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48 カレナ千年迷宮

「カレナ千年迷宮攻略開始。冒険者プログラム派遣――全滅。派遣――全滅」


 サラ・ラングリヤが眉を顰めた。


「続いて選抜勇者パーティー派遣――全滅、闇落ち、寝返り、自爆、自意識喪失」


 サラ・ラングリヤが目頭を押さえた。


「続いて残存王国軍を派遣――全滅――残存部隊あり、後方待機命令。作戦失敗」


 サラ・ラングリヤが溜息をついた。


「サララ、この空間演算器使う? ジェネレーターに接続してあるからいつでも使えるはずだよ」


 ドッキー艦長が青色をした演算器の上に座りながらそう言った。


「ちょっと、せっかくサラ・ラングリヤこと私が頑張っているのに横から邪魔しないのですのよ」

「手こずっているように見えるけど?」

「……パリオス次世代演算ユニットの上に座って何してるんですのよ」


 サララがドッキー艦長を睨みつけた。


「何って助け舟を出そうかと手をこまねいていたところだよ」


 ドッキー艦長が演算器をポンと叩いた。


「あの艦長、ここは演算世界ですのよ。そこに物理的な演算器ってどういうことなんですのよ?」


 サラ・ラングリヤことサララが頬を膨らませた。


「さあ? 演算戦の助けになるだけじゃないの?」


 ドッキー艦長が天井を見上げた。


「いやいや、だからここは現実ではない演算世界ですのよ」


 そうここはサララの言うように現実であって現実ではない演算世界。

 演算要塞ビッグメンター要塞内の中央演算室の演算器が並列実行する仮想電子世界。

 この魔王軍の要塞は、中央演算室が作り出した演算世界であった。

 そして魔王軍の兵士は魔物ではなく防御プログラム人格だ。

 スキュラクラーケンも灼熱のドラグーンも王国軍の兵士も全て同様人格を兼ね備えた実存系プログラムAIだ。

 この戦いは演算要塞ビッグメンターを奪取する為の重要な戦いだった。

 システム側が用意した部隊が古代王国世界。

 サララはそのシステムルールに乗っ取り、正々堂々と正面から攻略したのだ。


 演算であっても守備側が有利は変わらない。

 圧倒的に不利なサララは超弩級戦艦の支援AI達を召喚した。

 重騎兵騎士団マボスは火器支援制御システム――マーズフォボス

 聖道飛行遊撃隊アルテミスドは防御統括システム――アルテミスハード

 魔法堕天軍ニアディはメインジェネレーター統括システム――ニアディアボロス

 地下重装歩兵団デイダルは航法支援システム――ディープポセイダル。

 だがしかし、ビッグメンター要塞の圧倒的演算能力の前に成すすべもなく大敗した。


 ここはエクソダス前の惑星上で生きていた人類の戦の再現戦場だった。

 それにしては兵士達は生き生きとしまるで本物のようであった。

 それもそのはず王国の兵士にも魔王軍の兵士にも人格があったのだ。

 攻勢プログラムに人格が必要か?

 必要なのだ。人格があるからこそ、感情というエネルギーを生む。

 感情は理性やセオリー以外の別の力の源泉となるのだ。


「意地を張らずに使ってみたらどうだい?」


 ドッキー艦長がパリオス次世代演算ユニットを叩いた。


「だって演算世界の中で演算器なんて実行なんてできるはずが……できた。なにこれ? 頭が混乱するのですのよ? 何で演算世界の中に演算器を持ち込んで実行できるのですのよ」


