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43 ソフィア死す

 ソフィアの美しく細い身体から剣先が飛び出した。

 その剣を握るのは丸太のような太い腕。

 それは筋肉という名の鎧を覆ったタフガイの中のタフガイ。

 武骨なハードアーマーを脱ぎ捨てた王国最強の男――アシッドアーマー隊隊長ガガーランドその人であった。


「グッ。卑怯な? 機体に乗っていたはずでは? ゴフッ」


 ソフィアの震える唇から血が滴り落ちる。


「敵の前に姿を現すはずがないだろうが? あれは俺の血と肉が散りばめられた対致死魔法処理されたハードアーマーだ」


 ガガーランド隊長が笑った。

 そう、クラッシュタイタン四型に乗っていたのは対致死魔法処理されたガガーランド隊長のハードアーマーのみ。

 そもそもアシッドアーマー隊の戦う相手は人間ではない。魔族だ。

 その魔族の中には致死魔法を使用する存在もいる。

 その致死魔法の身代わりとなるように開発されたのがこのハードアーマーだった。

 本人の血と肉が駆け巡る第二の肉体。

 致死魔法の身代わりの為に作られた疑似肉体。

 魔法を失った人類は科学で対抗する。

 ガガーランド隊長はその第二の肉体をブレインリンクで操り、そこに自分が居るように見せかけていた。

 王国最強の格闘部隊は、ただ殴り合うだけの単細胞の単調な存在ではない。

 謀略知略に隠密戦闘までなんなく熟す熟練の兵士なのだ。

 それこそが最強と言われる所以。


「こうも簡単に騙されるとは、貴様らは所詮、素人」

「……そうだったの…………でもその言葉、そっくりそのままお返しするわ」


 刺されたはずのソフィアの顔から苦しみの表情が消えた。


「なんだと?」


 ガガーランド隊長が眉をひそめた。

 ソフィアの傷口から無数の演算キューブが煌めき、その傷口を再構成した。

 飛び散った血が、まるで立体ビジョン映像のように消えた。


「まさか? 演算ボディ? そんな馬鹿な。刺した感触。気配。まるで本物にしか見えないぞ」


 ガガーランド隊長の顔から笑みが消えた。


「年増だけど美しく可憐な私が、むさい敵の前に姿を見せるはずがないでしょう?」


 演算ボディ――それは演算によって投射コアによって空間投影された触覚立体映像。

 分子を、物理法則をエミュレートした触れる立体映像。

 しかもソフィアの演算ボディは本人と見分けがつかない程の精巧だった。

 髪の毛一本、内蔵、呼吸、鼓動、全てが演算で再構築された精巧な偽物。

 ドッキー艦長がボトムオーガに化けたのと同様のシステム。


「そんな馬鹿な。投射器の制限上、これほどまでに精巧な演算ボディの構築は不可能だ。可能だとしても膨大な演算力が……」


 百戦錬磨のガガーランド隊長が驚くようにソフィアの演算ボディは常識を逸脱していた。

 精巧な演算ボディを構築するには優秀なAIと膨大な演算リソースを有する。


「まさか、背後に強力なAIがいるのか?」


 ドッキー艦長達の支援AIは誰だ?

