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25 デスブリンガーモード

 魔力阻害物質アクマゴロシ。

 それは魔力を持つ魔族という存在へのカウンター物質。

 魔力を持つ魔族に致死効果がある神から人類への贈り物。

 魔力保有量が多ければ、その阻害ダメージは跳ね上がる。

 そして今、ドッキー艦長の身体には膨大な魔力があった。

 ドッキー艦長の身体は先日の魔王戦で損傷し、魔力のある体に入れ替わっていた。

 即ち、アクマゴロシは無敵のドッキー艦長の唯一のウィークポイントだった。


「シルフアルケミー秘匿兵装……デスブリンガーモード……」


 ボトムオーガに初めて焦りの表情が浮かんだ。


「艦長? 今何ておっしゃいましたか? デスブリンガー?」


 動揺するボトムオーガに向かってシルフアルケミーがその真紅の矛先を向けた。

 そして加速を省略したシルフアルケミーが真紅の軌跡を残して消えた。

 いや、最大加速に到達したシルフアルケミーがボトムオーガに向かってその膨大な距離を埋めた。

 戦闘乙女達の真紅の流星がボトムオーガに特攻した。


「シルフアルケミーに撃つなって言ってたけど、一回ぐらいは撃っちゃってもいいよね?」

「あ、ダメですよ」


 リーマイ副官の制止を無視してドッキー艦長は迫りくるシルフアルケミーに向けてベーゼスを発射した。

 ベーゼスは超弩級戦艦サンダーゲートにとっては下級副砲扱いだ。

 だが世間一般では違う。ベーゼスは最新鋭の超強力試作主砲だ。

 浮遊砲台の仰角に制限はない。三百六十度全方位に自由自在に回転する。

 そして発射しながら角度を変えれば、線が面となる。

 その凶悪無比な死のエネルギーが、白面の弧を描き虚空を分断した。

 サララから常時送信されてくるシルフアルケミーの座標に向けてベーゼスの砲口が小刻みに震え旋回する。

 縦に斜めに二次元状の死の円弧が宇宙空間を分断する。

 圧倒的な暴力の二次元平面が何もない宇宙空間を切り裂く。

 円弧の舞が連続でクロスする。

 シルフアルケミーがアクセルキャンセラーで回避する。

 面攻撃の乱舞を掻い潜り、回避するシルフアルケミー。

 だが何度目かの円弧の舞が遂に可憐に舞うシルフアルケミー達を切り刻むようにその白き世界に飲み込んだ。


「ひゃああ、ですのよ」


 サララが古代美術品を落としたかのような悲鳴をあげた。

 だがしかし、その純粋エネルギーの中から、真っ赤に燃え上がった怒り狂う十二本の矢が飛び出した。

 アクマゴロシのエネルギー皮膜がゼーベスの攻撃に耐えたのか?