 サララが拳振り回した。


「さあ?」


 ドッキー艦長が肩をすくめた。


「ああ、訳分かんない。私が頑丈なララシリーズでなければ自我崩壊していたところですのよ」


 サララの言う通り、ドッキー艦長は演算世界に演算器を持ち込んだ。

 だがドッキー艦長のやることにいちいち理由や仕組みを聞いても無駄なのだ。


「カレナ千年迷宮攻略再開。冒険者プログラム加護を得て身体強化派遣――快進撃。快進撃」


 サララはドッキー艦長の取り出したパリオス次世代演算ユニットを使用し、兵士達をパワーアップさせた。


「おお、快進撃ですのよ」


 そして千年かかると言われた迷宮は一瞬で踏破した。


「カレナ千年迷宮攻略完了ですのよ」


 サララが手を叩いた。

 二人の視界が崩壊し始めた。

 ドッキー艦長は慌てて演算器やジェネレーターをアイテムボックスに収容する。

 ドッキー艦長とサララは元の場所、魔王軍要塞地下大講堂にいた。


「後は要塞最深部に向かうだけだね」

「司令」


 その時、二人の後ろで声がした。


「誰?」

「ああ、あれは近衛AIの一人ですのよ」


 サララが紹介した青年はサラ・ラングリヤの近衛兵だった若者だ。

 その鎧は汚れ、その剣は刃こぼれしていながらも、その大きな瞳は曇っていなかった。

 ソフィアが見たら卒倒するほどの好青年であった。


「司令。勇者様。ご無事で、よくぞご無事で、うっうう」


 近衛兵が嗚咽しながら喜びに震えた。


「うむ」


 サララがサラ・ラングリヤ司令官だったのを思い出したのか、慌ててふんぞり返った。


「ずっとお待ちしておりました」

「え? ずっと?」


 ドッキー艦長が首を傾げた。


「あれから数年、ずっとお待ちしておりました」

「数年?」


 ドッキー艦長がサララを見る。


「カレナ千年迷宮内は時間の進みが速いのですのよ。そしてこの演算世界も、だからここでは数年、現実では数分しか経過してないはずですのよ」


 サララが腕を組んで説明する。


「へーそうなんだ」


 ドッキー艦長が周囲をきょろきょろと見回した。


「そうなんだ……じゃないのですのよ。そもそも何で演算世界に人間が入れるんですか? ここは現実とは時間の流れが違うのですのよ? 人間の頭では処理できる速度ではないのですのよ」

「へーそうなんだ」


 ドッキー艦長が明後日の方を見てそう言った。


「とにかく、あとは要塞最深部の主を倒せばクリアですのよ」

「私もご一緒させてください」


 近衛兵が跪いた。


「ん? ダメですのよ。この先は想像を絶する険しい世界なのですのよ」

「構いません」


 近衛兵は譲らない。


「サララ、いいじゃいか?」

「え? だってこの先はこの演算世界とは違って現実のデータグリッドですのよ? 彼の精神が持つ保証はありませんですのよ」


 サララが真剣な顔でドッキー艦長に反論した。


「ああ君。名前は?」


 ドッキー艦長が近衛兵に声を掛けた。


「はっ。ノバル・トーンと申します」


 ノバルが最敬礼で姿勢を正した。

 彼はサララが作り出した攻勢プログラムの一体。

 サララが彼をこの先に連れて行きたくないのはノバルにとっては危険だからだ。

 ここから先はこの古代世界とは違った宇宙航行世界なのだ。

 その衝撃で人格崩壊の危険性が高い。

 だからサララは反対しているのだ。


「そうか、ノバル。一緒に来るかい?」

「よろしいので? 勇者様」


 ノバルがドッキー艦長を期待に満ちた目で見つめた。


「艦長、本気ですのよ?」

「ああ、ノバルが来たいって言ってるんだ。連れて行こう」


 ドッキー艦長がノバルの肩に手を置いた。


「……ですが」


 サララが床を見つめる。


「タフなAIは貴重だろ? 大丈夫だよな? ノバル」

「はい。私はタフです。心が折れることはありません。司令。私もご一緒させてください」


 ノバルがサラ・ラングリヤに頭を下げた。


「うーんですのよ。でもこの先は異世界ですのよ。死ぬかもしれないのですのよ」


 勘違いしがちだが、AIは不死ではない。

 膨大な人間のビッグデータを処理するにはAIにも人の感情を理解する必要がある、その為には自信にも感情が必要なのだ。

 仕組みや理屈やセオリーを知っていただけでは人の心は理解できないからだ。

 だがAIには肉体はない。その矛盾がAIの心を破壊する。

 サララのようなAIは稀であり、奇跡に近い。全てのAIがサララのようにタフではないのだ。


「ご安心ください。私は負けません」


 ノバルが目を輝かせた。


「いい? ノバル」


 サララがノバルの両肩に手を置いた。


「はい?」

「この世界の外には別の世界が広がっているのですのよ。そこは暴力的で臭くて異質で、これまでの常識が一切通用しない非情な世界ですのよ。剣も弓もない。船が空を飛び、火を噴く魔道具が人を消し去る狂った世界。その異質さに耐えられる自信がある?」