 古代エレメンタルAIのサララだ。

 複数同位体の古代エレメンタルAIのサララにかかれば、要塞内の余剰演算器を拝借することは容易い。

 さらにそのコアとなる投射コアはドッキー艦長が取り出したものだ。

 ドッキー艦長がアイテムボックスから取り出したものは全てが最上級の一品。

 開発中の試作兵器など、全てが規格外。

 そして、彼の周囲に集まった彼女達も同様。ネクロマンサーであるソフィアも同様。


「なんだこれは」

「それだけは言えない」


 ソフィアの演算ボディから、鎖状の形状の演算キューブが飛び出し、ガガーランド隊長を拘束した。

 それは強固なグラビティバインド。簡単に抜け出せるものではない。

 ソフィアが自分の身体を抱きしめると、凶悪な演算キューブがガガーランド隊長を優雅に、残酷に抱きしめた。


「――こんなもので俺を止められるとでも?」


 ガガーランド隊長の顔に苦痛の皺と血管が浮かび上がる。

 彼はハードドワーフの末裔。人類を圧倒する戦闘種族だ。


「ふん」


 ガガーランド隊長を拘束していた演算キューブが弾け飛んだ。

 その腕力は人類の範囲から逸脱していた。


「そんな、馬鹿な。強化された演算ボディを一撃で? 私の筋力を遥かに超える力を与えられた演算ボディが? そりゃあちょっとだけ、目を大きくして、くびれを細くして、胸元は盛ったけど……くっそ、それが敗因か……余計なことに演算リソースを割くには反対ですのよって言われてたけど、美を追求するために押し切ったことが仇となったか。でも少しぐらい見栄ぐらい張りたくなるでしょ。ワルキュリアエッダ隊に、ヘーネスとか、あいつらと並んだ私なんて公開死刑間違いなしでしょう? せめて偽りの身体だけは見栄を張ってもいいのではなくて?」


 実際、彼女の演算ボディは本人よりも一割程スタイルが良くなっていた。

 ソフィアはサララに細かく注文し、この演算ボディを構築したのだ。

 彼女が最もこだわった箇所が戦闘能力の向上ではなく、そのスタイルだった。


「そ、そうか」


 微妙な表情を浮かべながら距離を取るガガーランド隊長。


「まあ、でもこの演算ボディに最初から強さなんて求めてないんだった。私は誰? 私は何?」


 演算ボディのソフィアが肩をすくめた。

 彼女に悲壮感はまるでない。

 ソフィアの能力は何だ? 拳で殴り合うことか?

 銃で撃ちあうことか? 違う。

 そう、彼女はネクロマンサーなのだ。


「私、こう見えても力仕事って苦手なのよね。陰に隠れて、ゆったりとしたソファでお菓子を食べながら、壊れた機械を遠隔操作する卑怯な女なのよね? だってネクロマンサーなんですもの」