 それとも命中していなかったのかは不明。

 白面の純粋破壊世界からシルフアルケミーがその美しい姿を現したのだ。

 アクセルキャンセラーによって宇宙空間をジグザグに突き進むシルフアルケミー。

 未来予測キャンセラーがその未来軌道を予測させない。

 白きベーゼスの光を背に真紅のシルフアルケミーが回避し、ボトムオーガに迫る。


「アクセルキャンセラーにデスブリンガーモードって卑怯だよね。全く当たる気がしない」


 ボトムオーガの腰がボトムオーガらしく情けなく引けた。


「卑怯さで、いえば艦長も負けてませんよ」

「そうかい?」

「デスブリンガーモードって? 魔王討伐用の秘匿兵装のことでしたっけ?」


 リーマイ副官は眼鏡型情報端末の情報が読んだ。


「デスブリンガーモードの使用例はここ数百年報告にありませんのですよ」

「ほほう。あれが魔王特化兵装。いいもの見れましたですのよ」

「秘匿兵装。まさか実在したのですよ」

「魔王を殲滅する為にのみ実装された古代兵装」

「まさかこの目で見れるとは」

「艦長。反撃して壊したら駄目ですのよ。シルフアルケミーの現存する機体はあれだけですのよ」

「もしかして艦長よりも貴重な物かもしれないのですよ」

「そうですのよ。古代戦闘機、発掘戦闘機、しかもその操縦方法は古臭い操縦桿によるものだそうですのよ」

「私達このままでは、乗れないですのよ」


 超弩級戦艦サンダーゲートの艦橋で、紅茶をすすりながらサララ達が好き勝手な声をあげた。


「うわあ。なんか現場に孤軍奮闘する僕に酷くない? それにどっちの味方なんだよ」




 シルフアルケミーがベーゼスの弾幕を抜け、そのノーズをボトムオーガに向けた。


「妖精達の炎の舞、しかと見よ。秘匿兵装デスブリンガーモード」


 エストスが叫んだ。

 秘匿兵装デスブリンガーモード。

 それは魔王討伐の為に開発された最終特攻攻撃。

 船体を突撃形態に変化させ、気化アクマゴロシを密着型防御スクリーンで覆い突撃するという無謀で無茶な最終攻撃手段。

 だがその無茶苦茶な攻撃は魔族にとって最強最悪の攻撃。

 魔王殺し。魔族の、魔王の持つ生体防御スクリーンを突き破る唯一無二の攻撃手段。


 ボトムオーガは慌てて尻尾を巻いて逃げ出した。

 ボトムオーガの加速が光速限界を超えていたとしても、アクセルキャンセラーを備え持つシルフアルケミーから見れば遅い。

 ボトムオーガの退避進路上に別のシルフアルケミー機が迫る。

 そう。ワルキュリアエッダ隊は一機ではない。

 集団であるからこそ彼女達は強い。

 そして息の合った連携は訓練の賜物。

 才能に努力を重ねた者の底力が発揮された。

 多勢に無勢。

 いくらボトムオーガが規格外でも、ドッキー艦長のアイテムボックスが規格外でもこの世にドッキー艦長はただ一人。

 だがワルキュリアエッダ隊は、隊なのだ。

 華麗に舞う真紅のシルフアルケミー。

 無様に逃げ出すボトムオーガ。


「デスブリンガーモード使ったこと女王陛下になんて報告すれば」

「でももう私達は反乱軍だから、いいのでは?」

「それはそうだけど、反乱軍になりたくてなった訳じゃないのよ」


 炎の剣の舞の中を必死に逃げるボトムオーガ。


「逃がしはしないぞ。生意気に」

「ボトム魔王ちゃん覚悟」


 戦闘乙女達の声がボトムオーガを追う。

 その一糸乱れぬ連携がドッキー艦長の未来線を潰していく。

 集団で狩りをする野生動物のように小さなボトムオーガを追い立てる。

 古代戦闘機を華麗に乗りこなすワルキュリアエッダ隊はまさに規格外。

 だがドッキー艦長扮するこのボトムオーガも規格外。

 単独で生身の身体で光速で加速し、デスブリンガーモードの舞から逃げ続けているのだ。

 その小さな体のどこにそんな推進力があるのか?

 どうしてその体はバラバラにならないのだろうか?


