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06 決戦要塞級魔物

「一次から十五次までの防御スクリーンが消滅」

「下級副砲ベーゼス全機ハートビートなし。想定消滅」

「十六次防御スクリーン艦首前方に偏向出力集中」

「残存エネルギーキューブ二百十四」

「アンチマテリアル変換率二千パーセントオーバー」

「エーテルキャンセラーによる量子無効化……失敗」

「アービクルモーターによる自己逆補正不可逆」

「偏向魔原子の対消滅を多数確認、最終防御スクリーン浸食」

「誘導体最上段に到達。カテゴリー維持不可能」

「防御統括システム……アルテミスハードシャットダウン、再起動しません」

「敵シャドウパンデモニウムの生体極太ビーム出力一定維持」

「十六次スクリーン発生器過負荷により自己倒壊、消滅最終防御スクリーンに到達」

「このままでは四十五秒後に全防御スクリーン想定消滅」

「艦長!!」

「もう限界です。早くしてください」


 同時に複数のサララが叫んだ。

 AIであるサララにとって個体とか群体とか集団などいった概念はない。

 緊急時はこうして複数のサララが状況報告を行う。

 それがAI生命体の真骨頂。


 今はその緊急時だった。

 超弩級戦艦サンダーゲートは要塞級魔物シャドウパンデモニウムの放った極太生体ビームのど真ん中にいた。

 直径数百メートルの死の円柱。

 そこは恒星の中心のような純粋エネルギーだけの世界だった。

 とても物質の存在が許されるような環境ではない。

 要塞級魔物シャドウパンデモニウムの主砲は惑星破壊兵器なのだ。

 地層をぶち抜き惑星コアを破壊する為に生まれた最強クラスの攻撃だ。

 別名……惑星喰い。

 そんな攻撃の中でさえも超弩級戦艦サンダーゲートは健在だった。

 いやそうではない。

 ぎりぎりだった。防御スクリーンを激しく発光させながら必死に耐えていた。

 超弩級戦艦サンダーゲートは火の車であり、風前の灯火だった。

 数十秒後には全ての防御スクリーンが消滅し純粋エネルギーに飲まれ消滅する運命であった。


「え? もうちょっと休ませてよ」


 ドッキー艦長が艦長席で腕を伸ばしながら言った。


「艦長、何をくつろいでいるんですか?」


 リーマイ副官が眼鏡を振り乱して怒鳴った。


「こうなったらこの怠惰艦長を力ずくでも働かせます。私の腕は剣にもなるんですよ」


 サララの腕がソード状に変化した。

 その鋭い刃にドッキー艦長のぎょっとした顔が写りこんだ。


「……はいはい。分かった、分かったから落ち着いて。えっと、収納」


 その瞬間。

 要塞級魔物シャドウパンデモニウムが放った極太生体ビームが消失した。

 アインシュタインスルーによって光速限界を超え、宙域を驀進していた破壊の権化が忽然と消滅したのだ。

 死の極太円柱存在が消えた。

 白熱の宙域が暗転した。

 信じられないことに惑星を破壊するほどのエネルギーがドッキー艦長のアイテムボックスに収納されたのだ。

 なんと彼のアイテムボックスに入るのは物質だろうがエネルギーだろうが関係ないのだ。

 現実の存在であれば何でも入る――魂を持つ生き物以外は。

 まさか要塞級魔物シャドウパンデモニウムの攻撃がアイテムボックスに収納されるなんて一体誰が信じよう。

 人類陣営も魔王軍陣営もこの光景を実際に見ていたとしても誰も自分の目を信じまい。

 だがこれが事実だった。


「もー死ぬかと思いましたよ! 何考えているんですか」


 サララがソード状の腕を元の白く小さな手に戻した。


「いやーだってさ、この船があの攻撃にどこまで耐えられるかなって、アポロン工廠のみんなが知り違ってたから、そのテストも兼ねてさ」


 ドッキー艦長が指を立てた。

 サララとリーマイ副官の眉が吊り上がった。


「バカですか! そんなの試さなくても分かりますよ。私は演算体ですよ。未来予測出来るんですよ。この艦のシステム統括AIですよ」


 空間投射体のサララの可愛い顔が怒りに歪んでいる。


「この人と一緒にいたくない気持ちが分かったでしょ? サララちゃん」


 リーマイが腕を天に広げた。


「酷いこと言うなあ。でも、この取り込んだ攻撃ビームってどうやって取り出せばいいと思う?」


