52 大魔王プリラベル対アシッドアーマー隊
これまで人類の生存圏内で極大魔法が放たれた記録はない。
そもそも魔族はここ、主星域まで来ることが出来ないからだ
例え、来れたとしてもここ主星域には魔力はない。だから魔法は発動しない。
だがしかし、この主星域で魔力がない宙域で魔法が発動していた。
しかも極大魔法という大量の魔力を消費するはずの魔法が発動していた。
「くそったれええ、こんな所で極大魔法を放つなんて魔王か?」
ガガーランド隊長が叫んだ。
叫んだということは生きているということだ。
「なんだよいまのは」
グリム上等兵が叫んだ。
「極大魔法であるな」
ゲロンド伍長が頭を押さえた。
「そんぐらい俺でも分かってるわ」
「死ぬかと思ったぜ」
サダマ上等兵が焼け焦げた床を蹴った。
「全員無事か? 死んだ奴は手を上げろ」
ダッグ副官が笑った。
「全員生存確認」
ダッグ副官がガガーランド隊長に敬礼する。
「こんな極大魔法ぐらいで死ぬような奴はうちにはいねーよ」
「いえてる」
そう、なんとアシッドアーマー隊員達は全員無事だった。
あの融合爆弾に匹敵する魔原子崩壊の大爆発に耐えたのだ。
「これは驚いた。人間は少しは強うなったかや?」
大魔王プリラベルが顎を掻いた。
「てめえは魔王か?」
「違う、大魔王じゃ」
ガガーランド隊長の質問に大魔王プリラベルが不機嫌そうに答えた。
「大魔王だと? 魔王すら存在が怪しいのに大魔王だと? これは笑わせるぜ、なあお前ら」
「「「「ガハハハハ。ちげーねえ」」」」
アシッドアーマー隊員達が笑った。
「余が弱体化しておるのか? それとも人間が強くなったのかはどちらでもよい。いずれにせよ答えは一つ。死だ」
大魔王プリラベルの周囲に大量の剣が出現したと同時にアシッドアーマー隊員達に降り注いだ。
「くっそ、どこから現れた?」
「防御スクリーン全開」
「こんな古びた剣で俺達を、グハッ」
「ギャアアアア」
「突き抜けたぞ、なんだこれ」
「回避、回避回避」
降り注ぐ剣が逃げ惑うアシッドアーマー隊員の防御スクリーンを貫き、ハードアーマーを貫き、屈強な肉体に突き刺さった。
「今の攻撃で傷を負った馬鹿はトイレ掃除係だ馬鹿野郎が」
ダッグ副官が笑った。
「今のはなんだ?」
「大量の魔幻子を観測。あれは貫通魔法が施された重圧縮金属の剣でさあ」
ジンジャーボックスからゼンガ中尉が叫んだ。
「ほほう。浮いた船の中に遠視の鑑定能力者でもおるのかえ?」
大魔王プリラベルは遠く離れた次元ステルスで隠れている強襲揚陸艦ジンジャーボックスを睨んだ。
「てめーこそ、なんでそれが分かるんだよ」
「そりゃ大魔王じゃからな」
大魔王プリラベルが腕を組んで空中に浮いた。
「撃ち落とせ」
「「「OG」」」
タフガイ達の構えるのは小型艦から引き抜いた強力な反携帯式の二段式の砲身が伸び大魔王プリラベルに定めた。
そして無数の閃光が迸る。
クラッシュタイタン四型が火を噴いた。
一瞬で要塞内が銀色と閃光に溢れた。
「お替りだ」
弾切れになったタフガイが下がると次のタフガイが撃ちまくる。
入れ替わり立ち替わりエネルギー砲弾を雨霰のようにまき散らす。
見事な連携。滞ることのない息つく暇もない連続攻撃。
鳴り止まない咆哮と閃光と轟音が、要塞内を震撼させ、壁や天井のフラクタル構造体の倒壊を促進させる。
「きかぬな」
銃弾の中心地。空中の爆心地が爆ぜた。
七色に輝く光が銃弾を、エネルギービームを弾き飛ばした。
その跳弾が要塞内を破壊し、タフガイ達の防御スクリーンを点滅させる。
「なんだと?」
「防御スクリーン?」
そう防御スクリーンによって遮断された。
王国民最強の近接格闘部隊アシッドアーマーの一斉掃射は大魔王プリラベルの七色に光る被膜を揺らすだけだった。