 ドッキー艦長扮するボトムオーガが突然、停止して手を振った。


「待って、分かった、話し合おう」


 だがそのボトムオーガの声は誰にも届かない。

 ジグザグに、ランダムに、デスブリンガーの切っ先から逃げる腰が引けた無様なボトムオーガ。

 辛うじて逃げた先に別のシルフアルケミーが迫る。


「魔力阻害で力が出ない……か」


 何とか身体を捻って回避するボトムオーガ。


「生意気に」


 その回避先に別のシルフアルケミーが迫る。


「あっ」

「終わりだ」


 そして遂にボトムオーガの防御スクリーンにエストスが駆るシルフアルケミーのノーズが接触し、激突しその強固な防御スクリーンを粉砕した。


「うわ」


 シルフアルケミーがボトムオーガを吹き飛ばした。

 その瞬間、ボトムオーガの生体防御スクリーンにひびが入った。

 僅かだが防御スクリーンに穴が開いた。

 その隙間からアクマゴロシの効力がドッキー艦長に襲い掛かる。

 ドッキー艦長の膨大な魔力に作用し阻害する。

 魔原子崩壊を干渉し、魔力発生が抑えられる。

 ボトムオーガの動きが緩慢になる。


「くっ」


 そして間髪入れずに別のシルフアルケミーが飛来し、ボトムオーガに追い打ちをかけるように激突した。

 絶対無敵の七色のエネルギー皮膜が拡散する。

 魔王の攻撃すら弾いたドッキー艦長の生体防御スクリーンが割れた。

 このシルフアルケミーの特攻はただの体当り攻撃にではない。

 光速を越えているのだ。

 そのシルフアルケミーの運動エネルギーは想像を絶する。

 だがしかし、こんな攻撃に耐えられないドッキー艦長ではない。

 魔王と互角以上に戦ったドッキー艦長に耐えられないものではない。

 だが今回ばかりは耐えられないようだ。

 魔力阻害物質がドッキー艦長の魔力を阻害し、ドッキー艦長を確実に弱体化させていた。

 それは魔王との戦闘による負傷があったのかもしれない。

 魔力のあるこの体にまだ慣れていないだけかもしれない。

 戦いに、たら、れば、は存在しない。


「効いたぞ」


 エストスがこの日初めて笑った。


「隊長。効いてますよ」


 イリアスも笑った。


「全機、やはりあれは魔族だ。アクマゴロシが有効のようだ。このまま一気に攻める。全機アクマゴロシ弾装填」

「え? いいんですか? アクマゴロシ弾は高いですよ」

「構わん、その為に銀河中に愛想を振りまいているんだ。たまにはファンの懐をあてにしようじゃないか」


 この言葉を銀河中の彼女達のファンが聞いたらショックを受けるだろうか?

 いや、彼女達の熱心なファンは泣いて喜んだだろう。

 自分達のお布施が彼女達の強さに直結しているのだ。

 ワルキュリアエッダ隊は銀河のアイドルだった。

 そのファンは銀河中に存在していた。

 そして彼らの寄付は膨大な額だった。

 そうこのワルキュリアエッダ隊を維持する資金は王立宇宙軍以外にも潤沢にあったのだ。


「OB。アクマゴロシ弾装填」

「アクティブリンク、トリガーを私に」

「OB」

「OB」


 全シルフアルケミーの機銃に非常に稀有で高価なアクマゴロシ弾が装填された。

 そしてエストス機を先頭にV字攻撃陣形で再突撃し、ボトムオーガの残りの防御スクリーンを切り裂いた。

 そして反転。機銃を向けた。

 アクティブリンクにより全てのシルフアルケミーの砲口が同時に、一寸のためらいもなく火を噴いた。

 勿論その弾はただの弾ではない。

 魔力カウンター物質アクマゴロシで弾頭を覆った特殊弾だ。

 とんでもない金額のアクマゴロシ弾がボトムオーガに向かって放たれた。

 銀河中の彼女達のファンの血と汗と労働力が、一瞬で舞った。


「アクマゴロシ? こんなに大量に?」


 もはや避ける体力もないのかアクマゴロシ弾はボトムオーガに吸い込まれるように全弾命中した。


「ぐっ」


 ほんの数ミリ秒だけ耐えたボトムオーガの生体防御スクリーンが完全に粉砕された。

 割れた。消えた。拡散した。

 遂に、ボトムオーガの無防備な身体が、真空宇宙にさらけ出された。

 さらに数百発を越えるアクマゴロシ弾がボトムオーガに命中し爆ぜた。

 成す術もなく力なくそのアクマゴロシの雨あられに翻弄され、弾道内で弾け飛び跳ね返り吹き飛ぶボトムオーガ。

 そこに申し交わせたかのようにシルフアルケミーが特攻する。

 激突。ボトムオーガが吹き飛んだ。

 別のシルフアルケミーがボトムオーガをさらに吹き飛ばした。

 激突。ボトムオーガが錐もみ状態に陥った。

 そこにまた別のシルフアルケミーが特攻する。

 激突。宇宙空間をバウンドするボトムオーガ。

 十二機のシルフアルケミーによる連続特攻でボトムオーガは宙を舞う。

 だが最弱魔族のはずのボトムオーガは、真っ二つに避けることもなく、バラバラに引き裂かれることもない。

 この攻撃をもってしてもボトムオーガのは、醜い四肢は依然健在だった。


「なんて固さだ」

「なぜ貫けない」

「防御スクリーンは既にないはずだ」

「アクマゴロシが効いてない?」

「効いていますが、恐ろしく頑丈です。もはや生物の強度を越えています」

「そもそもあのボトムオーガが船外活動服も着用せずに真空宇宙にいるのだ。常識は捨てろ。あれは魔王だ」


「OB」


 宇宙空間に無数の赤い糸が交差し、複雑な軌跡で編まれていく。

 シルフアルケミーが残す赤いラインがジグザグに直角に、アーチを描きながらボトムオーガを蹂躙する。


 ボトムオーガが銃弾を浴び、吹っ飛び、跳ね返り、宇宙をバウンドした。



お読みいただきありがとうございました。

大まかなストーリーに変更ありません。

長いので分割しました。

誤字脱字、読みやすいように修正しました。


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