7 一間
日曜日ですよ!眠いですよ!沢山眠りましょう!お休みなさい!!!
「キュへェ~・・・」
(んん、ひとしきりはしゃいだけど、よくよく思ったらなんかそこまで、はしゃぐことじゃない気がしてきた)
今クロは、浴槽にお湯で浮きながら、漂っていた。かなり広めのお風呂なので、クロにとっては温水プールのようなものである。先程までのはしゃぎっぷりから一転、すっかり落ち着いた様子だった。別に賢者モードと言われるような状態ではなく、ただ単にそこまではしゃぐような事ではないと思ったからだ。しかしこれは生前では、ありえない考えだなと、クロは思案する。
(この体になる前は、歴とした男だったわけだし、さっきまでの喜びも嘘じゃないし。今でも幸せだとは思うんだけど、時間が経つにつれて、今はお湯につかってる方が、幸せを感じるな~)
体を一杯広げて、脱力する。一瞬体が湯舟に沈むが、また浮き上がっていく。弛緩した体を包む、少しだけ熱いお湯に心が癒されていく。
「気に入って貰えて良かった。クロの幸せな気持ちが伝わってくるぞ。」
「キュゥ~・・・ブクブクブクブク・・・・・・・キュフ~・・・」
(ああ、夢心地だわ~。このまま寝ちゃいそうになる。目を瞑ってたら寝るな)
暫く目をつむっていたのを開けると、目の前にはエアナが湯舟に入っていた。しっかりとその胸は浮き上がって、目の前にある。だがそれもそこまで幸福感は上がらなかった。美人が湯舟に入って水に濡れている姿なんてお目にかかる事なんてないと思っていた程、貴重なRECシーンなのにこの体のせいなのか、男としてそこまで興奮しなくなってるみたいだ。
(それが良いことなのか、悪いことなのか・・・まあ今はどっちでもいいってことで)
一度湯の中へ潜った後、自然と浮き上がるのを待ち、浮かびきったらまたぐでーっとなる。
「ふっくく、まるで水に棲む魔蛸だな。そいつらはな熱々のお湯してやると、その皮膚を真っ赤にさせるんだぞ。しかも動きが鈍るから、最初にその事象を発見した冒険者には頭が上がらないな。それのお陰で魔蛸の襲撃による死亡率が下がってくれたんだ。さらにそこからの研究で海に棲む大概の生物は水の気温によってその体調に影響を及ぼすことが分かってな。水棲の魔物達への攻略の一つとして、確立された戦略が出来上がったんだ。方法としてはわぷっ!?・・・けほっけほっ、何だクロどうしたいきなり、口に入ったじゃないか。」
「フキュン」
(興味ない)
魔蛸と言ういかにもタコの生態を聞かされても興味は向かず、バシャっと水をかけて遊んでいた。そのまま、ゆっくりしすぎたのか、体が茹で・・・のぼせあがりそうだったので、浴槽から出て、滑らないようにゆっくり出入り口の方へ向かって、扉をトントンとする。
「もう上がるのか。もうちょっと入っててもいいんだがな」
(いやいや、いつまで入ってんだよ飯食べようよ)
朝食の事も忘れて風呂に入る事、約40分ぐらい経っているだろうか。それでもまだ足りないとエアナは不満げだ。それでもしつこく扉を叩いてようやく重い腰を上げてくれた。いや胸も重そうに片手で支えてるな。
(やっぱ胸は重たくて邪魔なんだろうな)
「仕方ない。これぐらいしておくか・・・いや・・・ほらクロ、もう一度来い、1000まで数えたら上がろう」
「キュイ!?」
(1000かよ!100じゃないのか・・・どんだけ風呂好きなんだよ・・・)
自分はエアナに逆らえない。命令されたのなら従わないといけないので、もう一度湯舟へと戻って、本当に1000まで数えて、上がったのだった。因みに数字の言葉は日本語と同じようだ。これなら数字は問題なさそうだ。
先程の脱衣所でタオルで、体の隅々まで拭いた後一階のリビングへと移った。季節的には秋頃なのだろうか、やや冷たい空気が、体を冷ます。
「キュイ~・・・」
(涼しい~、何もあそこまで入らなくても良かったじゃないか。あちぃ、涼しい~)
「ふう~さっぱりした。ほらクロ、牛の乳だ。まあ意味は分からんか。でもなかなか美味しいぞ。飲んでみろ」