 だがドッキー艦長はいつも通りの平常能天気ぶりだ。


「「はあ?」」


 二人は額から角が生えたような怒気を発した。

 実際にサララの額には鬼のような角が生えた。

 空間投射体の身体はレンダリングされた投射映像だ。

 こうやって姿形を変えることは造作がない。

 サララの演算能力にも気持ちにも余裕が出来たのだろう。


「いやぁ、この極太ビームをアイテムボックスから取り出したら蒸発して死んじゃうかなって」

「知りませんよ。それより何でもっと早く収納しなかったんですか! 防御スクリーンが何層やられたと思ってるんですか。防御スクリーン発生器はただじゃないんですよ」


 サララの収まらない怒鳴り声を浴びながらドッキー艦長が腕組みして悩んでいる。


「だから、どこまで耐えられるかなって。それにアイテムボックスを使うと疲れるんだから少しぐらい休ませてくれないか? みんなで仕事の分担しようよ。僕一人に負担させるのはよくないよ。ああ、無理はいけない。無理はいつか破綻する」


 ドッキー艦長が何度も頷いた。


「どう? 酷いでしょ?」


 リーマイ副官がそれをしり目にサララに向き直る。


「確かに酷いですね。でも役割分担してますよね。索敵はリーマイ副官、船の管理と操舵は私だし、そもそもアイテムボックスを持つ艦長の代わりが出来たらやってますよ」

「むむ」

「この宇宙のどこかにアイテムボックス持ちがいるなら代わりに連れてきてください。そうしたら艦長は休んでもいいですよ」


 サララがドッキー艦長を睨んだ。


「そうですね。もっと勤勉なアイテムボックス持ちの艦長と交代してほしいですね」


 リーマイ副官が同意する。


「……そうだね。僕も代わってほしいよ」


 ドッキー艦長も頷いた。


「敵要塞級魔物シャドウパンデモニウムから戦艦級魔物が射出されました。ご注意を」

「おっとそうだった、まだあれ倒してなかった」


 ドッキー艦長が顔を上げた。


「……艦長、もう撃っちゃってもいいですか?」


 リーマイ副官が白い歯を見せた。

 その先のスクリーンには要塞級魔物シャドウパンデモニウムがいた。


「そ、そうだね。ビーストリンクモードを使っていいよ」

「「オンビット」」


 リーマイ副官とサララの声がシンクロした。


「アンビエントジャミング開始。宙域再妨害成功。超々距離通信不可を再確認」

「ジェネレーターセカンド起動。運転開始。出力規定値突破」

「ビーストモード開放」

「艦長の承認により秘匿兵装解禁」

「全安全装置解除」

「空間暗号原子キー解除」

「ジェネレーター予約完了」

「最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス壱号機再起動」

「最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス弐号機起動」


 サララが二基の主砲を起動させた。

 そう先程、全方位射撃したルシファープレイスは壱号機なのだ。

 なんとあの凶悪な最終兵器がもう一基あった。

 この超弩級戦艦サンダーゲートには主砲が二基搭載されていた。

 超弩級戦艦サンダーゲート自体が主砲というのに二基というのは理解が及ばない。

 何を持って二基と区別しているのか?

 それは秘匿兵器という言葉で納得するしかない。


「宙域鑑定。目標要塞級魔物シャドウパンデモニウム中枢巨大魔石」


 最大秘匿古代兵器ルシファープレイスはオールレンジ攻撃だけがその射撃スタイルではない。

 通常の主砲のように一点を狙うことも可能なのだ。

 ただし、その為にはもう一基の最大秘匿古代兵器ルシファープレイスが必要であった。

 片方が全方位に発射し、もう片方が収束するのだ。

 どういった原理なのかは誰にも分からない。

 物理法則を越えたこの主砲の原理は誰にも分からない。

 でもそんなことはどうでもいい。撃てればいいのだ。

 それに最大秘匿古代兵器ルシファープレイスは秘匿兵器なのだ。

 その仕組みも出力も詳細情報は全て秘匿されている。

 ただ分かっているのはその攻撃力が人類史上最強最悪の攻撃力を誇るということだけだ。

 全周囲に広がっていた無敵のあの攻撃力を強制的に一点に集中させたらどうなるか?


