02 超弩級戦艦発進
超弩級戦艦サンダーゲートが深紅のガス星雲を背に降臨した。
星の砂のような宇宙塵がサンダーゲートの防御スクリーンに触れ、フェアリーダストのように煌めいた。
それはまるで妖精王の帰還を喜ぶ妖精達の祝福のようだった。
超弩級戦艦サンダーゲート――それはアポロン工廠で極秘裏に建造されたサンダーゲート級一番艦。
全長六百メートル強、稲妻型のジグザグのシルエットを描く特徴的な外観。
三艦の船を無理矢理繋げたようなその歪な姿と同様にその性能も歪だった。
その最たるものが船尾に備えられた円環状ワープリング群だ。
ワープリングは文字通りのゲートだ。それを貫く稲妻のような外観。
それがこのサンダーゲートの名の由来だ。
ワープリングとは空間演算によって疑似ワームホールを形成し、広大な宇宙空間を一気に移動する長距離推進器だ。
だが巨大で、重く、膨大なエネルギーを消費するため、通常の戦艦に一基しか搭載されていない。
だが超弩級戦艦サンダーゲートには十二基も搭載されていた。
それは設計者の精神が疑われる程、過剰で狂気に等しかった。
「こちら超弩級戦艦サンダーゲート、システム管理存在……古代エレメンタルAIのサララです。あー、バーナール級三番艦サンダーゲートとのアクティブリンク確立。差分データ同期完了。数週間の時間断絶を確認。艦長のアイテムボックス内は完全時間停止なので現実に戻った時にいつも不安になりますよ。残念なことに広域暗号通信受信。人類の生存を確認しました」
超弩級戦艦サンダーゲートの管理存在AIサララの元気な声がサンダーゲートの艦橋に響いた。
「待たせたねえ。サララ」
「久しぶりーサララちゃん。もう艦長と二人きりなんてあり得ない。二度とごめんだわ」
「あら、麗しの艦長と二人っきりなんて羨ましいですね? 少しはイチャラブできましたか?」
サララが笑みを浮かべた。
「冗談でもよして。働かずに毎日寝てばかりの艦長と一緒にいるこっちの身にもなって。一生刑務所で働いた気分だわ」
リーマイ副官が顔をしかめる。
「寝るのは人間の権利だろう。それに僕は一生懸命働いてるじゃないか。それに僕と一緒にいるのがストレスだったら今度サララの代わりにアイテムボックスに入ってみるかい?」
「生きた人間はアイテムボックスに入れませんよ。残念でした」
リーマイ副官が肩をすくめた。
「誰がそう言ったかな?」
ドッキー艦長が真面目な顔でそう言った。
「え? 生きている人間もアイテムボックスに入るんですか?」
「それだけは言えない」
ドッキー艦長は意味ありげに笑った。
「言えないなら言わなくても結構です。聞いた? サララちゃん。この上官にあるまじき発言のオンパレードです」
リーマイ副官がサララに同意を求めた。
「それはこっちのセリフだよ。上官の僕を毎日こき使っておいてよく言うよ」
「あらあら、思ったよりも仲良しですね。でも艦橋ではイチャラブ禁止ですよ」
喧嘩を始めた二人の間にサララが割って入る。
「……」
押し黙るドッキー艦長。
「……さてさて冗談はこれくらいにしてサララちゃん。そっちに移艦するね」
「オンビット。船体慣性ベクトル誤差修正。両艦の相対速度調整。防御スクリーン部分開放。移艦用小型船自動操縦リード重力線投射。本艦の後部ハッチ開口。いつでもどうぞ」
「ありがとう。直ぐに行くね」
ドッキー艦長とリーマイ副官は超弩級戦艦に移動するための小型船に乗り込んだ。
「ああ、艦長の攻撃であんな大きな穴が開いて」
疑似ウィンドウに映るサンダーゲートの船体を見てリーマイ副官が嘆いた。
「あれは戦艦型魔物のノーズアタックの穴だろう」
「内部から開けられたように見えますが?」
「……そう? 僕にはそう見えないなあ……証拠隠滅ということで収納」
突然、バーナール級サンダーゲートがこの宇宙から消失した。
言わずもがなドッキー艦長のアイテムボックス内に格納されたのだ。
「うわ、自分がやった犯罪を隠すなんて最低。それでも艦長ですか?」
「何のことだい? 僕が何をしたっていうんだい? 証拠は?」
「アイテムボックスで証拠を隠滅するなんて、能力の無駄遣いです」