(へえ、牛乳とかもあるのかよ・・・しかもありがてえ!キンッキンに冷えてやがる!うめぇ!悪魔的だぁ!・・・まあよくやるよね・・・でもチビチビしか飲めん)
コップの中にある冷えた牛乳を上手く舌を使って飲もうとするがやはり勢い良くは飲めず少しこぼれてしまったが気にせず、久々に飲む牛乳は、味が濃厚でまろやかだった。まさに搾りたてというのが正しいものだ。
「キュハ~・・・ケプ」
(おお、ここまで牛乳の味って濃くなるのか、うめえ・・・おっと失礼げっぷが出た)
「んく、んく、ふう、どうだ美味いだろ?・・・くっふはははは!クロ、白い髭が出来てるぞ。くっふふふふ」
飲み終わって、コップを返した時、牛乳が口周りについていたらしい、それを見たエアナが大爆笑している。
(うんどんだけ笑ってんだよ。このご主人は)
「あれ?出るの早かったね母さん、後30分ぐらいは出ないと思ったんだけど」
すると扉を開けて、レイナがリビングに入ってきた。そしてそのまま大きなソファに横になる。
「いや、クロが出たがったのでな。しょうがなく今回は早めに出たんだよ」
(嘘だろあれで早めかよ、一体後何十分いるつもりだったんだよ)
二人が話してるのを横目にレイナが寝てるソファとは違うソファへ登ろうとする、まだ力がうまく出せないが後ろ足に力を入れそのままソファへ飛び込む。ぼふっと中々に柔らかい感触に包まれた。
「ちょっと母さん!その魔物、ソファまで上げないでよね!何か汚れが付いたらどうするのよ」
「いや、さっき一緒に風呂に入ったのに汚れなんてあるわけがないだろう」
「いいや、どんな生態系をしてるかわからないでしょ何か変な液体とか出したりとかするべふ」
「キュフー」
(おぉ、うまくいったぞ)
エアナが言っていた言葉から、また何か悪口を言っているように感じて、タオル噛んで頭を上手く捻って投げるとうまく顔面に当たったのである。
「・・・上等よこの糞魔物が・・・!」
「待て、確かに今のクロも悪いが、原因はお前のせいだぞ。汚れるとか言ったから多分怒ったんだろう」
「言葉の意味とかは術者しか伝わんないから、適当に投げつけてきたんでしょ!」
「いやこいつは賢いから、既にある程度は言葉は分かっている節があるぞ。な」
大きなテーブルをはさんで対面するクロとレイナ、その間にエアナが割り込んできた。
「・・・キュ・・・キュ・・・」
「ん?」
「何?」
触手で二人を指した後、もう一度エアナを指し、胸が大きいという意味を込めて、ジェスチャーをする。そして、レイナへと指差し、彼女の体系を表すように前足をすとんと、落とす。そう彼女は凄く貧乳であった。レイナの顔を見ながら。
「キュへ」
(ド貧乳)
思いっきり、鼻で笑ってやった。
「そそそそうねぇ・・・確かに賢いようだわ。いいい一番触れちゃいけない堪忍袋に、ふふ触れるなんて大したものよ・・・」
「おおい、クロなんてことをってこっち来るな、私を盾にするな!」
身に危険を感じたのでエアナに身を守ってもらうために、上手く回り込む。
「キュキュー」
(さあ、逃げるんだぁ)
「待ちなさい、腐れ犬もどきがぁ!!!引導を渡してミンチにして粉みじんにして同じ獣の餌にしてやる!!!」
「うおおーい、まて!なんで私を追いかけるんだ!」
「ならそのゲテモノを寄越しなさい!!!!」
「離れてくれないんだ!頼むから落ち着いてくれ!」
「そこの黒い魔物を渡せば落ち着いてやるわ!!さらに黒焦げにしてやる!!」
(ふうむ、怒らせすぎたか。と言うか自分の体やっぱ黒いのか)
この手の話題は女性にとっては敏感な話のようだ。そうしてようやく自分の体が真っ黒であると確信できたと別の思考に耽る。エアナの体に隠れている間、ふとレイナの顔を見てみると、まさに鬼の形相をしていたので、これじゃ1000年の恋も冷めそうだ。
「キュッヘッヘッヘ」
「ああああ!!!!!何笑ってんのよこの〇〇〇〇〇〇!!!!!!!!」
「おおい、もう煽るのはやめてくれ~!こっちまで被害を被るんだから!」
(おっといけね、面白くて笑っちゃったわ)
取敢えずは煽ることはもうしないので後は少し疲れるまでこの鬼ごっこを楽しんだ。
「殺す殺す殺す!!!」
「なんで私が!」