47 ボサボサ頭の兵士
ボサボサ頭の兵士がサラ・ラングリヤの御前に歩み出る。
それは家紋もない安物の鎧に、兜も被っていない気怠そうな兵士だった。
「なっ。艦長? いつからここにいるのですのよ」
サラ・ラングリヤの口調はこれまでの横柄で威厳に満ちた喋り方ではない。
その見た目通りの幼い少女のそれだった。
そのあまりの口調の変化に上級将校達が顔を合わせ、首を傾げた。
「さっき来たばかりだよ。それよりサララ、随分と手こずっているようだね」
唖然とする将校達を見向きもせず、ボサボサ頭の兵士が周囲を見回した。
「貴様無礼だぞ。下がれ」
「この状況を分かっているのか?」
「下がらねば斬るぞ」
「近衛は何をしている?」
「家紋もない鎧とは奴隷階級出身か?」
「そんな下級兵士がどうやってここに? まさか魔族?」
「そうだ。そうに違いない。誰もこんな兵士知らないぞ」
「ひっ捕らえよ」
「待て」
サラ・ラングリヤが元の威厳に満ちた声で将校達をたしなめた。
「ですが、こいつは」
「艦長。そんなことよりどうやって来たのですのよ?」
サラ・ラングリヤが将校達を無視して、ボサボサ頭の兵士に迫る。
「……それだけは言えない」
ボサボサ頭の兵士が気まずそうに目をそらした。
「恐れながら、司令、あの……この方は?」
空気を読んだ若い将官の一人が問いかける。
「あー、えー……それだけは言えない」
サラ・ラングリヤが言葉を濁した。
「……」
「……」
「……」
「……」
その言葉にそこにいた誰もが口をつぐんだ。
「敵の遠距離攻撃です」
その時、監視兵の声が沈黙を打ち破った。
魔王軍の要塞の壁から何か黒いものが放たれたのだ。
「ただの矢か? 遅るるに足りん」
「あの大きさは違うぞ。あれは巨大バリスタの矢だ」
「案ずるな。少し大きいだけの矢だ。こっちには魔法障壁がある」
「ダメだ。あの色を見ろ。あの矢は魔法強化されているぞ」
「あの量の魔法矢では、我々の魔法障壁では耐えられない」
「そんな……」
要塞から放たれた魔法強化されたバリスタの矢が放物線と、飛翔音を轟かせながら空を黒く覆い、兵士達の心も絶望で染めあげた。
「ええい、せめてここだけは死守する。防御魔法を重ね掛けしろ」
「今からですか? 詠唱が間に合いません」
「つべこべ言ってる暇があるならば全員で詠唱しろ」
「ですが我々には魔力がもう」
「くっ。ここまでか」
「無念」
将校、兵士達が迫りくる黒い雨を見ながら膝をついた。
「艦長。助力をお願いするのですのよ」
サラ・ラングリヤがボサボサ頭の兵士に頭を上げた。
そのあり得ない光景に唖然とする将校達。
「な、こんな奴に何ができるというのですか?」
「もう終わりだ」
「艦長。助力をお願いするのですのよ」
サラ・ラングリヤがボサボサ頭の兵士に懇願する。
「最初からそのつもりだよ収納」
放物線を描き、空を真っ黒に染めていたバリスタの矢が忽然と一瞬で消失した。
その死の宣告のような飛翔音も消えた。
「は?」
「え?」
「消えた?」
将校、兵士達が何もない空を見上げて、目を見開いたまま誰一人と動かない。
「何が起こった?」
「何をした?」
「ま、ま、まさか艦長? 収納したのですのよ? 助力は頼んだのですが? まさか収納するなんて非常識ですのよ」
サラ・ラングリヤの大きな目が驚きに更に大きく見開かれた。
「なんで収納できるのですのよ?」
「見えている物は収納可能だからね」
ボサボサ頭の兵士が頭を掻いた。
「見えているもの? そんな馬鹿なことがあるわけないのですのよ。いくらなんでも滅茶苦茶ですのよ」
サラ・ラングリヤが兜を脱ぎ捨てた。
「え? 司令?」
