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魔法使いと魔獣クロ  作者: カンヅキレンナ
第一章 想いの強さ
7/11

6 死にかける

ちょっと時間があったので、投稿をば。

光が止んだ後、目の前にあるのは森林ひしめく樹海ではなく、一つの家がある。それもかなり大きい。その周りには薪を置いてある場所や、馬や何かを繋ぎとめて一時仮置きできる小屋、後は物置だろうか小さめの蔵のような形の納屋があった、さらには井戸と、かなりの金がかかってると見た。だが他には家はなく、ポツンとこの家だけしかなかった。


白い柵が家をグルッと囲っていて入り口には門のようなものがある。ただし、門というほど立派なものじゃなくフェンスなのだが、自分の大きさだと、正しく門だ。


「着いたぞ、ようこそ私の屋敷へ。といっても豪邸ではないのは許してくれ」


「キュゥキュ~」


(立派な家だよ、凄くいい家だね)


うまく伝わるかわからないけど、伝わってくれたらいいという思いで返事をする。


「ん。まあ、さっさと入るか」


伝わってくれたか、いないか。どちらとも取れる反応で、家へと足を進める。フェンスを開けて、中へ入った彼女の後に続いてフェンスを越えようとした時。体にビリッとした衝撃とともに後方へと吹っ飛ばされた。


「ビュフェ!・・・ゲフ!ガフ!」


(うぎゃああ!!!痛い痛い痛いってええええ!!!!)


「ああ!しまった!結界のこと忘れていた!おい大丈夫か!」


焦ってこちらへ駆け寄る彼女が見える。


「ギュウ!!ギューギュエ!・・・ゲフ!」


(めちゃめちゃ痛いんだけど!そんな大事な事、忘れるなよ!・・・し、死ぬ)


普段なら凄い美人な女性にここまで怒りは向けないが、死ぬほど痛いダメージを受けて少々頭に来ていた。しかも血反吐を吐いた。真っ赤な血が目の前に広がっていく。そうして思ったのは、こんなに血を見たのは、あの病院以来だと、関係もない考えが浮かぶ。


「うう、悪かった!すまない。でも本当に生きててよかった、折角手に入れた物をすぐ無くしてしまうなんて、ドジと言われても否定できなくなる。少しゆっくりしといてくれ、今治す」


「キュゥ・・・キュキュキュ」


(もう既に、立派なドジっ子だよほんと・・・)


血を流しているのもお構いなしに、自分の体へと触れてくる。すると手の平が少し光ると、痛みもちょっと和らいだ。ように感じた。


「ちょっと、母さん!何やってるの、魔物の反応があったけど・・・」


家の玄関から一人の女性が出てきた。それがこっちに来て、自分を一瞥して固まっていた。


「レイナ!良い所に来た!クロが家に入ろうとしたら結界があることを忘れててな。ちょっと死にかけてるんだ!治療魔術をしてくれると助かる!」


「・・・はぁ?クロって、それ魔物じゃない、ちっこくて弱そうね。新種みたいだけど、生け捕りはやめたら?私触りたくないわ。にしても近くで変な感じがしたから見に行ったんじゃないの?そいつがその元凶?」


「そこに行ってダンジョンがあったんだ、その中でクロを従属したから一度こっちに戻ってきたんだよ。いいから早く治療を・・・」


「は、はぁ!?こんな魔物を僕にしたの?趣味悪すぎ!」


「良いから早くしてくれ!」


「え~、借り一つよ」


「それでいいから!」


「はいはい、うえぇ、気持ち悪いってこれ」


「キュ~・・・」


(何でもいいから早く助けてくれ)


ゆっくりと近づくレイナと言われた彼女を見ながら、エアナが話していた内容を聞くに、この子が自分を助けてくれるのだと分かった。


「あらでも、鳴き声は可愛いわね、前母さんが褒めていたあのデブ犬よりはマシね。デブだし、声も気持ち悪いし、鼻息荒いしで、良い所なんかないったら全く」


「いやいや、あれでも可愛い所はあってだな。私が訪ねてくると、一生懸命走ってきて私に飛び込んでくるんだ。」


「あれあの後、あそこの領主が母さんに抱き着いた犬の臭い嗅いでるのは知っていた?」


ピシッと顔が引きつったままエアナが固まって、レイナが割り込んで、その手からはエアナ以上に光が出ている。そしてそのまま、痛みがどんどんなくなって、苦しさも消えていった。


「フキュ~・・・」


(おお、凄い本当に。ここまでボロボロなのを治せるのか)


血塗れのままなのはしょうがないが、それでもまた動けるようになったのと、痛みもすっかりなくなったので、立ってみる。そしてお礼をしようと思い、レイナの方へと向いた。彼女の第一印象は、可愛いって感じだった。瞳の色は黄色で、まるで黄金のように輝いて見えた。それと同じように髪の色も黄色で、髪型はショートボブのようだ。さらに特徴的なのがその耳であった。エアナは丸い普通の人間の耳みたいだが、彼女は全く違う、外に向かってすごく尖っていたのだ。


「けどやっぱり見た目気持ち悪いわね」


「キュイ」


「うぎゃああ!血飛ばしてきた!服に付いちゃったじゃない!この糞獣が!」


お礼を込めて頭を下げようと思ったが、何事か喋った後、顔を歪んだので、何かしら悪口を言われたと推測して、少々大げさに体を振りながらお辞儀をした。すると体についていた血が彼女に飛来し、見事にそのワンピースに付着したのだった。


(ありがとうございます。っぺ)


「少しは落ち着け。ありがとうって言ってるようだし、服に血が付いた程度だろ?」


「母さんはどうでもいいじゃない、そんなセンスもないパジャマなんだから!私のは一張羅よ!この後、代理でパーティに行くのよ!だったら母さんが行ってきてよ!今の借りそれで返して!」