 沈黙していた無人戦闘機がネクロマンサーである主人に命を吹き込まれ脈動を開始する。

 無人戦闘機の壁が、床が、天井が再びゾンビ活動を開始した。


「こんな風にね」


 ゾンビ化された金属の触手が、槍が、矢が、尖った部品が飛び出し、ガガーランド隊長に突き刺さる。


「ふん」


 だがそこにガガーランド隊長の姿はない。


「速い?」


 ハードアーマーから解き放たれたガガーランド隊長の動きは尋常を逸していた。

 巨体に似合わぬ速度。その鈍重そうな見た目からは信じられないような俊敏さでソフィアの攻撃を回避する。

 強靭な筋肉から放たれる瞬発力。彼の筋肉に無駄な筋肉はない。

 筋肉で体が重くなることなどない。

 その強靭な筋肉が瞬発力を、持久力を生むのだ。

 彼はアスリートではないのだ。戦士なのだ。

 ガガーランド隊長が無人戦闘機の攻撃を難なく潜り抜け、偽ソフィアに迫る。


「え?」


 偽ソフィアが吹っ飛び、演算キューブが放射状に飛び散った。

 ガガーランド隊長が太い拳で殴りつけたのだ。


「殴ったなあ。よくも年増の乙女を殴ったわね」


 バラバラに弾けた演算キューブが再構成され、ソフィアが叫んだ。


「演算ボディを殴ってもただの八つ当たりにしかならないのは分かっている……」


 ガガーランド隊長が目を閉じた。


「……だがこれはただの八つ当たりだ」


 ガガーランド隊長が偽ソフィアを蹴りつけた。

 壁に激突し演算キューブが飛散する。

 偽ソフィアが、立ち上がり、口を拭いながらガガーランド隊長を睨む。


「ええい、か弱い年増の儚い美人乙女を殴りつけるとはそれでも男か?」


 偽ソフィアの身体に時折、ノイズが走る。


「男であれ女であれ、戦場では敵か味方だけだ。自惚れるな」

「レディに手を上げるなんて騎士道精神違反よ」

「あいにく俺は騎士でも貴族でもないのでな」

「くっ、コアにダメージ? この馬鹿力め」

「ふん、さっさと出てこい瓦礫の女王。本物の容姿によっぽど自信がないとみえる」


 ガガーランド隊長が肩をすくめた。


「くっ、女子の容姿のことを非難するのは最低の行為って知ってる?」

「知っている」


 ガガーランド隊長が偽ソフィアを再び斬りつけた。

 殴りつけ、丸太のような太い足で蹴り上げ、ハンマーのように固い拳で殴りつけた。

 そして、受け身も取れずに翻弄される偽ソフィアの演算ボディに再び剣を突き刺す。


「コアさえ貫けば演算ボディなど意味がない」

「なっ」


 ガガーランド隊長はソフィアの演算ボディに剣を突き刺す。

 何度も、何度も、刺す。コアに突き刺さるまで何度も。

 その度に偽ソフィアの身体が、演算で構築された触覚立体映像が消えかかる。


「見つけた。そこだ」


 ガガーランド隊長が大きく振りかぶり、ソフィアの演算ボディを両断した。

 演算ボディが、無数のキューブとなって弾け飛んだ。

 その中心には真っ二つになったコアがあった。


「くそ」


 ソフィアの美しい疑似演算ボディが消失した。


「さっさと出てこい。命だけは助けてやるぞ」


 だが、その言葉に答えるように弾け飛んだ演算キューブの破片が、ガガーランド隊長に向かって雨霰となって降り注ぐ。


「くっ」


 ガガーランド隊長が演算キューブを回避する。


「……フフッ」


 舞い戻った演算キューブが再び、美しいソフィアの形状を形成する。

 その腕は白く細いソフィアの腕ではなかった。

 複雑な形状の瓦礫の凶器がまとわりついていた。


「な? まさか?」


 演算ボディのソフィアが瓦礫の塊でガガーランド隊長を殴りつけた。

 弾け飛ぶ瓦礫とガガーランド隊長。


「むむ」


 ガガーランド隊長のしかめっ面をよそに周囲の瓦礫がソフィアに集まっていく。

 それは瓦礫の女王の何ふさわしい歪で美しい非現実な姿であった。

 演算ボディを哀愁漂う破損した瓦礫が覆う。

 美しい身体に尖った折れた瓦礫がハードアーマーのように突き刺さる。

 それはまるで闇の黒騎士のようだった。


 突如、その闇の黒騎士が加速した。

 なんとその美しい足には巨大な推進ノズルがあった。

 ノズルが激しく咆哮し、ソフィアが直角に加速する。