サラ・ラングリヤの口調と態度の激変に将校達が混乱する。
「コホン。すまない少々取り乱した。だがこうなったら勝ったも同然。全軍突撃ですのよ」
「え? 全軍突撃?」
「ですのよって何ですか?」
ころころと変わるサラ・ラングリヤの変化に将校はついていけない。
「ですのよ……という語尾は私の新たなアイデンティティの一つ。『うん、そう』としか言わない強キャラに負けないようにと私の防御精神が生み出した苦肉の策ですのよ。自分で言ってて恥ずかしいのはもう慣れたのですのよ」
「はあ? 何のことですか?」
「司令、御乱心?」
「ええい、二度も言わせるでない。全軍突撃ですのよ。もうヤケクソですのよおおお」
サラ・ラングリヤが怒鳴った。
指令の怒鳴り声など聞いたことがなかった将校達が慌てふためいた。
「なんだかよく分からないが突撃」
「ですがよろしいので? このままでは全滅ですよ」
若い将校の一人がサラ・ラングリヤに小声で質問する。
「とにかく前進ですのよ」
「はあ。何か策があのですね。分かりました。全軍突撃」
将校達が進軍の指示を出すが混乱状態の王国軍はそう簡単には動かない。
それは当然だろう。先の四天将の戦死、魔王軍との圧倒的な戦力さに王国兵士達は完全に心を折られ、戦意を消失していたのだ。
「何をしている。進軍ですのよ」
「はあ。ですが士気が下がった今、何かの希望かがなければ兵は動きません」
「そうかい。じゃあ、お先」
そう言いながらボサボサ頭の兵士が飛んだ。
「え?」
「飛んだ?」
その異様な光景に誰も目を疑った。
「飛翔魔法? 魔道士か?」
王国兵士が叫んだ。
「いや、違う。魔力が行使されていないぞ」
王国魔導士が叫んだ。
「確かに魔方陣の痕跡も魔力跡もない」
確かにボサボサ頭の兵士は飛翔魔法を使用していなかった。
「この穴は何だ?」
「地面が抉られている?」
「まさか蹴った?」
そうただ単純にその脚力で大地を蹴って飛び上がったのだ。
「ただのジャンプ?」
「ああ、そうそうドッキー艦長は自重をしない方なのですのよ」
サラ・ラングリヤが肩をすくめた。
「ドッキー艦長とはあの方のことですか?」
大柄な騎士がサラ・ラングリヤを見る。
「ええ、見ての通りですのよ」
「はあ? 艦長って船のですか?」
「大きくて強い最新最強の戦艦の艦長ですのよ」
「はあ?」
首を傾げる将校達。
ボサボサ頭の兵士ことドッキー艦長が大きく山なりに魔王軍の中に突っ込んだ。
その衝撃で空高く吹っ飛ぶ魔王軍兵士達。
あまりの非現実な光景に魔王軍の兵士が混乱し、思考が停止する。
「なんだこいつは?」
「馬鹿め。一人で?」
「ええい、殺せ殺せ殺せ」
「一人で突っ込んでくるとは自殺願望があるのだろう。お望み通り殺してやる」
立ち直った魔王軍の兵士達が汚い歯を見せ笑った。
「ころせええ」
ドッキー艦長の手には漆黒の剣が握られていた。
「え?」
ドッキー艦長の前方にいた敵兵が吹っ飛んだ。
ただ吹っ飛んだのではない。二つの部位に分かれて吹っ飛んだのだ。
その別れた部位の間には、ただ剣を水平に振り切っていたドッキー艦長の姿があった。
その兵士が何をしたのかを誰にも見えていない。
だが何をしたのかは誰の目にも一目瞭然だった。
屈強な魔王軍の兵士を、その強靭な鎧ごと、たたっ斬ったのだ。
魔王軍の兵士達が驚きの表情を浮かべながら大地に転がっていた。
ドッキー艦長は振り向き様に水平に剣を薙ぎ払った。
背後にいた魔王軍の兵士達が両断され大地に転がった。
その背後、その背後の兵士達も転がった。
いや吹っ飛んだ。破片となって散らばった。
たったの二振りでドッキー艦長の周囲の魔王軍の兵士が何百人と死んだ。
「……」
「なっ」
「え?」