「良い寝巻きじゃないか・・・いやパーティはいいじゃないか、そんなに嫌なら出なくても」


「何度言ったらわかるのよ!で・る・必要があるの!なに!だったら今度指名クエスト来ても支援受けられなくてもいいの!宿屋も食べ物も馬車も全部自腹でやりなさいよ!大赤字になるでしょうが!馬鹿親が!」


「そこまで言わなくていいじゃないか!いいだろう、パーティに行ってやる、その代わりにクロの世話をしといてくれよ!」


「それならパーティに行った方がましだわ。また今度ね・・・ったく、いちいち洗うのも面倒くさいのよ」


「え?あれ?」


何やら交渉は失敗したらしい。思惑がうまくいかなかったらしいエアナは、ガックリと項垂れて、レイナはそのまま家へと帰っていく。


「はぁ。とりあえず家に入るか。その血も洗い落とさなきゃいけないしな。」


「ンキュ~」


(洞窟より家に上がるためにこんなひどい目に合うとは思いもよらなかったんだけど)


「う、本当に悪かった。だからそんな不機嫌な気持ちを向けてくれるな・・・。」


「キュ」


取敢えずは許して、さっさと行こうと促す。ほっとした顔をしたエアナはそのまま先行して進み、フェンスを抜ける。


「・・・」


その後姿を見たクロは、まったくこちらに気づく様子がない

彼女に向かって大声で叫んだ。


「キュウー!!!」


「うん?どうしたああっ!!」


(結界どうにかしやがれ!)


結界を一切解除してもらってないので、中に入る事が出来ないのだ。初めに出会った印象とは違い、こんな奴が主で大丈夫かと心配になるクロであった。





「本当にすまなかった。」


「ンキュキュ」


(いや、これは一度痛い思いをしないと理解しないタイプだな。というより天然が少し入ってるなこれ)


エアナが一度、家を囲っている結界を解いてくれた、そうしておっかなびっくりフェンスを潜れて何も来ないと分かるとホッとできた。その後は井戸で体を水で一通りさっぱりさせる、凄く水が冷たかった。体を震わせてなるべく水気を落とした後、ガチャッとエアナが開けてくれた玄関の扉に入る。


「ただいま。」


「キュキュー」


(おじゃましまーす)


玄関はきっちりと片付けられている。自分が前生きていた、日本のように玄関で靴を脱いで、家に入るようだ。来客用のスリッパは左側の棚にあって、右の棚ははこの家に住む彼女達であろう靴が色々と種類があった。後棚の上にはよく分からない雑貨な物が置かれていた。


奥には扉が4つと2階に続く階段があり、そのうちの一つ、奥の扉へと進む。


「洞窟の中だったし、少々汚れてしまったな・・・折角だから一緒に風呂に入ろう。」


「キュー!!!!」


(よく言った!!!!それでこそご主人だ!!)


「くっふふ、喜びすぎだろう。ああ、私の家のお風呂は気持ちいいぞ。なんせ建築の際に一番力を込めたといっても過言はないからな。お風呂場にある物は全て、水気では錆びないよう魔術コーティングされていて、かなり金がかかったが、それでも満足できるものになった。中でも浴槽はな・・・」


そんなどうでもいいことを無視し、この後のエアナとのお風呂にウキウキするのであった。なんてったって美人である。そして素晴らしいプロポーションである。そんな女性と一緒に入れる風呂はどんなにぼろくたって、金を積んだって入れるかわからないのだから。


「こっちだ。後はそこを開ければいい。先に行って待っててくれ。」


「キュキュイ!!」


(了解であります!!)


最初の扉の先は脱衣所のようだ。入って右側が風呂場で正面は服の置き場、左は外に出れるようにしてあるようだ。さっさと風呂場開けようと思ったが、取手が自分身長より2倍以上高い所にあって、精一杯伸ばしても届かなかった。


「キュキュー・・・!!」


(ごめんご主人、全然届かな・・・ふうお!)


振り向いたら、そこはエアナが脱ぎ始めてる最中であった。パジャマを脱いだ先には、その豊満な胸が目に飛び込んだ。


「キュオー!!」


(ブラジャー着けてないのかよー!!ありがとうございます!!)


「ん?どうした何でそんな幸せな気分なんだ・・・ん?ああ、手が届かないのか、すまない。ほら先に入っていてくれ。」


スーッと横にスライドさせて扉を開けてくれたので、名残惜しみながらもさっさと風呂に入る。風呂場は確かに豪華であった。大人3人を横に並べても余裕のあるぐらい大きい浴槽だ。さらには人一人の全身が見える綺麗な鏡もある。これを見る限り蛇口がないのとボディソープとかシャンプーとかはない以外は普通に豪華である。


だがそれよりもクロが楽しみにしてるのは、エアナと一緒に入る事だったが。


「キュッキュキュキュキュ~♪」


(まだかな~まだかな~、早く入ってこないかなー)


浴槽の大きさを見ながらその時を待っていると、スーッと扉を閉める音が聞こえてくる。


「悪い、待たせたな、今お湯を入れる。」


入ってきたのは何も着ていない裸のエアナがいた。話しかけてきた後、エアナは手を翳し、お湯を出して浴槽に貯めていく。


「キュ・・・キュ・・・」


(うん・・・俺はもう死んでもいいよな、母さん。いや一度死んだから見れたのかな。生きててよかった・・・)


罪悪感なんて一切なく、目の前にある至福の一時を、目に焦げ付かせるのだった。

「・・・あれは何なの?あんな魔物見た事もないわよ。だから新種なのだけどそれでも・・・まあ後で母さんに問い詰めるか」

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