 高速でガガーランド隊長に体当たりを食らわせ、そのまま床に叩きつけ、壁に叩きつけ、天井に跳ね返り、腕を伸ばしエネルギービームを放った。


「あら、しぶといわね」


 ガガーランド隊長が寸前で回避する。

 瓦礫を纏ったソフィアの演算ボディは慣性を無視したかのような動きで飛び跳ねる。

 物理法則を無視したデタラメな動きで加速する。

 驚愕に見開いたガガーランド隊長を蹴りつけた。

 その衝撃で演算キューブと瓦礫が放射状に散らばった。

 ガガーランド隊長はそれほど強固。

 大重量のガガーランド隊長が吹っ飛んだ先には偽ソフィアが回り込み、さらに蹴りつける。推進ノズルが咆哮し、その蹴りは途中から加速する。


「でたらめかよ。瓦礫の女王めえ」


 ガガーランド隊長がその蹴りを、右足で受け流す。

 そして高速で後方宙返りしながら、銃を乱れ放つ。

 ソフィアの前に無人戦闘機が現れ、その雨霰を跳ね返す。


「また乙女を蹴った?」


 お返しとばかりにソフィアの周囲に浮遊していた無人戦闘機がガガーランド隊長に向かって攻撃ビームが放つ。

 だがあっさりと半身をひねってそれをかわすガガーランド隊長。

 ネクロマンサー神殿に着弾した攻撃ビームが閃光を上げ、ガガーランド隊長の顔を黒く落とす。


「なんとまあ演算投射コアをゾンビ化しやがったのか?」


 ガガーランド隊長の予想通りである。

 彼の攻撃によって偽ソフィアを構築していた空間投射器コアが破損した。

 ネクロマンサーは死体と壊れた物を操れる。

 当然のごとくソフィアは空間投射器コアをゾンビ化した。

 彼女はネクロマンサーなのだ。

 そこに物理法則とか常識とかは存在しない。

 演算コアは破損し、物理法則を超えた存在となった。

 その性能は壊れる前よりもはるかに向上していた。


「くっそ、なんでもゾンビ化しやがって卑怯だぞ」


 ガガーランド隊長が偽ソフィアを斬る。

 だがしかし、偽ソフィアはそれ以上の速度で回避する。

 ガガーランド隊長が銃を取り出し連射する。

 壁の無人戦闘機が剥離し、その攻撃をあっさり防いだ。


「ええい、鬱陶しい」


 ガガーランド隊長が迫りくる無人戦闘機の群れを切り伏せる。


「あら、じゃあこれはどうかしら?」


 ガガーランド隊長の前にクラッシュタイタン三型が現れた。


「助かるぜ。女を殴るよりな」


 ガガーランド隊長が飛び上がる。

 クラッシュタイタン三型が拳を振り上げた。

 ガガーランド隊長がそれを回避する。

 その回避先にクラッシュタイタン三型の巨大な反物質ソードが迫る。

 ガガーランド隊長が拳を握りしめ、構える。


「おいおいおい」


 巨大な剣と人間の拳、勝負は見えている。

 だが吹っ飛んだのは反物質剣のほうであった。


「え?」


 なんと生身のガガーランド隊長が巨大な金属の塊のクラッシュタイタン三型の剣を殴りつけ、吹き飛ばしたのだ。

 あり得ない。物理法則的にあり得ない現象だった。


「相手が女じゃなければ遠慮はいらんな」


 ガガーランド隊長がクラッシュタイタン三型の顔面に回し蹴りを放った。

 轟音を立てフロアに激突するクラッシュタイタン三型。

 その上に降り立つ筋肉の塊。タフガイの中のタフガイ。

 王国最強の二つ名は伊達じゃない。

 単身で乗り込んできたことから推測できたはずだ。

 彼の戦闘能力を。

 彼の自信を。

 彼の異常なスピードを、パワーを――。


「ええええ? 殴った? 蹴った? そんな馬鹿な」

「ソフィア。ガガーランド隊長は拳と足に反物質を覆っているみたい」


 ヘーネスが鑑定結果を伝える。


「え? 反物質を纏ってるの? それで殴ってんの? それってかなり卑怯じゃない?」


 内線で愚痴るソフィア。


「無人戦闘機を操る貴方も充分卑怯だけどね」


 ヘーネスの呆れ声がソフィアの耳に流れた。


「卑怯って、これこそがネクロマンサーである私のスタイルなんですが? 私の生き様に文句であるの? ないでしょ?」


 ソフィアが反論する。


「遊びは終わりだ。瓦礫の女王、これは触れたものを全て消滅させるアンチマテリアルモード。反物質の拳は防御不可能だぜ?」

「拳だけなんてみみっちい男ね」


 演算ボディのソフィアが馬鹿にしたような目でガガーランド隊長を見る。