その光景を見た両軍の兵士達が言葉を失った。
「艦長のその自重も遠慮もしない姿勢は、この世界でも変わらないのですのよ」
それを王国陣営から見ていたサラ・ラングリヤが肩をすくめた。
それを聞いていたのか、いないのかドッキー艦長がさらに剣を振るう。
轟音が、白い漏斗状の衝撃波が、抉れた大地が噴水のように沸き上がる。
遅れてバラバラになった魔王軍兵士の断片が舞い上がる。
それは血と肉と鱗と甲冑の破片だ。
ドッキー艦長がさらに剣を振るう。
旋風が、突風が地面を抉り、血と肉片と金属の雨が降った。
「ぎゃああああ」
「うわああああ」
「ぐあああああ」
それはもはや剣技とかいうレベルではない。
ただの暴風。大質量。ただの凶悪な運動エネルギー。
その威力は剣の攻撃の範疇を、物理速度を凌駕していた。
音速を超えた剣先が衝撃波を生み、大気を割った。
戦場全体に音速の衝撃波がいくつも、いくつも走った。
轟音が大地を、空気を、兵士達の心を揺らした。
片方には絶望を、もう片方には希望をまき散らした。
「なんだあれは? 人間か?」
「分からぬ。ただ一人であることは変わりない。取り囲め、攻撃を集中させろ」
「ええい、魔法じゃ。魔法を放て」
「ええい、弓じゃ。弓矢を放て」
魔王軍の強大な魔法と強固な弓矢が、投石がドッキー艦長に集中する。
それはたった一人の侵入者に対して行う攻撃としては、はるかに過剰。
ドッキー艦長の立っていた場所が爆発した。
続いて矢が降り注ぎ、その後に魔法が降り注ぐ。
いくつかの投石が大きく的を外れ、魔王軍の兵士を押し潰した。
見方に被害を出しながらも魔王軍の過剰攻撃は止まない。
魔王軍の誰もが人間離れした人間の兵士の出現に完全に判断力を失っていた。
爆炎と土煙で覆われた戦場の一角に両軍の兵士達の視線がそこに集まる。
「やったぞ」
「ははは。たかが人間が偉そうに粉々に飛び散ったぞ」
「たわいない。所詮人間だ」
「指先一本も残さず死んだぞ……ん?」
魔王軍の兵士の顔に影が落ちる。
その兵士は恐る恐る宙を見上げた。
「ひいいい、生きてる」
「ばかなあああ」
宙に浮かんだドッキー艦長を両軍は瞬きも息もせず茫然と見つめる。
「浮いている? 浮遊魔法か?」
「空中に飛び上がるとは馬鹿め。極大魔法ファイアーランページを放て」
魔王軍の極大魔法ファイアーランページがドッキー艦長に向かって放たれた。
それは地獄の火炎。触れれば炭も残さず燃やし尽くす極大魔法。
だがしかし、極大魔法の地獄の火炎はドッキー艦長の寸前で消失した。
「え? 消えた?」
「防御魔法?」
「ええい、属性の相性が悪かっただけだ。極大魔法アイスクレーターを放て」
大気と大地を凍らせながら氷の炎がドッキー艦長に向かって迸る。
だがしかし、その絶対零度を誇る極大魔法もドッキー艦長の前で忽然と消失した。
「え? 消えた?」
「そんな馬鹿な。ええい全ての属性魔法を放て」
だがしかし、他の属性の極大魔法もドッキー艦長に到達する前に消失した。
「魔法無効?」
その様子を見ていた王国軍の将校が口ずさんだ。
「違うのですのよ」
サラ・ラングリヤが頭を掻いた。
「じゃあ? あれは何をしたのですか?」
「見てれば分かるのですのよ」
サラ・ラングリヤの言葉に将校は不思議そうに首を傾げた。
「ええい、魔法が効かぬなら直接攻撃するだけだ。竜騎兵を呼べ! 叩き落せ」
転移魔法陣から焔を纏い燃えるような色の竜騎兵が出現し、巨大な牙とドラグーンの槍がドッキー艦長に襲い掛かる。
「あれは灼熱の竜騎兵?」
「あんなものまで」
王国兵士に動揺が走った。
灼熱の竜騎兵。それは魔王軍の最強空軍――レッドドラゴンに乗った魔王軍のエリート部隊。