「あれはエリート魔族の生体防御スクリーンだ」
「くそったれモノホンかよ」
「マジかよ」
「どけい。グラビティキャンセラー始動」
アシッドアーマー隊員の一人が特殊な銃を放った。
グラビティキャンセラーそれはその名の通り、反重力器官を阻害する装置だ。
これは反重力器官を内包する人類にとっても諸刃の剣。
だがアシッドアーマー隊員達は反重力器官を多用しない。
その証拠に彼らの背には巨大なロケット推進器あった。
アシッドアーマー隊員達はロケット推進器を噴射させ、大魔王プリラベルの落下予想地点を包囲した。
「なにかしたかや?」
だが大魔王プリラベルは空中に浮いたままだ。
「隊長。ありゃ浮遊魔法です」
「浮遊魔法を使える魔族は……」
「まじで魔王級?」
「あんなプリティな魔王がいるかよ」
「じゃあ、ありゃ何だ?」
大魔王プリラベルにグラビティキャンセラーなど効果がない。
反重力など使用していないのだから。
「これは覚悟を決めないとな。ダッグあれをやれ」
ガガーランド隊長がダッグ副官に顎をしゃくった。
「OG。野郎共。ボスのお許しが出たぜ。対魔王装備の使用を許可する。全兵装の限定解除。対魔王用コーティング。対魔王用カウンタープロジェクション。アクマゴロシ弾を込めろ」
ダッグ副官が叫んだ。
「「「OG」」」
アシッドアーマー隊員達を覆うハードアーマーの対魔法コーティングの模様が対魔王用へと変化した。
「「「カウンタープロジェクション始動」」」
カウンタープロジェクション。それは魔王拘束装置。
空間投射装置から投影された極大魔法陣が要塞内の壁に、天井に、床に柱に、大魔王プリラベルに投影された。
そしてその巨大な魔法陣が蠢き、震え、要塞内を閉鎖した。
それは魔族を閉じ込める結界。
それは以前ドッキー艦長が魔王バッハベルトと戦った時に展開したプロジェクション魔法陣に酷似していた。
アシッドアーマー隊員が戦うのは魔族だということを忘れてはならない。
「魔封じ? そんなもので余を封じたとでも?」
大魔王プリラベルが小さな欠伸をした。
同時に魔幻子崩壊の紅蓮の炎が巻き起こり、タフガイ達を飲み込んだ。
カウンタープロジェクション装置が焼き切れ、融解し砕け散った。
「アチチチ。無詠唱かよ」
「魔王というのも、あながち嘘ではないか」
「拘束失敗。カウンタープロジェクション崩壊」
「アクマゴロシ弾装填完了」
「アクマゴロシ弾撃て」
「「「OG」」」
屈強な男達が八つ当たり気味に数十人がかりで幼女に躊躇せず、無慈悲に集団で一斉射撃した。
しかもそれはただの銃弾ではない。
アクマゴロシ弾だ。
ドッキー艦長をボロボロにした魔力阻害物質、アクマゴロシをエネルギー被膜で覆った人類側の最も強力な魔族専用殺傷兵器の一つだ。
貴重なはずのそれが無数に無尽蔵に放たれた。
アクマゴロシ弾は魔力を有する者には致命的。
要塞内に無数のアクマゴロシ弾の赤いラインが張り巡らされる。
「なんとこれは魔力阻害物質? 昔はこんなになかったぞよ?」
大魔王プリラベルは慌ててアクマゴロシ弾を回避する。
弾き返すのでなく回避したのだ。
「避けたということは効果があるということだな」
ガガーランド隊長はそれを見逃さない。
「紅大砲準備」
「OG」
アシッドアーマー隊員達が数人がかりで構えるのは巨大なアクマゴロシ砲弾を撃ち出す巨大なレールガンを持ち出した。
それは別名、紅大砲。
ジェネレーターが唸りを上げ、レールガンが放電すると衝撃波がコーン状に出現し、大魔王プリラベルを吹っ飛ばした。
いや、吹っ飛んだのは真っ二つに両断されたアクマゴロシ砲弾だった。
剣を構えた大魔王プリラベルの真っ白な皮膚に、アクマゴロシ弾の焦げ跡がコントラストを描いた。