「イチャラブ禁止って言いましたよね?」
サララが二人の会話に割って入った。
ドッキー艦長とリーマイ副官は超弩級サンダーゲートの後部ハッチから乗船すると、いくつもの隔壁を超え、艦橋専用無重力シャフトを飛び、生体認証を経て艦橋に入った。
「おかえりなさい」
階段状に並んだオペレーターシート最上段にある豪華な艦長席に座る少女が立ち上がり敬礼をしてからドッキー艦長に席を譲った。
「ご苦労だったねサララ。指揮権もらうよ」
「オンビット。超弩級戦艦サンダーゲートの指揮権が艦長にお返しします」
「サララちゃーん会いたかった」
リーマイ副官がサララに抱きついた。
「あっ。ちょっとリーマイ副官、止めてください、私はあなたの恋人でも子供で親族でもありませんよ。それに人間ですらありませんよ」
「一緒の船で暮らしてるんだから家族みたいなものでしょ」
リーマイ副官はサララの真っ白な頬に頬ずりする。
AIサララの見た目は可愛らしい少女だ。
だがその体は金属でも生体体でもない――空間演算体だ。
空間演算体とはその名の通り、空間演算の集合体である。
投射コアから投影した演算結果を空間に固定した存在。
物理法則を演算でエミュレーションしている架空の存在。
つまり触覚のある立体映像だ。
光学的、物理的には存在するが原子も電子も素粒子もない虚無的存在。
「リーマイ副官、一緒の船で暮らしている僕のことを家族だと言ったかい?」
「は? 言ってませんが? それより作戦を説明します」
リーマイ副官が眼鏡型情報端末を掛け直すと艦橋に巨大な星間立体映像が表示された。
「今回、我々に課せられた極秘任務は百十五年前に魔王軍に奪われた……」
星間マップが拡大し、ピラミッド型の構造物が現れた。
「ワームホールネクサスゲート……ダーレンゲートの奪還です」
そのピラミッド型の物体がリーマイ副官の眼鏡型情報端末に反射する。
ワームホールネクサスゲート。それは天然ワームホールの出入口――宇宙の抜け道のことだ。
ワープリングを必要とせず、超長距離航行が可能なこのワームホールネクサスゲートは銀河航路のハブとして何千年前から人々の交通の要となっていた。
だがそのワームホールネクサスゲートの一つ、ダーレンゲートが百十五年前に魔王軍に奪われた。
銀河間を繋ぐワームホールネクサスゲートは戦略上最も重要な拠点だ。
ワープリングを必要とせずに大艦隊が補給なしで長距離を瞬間移動できるのだ。
その重要度はワープリングが実現した今でも変わることはない。
「レゾル総司令指揮下の旗艦艦隊とバゲロス艦隊、ローラン艦隊の主力三艦隊がダーレンゲートに波状攻撃を仕掛けます」
ダーレンゲート要塞へ三方から攻撃を仕掛ける艦隊の予測映像が流れた。
「我々はその前に魔王軍の艦隊情報を調査、報告することが主な任務です」
「いやいや、前から思ってたんだけど、これって単艦でやる任務じゃないよね?」
ドッキー艦長が艦長席であぐらを組みながらそう言った。
「ダーレンゲートはダークフォレスト回廊の向こう側。そこを突破できる船は我が超弩級戦艦サンダーゲートだけですから仕方ありませんよ」
サララが笑った。
「確かにこの超弩級戦艦サンダーゲートの性能には文句はありませんが、運用する艦長には文句しかありませんね」
リーマイ副官が溜め息をついた。
「僕も文句があるし不安だ。サボり癖のある僕には荷が重すぎる任務だ。あっ。良いこと考えた。作戦開始命令に気付かなかったことにして、ここで時間停止スリープして休んでてもいいかな?」
「「ダメです」」
リーマイ副官とサララが同時にドッキー艦長を睨んだ。
「なんだかリーマイ副官の気持ちが分かったような気がします」
「おお、分かってくれるかサララ。ダメ艦長の僕を早速AI権限で解任してくれ」
ドッキー艦長がサララに手を合わせた。
「そんな権限、私にはありませんよ」
サララが手を払った。
「さあ艦長。観念して働いてくださいね」
リーマイ副官が腕組みしながらドッキー艦長を睨んだ。
「あっ。その前にこのサンダーゲートの艦長室を掃除して、新しい枕を用意しなきゃ」