両軍が固唾を飲んで見守る中、灼熱の竜騎兵はその竜ごと両断され落下した。
「灼熱のドラグーンが一撃だとう?」
「なにが起こっている?」
「あれはなんだ?」
「まさか勇者?」
「勇者は死んだはずだ」
皆が憶測を口にし、混乱を増長させる。
「ええい、攻撃の手を止めるな」
魔王軍の軍勢がドッキー艦長の下で槍を構えた。
その時、ドッキー艦長の周囲に何か黒い棒状のようなものが現れた。
「なんだあれは?」
「召喚したのか?」
「召喚魔法は使用されておりません」
「な、あれは矢だ」
そう矢だった。先程魔王軍が放ったバリスタの矢だ。
魔王軍の兵士の目に矢の影が映る。
「にげろおおお」
「ああああああ」
だが間に合わない。魔王軍の兵士はただ重力に従って落下する矢に射抜かれ、大地に縫いつけられた。
「ひいいいい、ス、スキュラクラーケンを放て」
魔王軍の将校が叫ぶ。
「グオオオオ」
解き放たれたスキュラクラーケンがドッキー艦長に襲い掛かる。
巨大なスキュラクラーケン――それは王国四天将を一瞬で抹殺した最強の魔物。
だがドッキー艦長は慌てることなく剣を振った。
何度か光が閃いた。それでおしまいだった。
強大なスキュラクラーケンはバラバラに切り刻まれて大地に落下し怒涛の轟音を響かせた。
「え?」
「は?」
「なにをした? された?」
ドッキー艦長の黒い剣がスキュラクラーケンの体液を滴らせている。
「そんな馬鹿な。スキュラクラーケンが一撃だと?」
「強い、なんだあいつは? 指令、彼は何者なんですか?」
「艦長。そんなことより早く要塞を何とかするのですのよ」
サラ・ラングリヤが叫んだ。
「艦長使いが荒いのですのよ?」
ドッキー艦長がサララの口癖を真似しながら飛んだ。
要塞の壁に激突し、そのまま垂直の壁を駆け上がる。
重力を、慣性を、皆の常識と想像を超えて駆け上がる。
それは体内重力器官でも魔力でもない、ただの脚力だった。
「皆の者続け」
サラ・ラングリヤの呟きに周囲の将官達が目を合わせた。
「は、はあ」
「あの方は何ですか?」
「人間ですか?」
「……多分ですのよ」
サラ・ラングリヤが首を傾げた。
「ギャアアア」
「敵、敵だああ」
魔王軍の要塞で悲鳴と爆音が上がった。
肉片となって空を舞う魔王軍の兵士達。
「なにをしておるかああ。敵はただ一人だ。抑え込め」
魔王軍の将校が叫んだ。
だがそのまま吹き飛んで壁の染みとなった。
「ひいい」
凶暴で冷酷で横暴で暴力こそが最高だと信じていた魔王軍の兵士達が心の底から震えた。
それはあまりに無秩序で、荒唐無稽で現実離れした存在だった。
魔王軍ですら言葉を失うその圧倒的な戦闘能力。
弓矢を放てば消え、魔法を放てば消え、どこから取り出したのか巨大な岩石が彼らの頭上に出現する。
それはもはや戦いではない。
常識と非常識を超えた虐殺に次ぐ虐殺、もはやただの蹂躙だった。
ドッキー艦長が要塞内を走ると衝撃波が壁の魔法レンガを吹き飛ばす。
扉が圧力差で引っ張られ、こじ開けられる。
隠れていた魔王軍の兵士達が吹っ飛び、壁や破片に激突し死んだ。
ドッキー艦長はどこに何が分かっているかのように魔王軍の要塞内を突き進む。
赤い液体で染まった強固な扉が吹き飛び、その付近の兵士達を押し潰した。
「第三防波堤突破されました」
「なんだと? 敵の数は?」
「ひとりです」
要塞深層部の大きな部屋で魔王軍の幹部達が顔を蒼白にしていた。
魔王軍はつい先程まで圧倒的に有利だったはずだ。
それがどうだ? たった一人の人間に振り回されているのだ。
あり得ないことだった。軍には軍でしか対抗できないはずだ。
無敵の魔王軍の、強固なる要塞がたった一人の兵士に蹂躙されているのだ。
