29 シルフアルケミー零番機
反乱軍の大艦隊の星の中を驀進する四つの閃光。
ただ実直に、ただ真っすぐ己の道を突き進む。
そして減速も加速も省略し直角に折れる光の軌跡。
そんな挙動が許された機体は一つしかない。
そう発掘されし古代戦闘機シルフアルケミーだ。
「艦長。一つ質問あるのですが?」
エストスが大きな瞳に星々の再現映像を映しながら遠慮がちにそう言った。
「それだけは言えない」
ドッキー艦長は操縦桿を握りながらエストスが言い終わる前にそう答えた。
「なんで艦長がシルフアルケミーを持っているのですか?」
「こんなのおかしいですよ」
「顔も髪型もおかしいですのよ」
「しかもなんで操縦できるのですか? 非常識過ぎです」
「この人に常識を求めてはいけないのですのよ」
「それに艦長が乗っているシルフアルケミーって零番機ですよね?」
「零番機? それってオリジナルシルフアルケミー?」
「失われた伝説の機体です」
ワルキューレエッダ隊が共有瞬間通信で矢継ぎ早に疑問を口にした。
「艦長。皆の納得がいく説明が欲しいのですが?」
イリアスが皆を代表してドッキー艦長を問い詰める。
「えっと、これは、そう銀河辺境の今はなきジャンク屋で偶然見つけたんだ」
ドッキー艦長が操縦桿から手を離し頭を掻いた。
「ほほう。どこのジャンク屋ですか? それに普通は飛ばせませんよ。操縦桿ベースの旧式の操縦方法なんですから」
イリアスが大きな目で大きな声を上げた。
「皆、落ち着け。艦長のプライベートは詮索しないのが約束だったはずだ」
エストスが隊員達をなだめる。
「ですが」
「これは未発見のシルフアルケミーですよ」
「しかも何故か新品同様だし」
「必死に磨いたんだ」
「シルフアルケミーは流体フルイド装甲ですから磨く必要ありませんが?」
イリアスの追求は止まらない。
「イリアス。そのくらいにしておけ。艦長が困ってらっしゃるぞ」
「隊長は艦長に甘いです」
そのイリアスの言葉にウナが同感だというように首を大きく縦に振った。
「シルフアルケミーを飛ばせるなんて生意気だ」
レガードが呻いた。
「だから、この人のことはあまり深く考えてはダメですのよ。艦長は文句の多い倉庫だと思えば溜飲も下がるというものですのよ。物理法則とかエントロピーとか常識とか皆無ですのよ」
サララの言葉にドッキー艦長は眉をしかめた
「サララ。外に放り出すぞ」
「いいですのよ。この身体はただの分身体ですし、それに私がいなくて困るのは艦長ですのよ」
「はいはい。そこまで。作戦をおさらいします」
遠く離れたサンダーゲートの艦橋でリーマイ副官が眼鏡を直した。
「イリアス機に偽装した艦長機、エストス機、ウナ機、レガード機は機体損傷を装い、ビッグメンター要塞を守護する三基のトールハンマー要塞……通称トライスターのどれかに緊急着艦で侵入」
トライスターまでの最短予測進路がドッキー艦長のコクピットモニターに表示された。
「そしてサララが演算戦を仕掛けシステムを掌握し、防御スクリーンを解除。できればトライスターの主砲も同時に沈黙させてください」
「「「OB」」」
全員の気合の入った返答が響いた。
「その後、防御スクリーンが消失したビッグメンター要塞へ侵入。演算室を制圧。演算制空権の奪取……」
リーマイ副官が一呼吸置いて続ける。
「その後、直接主星プリンセスガーデンに向かい女王陛下をお救いします」
「「「OB」」」
「一方のイリアス達は最速でサンダーゲートに合流。ラストディフェンダー艦隊の防衛戦に参加してください。ちなみに既にワルキューレエッダ隊の受け入れ準備は整っています。第一ハンガーデッキをシルフアルケミー専用デッキに改装中です」
「ありがとうございます」
