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31 シルフアルケミー解放

「なんて?」

「ちょっと待ってください?」

「直接ってどういうことですか?」

「え? そのまま言葉通りだよ。時間がない」


 ドッキー艦長はアイテムボックスからエネルギーキューブを連結したシルフアルケミーの燃料タンクの中に直接取り出した。


「ひっ」


 ワルキューレエッダ隊員の悲鳴をよそに三機のシルフアルケミーが歓喜に震えたように震えた。

 燃料タンクに直接出現したエネルギーキューブが分解され、膨大なエネルギーに還元される。

 シルフアルケミーの燃料タンクのゲージが一気に跳ね上がる。


「艦長、各機のエネルギーチャージ完了ですのよ」

「よし、次は各種兵装を出すよ」


 そしてドッキー艦長は弾丸を、ミサイルを、各種攻撃兵器をウェポンラックの中に直接取り出した。

 シルフアルケミー達はウェポンラック内の固定アームで送り込まれた物資を固定し、自動的に装填した。

 驚くべきことにこれらはパイロットの操縦を無視して自動的に行った。

 まるでシルフアルケミーは、この補給を以前に行ったことがあるように。

 ワルキュリアエッダ隊員が茫然と見つめる中、各兵装の残弾数が最大値に達する。


「ふあ? なにこれ? 勝手に?」

「艦長? これは一体?」

「生意気すぎ」

「念のため、装甲材も補給しておこう」


 流体フルイド装甲素材が直接アーマータンクに注ぎ込まれ、シルフアルケミーの装甲値が基準値に到達する。


「シルフアルケミーが勝手に?」

「勝手に装填して? 前にこの補給を受けたことがあるの?」

「シルフアルケミーと艦長は依然に会ったことがあるの?」


 そんな彼女達の疑問に答えるようにシルフアルケミーの双発の巨大推進器が咆哮した。

 それが補給完了の合図だった。


「……これはちょっとあれですのよ」


 流石のサララも開いた口がふさがらない。


「この直接補給ならば、止まる必要もない」


 直接補給。

 アイテムボックスの中身を任意の場所に取り出す補給方法だ。

 船外宇宙服を自分の周囲に取り出すことが出来るドッキー艦長ならではの高度な芸当。

 だが信じられないことにドッキー艦長は飛行しながら、敵の攻撃を回避しながら三機のシルフアルケミーに同時に補給を行ったのだ。

 そんな事例はない。

 そもそもアイテムボックスを持つ者が皆無なのだ。

 いたとしても、こんな補給が可能なのだろうか?

 古のエクソダスの勇者は矢を味方の矢筒に直接取り出していたというエピソードが残っている。

 しかしこれはそれとは比べようにならない高度な技術だった。

 つまり冷静に考えればドッキー艦長は古の勇者を凌駕しているということだ。

 だがその驚愕の事実を受け入れることは出来ないのか、それともその補給方法に生理的に乙女的に受け付けないのか? ワルキューレエッダ隊は頬を染めた。


「ほ、補給完了だな。リリリリダツしても?」


 エストス機が慌てて、離れた。


「も、ハハハハナレテもういい?」


 ウナ機がよろめきながら、離れた。


「いきなり中に出すなんて、ナナナナナマイキだぞ」


 レガード機が離れた。


「これ、かなり難しんだよ? シルフアルケミーの構造を理解してないと内部から壊しかねない極めてデリケートな作業なんだよ。しかも三人同時に相手に出来るなんて僕くらいなものだよ。ねえ聞いてる? 補給物資を出していただき、ありがとうございました……の一言もないのかい?」


