04 ダークフォレスト回廊の殲滅戦
「この数は予想以上だね」
艦橋に表示される敵艦の数は三万。
それは想像を絶していた。
圧倒的敵艦数に言葉を失うドッキー艦長。
「リーマイ副官の宙域鑑定で待ち伏せの防衛艦隊を幾つかやり過ごしたのですが、この大回廊は迂回できません」
「まさかここまでの規模の艦隊が配備されているとは魔族も気合いが入っているねえ」
「やはり我々の作戦は筒漏れだったようですね。事前情報なしでは配備できません」
「ああ、そうだね」
ドッキー艦長は艦長席に深く身を沈めた。
「何も知らない主力艦隊がここを通ったら?」
リーマイ副官が眼鏡型情報端末を掛け直した。
「まあ、全滅ですね」
サララが冷酷に伝えた。
「そうだね。何も知らなければ。だが僕たちは既に知っている。サララ次元ステルス解除。戦闘準備」
「え?」
「……艦長。その前に問題発生です」
「なんだい?」
サララの言葉にドッキー艦長が眉をあげた。
「航法支援システム……ディープポセイダルが作戦遂行を拒否しました」
サララが頭を抱えた。
「あー、システムAIの一人が、三万の艦隊に拒否反応をしたか?」
ドッキー艦長が頭を抱えた。
「続いて火器支援制御システム……マーズフォボスが射撃拒否」
「戦いもせず任務放棄とは羨ましい限りだね。僕も見習いたいよ」
「あら? いつもそうしているじゃありませんか?」
リーマイ副官がドッキー艦長を睨んだ。
「ひどいよ。僕はこれでも頑張って働いているほうだよ。これ以上働いたら死ぬ」
「艦長が頑張っているのと同様に私も頑張っていると思いませんか?」
リーマイ副官が眼鏡型情報端末を掛け直した。
「え?」
「アイテムボックスという非常識なスキルのせいで私の精神は崩壊寸前、常識が音を立てて崩れていくんですが? まるで温暖化に喘ぐ氷山のように」
「それは苦労をかけるねえ」
「かけないように努力してください」
「イチャラブ禁止令発令。そんなことよりも全ての支援AIが作戦遂行拒否。自我がオーバーフローしたようです。どうするんですか?」
サララが艦長とリーマイ副官を振り返る。
「AIが敵前逃亡とはねえ」
「まあ、あの数の敵に立ち向かうのは自殺願望がある者だけですからね」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末に三万の光点が映る。
「支援AIにとっては、ここからの戦いはシステム精神に恒久的ダメージが残るかもしれない。切り離してやれ」
ドッキー艦長がサララに命じた。
「え? 支援AIを切り離しますがその処理はどういたしますか?」
「その不足分はサララが補ってくれればいいよ」
「え? そんなことしたら空間演算器が壊れますが?」
「壊れたら新しいのをあげるよ」
「やります。新しい演算器のために複雑な演算して、壊します」
サララが大きな声で返事をした。
「その意気だ。ではベーゼスバーサクモード」
ドッキー艦長が立ち上がり、指を掲げた。
「え? ベーゼスバーサクモードですか?」
サララがドッキー艦長を振り返る。
「ああ、アポロン工廠の連中からはベーゼスの砲身耐久テストをしてくれと、頼まれているんだ」
「はあ。壊れたらどうするんですか?」
リーマイ副官が首を傾げた。
「新しいのに交換するだけだよ」
ドッキー艦長がニヤリと笑った。
「ゼーベスの砲身の予備があるのですか?」
「ああ。というわけで砲身が焼ききれても折れても構わん、バーサクモード」
「「オンビット」」
リーマイ副官とサララが姿勢を正した。
同時に超弩級戦艦サンダーゲートから、巨大な小型艦が飛び出した。
それは小型艦ではない。異様に長い船首。大蛇のような巨大なパイプに包まれたジェネレーター。そして放射状に広がった真空冷フィン。
そう、これが超弩級戦艦サンダーゲートの下級副砲ゼーベスだった。
「防御スクリーン部分解除。ゼーベス射撃位置まで前進」
ゼーベスが防御スクリーンの外に飛び出すとサララの命を受け、整列した。
「超弩級戦艦サンダーゲートの次元ステルス解除。アンビエントジャミング開始。未来予測演算開始」
宇宙空間にアンビエントジャミングが実行され、宙域が乱れ、回廊内での遠隔通信が不可能となった。
アンビエントジャミングはあらゆる瞬間通信を妨害する。