サンダーゲートに向かって飛行しているイリアス達のシルフアルケミーが了承した。
「あと、なるべく瞬間通信は控えるのですのよ。私の秘匿通信は基本、解析不能ですがビッグメンター要塞が本気を出せば、一瞬で解読される恐れがあるのですのよ」
サララが注意を促した。
「最後に反乱軍の鑑定能力保持者が、宙域鑑定しないことを祈りましょう」
リーマイ副官が目を細めた。
そう反乱軍にはリーマイ副官と同じ鑑定能力者がいる。
光速で飛行するドッキー艦長に攻撃を命中させた者がいるのだ。
「艦長。他に何かありますか?」
リーマイ副官が儀礼的にドッキー艦長に伺った。
「僕からは一つだけだ。敵は敵であって敵じゃない。反乱軍は敵だが同じ王国民だ。無益な戦闘は避けるように」
ドッキー艦長がそう希望を伝えた。
「一番好戦的な艦長が言っても説得力がないのですのよ」
「え? 温厚な僕になんてことを」
「人員損失により艦長の労働が増加するのを避けたいだけですよね?」
「勿論それは否定しない。だがこんなの命を賭けるような戦いではないよ」
「……」
「……艦長」
その一言にワルキューレエッダ隊の面々は言葉を失った。
今、こうして翼を並べて飛行しているが、彼女達とドッキー艦長は激しい戦闘を繰り広げていたのだ。
彼女達の心にドッキー艦長の言葉が響いた。
「エストス隊長。艦長をしっかり見張っててくださいね」
「なっ。私がか?」
突然のリーマイ副官の言葉にエストス機の進路がずれた。
「はい。艦長は見張ってないと、すぐサボりますから」
「O、OB。了承した。リーマイ副官」
「隊長。良かったですね。これで堂々と艦長のこと見つめることができますよ」
ウナ機がエストス機に軽く接触した。
「そうだな。リーマイ副官の代わりに私が監視しよう」
「ちょっと待ってくれ。監視ってなんだよ。僕は一時も一瞬たりともサボってないはずだ」
「イチャラブ禁止ですのよ」
サララがドッキー艦長の耳を引っ張った。
「サララ。操縦中は危ないから触るな。シルフアルケミーの操縦は難しんだぞ。それよりなんで僕の肩に乗ってるんだよ。シルフアルケミーに同乗することは許可したが僕の肩に乗れとは言ってないはずだけが?」
「一度これに乗ってみたかったのですのよ。走れ。飛べ。ドッキー・アーガン」
ドッキー艦長の肩に乗れるほどの小型のサララが指を前に突き出した。
そう、サララは携帯空間投射コアによる触覚演算により実体化していた。
サイズが小さいのは演算リソースが足りないからだ。
そもそもAIであるサララが触覚映像で実体化する必要はない。
本体は超弩級戦艦サンダーゲートにある。
「まあサララには後でしっかり働いてもらうよ」
ドッキー艦長は顔を動かさず横のサララを見る。
「はいはい」
ミニサララは両手を頭の後ろで組んで頬を膨らませた。
「返事は一回」
ドッキー艦長は早口にでそう言った。
「それよりも艦長はこのシルフアルケミー零番機をどこから盗んだんですのよ」
そう、このシルフアルケミーのノーズには零番機と記されていた。
シングルナンバーよりも以前の機体は存在しない。
その存在しないはずの機体――零番機が存在していた。
偽装か? 偽物か? それは誰にも分からない。
だがその形状は紛れもなくシルフアルケミーだった。
一説には零番機は試作機だとも、先行ロールアウトされた実験機だと言われている伝説の存在がここにあるのだ。
だがそれではあまりにも目立ち過ぎる。
そこで既存のイリアス機に偽装していた。
今このシルフアルケミーの敵味方識別信号はイリアス機となっている。
光速で飛行する物体を光学観測することは不可能に近い。
データ観測上では正式なイリアス機にしか見えないのだ。
通常ならば見破られる可能性は少ない。