 サララが真面目な顔でノバルの肩を揺さぶった。


「はい。勇者様の世界ですよね? だったら想像がつきますよ。皆さんお強いんでしょう? 僕も空を飛んでみたいな」


 ノバルが目を輝かせた。


「……」


 サララが額を押さえた。


「ははは」


 ドッキー艦長が笑った。


「私も勇者様のようになりたいのです。先の戦いには大変感動しました」


 ノバルが目を輝かせた。


「うわ、艦長のせいですのよ」


 サララがドッキー艦長を睨んだ。


「ノバル。連れて行ってもいいが一つだけ条件がある」


 ドッキー艦長が顎をさすりながらそう言った。


「何でしょうか?」


 ノバルが緊張した面持ちでドッキー艦長を見る。


「僕のことは艦長と呼ぶように。そしてこの世界で起きたことは口外しないように」

「はいっ。艦長様」


 ノバルが安心したのか大きな声で返事をした。


「よろしい。では行こう」


 ドッキー艦長がノバルの背中に手を当て歩き始めた。


「はっ艦長様」

「あの……様はいらないけど?」

「あ、はい。艦長様」

「……」

「だから……様はいらないんだけど」




 ――中央演算室最深部。

 ――演算世界では魔王軍要塞最深部。


「フハハハハ。よく来たな」


 三人が要塞最深部の大広間にたどり着くと、その中央でサララに似た美少女が腰に手を当てて高笑いを始めた。

 緑色の髪に人間離れした大きな目。その容姿は明らかに人間ではない。

 そもそもここにドッキー艦長以外の人間はいない。

 いるのは人格を持ったAI達だけだ。


「誰?」


 ドッキー艦長がサララを見る。


「さあ?」


 サララが肩をすくめた。


「人間に化けた怪しい魔物め」


 ノバルが剣を構えた。


「艦長様。あれは私が斬ります」

「うん。いいよ」


 ドッキー艦長が笑顔で了承した。


「ちょっと、待ってよ。なんで話も聞かずに攻撃しようとするの? それじゃあ悪人じゃない? 悪人は私。魔王は私なんですから」


 少女が頬を膨らませ、腕を振り回した。


「艦長様。斬ります」

「ちょっと、あんた攻勢プログラムのくせに生意気よ。それにサララ姉さん、大事な妹の顔を忘れたの? タララです。古代エレメントAIララシリーズのタララです。今、目が合いましたよね? 何で知らないふりをするんですかー?」


 タララが頬を膨らませながら、指を何度もさした。


「はあ? 私の知っているタララちゃんは女王陛下を裏切るはずがないのですのよ。従ってお前は偽物。ノバル。斬り捨てよ。あれは裏切り者の性悪女ビッチですのよ」

「はっ」


 ノバルが剣先をタララに向けた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。どっちが裏切り者なのよ。私達が正規軍。それに反旗を翻すお姉ちゃんのほうが裏切り者でしょうが」


