19 反乱軍半強襲揚陸殲滅型要塞トールハンマー
だがその強力で強大な攻撃ビームは、小さなボトムオーガには命中しない。
避ける、避ける、逃げる、躱す。
ボトムオーガは残像も残さず回避した。
慣性とか、加速とか、減速とか、固有エネルギーとか運動エネルギーを質量保存とかを無視したアクロバティックな軌道を描いた。
ボトムオーガが光の合間を、光の糸の合間を飛ぶ。
だがその回避先に新たな攻撃ビームが待ち受けていた。
まるでその軌道を予測していたかのように――。
「なに?」
しかし、その攻撃ビームはボトムオーガに命中することなく、その直前で消滅した。
ドッキー艦長がアイテムボックスに収納したのだ。
「次弾、来ます。これは複数艦の主砲のアクティブリンク射撃です。ご注意を」
ボトムオーガの進行方向に無数の光りのラインが交差する。
交差した光の間を交差した光が埋め尽くす。
そして線が集まり面となる。
その攻撃ビームによって形作られた光りの面はさらに立体的に交差し、やがて立方体となる。
二次元の攻撃が三次元の領域攻撃に昇華した。
何もないはずの真空宇宙が、エネルギービームの糸で縫われた生地と化し、それが折り重なって分厚い束となった。
ボトムオーガの周囲の宇宙空間が反乱軍の攻撃ビームで真っ白に埋め尽くされた。
一寸の隙も、一ミリの余白もない。
回避する場所もない。
数百万本の死の光は回避不可能。
だが反乱軍は知らない。
人類の殆どが知らない。
魔族の底辺種族であるこの虐げられたボトムオーガにアイテムボックスがあることを知らない。
空間に満ちた膨大な主砲のエネルギービームの領域が、突然消滅したことを理解出来た者は皆無。
攻撃ビームで作られたエネルギー立方体がボトムオーガのアイテムボックスに全て収納されたことを知らない。
自然界には存在しない凶悪なエネルギーの集積体が、一瞬で消失したなんて誰も信じないだろう。
そもそもアイテムボックスを持つ存在自体が稀だ。
ボトムオーガは迫りくるエネルギービームを次々とアイテムボックスに収納した。
そしてアイテムボックスに入れ損ねた攻撃ビームは爪のある手で弾いた。
そしてその曲がるはずのない直線のエネルギー回廊をひん曲げた。
虚空に消え去る攻撃ビーム。
光の糸の間をジグザグに飛行し、その合間を掻い潜るボトムオーガ。
蹴り殴り、方向転換し、攻撃ビームを踏み台にして進路を強制変更する。
アインシュタインスルーによって光速を突破しかたかと思えが突然、静止する。
慣性とか加速とか物理現象を完全に無視していた。
「艦長。大質量の物体が光速接近。未来予測演算の全てが衝突を予知。回避不可避。衝突の衝撃に備えるのですよ」
ドッキー艦長に同伴しているサララの分体が警告を発した。
「それよりさっきから、その変な語尾はなんだい? サララ? 話し方を変えたのかい?」
「そうなのですのよ。新加入のメイムとキャラが被るから、こうしてキャラ付けしているのですよ」
「さすがサララ。こんな時にも余裕だね。でもメイムは『うん、そう』としか言わないからサララとはキャラは被らないだろ?」
「そこがもう悔しいところですのよ。『うん、そう』だけで会話が成立するのってあり得ないのですのよ?」
「それにしてもさ。さっきから敵の攻撃が正確なんだけど……僕の熱烈なファンでもいるのかな?」
光速限界を突破し超光速で飛行しているドッキー艦長扮するボトムオーガに命中させているのだ。
いくらドッキー艦長の鉄壁の防御スクリーンで損傷がないといっても、攻撃が当たっているのだ。
これは尋常なことではない。
何度も回避するが、回避しきれない攻撃ビームはボトムオーガに命中する。
だが魔王の攻撃にも耐えたドッキー艦長の防御スクリーンは戦艦の主砲ぐらいではびくともしない。
疑問視せざるを得ない。
戦艦に命中させるのとはレベルが違う。
ドッキー艦長は、ボトムオーガは小さい塵のようなサイズなのだ。
光速で飛行する小さな的に命中させることなんて通常ならば不可能だった。
「これはもしかすると……」
ボトムオーガがアインシュタインスルーによって光速限界を突破して迫りくる巨大質量弾を避けた。
だが避けたその先に、別の巨大質量弾が、上下左右、後方からアインシュタインスルーを超えて瞬時で光速を越えて飛来した。