「あのー本当にこの人本当に艦長なんですか?」
ドッキー艦長の背中にサララの冷たい視線が突き刺さった。
「それは私も思う。この人、本当に女王陛下から任官されたのかってね」
リーマイ副官が目を閉じて溜め息をついた。
「書類上では正式に任命されています。ドッキー・アーガン……独立艦隊司令官と書いてありますよ。独立艦隊司令官って思ったより偉かったんですねえ」
「サララ、僕の肩書きを下級士官に書き換えられない?」
リーマイ副官がサララの耳元で囁いた。
「……できますよ」
サララが笑った。
「僕、休めちゃうよ。働かないよ? いいのかな?」
ドッキー艦長が喜んだ瞬間、レッドアラートが鳴り響いた。
「大規模空間干渉を確認。敵味方識別信号なし」
サララが叫ぶ。
「え? 敵? 味方って可能性は?」
「敵味方識別信号を発していない存在は海賊か魔族だけですよ」
「……ということは敵か、魔族だね」
「ワープアウト演算解の出力から判断すると、敵は戦艦級魔物。その数……十二艦」
サララがドッキー艦長とリーマイ副官を同時に見る。
「ここで宇宙の塵となる訳にはいきませんねえ下級指揮官希望の艦長」
リーマイ副官がドッキー艦長を睨む。
「そ、そうだね」
「下級士官は上官である私に絶対服従ですしね」
「ではリーマイ副官、サララ。この超弩級戦艦サンダーゲートの試運転といこうじゃいか」
ドッキー艦長がポンと手を叩いた。
「「オンビット」」
リーマイ副官とサララは着席する。
「ブレインリンク」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末が点滅する。
ブレインリンクとはその名のごとく、脳を繋ぐインターフェースのことだ。
ドッキー艦長がエリートリザードマンを消滅させたサンマルキャノンのトリガーも彼のブレインリンクによるものだ。
人は生まれながらにしてこのブレインリンクのインターフェース器官を備えている。
この時代の人類の全てが、デザインチャイルドだということを忘れてはならない。
魔力を失った人類は科学技術で自らを進化させていたのだ。
「超弩級戦艦サンダーゲート、全システムをスリープモードからノーマル、バトルモードに移行します。各AI支援システムのディープスリープ解除要請」
サララがドッキー艦長に振り返る。
「許可する」
ドッキー艦長が手を振った。
「航法支援システム……ヘビーオデュッセウス凍結解除」
「我が名はヘビーオデュッセウス覚醒」
「火器支援制御システム……マーズフォボス凍結解除」
「我が名はマーズフォボス覚醒」
「メインジェネレーター統括システム……ニアディアボロス始動」
「我が名はニアディアボロス覚醒」
「防御統括システム……アルテミスハード始動」
「我が名はアルテミスハード覚醒」
「航法支援システム……ディープポセイダル始動」
「我が名はディープポセイダル覚醒」
「全システム再稼働、全バトルマニューバ召喚。超弩級戦艦サンダーゲートバトルモードへ移行完了」
サララがニヤリと笑った。
これらは超弩級戦艦サンダーゲートの巨体を制御するサブシステムAI群。
二名しか乗艦していないこの巨大な超弩級艦を司るのは彼らAI達であった。
超弩級戦艦サンダーゲートのジェネレーターが臨界を越え、その巨体を震撼させた。
ついに眠れる巨獣が目を覚ましたのだ。
王立宇宙軍が誇る最新の超弩級戦艦サンダーゲート。
その存在は王国宇宙軍でも秘匿され、知る者は極わずかだけだ。
「全未来予測演算完了。コモンスクリーンに反映します」
サララの声と同時に艦橋空中に超弩級戦艦サンダーゲートを中心にした宙域立体マップが出現した。
「敵、戦艦級魔物をE一からE十二と呼称」
「E一からE十二までの照準火器コントロールをマーズフォボスに譲渡」
「戦艦級魔物のワープリングへの妨害演算開始。ワープアウト地点を強制的に射線上に誘導します」
「誘導成功。敵戦艦級魔物の出現地点、我が艦の射程内。出現と同時に攻撃可能です」
サララが自信満々に報告する。
「艦長……ついでに主砲のテストをいたしますか?」