だがそれは諸刃の刃。
敵も味方も通信不可能となるのだ。
だが超弩級戦艦サンダーゲートの下級副砲ゼーベスのデータが漏れることはない。
「未来予測演算完了。敵艦未来位置座標にロックオン。連続掃射に備え第十次掃射までの未来予測終了」
「サララちゃん早い」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末にオールクリアを表すグリーンの光点が並んだ。
「さすがサララ。支援AIなんて必要ないな」
ドッキー艦長がサララを褒める。
「……演算器の耐久無視してますからね。でも支援AIは必要ですけどね」
サララが小声で答えた。
「ベーゼス発射」
ドッキー艦長が手を振り下ろした。
「オンビット。下級副砲ベーゼス連続掃射バーサクモードで発射」
リーマイ副官が復唱すると同時に超弩級戦艦サンダーゲートのジェネレーターから送り出された高純度破壊エネルギーが下級副砲ベーゼスの砲門に近距離転移し、その内部で亜光速まで加速され、アインシュタインスルーによって光速限界を超えて、解き放たれた。
バーサクモード。その名の通り、凶暴化した攻撃は自重も遠慮も、出し惜しみもない。
最大出力で発射された下級副砲ベーゼスのその凶暴エネルギーは光の線ではない。
弧を描く暴発する光の面だ。
光速で絶え間なく掃射され、線が繋がり、面になる。
凶暴化エネルギーの一次元から二次元への昇華。
無限の空間をアイシュタインスルーによって光速を突破した死の閃光は戦艦級魔物の防御スクリーンを一瞬で粉砕する。
同時にその赤黒いグロテスクな本体を蒸発させた。
その背後に布陣していた他の戦艦級魔物を巻き込み、喰らい、爆ぜ、両断した。
破壊の光の平面は敵艦隊を薙ぎ払い、殲滅し、この世から原子一つ残さずエネルギーに変えた。
こうして超弩級戦艦サンダーゲートは魔王軍の支配宙域の門を派手に叩いたのだった。
「なんとまあ」
その死の蹂躙がリーマイ副官の眼鏡型情報端末に輝きを残す。
誤解のないように言っておくが、決して戦艦級魔物の防御スクリーンが脆弱なのではない。戦艦級魔物の強固な船壁脆弱なのではない。
下級副砲ベーゼスの威力が強すぎるのだ。
セオリーならば、防御スクリーンは同程度、同出力の攻撃ビームを防ぐ。
防げなかったということはそれ以上のエネルギー量があったということだ。
つまり下級副砲ベーゼスの攻撃は戦艦級魔物の防御スクリーンの何倍も強力だったのだ。
しかもただの掃射ではない。砲身の耐久を無視したバーサクモードでの掃射だ。
魔王軍の防御スクリーンなど凶暴化したベーゼスにとっては紙屑同然だった。
ベーゼスの射線上にいた時点でその戦艦級魔物の運命は尽きていたのだ。
そもそもサララの未来予測の前では回避不可能である。
いずれにせよ戦艦級魔物は消滅以外選択肢がなかった。
「敵艦想定撃破、撃破数報告不可」
艦橋に浮かぶ想定撃破数がもの凄い速度で上昇していく。
「ジェネレーター供給近接転移済み、砲身温度想定内」
「まだ撃てるな」
「はい」
「では撃て」
下級副砲ベーゼスによる蹂躙は終わらない。止まらない。
第二射が放たれ、数百、数千の戦艦級魔物が原始に帰された。
宙域は突如出現した恒星に匹敵するエネルギービームにより宇宙塵が蒸発、ガスとプラズマと中性子で溢れた。
淡い灰色のガスは戦艦級魔物だったもの。塵だったもの。どちらでもいい。
いずれにせよ下級副砲ゼーベスの威力の前では塵と化すだけだった。
「あのう艦長、ベーゼスの下級副砲って名前を変えた方がよくないですか?」
サララが戦艦級魔物を次々と屠りながらそう言った。
「確かに下級というレベルを超えているしね。防御スクリーン意味ないし」
防御スクリーンはあらゆる物理攻撃、エネルギー照射を防ぐ最強の盾だった。
だが攻撃兵器もまた最強の矛であり、あらゆる防御スクリーンを貫通する。
高度に発達した科学技術によって攻撃と防御のバランスが拮抗した。
何度も言うように同程度の攻撃兵器では同程度の防御兵器を打ち破れない。
真空中は何もない訳ではない。
塵もガスも、小石も砂もある。
従って広大な宇宙を進む攻撃ビームは減退する。
防御スクリーンに到達する前に威力はかなり落ちている。
だが下級副砲ゼーベスはどうだ?