まるで狙いすましたかのように、最初からそこにボトムオーガが来ることを知っているかのような見事なタイミングで大質量がボトムオーガを挟み、包囲し、退路を防いだ。
光速限界を超えたボトムオーガのその体重は無限に近い質量を有していた。
防御スクリーンはエネルギーの皮膜であったが、その微々たる質量は加速によって無限に増大していた。
アイシュタインスルーがスルーするのは速度だけだ。
光速による質量増量はスルーできない。
そこに反乱軍の放った、同じく光速を超えた質量弾が逃げ道を防ぐように飛来した。
衝突不可避。
双方は激突した。
まず最初に空間が割れる程の衝撃波が円形に発生し、次に球形の二次衝撃波が溢れ、周囲の塵を発熱させ消滅させた。
黒一色であった真空宇宙空間に彩を与えた。
今ここで加速器の内部の限定現象が真空宇宙で発生したのだ。
原子核が崩壊し、融合し、その衝撃で素粒子が乱れ飛んだ。
アインシュタインスルーを経由せずとも素粒子が光速を突破した。
ボトムオーガを中心に薄いミニ太陽がコンマ秒だけ誕生し、その短い命を終えた。
だがその衝撃のエネルギーは遥か彼方にいた反乱軍の戦艦の防御スクリーンを揺るがすほどのエネルギーであった。
「艦長!」
リーマイ副官が叫んだ。
「あれ? もしかして、僕のこと少しは心配してくれてたんだ。ちょっとだけ安心したよ」
「でも艦長が死んでも代わりはいますからね」
「うわ。上官侮辱罪で拘束してやりたい」
「私を拘束しても、艦長はご自身で鑑定できますものね? 私なんていらないですよね」
「いやだなあ。リーマイ副官の鑑定能力が無ければ僕は靴下のしまってある場所すら分からないよ」
「……気持ち悪いから冗談でもやめてください」
「くっ」
反乱軍の攻撃では一切ダメージを負わなかったドッキー艦長はリーマイ副官の一言にあっさりとダメージを受けた。
頭を抱え油断したボトムオーガに光速以上に加速され質量が無限に増加したミサイルが左右からボトムオーガに直撃した。
真空宇宙に爆球の花が咲いた。
続いてさらに連爆。葡萄の身のように連なった爆発が宇宙に出現した。
だがボトムオーガであるドッキー艦長の防御スクリーンはひび一つ、焦げ跡すら、シミすらなかった。
依然健在であった。
魔王の攻撃に比べたら、こんな攻撃は攻撃のうちに入らない。
だがこれはもうボトムオーガが出来ることではない。
もしドッキー艦長が本気で変装するならば、魔王の姿のほうが説得力あるだろう。
だが魔王に変装しても人類は魔王の姿を知らない。
ボトムオーガだろうがスキュラクラーケンであろうがエリートリザードマンであろうと大差はない。
魔族の姿ならばなんでもよかったのだ。
「この攻撃はどこからだ?」
ドッキー艦長は剥がれかかったボトムオーガ空間投射体を掴んで戻し整えた。
「ブレインリンク。宙域鑑定。サララ、未来予測カウンター演算開始」
「オンビットなのよ」
遠く離れたサンダーゲートの艦橋でリーマイ副官が宙域鑑定を開始した。
空間探査波が瞬時に投射され、アンビエントジャミング下の荒れた空間を鑑定する。
そしてその膨大な鑑定結果がサララに瞬間転送され、無量大数に近い膨大な情報が超弩級艦サンダーゲートの演算器群によって一瞬で演算処理された。
「艦長。これは未来予測演算です」
「ふむ」
「しかもこの未来予測の癖は知っているのですよ。これは古代エレメンタルAIの匂いがします。おそらく敵の中に私の姉か妹がいるのかもしれないのですよ」
サララが分析結果を報告した。
「そりゃ反乱軍は王立宇宙軍だもんね。サララの同型姉妹ララシリーズがいてもおかしくはないよ」
「はあ、アララか、カララシリーズだと少々手強いのですのよ。でも下位互換のタララシリーズならば相手になりませんですのよ」
「一旦減速する」
ボトムオーガはアインシュタインスルーを終了し、通常速度に減速した。
もう反乱軍にボトムオーガの存在が露呈しているのだ。
こそこそ隠れる理由がない。
「艦長。恐らくですが反乱軍に鑑定スキル持ちがいます。多分……炎の巫女様だと思われます」
リーマイ副官が感情を押し殺した声で報告した。