 ドッキー艦長は頬を膨らませた。


「艦長。それ以上の発言は誤解を招きますよ」


 リーマイ副官が遠く離れたサンダーゲートからそう言った。


「キモイですのよ」


 サララが冷たく言い放った。


「え? どこが? 一生懸命やってる僕にそれはないだろ?」


 ドッキー艦長攻撃ビームを放った。

 エストス機がノーズアタックで無人戦闘機を切り裂いた。

 ウナ機がノーズを傾けながら融合弾頭を放った。

 巨大な融合爆発半径が広がり、その爆球内部にいた無人戦闘機を分解する。


「融合爆弾はオーバーキルですのよ」


 サララがウナをたしなめた。


「ウナ。腹いせに戦略兵器を使用するな」


 エストスが隊長だった時のように命じた。


「あわわ、す、すいません」


 ウナ機が恥ずかし気にノーズを傾けた。


「あの艦長。補給ありがとうございました。皆も感謝を伝えろ」

「あ、ありがとうございます。補給係の人」

「あ、ありがとうございます。生意気の人」


 エストスの命令に応えるウナとレガード。


「よろしい。最初からそういう態度をして欲しかったな」


 ドッキー艦長は目を閉じて頷いた。

 無人戦闘機の攻撃ビームが直撃した。

 だがドッキー艦長のアイテムボックスに収納される。


「イチャラブ禁止。ほら前方、新手です。SA……クラッシュタイタン三型ですのよ」


 サララが前方を指さした。

 クラッシュタイタン三型、それは巨大魔族用特化人型兵器。


「デスブリンガーモード……B。アクマゴロシ無しで突っ込むぞ」

「「「OB」」」


 ドッキー艦長の駆るシルフアルケミー零番機の双発のエンジンが本体に引き込まれ、その流体フルイド装甲が変形し、融合し、一振りの剣のような形状にその姿を変えた。


「Bモードのことも知っているんだ。生意気に」


 レガードが頭を抱えた。


「ドッキー艦長の懐の深さは艦長という官職に収まることはない」

「もう聞くのも馬鹿らしいですよね」


 レガードとエストス、ウナが諦めたようにシルフアルケミーの形状を変えた。


「「「デスブリンガーモードB」」」


 デスブリンガーモード、それはアインシュタインスルーによって光速限界を越えた無限の運動エネルギーを有した凶悪な兵器である。

 そう、シルフアルケミー自体が巨大な剣デスブリンガーソードなのだ。

 クラッシュタイタン三型が背中の巨大反物質ソードを抜刀し、シルフアルケミーを睨んだ。

 だがしかし、クラッシュタイタン三型の反物質バスターソードなど、シルフアルケミーのデスブリンガーソードとは質量が違う。規模が違う。格が、品が違う。

 まるで相手にならない。


「各機、セーフモード解除。出力二割り増し」

「「「「OB」」」

「真のシルフアルケミーの力を見せてやれ」

「はっ」

「はい」

「ああ」


 ドッキー艦長の言葉に三人が頷いた。


「出力二割り増しでも、体感速度が大幅に上昇します。メンタルブラックアウトに注意ですのよ」


 サララが警告する。


「「「OB」」」


 シルフアルケミーが加速を省略しながら加速した。


「くっ」

「この速度?」

「速すぎる」


 ドッキー艦長の駆るシルフアルケミーを追いかけるように三機のシルフアルケミーが飛んだ。


「上出来だ。このまま突っ込むぞ」

「「「OB」」」


 真っ赤に燃え盛る四機の剣状シルフアルケミーがクラッシュタイタン三型の軍勢に突っ込んだ。

 クラッシュタイタンが巨大な盾を構えた。

 その盾は分厚い戦艦の船壁そのものだ。

 巨大な反物質ソードを構えたその姿は恐怖を抱かせる。

 だがしかし、クラッシュタイタン三型の自慢の反物質ソードが披露されるその前にその強固な盾を砕き、頑丈なボディを切り裂き、貫き、へし折り、粉砕した。

 反物質ソードが反物質を雲散させ、ただの破片となって宇宙空間に消えた。

 人類が誇る強力無比の人型SA軍は一瞬のうちに瓦礫と化した。


「クラッシュタイタン三型。全機戦闘不能……想定撃破」


 サララの冷静な報告がシルフアルケミーのコクピットに響いた。


「ああ、もったいない。一機ぐらい収納しとけばよかった」

「それは泥棒ですのよ」


 ドッキー艦長の後悔する言葉にサララが注意する。


「壊すのと一緒じゃない?」

「違うのですのよ。艦長でしたらアポロン工廠で造って貰えるのでは?」

「そうだねえ、今度アイテムボックス特化仕様のSAでも頼んでみようか」

「うわ、それ、想像しただけで戦いたくありませんですのよ、無限銃とか勝てる気がしないのですのよ」


 サララが眉に皺を寄せているとコクピットモニターに赤い光点が瞬いた。


「……という訳で敵の増援ですのよ。無人戦闘機……その数……数万」

「このまま突っ込むぞ」

「「「え? OB」」」


 四機の炎の剣は止まらない。

 敵の増援部隊と一瞬で皆合する。

 シルフアルケミーは邪魔するものを全て破壊しながら真っすぐ突き進む。

 直角に折れ曲がる。後退する。ランダム軌道で暴れる。粉砕する。壊す、叩き潰す、捻じ曲げる。真っ二つに折る。