威力が落ちたか? その通り落ちていた。
だがそれでも戦艦級魔物の強固な防御スクリーンを貫くだけのエネルギーを保持していた。減退してもこれだ。
至近距離ならば考えるだけでも恐ろしい。
「それにしてもサララちゃん、外さないわね」
リーマイ副官が消滅する戦艦級魔物を眺めながら呟いた。
「そりゃ未来予測してますから。演算器が悲鳴を上げながら」
「だが未来予測も百パーセントじゃないだろう。支援AIもなくてこの命中度。素晴らしい」
「へへへ。もっと褒めるのですよ」
サララが照れた。
通常、遠距離からの攻撃は標的に当たらないのだ。
アインシュタインスルーによって光速を超えて飛ぶ戦艦に当てるのは至難の業なのだ。
だがサララは外さない。
それがどれほどの精密射撃なのか、説明するまでもないだろう。
「私の知っている艦隊戦じゃない」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末がずれた。
「中和ロッドでチャンバラするよりも、遠く離れた所から攻撃できるならそれに超したことはないよ」
ドッキー艦長が何度も頷いた。
通常の艦隊戦では遠距離から攻撃ビームを打ち合うだけでは勝負はつかない。
だから互いに接近し、船首の中和ロッドで相手の防御スクリーンを中和し、近接格闘戦に持ち込むのが艦隊戦のセオリーだ。
だが今はそのセオリーを完全に無視していた。
「たった一艦でこの破壊料。この艦が王立宇宙軍の主力となった暁には……」
リーマイ副官が大きな目をさらに見開いた。
「魔王軍など相手にならない」
サララが笑った。
「だけどサンダーゲートの量産は難しいだろうねえ」
ドッキー艦長は残念そうに首を振った。
「何故ですか? 一度作れた物は複製できますが?」
「僕が一人しかいない」
ドッキー艦長が胸を張った。
「二人もいたらたまらないわ」
「たしかに」
リーマイ副官とサララが肩をすくめた。
「これがベーゼスのバーサクモード」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末にデータの海が光る。
下級副砲ベーゼスのバーサクモードとは、遠慮も自重も出し惜しみもしない全力照射だ。
砲身やら、エネルギーバイパスの耐久を無視した文字通りの狂気の乱射。
暴走した死の面光が宇宙空間を驀進し、その進路上にある全ての物質を溶かし、喰らう。穿つ。後先考えない狂気の沙汰。
「艦長、戦艦級魔物からの攻撃ビームです。ベーゼス照射中につき回避不能」
「この距離ならば、わざわざ回避しなくてもいいだろう」
「そうですね。念のため着弾予測領域の防御スクリーンを限定強化。受けます」
戦艦級魔物から無数の生体攻撃ビームが広大な宇宙空間を一瞬で走破し超弩級戦艦サンダーゲートの防御スクリーンに直撃するも僅かに防御スクリーンを僅かに熱しただけだった。
「防御スクリーン損傷ありません。ベーゼスの砲身限界値が判明、射撃エネルギー密度を弱めに再調整できますが?」
「構わん、このまま撃ち続けてくれ」
「オンビット。あら? 十二番ベーゼス制御不能。砲身破裂。自爆装置起動。自壊します」
艦橋に表示されていた下級副砲ゼーベスの三次元立体映像が砕け散った。
「敵艦隊、陣形変更。囲まれました。全方位からの敵戦艦級の生体攻撃ビームを確認。既にアインシュタインスルーにより光速限界突破。航法支援システム再起動……失敗。私が回避行動しますね」
サララの実況と同時に全方位からの生体攻撃ビームがサンダーゲートの防御スクリーンを明滅させた。
忘れてはならない。超弩級戦艦サンダーゲートは敵艦隊のど真ん中に鎮座しているのだ。
下級副官ベーゼスによって数千隻が撃沈したが、敵は星の数ほど存在しているのだ。
焼け石に水だった。
周囲の光は星ではない――全て敵なのだ。
その星の光のような無数の敵から放たれた純粋破壊エネルギーがアインシュタインスルーによって光速制限を超え、何光年もの膨大な距離を一瞬で踏破。
何千、何万本という破壊の権化が超弩級戦艦サンダーゲートに降り注いだ。
「回避負荷の攻撃ビーム数、百万」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末に死の宣告が表示された。
「艦長このままでは?」
リーマイ副官は自身のスキル、宙域鑑定により誰よりも詳しくこの状態を把握している。
「凄い数だねえ。サララ。回避」
ドッキー艦長はいつもの半笑いで命じた。
だが一体どこに回避するというのだ?