「そうかい? ではこれはどうだい?」


 拳と足だけだった光が全身に廻る。

 ガガーランド隊長が反物質の対消滅の光に包まれる。

 この光は反物質が周囲の塵に触れ消滅しているチェレンコフ光だ。


「ソフィア、マズイ。反物質で全身を覆ったわ、少しでもあれに触れると対消滅反応に巻き込まれるわ」

「ええ? ちょっと、来ないで、触らないで」


 逃げ惑うソフィアの演算ボディにガガーランド隊長の反物質の拳がせまる。


「ソフィア、鑑定援護します。ブレインリンク」

「OB。やっと本気のデュオを見せれるわね。いいわ。ブレインリンク」


 ソフィアはヘーネスとブレインリンクし、思考が完全に同期した。

 ヘーネスの鑑定結果を受け、ソフィアの動きが変わる。

 ガガーランド隊長の攻撃を寸前で回避するソフィア。


「なんと回避?」


 絶対に不可能な拳だった。

 だがあらかじめその軌道を知っていれば回避可能だった。

 そう、あらかじめ知っていたのだ。

 ヘーネスの鑑定により、ソフィアはガガーランド隊長の位置は、動きは把握している。

 鑑定結果は未来予知ではない。

 だが現状を把握可能なのだ。


「てめえ、よけるんじゃねえ」


 ガガーランド隊長が偽ソフィアを睨む。


「ひい、来ないで」

「女を追いかけるのは慣れてないんだが」


 偽ソフィアを覆っていた瓦礫が、ガガーランド隊長の反物質蹴りによって対消滅した。


「これって乙女のピンチじゃない?」

「ピンチね。破片が残っていればネクロマンシングできても、完全消滅したらできないものね」

「なんとかしてよ。相方でしょ?」

「無茶言わないで。ガガーランド隊長の反物質が消えるまでは耐えて」

「あいつの反物質が消えるまでどれぐらい?」

「ざっと一時間ぐらいかしら」

「無理」


 クラッシュタイタンゾンビ機がガガーランド隊長に迫るが、ガガーランド隊長はその金属と樹脂の巨体を突き抜けた。

 胴体に大穴を開けて、倒れるクラッシュタイタンゾンビ機。

 だがゾンビ機だ。両断されようが、分断されようが関係ない。

 再び起き上がり、ガガーランド隊長に牙を向く。

 だが、ガガーランド隊長の反物質に覆われた拳に、足に、頭によって徐々に体積を減らしていく。

 ガガーランド隊長の攻撃は止まない。止まらない。

 最終的にクラッシュタイタンゾンビ機は影も形も残さず消滅した。

 まさに一方的な虐殺であった。銀河最強の男の二つ名は伊達じゃないのだ。

 ガガーランド隊長は強かった。

 ソフィアの操るゾンビ機よりも圧倒的に強かった。


「残るはてめえだけだ」

「来ないでええ。イケメンに追いかけられるが夢だったけど、筋肉おっさんに追いかけられるなんて悪夢」


 ガガーランド隊長の攻撃を必死に回避する偽ソフィア。

 吹き飛ぶ瓦礫、演算キューブ。

 剥ぎ取られていくソフィアの演算ボディ。


「くっそ、この筋肉野郎、あったま来た」


 ガガーランド隊長の前に一機の人型無人戦闘機が現れた。


「おいおいおい、主人を忘れたのかよ」


 ガガーランド隊長の拳がそのクラッシュタイタンの寸前で止まる。

 攻撃を止めたのだ。

 なぜなら殴ろうとしていたクラッシュタイタン四型は彼の愛機――レッドタイタンだったからだ。


「まさか? てめええ」


 ゾンビ機の反物質ソードでコクピットを貫かれたガガーランド隊長の愛機、レッドタイタンがガガーランド隊長に迫る。


「……ゾンビ化したのか?」


 そして主人であるガガーランド隊長に向かって反物質ソードを振り下ろした。


「きったねえぞ」


 ガガーランド隊長が驚愕の表情を浮かべながら避ける。逃げる。飛ぶ。

 それを追いかけるガガーランド隊長のクラッシュタイタン四型ゾンビ機。レッドタイタン。

 レッドタイタンの巨大な反物質ソードが空を裂き、フロアを叩き割る。

 放射状に対消滅反応が煌めいた。


「汚いですって? 戦いに卑怯も正当もない。あるのは勝者か敗者のみ。そして私は卑怯なネクロマンサー。死んでいる者か壊れている物ならば操れる。ちょうどいいことに貴方の愛機は壊れている。それ即ち私の支配下に置けるということ……さて、どっちが戦闘の素人なんでしょうね?」


