れるからな。

 だが襲われた訳ではなさそうだな」


「写真を…

 手書き風でしたが、前田さんの顔に似ていると言った途端、詰め寄られました。

 でも、敵意は感じなかったのです。

 ただただ会いたいだけのように感じました」


「それで巻いて来たということか…

 だが、今すぐにでも来そうだな。

 …巌剛、準備だけしておいてくれ。

 だがわからないのは自分を消してしまったということだが、

 巌剛と同じで、面倒から逃げたかっただけか…」


「それもあるかもな。

 もしくは…」


「侵入者だよっ!!」


巌剛がもうひとつの可能性を語る前に、シャドウの緊張した声が飛んだ。


巌剛、皇、柿木、真奈美の順に一階の階段に向かって走り始めた。


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