リーマイ副官がドッキー艦長を振り返る。
「いや、あまり手の内を知られたくない」
ドッキー艦長が頭を掻いた。
「艦長、その点はご心配には及びません。現在この宙域は魔王軍が放ったアンビエントジャミングによりアンビエントウェーブが激しく乱れています。向こう数時間、超長距離瞬間通信は不可能ですよ」
サララが振り返って報告する。
超弩級戦艦サンダーゲートの立体映像の周囲が歪み、通信不能と表示されていた。
「それでも主砲は控えよう。試したいのは主砲だけじゃないからね」
「オンビット」
サララが笑った。
アンビエントウェーブとは空間波長のことだ。
宇宙の規模から見ると光速はかなり遅い。
広大な宇宙では電磁波通信は遅すぎて使い物にならない。
そこで生み出されたのがゼロ秒で宇宙全体に伝わる瞬間空間波による通信だ。
厳密に言えば空間振動数を波長化したものだ。
人類も魔王軍もこの瞬間空間波を利用して超長距離通信を行っている。
それが乱された。即ち長距離通信、観測機は一切使用できない状態だった。
「では小さい砲台はさっき試したから……下級副砲ベーゼスの発射準備」
ドッキー艦長が眠そうな声で命じた。
「え? さっき試した? 何のことです? え? ベーゼスですか?」
サララが眉をひそめた。
「アポロン工廠のみんなが早くテストしろってうるさいからね」
ドッキー艦長が手を広げた。
「はあ? ベーゼスを使うのですか? 怒られても知りませんよ?」
「大丈夫、大丈夫」
ドッキー艦長が手を振った。
「下級副砲ベーゼス起動。九から十六番まで射出。防御スクリーン部分解除」
サララの声に続いて、超弩級戦艦サンダーゲートの分厚い美しい船壁から、巨大な下級副砲ベーゼスが戦闘機のように飛び出し、超弩級戦艦サンダーゲートの周りに整列した。
この時代の主砲は自立航行型の浮遊砲台が殆どだ。
防御スクリーンの内部に攻撃兵器があっては非効率だからだ。
「下級副砲ベーゼス展開完了。照準演算完了。アンビエントウェーブの乱れを考慮。敵艦のワープリング出現位置、出現時行動、回避行動、宇宙塵とガスの揺らぎ、カオス未来予測済み。ベーゼス瞬間転移用エネルギー状態良好。砲身重力保護。時間停止保護。空間逆流テストクリア。全システム異常なし。砲門安全装置解除。その他の試験運用項目省略。準備完了です。マーズフォボスからの異議、異論なし」
「流石はサララ。早い」
「そりゃあ、我が艦は巨大な演算ユニットを積んでますからね。他の船のAIに比べたら一万倍早いですよ。それに私の部下達は優秀ですからね」
AIの演算速度は演算ユニットの規模に依存する。
古代の量子コンピュータより遥かに高速な現代の空間演算器でもそれは変わらない。
搭載される演算ユニットが多ければ多いほど演算力は跳ね上がる。
重くて巨大な演算器を船に搭載できる量は限られる。
だがこの超弩級戦艦サンダーゲートには通常の何倍もの演算器を搭載していた。
「敵、戦艦級魔物ワープアウトまでの予測カウントダウン開始」
巨大な予測カウントダウン表示が艦橋に出現した。
「敵出現と同時に出力二割で発射。トリガーはサララに一任」
「敵出現と同時に出力二割で発射。トリガーはサララに一任」
ドッキー艦長の命令をリーマイ副官が復唱する。
「一任されました。敵来ます」
サララの声と同時にカウントダウンが終了した。
「発射」
超弩級戦艦サンダーゲートのジェネレーターが生み出した膨大なエネルギーがベーゼスに近接転移した。
そして圧縮された純粋エネルギーはアインシュタインスルーによって光速限界を軽く超え、宇宙空間に放たれた。
アインシュタインスルー。それは光速限界を無効化する論理ゲート。
このアインシュタインスルーを潜り抜けた存在は光速普遍のこの宇宙の原則を逸脱する。
一説によれば、光速度が無限の宇宙を経由していると言われているが、光速度が無限の宇宙を誰も観測できないので実証できない論理ゲートのままであった。
下級副砲ベーゼスの砲身から放たれた攻撃ビームは広大な宇宙空間を一瞬で踏破し、ワープアウトした敵、戦艦級魔物に瞬時に到達。