「斬っただと?」
「バカな」
「紅大砲連射モード」
ダッグ副官の怒声と共に紅大砲が連続咆哮する。
「なんと」
高速で撃ち出されたアクマゴロシ弾頭の雨霰が大魔王プリラベルの剣をへし折り、生体防御スクリーンを貫通しその小さな身体に命中した。
次弾、次次弾が雨霰のようなアクマゴロシ砲弾が大魔王プリラベルの幼い身体を蹂躙する。
「アクマゴロシ弾効果あり」
「対魔王用拘束ユニット展開」
アシッドアーマー隊員が何かを発射した。
それは煙を引きながら大魔王プリラベルの周囲を漂った。
「目眩まし? 違う」
大魔王プリラベルは慌てて口を押さえた。
ただの煙幕のようだがそうではない。
その粉塵の、その煙の微粒子一つ一つがアクマゴロシ原子を内包したナノマシンだ。
ナノレベルの魔法陣を書き換えながら空気中を漂い、大魔王プリラベルを覆い尽くした。
アクマゴロシが魔力を阻害する。
大魔王プリラベルの体を蝕む。
白い肌が焼かれ、魔幻子が煙のように消滅する。
「いやこれは粉塵の一粒一粒が微小魔法陣?」
大魔王プリラベルはそれが高度な科学の結晶であるナノマシンだということは理解していない。だがその効果は理解していた。
「分かったからといってどうすることも出来ない。魔族はアクマゴロシの前では赤子同然」
「何とまあ驚いたぞ。お主らは強いのお、気に入ったぞ」
「そうかよ。寝言は研究室で言いな。あばよ」
ガガーランド隊長が指を鳴らすと周囲に漂っていた赤い煙が一瞬で結晶化、大魔王プリラベルを閉じ込めた。
辺りが静寂に包まれた。
赤いクリスタルの中央で驚愕の表情を浮かべたまま停止した大魔王プリラベル。
「大魔王を捕まえたぜ?」
「こんなもんか?」
「大魔王って弱ー」
「俺らが強すぎんだろ?」
「研究室送りだ馬鹿野郎が」
「ギャハハハハ」
アシッドアーマー隊員が笑った。
「え?」
「なっ」
だがその笑顔が凍り付いた。
閃光が迸り、大魔王プリラベルを覆うクリスタルが真っ二つに斬り裂かれた。
そして、どこからともなく古びた鎧の騎士が出現すると大魔王プリラベルを抱えて飛んだ。
現在この空間はグラビティキャンセラーにより反重力器官は作動しないはずだ。
だが騎士は重力を無視して華麗に舞い降りた。
「人類の敵である大魔王様を助けるのは気が進まないのですがこれも艦長様の御命令ゆえ」
その騎士は気を失った大魔王プリラベルの顔のアクマゴロシを優しく払いながらそう言った。
「誰だテメーは?」
ガガーランド隊長が反物質ソードを構えた。
――ネクロマンサー要塞崩壊跡地
「エストス。無事かい?」
その言葉にシルフアルケミーの中に閉じ込めれたエストスが飛び上がった。
「か、艦長。あの」
エストスの顔は晴れるが、直ぐに曇った。
「遅くなって済まない。怪我はないかい?」
「は、ははい。全員無事です。ですが」
「それにしてもこっぴどくやられたねえ」
ドッキー艦長はエストスの話を遮りながらシルフアルケミーのコクピットハッチを引き剥がした。
融解し固体化した強固な流体フルイド装甲が弾け飛んだ。
「艦長、あのお借りしたシルフアルケミーを壊してしまいました。すいません。命より大事なシルフアルケミーを失ってしまいました」
エストスがドッキー艦長から顔を背けた。ワルキュリアエッダ隊の隊長エストスにとってはシルフアルケミーは命よりも大事な存在であった。
「大丈夫。インナーフレームが無事ならば直るよ」
ドッキー艦長は笑顔で答えた。
「え? ですが、シルフアルケミーの修理工房は失われております。修理は不可能です」
「え? そうだっけ? 直せるはずだけど。とにかく機械は直せばいい。それより君達が無事で良かった」
「艦長。こんな私のことを大事に思っていただけるのですか?」