ただし、鑑定能力者に宙域鑑定されたら一発で見破られる。
「盗んだって人聞きの悪い表現だな? ジャンク屋で買ったんだよ」
「はいはい、あっ、ちょっと黙ってて艦長今忙しい、反乱軍からのアクティブ演算探査? 念の為、各機未来予測キャンセラー始動。正式信号送信済み。信頼プロトコル認証拒否? レッドマーク認定?」
サララの声にワルキューレエッダ隊に緊張が走った。
「ああ艦長。残念ながらこの機体はレッドマーク認定されました。敵識別信号が書き換えられました。反乱軍に敵機として登録されちゃいました。完全に偽装がバレました」
「反乱軍の鑑定持ちの仕業か?」
「おそらく炎の巫女様の鑑定でしょう」
エストスが目を細めた。
「ああこれで艦長の恥ずかしい女装イリアスコスがバレちゃったですのよ」
サララが楽しそうにドッキー艦長の頬を叩いた。
「女装もコスプレもしてないよ。各機攻撃マニューバオン。アクティブリンク。戦術マップを書き換えろ」
「「「OB」」」
「なんで艦長が指揮してるんですかね?」
ウナが首を傾げた。
「隊長のセリフを奪って生意気だぞ」
レガードが舌打ちする。
「私は別に構わんぞ。むしろ肩の荷が下りたように清々しい気分だ」
エストスが笑顔でそう言った。
「おっと、忘れていましたがシルフアルケミーは私のおかげで大幅に性能アップしているのですのよ。慣れるまでは無茶な行動は慎むのですのよ」
「「「OB」」」
厳密に言えばサララが行ったのはバージョンアップでははい。
どちらかと言えばバージョンダウンといえる。
古代戦闘機、発掘戦闘機であるシルフアルケミーは研究者や無知、無能の者に弄られ、本来のOSを改変されていたのだ。
それをサララが正常の状態、本来の状態に戻したという訳だ。
「未来予測照準。敵の攻撃ビームですのよ」
「各機回避」
「「「OB」」」
ドッキー艦長の駆る真新しいシルフアルケミーがコの字の軌道を描き、反乱軍の未来予測された攻撃ビームを寸でのところでかわした。
「艦長機を直接狙った。大丈夫ですか艦長?」
エストスがドッキー艦長を心配しながら攻撃ビームを回避する。
「やるじゃん、ボトム魔王」
ウナがノーズを傾けながら迫りくる攻撃ビームをかわす。
「生意気に」
レガード機が最短距離で攻撃ビームを避ける。
「ハハハ。ただの偶然だよ」
ドッキー艦長は頭を掻いた。
そう、ドッキー艦長はパイロットスーツを着用していないのだ。
今のドッキー艦長の身体にパイロットスーツなど必要がないからだ。
魔王との戦いで入れ替わったこの身体は魔力を有し、人間離れしていた。
生身で光速を突破している程人間離れしていた。
真空宇宙を生身で飛べる存在など上位魔族のみ――まさにオーバーロード。
「もっと反乱軍の奥深くまで行きたかったんだけどね。そんなに甘くないか」
ドッキー艦長達は反乱軍を甘く見ていた。
炎の巫女の鑑定能力を軽く見ていた。
その能力は光速限界を突破して反乱軍の艦隊内部に侵入したドッキー艦長に攻撃を命中させる程だ。
イリアス機に偽装した謎の機体。
消えたボトムオーガ。
演算要塞に向かって真っすぐ飛行するシルフアルケミー。
これが意味することは一つだけだ。
「狙いは正確だね。だがその分読みやすい」
そう言いながらドッキー艦長は突如出現した攻撃ビームを避けた。
「残念。避けちゃったのですよ」
ドッキー艦長の肩でサララが額に手を当てた。
「どっちの味方だよ」
「さあ。続いて無人戦闘軍発進。戦艦からの探針演算波。主砲発射の兆候あり。トリガーリンクの一斉攻撃があります。全機回避するのですのよ」
サララの警告と同時に膨大な数の、いやもはや数えることさえ無意味な膨大な攻撃ビームが四機のシルフアルケミーの未来進路上を塞いだ。