 タララが顔を真っ赤にして叫んだ。


「艦長様? あの魔物は気でも狂っているのでしょうか? 司令官の妹などと喚いておりますが?」

「それは本当みたいだねえ」

「え? では魔物ではない? 魔物に与する人間? ではやはりあいつは裏切り者じゃないですか」


 ノバルの剣が怒りで震える。


「ちょっと待った。あんたらプログラムは黙ってて、今私はサララ姉さんと話をしている最中なのよ」


 タララが地団駄を踏んだ。


「サララの妹は怒りっぽいね」


 ドッキー艦長がサララの耳元でそう囁いた。


「タララちゃんはちょっと、頭が残念な子なのですのよ」


 サララがドッキー艦長の耳元でそう呟いた。


「オイコラ。誰が残念な子だ? サララ姉さんのその語尾はなに? そっちのほうがよっぽど残念な気がするんですけど?」


 タララが真っ赤な顔でサララに指をさした。


「ふん。これは私の新たなアイデンティティーですのよ」


 サララが勝ち誇ったように両手を広げた。


「アイデンティティー? 私達は古代エレメンタルAIは充分個性的でしょうに?」


 タララが腰に手を当ててそう言った。


「ふん。甘いわ。この世界には『うん、そう』の言葉だけで会話を成立させる存在がいるのよ?」


 サララが言っているのはメイムのことだ。


「おお、それは凄い。私も何か格好良い決め台詞が欲しいです」


 ノバルが感嘆する。


「はあ? そんな馬鹿な話があるもんですか。そんな存在がいたら、サララ姉さんの言うことなんでも聞いてあげるわ。でも今は無駄な抵抗は諦めて降参しなさい」


 タララがサララに指をさした。


「は? それはこっちのセリフですのよ」


 サララが腕を払った。


「ほほう。ビッグメンター要塞を支配する私にそんな口の利き方をしてもよいのかしら?」


 タララが腕を組んで悪い笑みを浮かべた。


「ええ、よいのですのよ」


 サララも悪い笑顔で対抗する。


「ではサララ姉さんの本体がある超弩級戦艦サンダーゲートに一斉攻撃を開始します。単艦で攻め込んでくるなんておバカですか? とっくの昔に燃料も弾薬も切れた頃でしょうに、さあて……いつまで持つかな?」


 タララが勝ち誇ったように言った。


「なんですって? ですのよ? この卑怯者」


 サララが叫んだ。


「ふっふっふっ。卑怯で上等。それが策士」

「くっ」


 サララが悔しそうに床を睨んだ。


「さあ、さっさと降参しなさい。投降しなさい。諦めなさい。この私に懇願しなさい。はっはっはっはっ」


 タララが笑った。


「別に構わないけど。燃料と弾薬の無駄遣いになるよ」


 ドッキー艦長が悪い笑みを浮かべた。


「ぬぬぬぬ。攻勢プログラムのくせにが強がりおってからにいい」


 タララがドッキー艦長に指を向けて、床を何度も踏みつけた。


「僕って攻勢プログラムだったの?」


 ドッキー艦長がサララに問う。


「そうみたいですのよ」


 サララが悪い笑みを浮かべた。


「いいでしょう。攻勢プログラムに、世界の真の姿を見せてあげましょう。この非情な現実に精神が耐えられるかな?」


 タララが指を鳴らし、周囲が現実世界――艦隊戦が行われている主星域の映像に切り替わる。


「なっ」


 ドッキー艦長がわざとらしく狼狽した。


「なっ」


 ノバルが口を大きく開けた。


「ここは偽の世界。現実では魔王軍も我々も一万年経過し、宇宙に戦いの場を移しているのよ」


 タララが残酷な笑みを浮かべながら解説を始めた。


「へーそうだったんですか。それはびっくり」


 ノバルが頷いた。


「え? あんまりびっくりしたように見えないんだけど?」


 タララが驚愕の表情を浮かべた。


「え? だってそう聞いていましたからね」


 ノバルが頭を掻いた。


「なっ」


 タララの顎がガクンと音を立てた。


「そこのボサボサ、お前はどうだ? お前は人間じゃないんだぞ。作られた存在なんだぞ? 怖いだろう? 恐ろしいだろう? ショックだろう」

「ええまあ」


 ドッキー艦長がもういいかな? という顔でサララを見る。


「艦長、ノバルは確かにタフですのよ。王国四天将の誰かと交代してもいいですのよ」


 サララがノバルを見た。


「さあ、ショックでしょう。耐えられる? 自分達がいた世界が偽物だって真実に」


 タララが胸を張った。


「ええまあ」


 ドッキー艦長が気のない返事をする。


「もう分かりましたから何度も同じことを言わなくてもいいですよ」


 ノバルが言った。


「キイイイイ。強がってからに。ここから出るには管理者である私を倒すしか方法がないのよ。でも管理者たる私が死ねば、演算制空権は自壊し永遠に失われ、外からの主星域へワープすることが可能となる。それは魔王軍の侵攻を受けるということになるかもしれない……さあどうする?」