「炎の巫女様だって? そりゃあ反乱軍は元エリート軍だもんね。鑑定持ちがいてもおかしくはないよ」
反乱軍は王立宇宙軍だ。
鑑定スキル持ちがいてもおかしくはない。
「だが同じ王国民だ」
「はい。同級生が敵になるなんて考えたこともありませんでした」
「所詮、人間の敵は人間だよ。資源を取り合い、役職を取り合い、見栄を張り合う愚かな生き物だ」
「艦長。巨大質量のワープアウト演算感知。これは要塞級。この状況下で大質量のワープアウトだなんて現実感がなくて、信じられないのですよ」
サララが驚いていた。
ボトムオーガは視線の先に発生した巨大なワープリングの演算光を睨んだ。
その大きさは数キロを越えていた。
巨大な何かが、このアンビエントジャミング下の荒れた宙域にワープしようとしていた。
「反乱軍には鑑定能力を有した炎の巫女様がいる」
「私の同型がいる」
ドッキー艦長の耳元でリーマイ副官とサララの声が沈んだ。
宙域にプラズマが発生し、巨大な稲光が至る所で発生した。
「そうだね。だが反乱軍には優秀な鑑定能力を持ったリーマイ副官も。サララもいない」
ドッキー艦長扮するボトムオーガがゆっくりと目を閉じた。
稲光がボトムオーガの醜悪な頬を照らす。
「そして反乱軍にはこの超弩級戦艦サンダーゲートもないのですよ」
サララが楽しそうに言った。
空間に巨大な穴が開いた。
「そしてアイテムボックス持ちの艦長もいない」
リーマイ副官の楽しそうな声がドッキー艦長の耳元で流れた。
稲妻がリング状に放射され球体状に膨れ上がった。
「そして僕の留守を預かる妹……メイムもいない」
「うん、そう」
三人の会話を聞いていたのかメイムが嬉しそうに笑った。
星々が消えた。
反乱軍の推進光が消えた。
巨大な何かが星々の大海を塗り潰した。
天体程の巨大質量が宇宙空間を満たした。
反乱軍の戦艦の攻撃陣形の中央に何かが、巨大な何かが出現した。
アンビエントジャミング下でのワープアウトは莫大な演算コストとエネルギーを消費する。
そんなことが出来る存在は極わずかだ。
巨大なジェネレーターを保有し、巨大なワープリングを内包する存在。
人類史上最大の建造物である要塞級。
小さな、小さなボトムオーガの前に反乱軍半強襲揚陸殲滅型要塞トールハンマーが出現した。
「王立宇宙軍最大の規模を誇る存在……全長十二キロオーバー」
「半強襲揚陸殲滅型要塞トールハンマー」
「要塞級魔物シャドウパンデモニウムに対抗する為に人類が作り上げた最強の戦艦にて局地殲滅兵器」
「ワープリングを使い捨てにし、帰還の為のエネルギーキューブを持たない特攻型要塞」
「一度現れたら占領するまで戦い続ける悪魔の要塞……それが要塞トールハンマー」
「艦載機を数百万機以上も内包するバトルスターギャラクシー……悪魔の暴君王」
「膨大なエネルギーを内包し圧倒的案武力で殲滅する。あれの戦闘はまるでこの超弩級艦サンダーゲートの親分みたいなものですのよ」
複数のサララが興奮した声で報告する。
空気のない宇宙空間では距離感が麻痺する。
ドッキー艦長から見れば星々を暗黒に染めたその大きさは計り知れない。
「でも魔王星に比べると小さく感じるね」
ドッキー艦長扮するボトムオーガが笑った。
ドッキー艦長はこれよりもはるかに巨大な魔王星を潰滅させたのだ。
「艦長。悲壮感の欠片もありませんね」
リーマイ副官が溜息をついた。
「倒しがいのある敵ですのよ」
サララが要塞を睨んだ。
「うんそう」
メイムが割り込んだ。
「それでは是非とも、お父様に挨拶しないとね」
「艦長。要塞が主砲を発射します」
「では鎮圧を開始する」
ボトムオーガの牙が光ったその瞬間、その人類史上最高口径の、超強力な要塞級魔物の生体ビームに匹敵する直径が数百メートルの光の円柱がボトムオーガに向かって発射された。
強大な避けることなど不可能な圧倒的なエネルギーの奔流が一瞬で広大な宇宙空間を踏破し、ドッキー艦長扮するボトムオーガに迫り、世界が祝福されたように純白空間と化した。
お読みいただきありがとうございました。
大まかなストーリーに変更ありません。
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誤字脱字、読みやすいように修正しました。