覆った。埋め尽くした。
コクピットの戦術モニターは反乱軍の攻撃を示す光のラインで塗り潰された。
「続いて前方。無人戦闘機軍飛来。その背後に無人戦闘艦多数ワープアウト。防御陣形構築中。戦術マップ更新。回避未来軌道反映済み。おすすめルート進言」
シルフアルケミーのコクピットに未来進路図画出現した。
そては戦況によって次々と更新されていく。
「サララがいるとこうも戦闘が楽だとは」
サララの性能に関心しながらエストスが不敵に笑った。
「これからは私が全力でお手伝いするのですのよ。だからもっと褒めるのですのよ。艦長もリーマイ副官も褒め下手ですのよ」
サララがドッキー艦長の肩の上で踊った。
「しかしこの数は」
レガードのモニターに膨大な数の真紅の敵対色が煌めいた。
「敵無人戦闘機、戦艦の同時攻撃。回避進路確定。戦術データ修正。反乱軍三重防御陣形にて防御スクリーンが融合。反乱軍の複合防御スクリーン出力増大」
反乱軍の無人戦闘機から、無人戦闘艦から同時に無数の攻撃ビームが放たれた。
漆黒の闇を照らす光の行軍。
広大な宇宙距離を一瞬で踏破する光の速度の攻撃。
破壊をもたらす凶悪なエネルギーが水平に降り注ぐ。
だがシルフアルケミー各機はそれを軽く避けた。
光の円柱が消え、宇宙は再び深淵に飲み込まれた。
「このまま真っすぐ防衛艦隊を突破する。燃料や弾薬をケチるな。後先考えずに進め」
ドッキー艦長はシルフアルケミーの操縦桿を握りしめた。
「「「OB」」」
「やっぱり脳筋艦長」
「エストス、レガードは両サイド、ウラは背後の敵を。遅れるなよ」
ドッキー艦長の操るシルフアルケミーが一機だけ抜きん出る。
何百という円柱のような攻撃ビームを軽くかわし、消えた。
いや消えたのではない。あまりの速度で消えたように見えただけだ。
アクセルキャンセラーの真紅の軌跡が無人戦闘機の光まで続いていた。
「なっ? アクセルキャンセラー?」
「それにしても速っ」
「なあ? アクセルキャンセラーまで使いこなす? 艦長のくせに生意気だぞ」
ワルキューレエッダ隊の三機は慌ててドッキー機を追う。
「さすが私の見込んだ艦長だ」
エストスが感嘆している間にもドッキー機は攻撃ビームを華麗に回避した。
そして敵もいない空間に向けて攻撃ビームを放つ。
「外した? やっぱり艦長には無理かもね」
ウナが楽しそうにノーズを傾けた。
「いや、合っている」
エストスが驚嘆する。
突如、そこに巨大な空母型無人戦闘艦がワープアウトし命中。艦載機を放出する間もなく塵となった。
サララが未来予測した座標にいた無人機が爆球に包まれた。
「うそ。未来予測射撃」
ウナが首を傾げている間にもドッキー艦長は四方から迫りくる攻撃ビームをアイテムボックスに取り込んで消滅させた。
「うわあ、そんなの卑怯」
レガードが声を上げる間にも、ドッキー艦長は今取り込んだばかりの主砲を反乱軍に向けて取り出した。
ベクトル反転された反乱軍の放った攻撃ビームが踵を返し反乱軍を襲う。
ただ取り出しただけのはずの攻撃ビームが何隻もの反乱軍の無人戦闘艦に命中し爆球を形作った。
そしてアクセルキャンセラーで減速すると、ディザスターマインをばら撒いた。
そこに無人戦闘機がなだれ込む。
だがドッキー機はそこにはいない。
アクセルキャンセラーで最大加速に到達し飛び立った後だ。
強力な地雷兵器ディザスターマインに触れた無人戦闘機が光球となってその存在を終えた。
「なんという戦いだ」
エストス達が追いついた時には既に瓦礫が漂う戦闘宙域に様変わりしていた。
ドッキー機が光速を維持したままウェポンラックを展開し、マイクロミサイルを雨霰のように掃射した。
光速で放たれた物体はどうなるか?