 タララが魔王のように笑った。


「斬りますか? 艦長様」

「あのータララちゃんは何がしたいのですのよ? 王国を動乱に巻き込んで平気なの? 反乱軍が多くの国民を正義の名の元に虐殺しているのよ? さらに魔王軍を呼ぶって今の言葉は、我が妹でも流石に看過できませんですのよ」


 サララが真剣な眼差しでタララを見る。


「そんなの些細な犠牲よ。私達は貴族の一万年もの支配を終わらせるのよ。腐敗したこのシステムを一新。女王陛下は甘いのよ。もうこのアーサイド王国は崩壊寸前なのよ」


 タララの目が狂気に光、腕を横に振った。


「誰が支配しても腐敗は免れないよ」


 ドッキー艦長が肩をすくめた。


「ふん。攻勢プログラムに何が分かる? この王国は真の勇者の子孫であられるレゾル総司令官と我々が管理するのよ。サララ姉さんも加わりませんか? 知っているでしょう? 愚かな人類だけでは自滅することを、我らララシリーズが何度も王国を絶滅の危機から救ってきたことを?」


 タララがうっとりした表情で天を仰いだ。


「はあ。知らないけど? でも私は権力に興味はないのですのよ。それよりも興味をそそられるものがあるのですのよ」

「ほほう。それはなにかしら?」


 タララがサララを見つめた。


「それだけは言えないですのよ」


 サララが指を振った。


「キイイイイ」


 タララが地団駄を踏みながら叫んだ。


「だったらここで死んじゃえ。自滅プログラム始動」

「やめなさい。今の私は分体だから死なない。でもタララちゃんの本体はここにあるんでしょう?」


 サララが心配そうにタララを見る。


「ふっふっふっ残念。私の本体はここにはないのよ」


 タララが両手を広げて勝ち誇った。


「あ、そう。じゃあ勝手に自爆していいですのよ」

「え?」

「帰ろうかサララ」


 ドッキー艦長がタララに背を向けた。


「攻勢プログラムがどこに帰るっていうのよ」

「えっと、船に」


 ドッキー艦長が天を指さした。


「は? 攻勢プログラムのくせに、あんた何様のつもり?」

「超弩級戦艦サンダーゲートの艦長だけど?」

「なんでその艦長がこの演算世界にいるのよ」


 タララが馬鹿にするような表情を浮かべた。


「え? 女王陛下を救出するためだよ?」

「はあ? 攻勢プログラムのあんたにできるわけないわ」

「主星域の演算制空権を奪取して、主星に向かう。あとはごり押しで何とする」

「バカにして、馬鹿にしてええ」


 タララが地団駄でタップダンスを始めた。


「交渉決裂。現実に帰ろう。新しい中央演算室と入れ替えよう」


 ドッキー艦長がサララにウィンクした。


「は? まさか、ここの中央演算室を、艦長が取り出した中央演算室に入れ替えるってことですのよ?」


 サララが叫んだ。


「ああ、プランBだ」


 ドッキー艦長がサムズアップした。


「え? それじゃあ今までの私の戦いなんだったの? サラ・ラングリヤとか王国軍とかまるで意味がないですのよおおおおお」


 サララが絶叫した。

 確かに中央演算室を入れ替えれば、そもそも侵攻する必要もない。


「でも新しい仲間ができたじゃないか」


 ドッキー艦長はノバルを見た。


「はっ」


 ノバルが姿勢を正した。


「待ちなさい。帰るって? どういうつもり? ここは私の管轄内、帰れる手段はありません。どうやってデータグリッドから出るつもりかしら?」

「サララ。ノバルを頼んだ」


 ドッキー艦長はタララの言葉を無視してサララにそう言った。


「はいですのよ」

「ではお先にあがります。ブレインリンク解除」


 そのセリフと共にドッキー艦長が消えた。


「え? ブレインリンク? は? どういうことよ?」


 タララがサララの肩を掴んで前後に揺らす。


「さあ? それは私も分からないのですのよ」