「正門広場まで侵入」
「阻止しろ」
「突破されました」
「ええい正門だけは死守しろ」
魔道水晶板を見ていた魔王軍の幹部達が叫んだ。
ドッキー艦長が正門前の広場に降り立つと思い出したように振り返り、正門に向けて、何かを放った。
それは魔王軍の精鋭達が放った極大魔法だ。
まるで極大魔法の映像の続きが再生されたように紅蓮の炎が迸り、要塞の城壁を、天井を溶岩に変えて驀進する。
絶対開かないはずの要塞の正門が内側から粉砕されながら吹き飛んだ。
炎と塵と瓦礫の向こう側にサラ・ラングリヤの頭を抱えた姿が見えた。
ドッキー艦長は軽く手を振って要塞内に突き進む。
思い出したようにサラ・ラングリヤが手を振って進撃せよと命じた。
思い出したように将官が、兵士達が進撃を開始した。
ドッキー艦長が切り開いた要塞に向かって。
「何だ貴様は?」
魔王軍の将校が叫んだ。
「それだけは言えない」
「なんだと? では死ぬがいい」
将校の足元が怪しく光る。転移魔方陣だ。
「ガーッハッハッハッ。出でよ。死の戦士達よ」
転移魔法陣から現れたのはスケルトン軍団だった。
「スケルトンとは骨が折れそうだ」
ドッキー艦長は剣を収めた。
「フフフッ。諦めよったか?」
それを見た将校が腹を揺らした。
「いや。そうじゃない」
ドッキー艦長は何かを取り出した。
「なんだそれは? なんだそれは? 転移魔法も使わずに何と出した」
「ただのプラズマキャノンだよ」
「え?」
ドッキー艦長が取り出したプラズマキャノンが火を噴いた。
地獄から蘇ったスケルトンも将校も全てプラズマの奔流に焼かれて消し炭になった。
「屋内でプラズマキャノンなんて何考えているのですのよ」
ドッキー艦長の後ろからサラ・ラングリヤが頭を抱えて現れた。
王国軍の護衛の兵士や将校兵士が口と目を大きく開けたままその後に従う。
「これで魔王軍の要塞は落ちた。あとは地下の防衛魔方陣を破壊すればよいだけですな」
「何者かは知らぬが助かったぞ」
「貴方様はもしや勇者様では?」
若い近衛兵がドッキー艦長に跪き頭を下げた。
慌てて跪く他の将校や護衛達。
「それだけは言えない」
ドッキー艦長はそう言い残すと部屋を出て行った。
「ああ、艦長。待ってくださいですのよ」
サラ・ラングリヤが慌てて後を追う。
「地下の魔方陣を破壊する。お前達は負傷者を手当てして軍を再編成。次の進軍に備えよ」
「我々もお供します」
「いや、こっちは問題ないのですのよ」
サラ・ラングリヤが手を振って将校達を下がらせた。
――魔王軍要塞地下大講堂。
ドッキー艦長とサラ・ラングリヤが地下の転移魔法陣のある大講堂に入った瞬間、扉が閉まり複雑な模様の魔方陣に包まれた。
「おっと」
「この魔方陣様式はカレナ千年迷宮?」
「ああ。閉じ込められたみたいだね」
「ちょっと、みたいだねって、どうするのですのよ。カレナ千年迷宮は脱出するのに千年かかると言われるリアルタイム演算の複雑魔方陣ですのよ」
サラ・ラングリヤが腕を振り回した。
「なーに心配には及ばないよ。こんなこともあろうかと」
ドッキー艦長が何かを取り出した。
「え?」
サラ・ラングリヤの目はそれを追うように上に上にと動く。
地下大講堂に金属の立方体が山を作った。
「空間演算器?」
そうそれは空間演算器だった。
「ジェネレーター?」
それはエネルギーキューブを内包した携帯型ジェネレーターだった。
「なんで演算世界に現実の物を取り出せるんですか? ここは演算世界ですのよ」
「それだけは言えない」
ドッキー艦長は作り笑顔を浮かべた。
お読みいただきありがとうございました。
大変遅くなりました。