ダーレンゲート前方のダークフォレスト回廊内は敵戦艦級魔物が放つ生体攻撃ビームの光線で埋めつくされていた。逃げる隙などありはしないのだ。
「オンビット。総員、シートに体を固定せよ」
サララが声高々に腕を振った。
敵艦からの攻撃ビームは蜘蛛の巣状に溢れ、超弩級戦艦サンダーゲートの逃げ道を塞いでいた。
だがドッキー艦長の脳天気な表情は変わらない。
巡らされた光の糸の合間を縫って超弩級戦艦サンダーゲート邁進する。
時折、超弩級戦艦サンダーゲートの一次防御スクリーンが発光する。
だが、ただそれだけだ。戦艦級魔物が発した破壊エネルギーは防御スクリーンの反転フィールドによって吸収され、膨大な光子に変換されただけだ。
数万、数十万の攻撃ビームが数えるほどしか命中していないのだ。
そうサララが駆る超弩級戦艦サンダーゲートはありない回避性能を披露していたのだ。
異常だった。信じられない動きだった。
リーマイ副官の宙域鑑定とAIサララの巨大な演算ユニットから予測された未来軌道。
なんと超弩級戦艦サンダーゲートが小型戦闘機のような曲芸飛行を行っているのだ。
慣性を無視したカッティングエッジ航法により、全長六百メートル越えの巨体が迫りくる生体レーザーの板状の攻撃をかわす。回る。躍る。戻る。
突然、真横にスライドしたかと思えば、なんの予兆もなく後進する。
そして下級副砲ゼーベスが咆哮する。
下級副砲ゼーベスの砲身が焼き切れ、自壊するも、その何百倍物の戦艦級魔物を屠っているのだ。
カッティングエッジ航法は加速も減速もない。下級副砲ゼーベスは超弩級戦艦サンダーゲートと共に疾駆疾走していた。
圧倒的に有利なはずの魔王軍の戦艦級魔物がエネルギー切れを起こし、防御スクリーンの維持が不可能となり、下級副砲ベーゼスの的となり消滅した。
異常な光景だった。こんなことはあり得ないことだった。
たった一隻の宇宙戦艦に魔王軍の誇る大艦隊が翻弄されているのだ。
何が起きているのか?
あの小型機のような機動性能。
戦艦級魔物の強固な防御スクリーンをぶち抜く異常な攻撃力。
そして難攻不落の防御力。
それを維持し続ける圧倒的な持続力。
あの戦艦はなんだ?
人類側の何らかの新兵器なのか?