そして戦艦級魔物の防御スクリーンが熱を発する前に粉砕し、強固な戦艦級魔物の線壁を溶かし、生体組織を融解、魔物本体をぶち抜いた。
「全弾命中。防御スクリーン、敵重力波消失。想定撃破。第二射準備完了。各支援AIからの問題報告なし、ゼーベス想定以上に加熱。砲身寿命減少」
サララの冷静な報告が艦橋に流れた。
「え? 戦艦級魔物を一撃ですって?」
その報告にリーマイの眼鏡型情報端末がずり落ちた。
「ええ、ゼーベスの攻撃力は想定以上ですが、でもエネルギー消費量が尋常ではありませんし、砲身もかなりのダメージを受けてます。実戦配備までにクリアすべき課題が山積みですね」
「下級副砲っていうよりは主砲並みの威力ね」
リーマイ副官がずれた眼鏡型情報端末を直した。
「まあ、ベーゼスは副砲として設計されておりませんからね」
サララが顔をしかめる。
「実戦配備されれば、我々の戦況も好転するでしょうね」
「みんなお疲れ様。テスト結果は暗号化してまとめておくように。それよりもどうやって僕達を見つけた? やはり情報が漏れているのか?」
ドッキー艦長が珍しく真面目な顔で艦橋に浮かぶ空間映像を見上げた。
「でも一体誰が何のために魔族に情報を? ダーレンゲート奪還は人類の悲願ですよ。しかも我々がここにいることは軍の一部の者しか知らないはずですし」
リーマイ副官は美しい顎に手を添えた。
「艦長のことを快く思っていない者がいるとか?」
サララがドッキー艦長を見る。
「それには心当たりがあるわ」
リーマイ副官がドッキー艦長を睨んだ。
「私も該当者が思い浮かびます」
サララがドッキー艦長を睨んだ。
「ははは。いやだな。僕は君たちに快く思われているよね? 働き者の艦長だよ。それに僕が人に恨みを買うようなタイプに見えるかい?」
「「見えますね」」
リーマイ副官とサララが同時に答えた。
「……今度から、なるべく君たちに恨まれないように、適度に働くことにするよ」
ドッキー艦長が頭を掻いた。
「まあ、冗談はともかく、敵に僕らの存在がバレていると作戦に支障をきたすね」
「人類の敵は魔族ではなく、やはり人類ですが。いっそのこと滅ぶのもありですよね」
サララが顔をしかめる。
「遠い魔族よりも近い人間のほうが何倍も怖いよ」
ドッキー艦長が肩をすくめた。
「冗談抜きで王立宇宙軍に魔族に味方する者がいるなんて信じたくありませんね」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末が曇る。
「そうだね。そもそもこのダーレンゲート奪還作戦そのものが無茶苦茶だからね。このまま帰ろうかな」
ドッキー艦長が手を叩いた。
「え?」
「は?」
リーマイ副官とサララが怪訝な顔をした。
「情報が洩れている。即ち危険。撤退する理由には充分なるよ」
「ダーレンゲートに向かっている主力はどうなりますか?」
「それは主力でなんとかしてもらうしかないよ」
「我々の情報が既に魔族側に筒抜けということは、主力艦隊の攻撃を把握しているはずです」
サララの言葉と同時に主力部隊が壊滅する未来予測が表示された。
「事前に情報が洩れていたら奇襲の体を成しませんからね」
リーマイ副官の眼鏡型情報端末が曇る。
「そうだ。いいこと考えたよ」
ドッキー艦長がポンと手を叩いた。
「「嫌な予感。今度はなんですか?」」
リーマイ副官とサララが顔を合わせる。
「どうせ僕らの存在がバレてるなら、いっそのことこっちから攻めない?」
「「は?」」
リーマイ副官とサララの二人の美少女の口が大きく開いた。
「だから主力の艦隊を待たずに僕らだけでダーレンゲートを奪回するんだよ。敵の裏をかくんだ」
ドッキー艦長が袖をまくり上げた。
「「はあ? 攻める?」」
リーマイとサララがさらに大きな声を上げた。
「奇襲の奇襲作戦だ、魔族も作戦開始前から攻めてくるなんて思わないだろう?」
「……確かにそれはそうですが……」
リーマイ副官がダーレンゲートの立体映像を見上げた。
「……だから我々だけでダーレンゲート要塞を叩くんだよ」