 なんでもいい、どんな表現でもいい、四機のシルフアルケミーはそのまま、歯向かう無人戦闘機を破壊し続け、遂には数万の無人戦闘機を狩りつくした。


「戦闘宙域内の無人戦闘機……想定撃破」


 サララが一息を入れた。


「そのようだね」


 ドッキー艦長が周囲を見渡した。

 動く敵はいない。

 ドッキー艦長達に敵対する存在は全て消滅した。

 破壊された。駆逐された。粛清された。

 この宙域に存在するものは現在、ドッキー艦長達以外は破壊された瓦礫だけだ。

 残骸が漂い。瓦礫が、ガスが慣性のまま漂っているだけだ。

 破壊の爪痕は災害級。


「……それにしても」


 エストスが宙域を見渡し、漂う無人戦闘機の成れの果てを見て。


「これが無人戦闘機で良かった」


 と安堵の息をついた。


「でもこれ、やり過ぎじゃ?」


 ウナが首を傾げた。


「生意気に歯向かうからだ」


 レガードが舌打ちした。

 ドッキー艦長と彼女達が孤軍奮闘した結果、宙域は地獄のような光景と化していた。

 艦隊戦の後のような凄惨な戦場跡だった。


「もう敵に見つかったし、このままビッグメンター要塞に直接向かうとしよう」


 ドッキー艦長が背筋を伸ばして、指をほぐした。


「あれ? 艦長。ちょっと待って欲しいのですのよ」

「どうしたサララ?」

「それが……無人戦闘機の残骸の様子がおかしいのですよ」


 サララがコクピットの映像を指さした。


 無人戦闘機の残骸は破壊時の運動エネルギーを保持したまま宇宙空間を漂っていた。

 だがその中の一つが、なんと進路を変えたのだ。

 進路を変えるにはそれ相応のエネルギーが必要だ。

 推進器が必要だ。それを動かす為の燃料が、それを制御する演算器が必要だ。

 だがしかし、破壊された無人戦闘機はその全てを消失している。

 推進器は完膚無きまでに破壊尽くされ、燃料となるエネルギーキューブは宇宙空間に雲散していた。演算器は空間論理回路ごと焼き切れ、システムレベルで消滅していた。

 動くはずがない。

 それなのに無人戦闘機が突如、進路を変えたのだ。


「爆発の余波で動いたように見えただけとか?」

「それが物理法則を無視しているように見えるのですのよ」

「まるで艦長みたいだね」


 ウナが楽しそうに首を傾げた。


「無人戦闘機の中にまだ生きている奴がいるのか?」


 エストスが瓦礫に向かって攻撃ビームを放った。

 回避行動も行われず、消滅する無人戦闘機。


「いえ、ジェネレーター反応無し。演算周波数無し。現在起動している無人戦闘機ありません」


 サララが不思議そうに唸った。


「要塞からリモート操作されているとか?」


 レガードが機体を反転させ、周囲を伺う。


「融合弾でも撃っとく?」


 ウナが楽しそうに首を傾げた。


「艦長。正面、瓦礫接近。緊急回避」


 突然。ドッキー艦長の操るシルフアルケミーの前に、無人戦闘機の巨大な船壁が飛び出した。

 シルフアルケミーのウェポンラックの機銃が咆哮し、眼前の瓦礫を粉々に粉砕した。

 その残骸の間を抜けた三機のシルフアルケミーがドッキー機に並んだ。


「艦長。進路確保ありがとうございます」


 エストスが頭を下げた。


「これって偶然かな?」


 操縦桿を握りしめたウナが首を傾げた。


「いえ、それが他の残骸も我々の進路上に移動しているのですのよ」


 サララが更に唸った。


「ここは敵の演算制空権の中だ。レガードの言うようにトラクタービームによる遠隔操縦の可能性は?」


 ドッキー艦長が肩に乗るサララに確認する。


「トラクタービームによる遠隔操作の兆候無し。通信、重力反応無し。そもそも通信機も、推進器も完全に破壊されているのですのよ。動くはずがありません。有り得ない。その一言ですのよ」


 サララが匙を投げた。


「なんだろうね」


 ウナが不安そうに首を傾げた。


「ただの瓦礫のくせに生意気だ」


 レガードが舌打ちした。

 そうしている間にも、不気味に躍動する瓦礫。

 無言で不気味にドッキー艦長達の行く手を遮るように集結する無人戦闘機の残骸。

 明らかに異常な光景だった。


「艦長。これは一体?」


 エストスが初めて不安そうな声を出した。

 推進器もないのに勝手に動いているのだ。

 完全に物理法則に反していた。

 そしてもはやそれは偶然の域を脱していた。

 まるで何かに導かれるように、ある一つの意思の元に動いているしか思えない動きだった。

 エストスにとってもこんなことは初めての現象だった。


「動くはずのない残骸が動いている。しかも意思を持って動いているように見える……」


 ドッキー艦長はそこで一旦言葉を切った。


「どこかにネクロマンサーがいるな」


 ドッキー艦長が静かに言った。


お読みいただきありがとうございました。

大まかなストーリーに変更ありません。

分割しました。

誤字脱字、読みやすいように修正しました。


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