エストスが涙目でドッキー艦長を見つめる。
「そりゃ大事だよ。大事な戦力、大事な労働力。君達がいないと僕の仕事が増えるからね」
「……艦長は照れてらっしゃるのでね」
「んなわけないのですのよ。この人はサボることしか考えていないのですのよ。それよりイチャラブ禁止ですのよ」
ドッキー艦長の肩でサララがわめいた。
「あら、サララ。いたの?」
エストスが会話に割って入ったサララを睨んだ。
「私はAIだから、どこにでもいるのですのよ。艦長。ソフィアとヘーネスのハートビート確認。無事ですのよ」
サララがエストスを無視して二人が治療中のオアシスバルーンを見て言った。
「この爆発でオアシスバルーンが無事とは信じられないですのよ」
「それがおかしいのです」
エストスが艦長に駆け寄ろうとする。
「それより艦長助けて」
それを邪魔するようにレガードが小さな声で助けを求めた。
「あーごめんごめん」
ドッキー艦長が融解したハッチを引き剥がした。
「艦長。遅い」
ウナが首を不満げに首を傾げた。
「ところで艦長、あのイケメンは誰?」
コクピットから這い出たレガードが指をさした。
「ああ、彼は……」
――アシッドアーマー陣営。
古びた鎧を纏う騎士が大魔王プリラベルを優しく床に寝かせてると、アシッドアーマー隊員に剣を突き付けた。
「私の名はノバル・トーン。サラ・ラングリヤ様直轄の近衛兵です」
「なんだそりゃ?」
「まあ何でもいい。死ねや」
ガガーランド隊長がノバルに斬りかかる。
だがノバルは優雅に回避するとガガーランド隊長を斬りつけた。
ガガーランド隊長は半身を捻って回避。
その回避した先へノバルが鋭い突きを放つ。
ガガーランド隊長はそれを反物質ソードで跳ね上げ、ノバルの胸元を斬り裂いた。
だが、ノバルは顔色一つ変えずに回避すると、ガガーランド隊長に水平斬り。
ガガーランド隊長のハードアーマーが切り裂かれ、血飛沫が舞う。
ガガーランド隊長は不敵な笑みを浮かべながら懐から不意打ちでブラスターを放った。
ノバルは剣でガードするも飛散したエネルギーがノバルの体に命中。
だが血も、肉片も飛び散らない。傷跡もつかない。
「隊長、ありゃあ空間演算体、AIです」
「AIだとお?」
「AIなんておかしいだろ?」
「AIは人類保護機能により、対人戦は苦手のはずであるが?」
「AIが隊長と互角だとおお?」
そうノバルの強さはAIにしては異常だった。
度が過ぎていた。
それもそのはず、ノバルは通常のAIとは戦いの練度が桁違いだった。
加速されたシミュレーション世界で魔族と戦い続け生き残った精鋭中の精鋭なのだ。
アシッドアーマー隊員が百戦錬磨ならば彼は千戦錬磨。
ノバルは幾度も諦め、幾度も倒れ、幾度も死んだ。
だがその度に立ち上がった。強制的に再起動された。
それはまさに地獄。
終わることのない戦いに身を捧げた近衛兵。
それが強さの秘密。
この事実をAI人権団体が知ったならば泡を吹いて卒倒するだろう。
「AIか。ここはビッグメンター要塞内だぞ。妨害しろや」
「無理っス。そのビッグメンター要塞が敵の手に落ちました」
ガガーランド隊長の命令に隊員が答えた。
「なんだと? 要塞が落ちただと?」
「そう。というわけで降伏してくれないかな? 同じ王国民同士で戦うのは無益だしね」
ドッキー艦長が笑った。
「艦長様」
ノバルが頭を下げた。
「ありがとうノバル。後は僕がやる。魔王を連れて下がってて」
「はっ」
「誰だテメー」
ガガーランド隊長が睨んだ。
「よくも僕の部下を痛めつけてくれたね」
ドッキー艦長がガガーランド隊長をアシッドアーマー隊を睨んだ。
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