「えっと? 我々ってこのサンダーゲート一艦しかありませんが?」
「だからこそ不意打ちになるんじゃないか?」
ドッキー艦長が笑った。
「まあ、仰っている意味は分かりますが」
「……その手段が理解できませんね」
リーマイ副官の疑問をサララが続ける。
「そもそもだよ? 大規模攻勢などという前時代的な非効率な作戦を立てた司令部は無能の極みだ。人員を無駄にする害悪、人殺しの悪魔だ」
ドッキー艦長は目を閉じながら力説した。
上下関係が絶対の軍の中で上層部を非難するのは懲罰ものだ。
「しかしダーレンゲートには大規模攻勢が最も有効な手段ですよ? ダークフォレスト回廊は大規模艦隊でなければ通り抜けられませんから」
サララがドッキー艦長を不安げに見る。
「それは敵に知られる前の話だろ。事前に主力部隊の侵攻ルートが知られていたとしたら?」
ドッキー艦長の言葉にリーマイ副官とサララが口を閉ざした。
「ですが主力は王立宇宙軍の四分の一の大戦力です。その規模の艦隊が待ち伏せしてるとは思えませんが」
リーマイ副官がドッキー艦長を見る。
「待ち伏せ艦隊の数がこっちよりも多かったら? 魔族は馬鹿じゃないよ」
ドッキー艦長は宙を睨んだ。
「その可能性は大いにありますね」
サララの未来予測映像に映る主力艦隊は潰滅状態だった。
「王立宇宙軍の優秀な若者が戦死するのを黙って見過ごす訳にはいかない」
ドッキー艦長は真面目な顔で宙を見上げた。
「ええ、それは同意しますが止めましょう」
リーマイ副官が顔をしかめる。
「人がせっかく働く気になったのに酷いよ」
「これなら働きたくないって言ってくれてたほうが数倍ましなんですが?」
リーマイ副官がドッキー艦長を睨んだ。
「……あのー、それで艦長。我々だけで作戦を遂行するための妙案は? 秘策は? 何かあるんですよね? 実は援軍が控えているとか?」
サララが期待に目を輝かせた。
「それだけは言えない」
「「は?」」
ドッキー艦長の答えにサララとリーマイ副官の目が大きく開いた。
「そんな適当な気持ちで、私達に死ねと? 命令を破れと? 軍規違反をしろと? 前途ある私の経歴を棒に振れと?」
リーマイ副官がドッキー艦長を問い詰める。
「いや指令体系は無視しないし。軍規も破らない。こう見えても僕は独立司令官だってことを忘れていない? 僕には自由裁量という権限があってだね。軍の指令なんて現場判断という伝家の宝刀で歪曲できるのさ。それに作戦決行時間をちょっと前倒しにしただけで、王立宇宙軍に反旗をひるがえした訳じゃないし、女王陛下に歯向かった訳じゃない。最悪、陽動という目的は果たせるはずだよ」
ドッキー艦長が偉そうに腕を組んだ。
「誰がこの人にそんな権限を与えたんですか?」
サララが無礼にも艦長を指さした。
「女王陛下に決まっているだろう」
ドッキー艦長が誇らしげに笑った。
「「くっ」」
リーマイ副官とサララが同時に肩をすくめた。
「高尚なことを仰ってますが、艦長は兵士を失って自分が休めなくなるのが嫌なのでは?」
リーマイ副官が艦長を見上げた。
「そ、そんなことないよ」
ドッキー艦長が狼狽した。
「なるほど、結局は自分が休みたいだけでしたか」
サララがドッキー艦長を睨む。
「ち、違うぞ。若く、かけがえのない命を救うためだ。そりゃ休暇は喉から手が出るぐらい欲しいけど、これは純粋に愛国精神、博愛精神からのものだぞ」
ドッキー艦長が両手をジタバタと広げた。
「まあ主力艦隊には私の同期も大勢参加してますし……いいでしょう。艦長の案に乗りましょう」
「では単艦攻撃という無謀な作戦を練りましょうか」
サララが諦めたように首を振った。
「ちょっと待て、誰が単艦だと言った?」
「え?」
「僕にはアイテムボックスがあることを忘れてないかい?」
ドッキー艦長が不敵に笑い、大きく手を広げた。
すると深紅のガス星雲を背景に、穴が開いたバーナール級三番艦サンダーゲートが再び姿を現した。
お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字、読みやすいように修正しました。