「事前演算完了。リンクシンク済み。全ての準備完了済み。ビーストバーストリンク。手順省略。リーマイ副官。いつでもどうぞ」

「艦長より発射権限拝領済み。最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス。アクティブリンクスタート」

「壱号機開放。弐号機収束開始。アクティブリンク完了。ベクトルフォーマット。発射準備よし」


 リーマイ副官は立ち上がり、右手を掲げ――。


「最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス壱号機、弐号機ビーストリンクモードで発射」


 奇麗な細い手を振り下ろした。

 惑星のエネルギー需要二十年分のエネルギーキューブがジェネレーターに送り込まれた。

 ジェネレーターがエネルギーキューブを溶かしエネルギーを解放した。

 この膨大なエネルギーに耐えられる物質はない。

 したがって物理的なバイパスを経由せず近接転移によって直接送り込まれた。

 膨大なエネルギーが最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイスの内部で破壊エネルギーへと昇華し、荒れ狂い。飽和した。臨界された。

 耐えきれなかったのか、まずは壱号機が球状に発射した。

 数万分の一ミリ秒後に弐号機が、それを収束し指向性ベクトルを付加する。

 急激にインフレーションしていたエネルギーが一点に収束し、高エネルギーが反転する。

 反転した球状のエネルギーが超弩級戦艦サンダーゲートの艦首から放たれた。

 暗黒宙域に一筋の暗黒の細い糸が現れた。

 これまでのド派手な攻撃とは打って変わって静かなる攻撃だ。

 だがそれは大きな間違いだ。

 最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス二基のビーストバーストアクティブリンクモードで発射されたこの暗黒の線は物理限界を超えていた。

 この世に、この宇宙に存在してはならない反転存在だった。

 この宇宙の限界温度を超え、物理法則を置き去りにし、あらゆる電磁波を発しないイレギュラーな存在が発射された。

 光も熱も発しない。

 違う。そうではない。あまりに高出力過ぎて、正常な物理反応が遅れるのだ。

 まさに魔王砲の名に恥じない畏怖堂々とした静かなる聖者の進軍であった。

 そこに内包するエネルギーは人類側最強であり、要塞級魔物シャドウパンデモニウムの主砲を軽く凌駕していた。

 アインシュタインスルーによって光速限界を超えた一筋の暗黒の細い糸は要塞級魔物シャドウパンデモニウムの何千という絶対無敵な強固な防御スクリーンを一瞬で全て貫通した。

 そして毛のように生えた全長三百メートルの戦艦級魔物を触れることなく溶かし、要塞級の分厚い物理的防壁の皮下膜をぶち抜き、反重力器官やら、防壁投射器官やらの内臓を焼き殺しながら百二十キロの内部を乱暴に直進する。

 最大秘匿古代兵器ルシファープレイスの侵攻をと阻むものはない。

 巨体の中央にある巨大な魔石に穴を穿ち、千年を超える寿命の要塞級魔物シャドウパンデモニウムの魂を粉砕し、その背後から宙域に飛び出し、背後にいた戦艦級魔物を巻き込み、反転されたエネルギーは事象の水平線まで到達し消えた。

 一瞬だった。瞬きする程の瞬間の出来事だった。


 巨大な要塞級魔物シャドウパンデモニウムが沈んだ。

 死んだ。活動を停止した。

 そう。たった一撃で、正確には二撃で絶命した。

 最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス二基のビーストバーストアクティブリンクモードで放たれたこの世界では存在しえないほどのエネルギーによって、穿つはずのない小惑星の巨体に円錐状の大穴が出現した。