無限に等しい質量を持った質量兵器となる。
マイクロミサイルのその鼻先が自重で潰れたまま無人戦闘機を貫いた。
その奥の、その更に奥の無人戦闘機を円錐状に巻き込みながら消滅させる。
そして自らが発射したマイクロミサイルを追い越し、ドッキー艦長は巨大な戦艦級の無人戦闘機のノーズアタックで突っ込んだ。
巨大な船壁に小さな穴が開き、背後に大きな穴を開けながら飛び出した。
金属と樹脂とエネルギーキューブの破片が放射状に追従する。
しかもその衝撃で真っ二つに折れ、爆発する戦艦型無人戦闘艦。
ドッキー機はその次の、その向こう側の、更にその奥の戦艦型無人戦闘艦に特攻する。
何隻もの防御スクリーンを何隻もの船壁を貫いた。
そんな簡単に防御スクリーンを貫けるはずがない。
だがこれは古代戦闘機シルフアルケミーだ。
しかも光速限界を超えた恐ろしく無限に近い質量を有した特攻攻撃だ。
その捨て身の攻撃を防げる存在は少ない。
いや、皆無。
防御スクリーンの強度はジェネレーター出力に依存する。
しかもこのシルフアルケミーの装甲は流体フルイド装甲だ。
現代では存在しないオーパーツ。
その強固な流体フルイド装甲の捨て身の攻撃を阻止する者など皆無。
魔王を殺す為に生み出された人類の希望。
それがシルフアルケミーなのだ。
大量の爆球が遅れてドッキー艦長のシルフアルケミーを追う。
爆球同士が連結し、横繋ぎの爆球が更に誘爆を生み、宇宙は激しい閃光に包まれた。
「え?」
その爆球の放った光子がエストスの甲冑型宇宙服に影を差した。
「魔王艦長、淒過ぎ」
「生意気の生意気の生意気」
遅れて破片と残骸と爆破球体に突っ込むエストス、ウナ、レガード機。
その先には破壊され粉々になった無人戦闘機の残骸が散らばっていた。
「遅いよ」
ドッキー艦長が機体を反転させ、無人戦闘機を屠る。
信じ難いことにワルキューレエッダ隊が遅れを取っていた。
ドッキー艦長の操るシルフアルケミーに完全に目を奪われていた。
シルフアルケミーは一介の艦長がおいそれと飛ばせるものではない。
何百、何千時間の操縦訓練を経て初めて飛べるのだ。
しかも歴戦のワルキューレエッダ隊のように華麗に残酷に敵を翻弄し舞っているのだ。
「艦長。いつでもワルキューレエッダ隊の隊長の座をお譲りいたしますよ」
エストスが素直に頭を下げた。
「それは遠慮する。これ以上仕事が増えたらたまらない。隊長はエストスに任せるよ」
「何この撃墜数」
「生意気撃墜数」
レガードとウナと呻いた。
コクピット内の共有戦術モニターにはドッキー艦長が想定撃破した敵の数がカウントされている。
そのあり得ない撃墜数に彼女達は言葉を失った。
そしてその数は今だに止まらない。
今なおその撃墜数は急速に上昇していく。
「さてそろそろエンジンが温まってきたかな?」
ドッキー艦長の目に爆球が映りこむ。
「機体戦闘テスト完了。各マニューバ問題なしですのよ。船体に歪みなし。流体フルイド装甲損傷なし。船体形状維持。次元昇華ジェネレーター出力安定。ミリガタル製魔原子消滅エンジン安定。もう少し派手に暴れても問題ないのですのよ。艦長にしては地味ですのよ」
そのサララの報告にワルキュリアエッダ隊は息を呑んだ。
今のドッキー艦長の攻撃がただの機体テストだと言うのだ。
地味だというのだ。
機体テストで一体何千機の敵を壊滅させたのだろうか?
ドッキー艦長とサララの会話はただの冗談のように聞こえるがここは戦場なのだ。
油断すれば死ぬ戦場なのだ。
それなのにこの余裕はなんだ?
数千、数万、数十万の敵のど真ん中でこの余裕。
それは絶対的な強者にのみ許された会話。
緊張感も悲壮感も敗北感も皆無。
あるのはこの能天気なやり取りだけだ。
「では引き続き未来予測照準を頼んだ」
「もう完了しているのですのよ」
ドッキー機が閃光を残して消えた。
アクセルキャンセラーにより飛翔したのだ。
通り過ぎ様に爆発、消滅する無人戦闘機達。
「それにしてもこうやってサララと肩を並べて戦うのって初めてだっけ」
「さあ? でもそういうのキモイですのよ」
「そう言うと思ったのですのよ」
ドッキー艦長はサララの口癖を真似しながら無人戦闘機の群れの中に突入した。
アクセルキャンセラーの真紅の軌跡を残して。
お読みいただきありがとうございました。
大まかなストーリーに変更ありません。
誤字脱字、読みやすいように修正しました。