魔王軍側は混乱の極地にいた。
あんな小さな船一隻破壊できないのだ。
いくら超弩級戦艦といっても積載燃料には限界があるはずだ。
これだけの激しい回避運動を見せ、圧倒的な攻撃を行い、強固な防御スクリーンを展開していれば、すぐにエネルギー不足に陥るはずだ。
だがしかし人類側の超弩級戦艦は依然健在だった。
魔王軍はこの船の艦長が誰なのかを知らない。
その艦長のユニークスキルを知らない。
その副官のユニークスキルを知らない。
その船を操舵するAIの正体を知らない。
アイテムボックスのスキルを持つ艦長がいることを知らないのだ。
魔王軍の多くはそのこと理解することなく原始に還元されていった。
「艦長、そろそろお願いしてもいいですか?」
リーマイ副官がドッキー艦長を見た。
「え? 何を?」
ドッキー艦長が首を傾げた。
「艦長にしかできない仕事ですよ」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末が光る。
「ええ、トイレ掃除?」
「それは艦長にお似合いの仕事ですね。ふざけないでください」
「ええ? どうしようかな?」
ドッキー艦長がやる気のない態度で答えた。
艦橋の浮遊モニターに警告灯が灯る。
「防御スクリーン維持時間あと僅か、下級副砲ベーゼス限界突破」
サララが叫んだ。
「ではバーサクモード強制停止」
下級副砲ベーゼスがバーサクモードの白熱化した砲身が宇宙の絶対零度で一気に冷却され、真空冷フィンが花のように開き、プラズマが舞う。
「持ち帰らないとアポロン攻防の皆に怒られる。回収しろ」
「オンビット」
そして超弩級戦艦サンダーゲートの防御スクリーンが限定解除され、下級副砲ベーゼスが収納された。
「下級副砲ベーゼス収納完了。砲身取り換え、データ解析。メンテナンスに入ります」
下級副砲ベーゼスがドッグ入りし、分解しメンテナンスが開始される。
超弩級戦艦サンダーゲートには整備士はいない。
従って全てサララとメンテナンスアームズによってオートメーション化されている。
敵の戦艦級魔物の攻撃を浴びながらも、これらの作業は自動的に実行される。
だがしかし、それよりもここは敵のど真ん中。
艦橋では警告ランプが瞬き、エネルギー備蓄切れの警告音が不快なリズムを刻む。
「艦長。さっさと出してください」
「もう少し後でいいかな?」
ドッキー艦長が手をひらひらさせた。
「艦長、このままでは危険です」
サララが珍しく眉間に皺を寄せた。
「仕事してもいいんだけど、最近僕に対する態度がなんか、ちょっと気になるんだけどなあ? 僕はこれでも艦長だよ? そこのところを分かってるかい?」
ドッキー艦長がニヤニヤと笑みを浮かべた。
「うわ。性格悪い」
サララが後退った。
「艦長、大人気ないですよ」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末が光った。
「君らは艦長の僕に対する尊敬が足りない。愛がない。優しさがない」
ドッキー艦長が両手を広げ、自分の胸に手を当てた。
「では愛されるように、尊敬されるように頑張ってください。サボらないとか、寝ないとか」
リーマイ副官が面倒くさそうに言った。
「うっ。それは無理」
ドッキー艦長がふらついた。
「艦長。さっさと行ってください。怒りますよ」
「わ、分かったよ、行ってくる」
リーマイ副官に睨まれたドッキー艦長が艦橋を後にした。
「いってら」
「頑張ってくださいね艦長」
サララとリーマイ副官が笑みを浮かべた。
ドッキー艦長は無重量シリンダーを垂直に落下し、幾つものセキュリティーゲートを通り抜け、超弩級戦艦の最深部、最も重要で最も機密エリアに向かった。
そしてこの分厚いセキュリティーゲートは艦長以外には開かない。
ここは超弩級戦艦サンダーゲートで最も重要な領域。
秘密エリア。
だがそこには何もなかった。
あるのはメンテナンスアームズと空のコンテナがあるだけだった。
「さて、部下の尊敬を勝ち取るために頑張りますか。それで数は?」
ドッキー艦長が天井を見上げながら言った。
「沢山です」
「え? もっと具体的な数を言ってくれると助かるんだけど?」
ドッキー艦長が首を傾げた。
「有りっ丈全部出してください」
サララの声が響き渡った。
「ええ? 全部出してもいいのかい? でも全部出したら、僕が干乾びちゃうんだけど?」
ドッキー艦長が肩をすくめた。
「艦長。真面目にやってください」
リーマイ副官の冷静な声が響き渡った。
「冗談が通じないなあ」
ドッキー艦長が首を縦に振り、アイテムボックスから何かを取り出した。