 その大穴の向こう側の星々が煌めき、その勝利を祝しているようだった。

 惑星喰いを喰ったのだ。


「目標要塞級魔物シャドウパンデモニウム沈黙……推定撃破」


 サララの冷静な声が響いた。

 巨大な小惑星レベルの魔物が死んだ。

 しかしこれほど巨大な魔物は一体どんな魔物から生まれたのだろうか。


「宙域鑑定。新たなる胎動を確認」


 リーマイ副官の深刻そうな報告が艦橋に響いた。

 サララが直ちに映像化する。


 そこには新たなシャドウパンデモニウムの姿があった。

 数ミリの……いや、一次元的な存在のシャドウパンデモニウムがあった。

 そう要塞級は要塞級を産み落とすのだ。

 戦艦級魔物を生むように要塞が要塞を生むのだ。

 要塞級魔物は跡形もなく、細胞一つ残さずに全て粉砕する必要があるのだ。


「では仕上げといきますか」


 超弩級戦艦サンダーゲートの前に、融合爆弾を詰め込んだバーナール級三番艦サンダーゲートが出現した。

 ドッキー艦長がアイテムボックスから取り出したのだ。


「では行ってきますよおおお」

「頼んだよ」

「サララちゃんー」


 サララ分体が操舵するバーナール級三番艦サンダーゲートが要塞級魔物シャドウパンデモニウムに向かって飛び立った。

 バーナール級三番艦サンダーゲートは通常の王立宇宙戦艦だ。

 最新鋭のカッティングエンジンは搭載していない。

 通常推進でアインシュタインスルーにより光速を超えるだけだ。

 それでも目には追えない速度で要塞級魔物シャドウパンデモニウムに突撃した。

 想定撃破が確認された要塞級魔物シャドウパンデモニウムに防衛能力はない。

 ただし、毛のように生えている戦艦級は別だ。

 意思を持つ別の魔物として産み落とされている。

 母体から抜けだした数万体の戦艦級魔物がバーナール級三番艦サンダーゲートに集中攻撃を行おうとそのノーズを向け始めた。

 同出力の戦艦の攻撃ならば同出力の防御スクリーンは破れない。

 多数対単体ではその限りではない。

 このままではバーナール級三番艦サンダーゲートが撃沈されてしまう。

 性能の劣る分体といえサララの操舵だ。

 敵の放った生体ビームをギリギリでかわす。

 宇宙戦艦を小型機のように扱う操舵はAIの技能を凌駕していた。


「そっちのサララちゃん援護します。艦長お願い」

「へいへいへい」

「返事は一回。宙域鑑定」


 リーマイ副官の空間波探針システムで大幅に拡張された鑑定スキルによって宙域全体が鑑定され戦艦級魔物の位置情報が次々と暴かれていく。

 同時に超弩級戦艦サンダーゲートの莫大な演算能力をバックボーンにしたサララの未来演算予測が、数千隻の戦艦級魔物の未来軌道を割り出し、その全てロックオンする。


「未来固定完了」

「目標戦艦級魔物。下級副砲ベーゼス発射」


 超弩級戦艦サンダーゲートの周囲に展開していた下級副砲ベーゼスが火を噴き、戦艦級魔物を次々と撃破していく。

 搭載されていた下級副砲ベーゼスは要塞級魔物シャドウパンデモニウムの極太生体ビームによって全て消滅したはずだった。

 ではこの下級副砲ベーゼスはなんだ?

 どこから現れたのだ? いつの間に攻撃陣形を展開していたのか?

 もちろん出所は決まっている。ドッキー艦長のアイテムボックスだ。


 戦艦級魔物が下級副砲ベーゼスによって確実に撃破されていく。

 だがそれでも数で勝る戦艦級魔物の生体ビームがバーナール級三番艦サンダーゲートに命中する。

 だが全出力を防御スクリーンに割り当てている。

 その防御は鉄壁だ。

 その代わりにバーナール級三番艦サンダーゲートには攻撃力がない。

 いや、攻撃をする必要がない。

 ただ耐えて要塞級魔物シャドウパンデモニウムの内部に突入するだけでいいのだ。

 自爆するだけの存在。

 高価な宇宙戦艦をミサイル代わりにする愚か者はドッキー艦長以外いない。

 だが要塞級魔物と引き換えなら悪い取り引きではない。


 サララ分体の操舵によってバーナール級三番艦サンダーゲートは生体攻撃ビームの合間を縫って進む。

 リーマイ副官の宙域鑑定によって敵戦艦級魔物の座標は筒抜けだった。

 下級副砲ベーゼス発射の援護射撃とサララ本体の未来予測、リンクされた分体の操舵が相まって、バーナール級三番艦サンダーゲートは遂に要塞級魔物シャドウパンデモニウムの体内深淵に突入した。