 ソフィアのゾンビ演算ボディが怪しく笑った。

 瓦礫の女王の二つ名は伊達じゃない。

 ネクロマンサーであるソフィアの戦闘能力はかなり高い。

 ドッキー艦長との闘いではあっさり敗北したが、ソフィアは決して弱くない。

 ネクロマンサーである彼女の能力は尋常を逸していた。

 物理法則の向こう側の支配スキル――ネクロマンサーには常識は通用しないのだ。

 現に王国最強の男と互角に渡り合っている。

 それは異常な戦闘能力であった。

 褒められるほどの戦闘能力であった。


「くそがああ。卑怯だぞ」

「あははは。自分の愛機を殴れるかしら? 殴ったらその反物質の対消滅に巻き込まれて消えてしまうわよ」

「そうだな」


 だがしかし、ガガーランド隊長は自分の愛機であるレッドタイタンをあっさり殴りつけた。


「え?」


 対消滅反応で消滅するガガーランド隊長の愛機の頭部。


「はあ? 自分の機体を殴った?」

「ふん。馬鹿か。兵器は道具だ。愛機だろうが道具には代わりがあるんだぜ? どこぞの古代戦闘機乗りのように機体に過剰愛を持つ奴は素人だぜ? 覚えときな」


 ガガーランド隊長が愛機を殴り続ける。蹴り続ける。

 抵抗が弱まり、レッドゼブラは主人の手によってその身を浄化された。

 対消滅の光が天に上るようにレッドタイタンが逝った。


「無人戦闘機を使い捨てにする私もそれにはちょっと同意。でもあんたみたいな暑苦しい奴と一緒にしないでもらいたいわ。反物質で強くなったつもり? それならばこちらも反物質で対抗するまで、何故わざわざ私が今から行う攻撃を口頭で説明したのか分かるかしら?」

「さあ? 興味ないな」

「頭に来ているからよ」


 人型無人戦闘機クラッシュタイタンの残骸から反物質のみが集約する。

 そこに推進ノズルが、防御スクリーンが合体する。


「アンチマテリアルプリズン。何故技名を叫んだかって? あんたに絶望を与える為よ」


 偽ソフィアが腕を振った。

 それらの平面がガガーランド隊長を囲った。


「攻撃ではない?」

「ご名答」

「おっさんと話していると口臭が移りそうだからここでお別れよ」

「閉じ込めるつもりか? 貴様ああ……」


 ガガーランド隊長の叫びが途中で消えた。音波が完全に断絶した。

 ガガーランド隊長を包んだその反物質の平面は監獄。牢獄。墳墓。

 その直後、そこに大量の瓦礫が雨のように降り注ぐ。

 そこに巨大な瓦礫の山が現れた。


 ガガーランド隊長は無人戦闘機の瓦礫の下に捕らわれた。

 いくら屈強のタフガイといっても超重量から抜け出せるはずがない。

 しかもそこは反物質で覆われた玄室。

 更にその上には大質量の無人戦闘機の瓦礫。

 更に更にそれをエネルギーフィールドで囲い込む防御スクリーン。


「そこで大人しくしてなさいな。お呼びじゃないのよ」


 ソフィアの演算ボディが瓦礫を纏ったままそう言った。


 王国最強の男ガガーランド隊長と瓦礫の女王ソフィアの戦いはソフィアの勝利で終了した。


お読みいただきありがとうございました。

誤字脱字修正いたしました。

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