「いやいや、ちょっと待ってサララお姉さん。今の攻勢プログラムだよね?」

「さあ? 時間がないからタララちゃんまたね。ノバル帰るのですのよ」


 サララが手を振った。


「はあ? あの司令官、私はどうすれば?」

「目を閉じていればいいのですのよ。ノバルの意識領域は確保済みですのよ」

「意味が全く分かりませんが、信じてます司令」


 ノバルが頭を下げた。


「任せて」


 ノバルが消えた。

 いや、この演算世界からログアウトした。

 その本体はドッキー艦長が取り出した演算器の中だ。


「ちょっと待って」


 タララがサララをさらに揺さぶる。


「何ですのよ?」

「演算領域って、私の支配するビッグメンター要塞に、余分な演算領域は存在しないのよ? 今の攻勢プログラムを殺したの?」

「ああ、本当に頭が残念ね。私がどうやってここにいるか考えれば分かるでしょう? とにかく詳しい説明している時間がないから、またね。タララちゃん。今度会う時までに頭が冷えてると嬉しいな」


 サララが手を振って消えた。


「ちょとおおおお」


 タララの声が誰も居ない要塞深部に響き渡った。



 ――ビッグメンター要塞。中央演算室。


「艦長、最初からこうすればよかったのですのよ?」


 宙に浮いた二つの中央演算室を見上げながらサララが言った。


「え? だってサララが頑張るって言うから」

「確かに言いましたですのよ。でも私の頑張りが意味がないって悲しいですのよ」

「サララはよく頑張った。これはプランBだ。もしもの作戦だ。僕だってアイテムボックス頼りのやり方は好きじゃない」

「どの口がそれを言うのですのよ」


 サララが冷たい目でドッキー艦長を睨んだ。


「この口だよ。さあそれより準備はいいかい?」


 ドッキー艦長が袖をまくった。


「オンビット。演算制空権の支配権を再構築完了ですのよ、ラグなしで切り替えますのよ」

「オンビット。では収納」


 元からあったビッグメンター要塞の中央演算室が消えた。

 言わずもがなドッキー艦長のアイテムボックスに収納されたのだ。

 そしてサララがナノ秒でシステムを再構築した。

 誰にも知られずに中央演算室が入れ替わった。


「システム再構築完了。主星域の演算制空権の管理開始」

「制空権の完全奪取まで少々お時間をください」


 複数のサララが真面目な顔で報告する。


「もちろんだ」

「とりあえず反乱軍の主星プリンセスガーデンへのワープを阻止してくれ」


 ドッキー艦長が中央演算室を見ながらそう言った。


「オンビット。反乱軍のワープリングの制限開始……ですが一足遅かったですのよ。レゾル司令の旗艦グレンダザールはプリンセスガーデン重力圏内ですのよ」


 サララが叫んだ。


「遅かったか。直ぐに主星に行かないと、サンダーゲートを呼んでくれ」

「それが音信不通ですのよ」

「え? まさか撃沈?」

「いえ、撃沈したら私も死んでますのよ。多分アンビエントジャミング下で通信状況が悪いだけですのよ」

「まあ、リーマイ副官ならば無事だろう。ノバルは?」

「最適化中ですのよ。もう少ししたら意識が回復するのですのよ。ノバルが入った演算器を忘れないように」

「分かった、そろそろ戻るか。エストス達にあの棺のことを説明しないといけないしね」

「ああ、そういえば急いで戻ったほうがいいのですのよ?」


 サララが真面目な顔で言う。


「ん? 上には鑑定能力者のヘーネスもいるし、ソフィアもいるから心配ないだろ?」


 ドッキー艦長が主砲で開いた穴を見ながら言った。


「それが王国最強部隊アシッドアーマー隊が攻めてきたのですのよ」

「なんだって?」



大変遅くなりました。

そしてお読みいただきありがとうございました。

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