「要塞級魔物シャドウパンデモニウム内部に突入。爆破準備。安全ロック解除。全起爆。さようなら艦長。私のことを忘れないでね。融合爆弾起爆」


 バーナール級三番艦サンダーゲートに搭載された融合弾が魔原子融合反応を起こし物質崩壊し、魔原子核が膨大なエネルギーとなって解き放たれた。

 融合反応が連鎖した。

 融合崩壊が融合崩壊を引き起こし、その巨大な小惑星並みの質量の崩壊連鎖が指数関数的に増大し、ただのエネルギーとなって光速で拡散し爆発した。

 ただ爆発した。

 だが直径百二十キロの巨体はその融合爆弾でも消滅せず、数億の破片に分裂し宙域にゆっくり飛び散った。


「ああ、私の思い出のマイホームが。小サンダーゲートが気に入ってたんですよ。それなのに自爆させるなんて鬼。悪魔。融合爆弾を艦長が直接置いてくればよかったんですよ」

「え? 生身で行けって死ねって言ってるのと同異義語だよね」

「どうせアイテムボックスでバーンと派手にやらかすんでしょ」

「え? そうだけど、それよりなんで機嫌悪いの? 僕なんかした?」

「サララちゃんが自爆しちゃったのよ」


 リーマイ副官が眼鏡型情報端末を拭いた。


「いやいや、あれただの分体でしょ。大袈裟な今生な別れをしてたけど。ただのコピーでしょ。本体はそこにいるし」


 ドッキー艦長が指をさした先のサララが舌を出して微笑んだ。

 それを見てリーマイ副官が目を逸らし床を見つめる。


「それでも気分が悪いのよ」

「それよりリーマイ副官、まだ仕事が残ってるんだけどね」


 ドッキー艦長がスクリーンを見た。


「ふん、宙域鑑定」


 リーマイ副官の宙域鑑定によりその破片の座標が割り出されサララによって未来予測された。


「残りはルシファープレイス一基による全方位攻撃で完全殲滅可能です」


 サララの報告が艦橋に響いた。


「最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス発射用意。目標要塞級魔物シャドウパンデモニウムの破片、そして戦艦級魔物」


 リーマイ副官の綺麗な指が眼鏡型情報端末にかかる。そしてその長い睫毛を伏せた。


「最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス発射」


 リーマイ副官の睫毛がゆっくりと開いた。


「オンビット。事前処理により発射手順全て省略。最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイス発射」


 最大秘匿古代兵器主砲ルシファープレイスが一基だけ発射された。

 その魔王砲の咆哮が全周囲に向かって再び放たれる。

 超新星爆発並みの高エネルギーが再び宇宙を激震させる。

 防御スクリーンも存在しない、ただの肉片となった要塞級魔物シャドウパンデモニウムの破片に容赦なく降り注ぐ破壊の奔流はその強固な構成物体を分解し、焼き尽くし、飲み込んだ。

 要塞級魔物シャドウパンデモニウムは細胞の一片を残すことなくこの宇宙から消滅した。

 かつて要塞級だったものの最後を飾った爆発の閃光は数光年先の未来で確認されるだろう。

 防御スクリーンのお陰で数ミリ秒だけ、耐え忍んだ無数の戦艦級魔物が消滅した。


「要塞級魔物シャドウパンデモニウム完全に消滅。我自爆にて敵要塞を道連れにし、これにて主力防衛艦隊の無効化に成功。褒美を希望する」


 サララが真面目にふざけて報告する。

 リーマイ副官が御褒美だとサララの頭を激しく撫でる。

 顔を背け嫌がるサララ。

 それを優しい目で見守るドッキー艦長。

 これが人類側最強の超弩級戦艦のクルーだと誰が信じるだろうか?

 ワームホールネクサスゲートを守護する主力艦隊の中枢――要塞級魔物シャドウパンデモニウムをたった三人で撃破した者達の姿に見えるだろうか?

 王立宇宙軍の将軍がこの光景を見たら激怒して思わず主砲を誤射したかもしれない。

 それほど危機感のない三人だった――これが強者の余裕であろうか。


「ではこのまま予定通りダーレンゲート内部に突入してゲートのワームホールネクサスゲートを奪還するよ」


 ドッキー艦長の細めた目線の先にはスクリーンに浮かんだピラミッド型のワームホールネクサスゲート――ダーレンゲートがあった。


「「オンビット」」



お読みいただきありがとうございました。

大まかなストーリーに変更ありません。

誤字脱字、読みやすいように修正しました。


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