ステュムパロスの怪鳥
ステュムパロス湖畔に向かったヘラクレス
湖畔に棲む怪鳥は、群れで暮らし、翼の先が青銅、排泄物は有毒らしく付近の田畑に被害が出ている。
これまでに、何人かこの怪鳥を追い払おうとしたが、逆に襲われ命からがら逃げ帰ったらしい。
ヘラクレス:「翼の先が青銅って、人工的だな」
「そうです、その鳥は軍神アレスが飼っていた鳥なのです」
ヘラクレスはやれやれといった表情で首をふり叫んだ。
ヘラクレス:「またあんたか、いい加減姿を見せたらどうだ!」
ヘラクレスがそう言うと、急に回りが真っ白な世界になり、ヘラクレスは、洞窟の中にいた。
ヘラクレス:「どうなってるんだ」
カーン、カキーン、カーン、カキーン
どこからか、鉄を打つ音が洞窟内で鳴り響いていた。
ヘラクレスは、その鉄の音をたどって、ある部屋にたどりついた。
そこには片足が不自由な鍛冶屋がいて、鉄を懸命に叩いては、片目で鉄の様子をじっと見ている。
そんな作業を繰り返していた。
鍛冶屋は突然、ヘラクレスに声をかけた。
鍛冶屋:「なにを突っ立っている、中に入ったらどうだ」
ヘラクレス:「気がついていたのか」
ヘラクレスは、ここに迷い混んだ経緯を話した。
ヘラクレス:「正直、俺も訳がわからないんだ」
すると、鍛冶屋は思いがけないことを言った。
鍛冶屋:「あんたの事なら聞いとるよ、ヘラクレスじゃろ」
ヘラクレス:「なぜ俺の名を、もしかしてあんたが俺をここに連れてきたのか?」
鍛冶屋:「いいや」
ヘラクレス:「じゃあ、あんたはいったい」
鍛冶屋:「わしは鍛冶の神ヘパイストスじゃよ」
ヘラクレス:「鍛冶の神様が、なんで俺の名前を知ってるんだ?」
ヘパイストス:「あんたに胸当てを作るように、注文を受けてたんじゃよ」
そう言うと、ヘパイストスは、用意していた胸当てをヘラクレスに渡した。
ヘパイストス:「これからあんたは何と戦うんじゃ?」
ヘラクレス:「ステュムパロスの怪鳥です」
ヘパイストス:「ああ、昔、兄のアレスが飼っていた鳥じゃな」
ヘラクレス:「軍神アレスは、あなたのお兄さんなのか?」
ヘパイストス:「そうじゃ、あの鳥と戦うなら胸当てだけでは心細いな、少し待っておれ」
そういうと、ヘパイストスは、また鉄を打ちはじめた。
カーン、カキーン、カーン、カキーン
ヘラクレスは、その間、ヘパイストスの工房を見て回った。
工房には、ヘパイストスと一緒に働く3人のキュクロプスがいた。
キュクロプスとは、一つ目の巨人だ。
ウラノスとガイアの子供であり、ゼウスの叔父さんにあたる。
そして、ひときわ綺麗な部屋をみつけた。
そこには、こんな工房には似つかわしくない、とても綺麗な女性がいた。
女性はワインを飲みながらヘラクレスに話しかける
女性:「お客さんとは、珍しいわね」
ヘラクレス:「ええ、お客さんというか、迷い混んだというか・・・」
ヘラクレスは、うまく説明できなかった。
この女性に見つめられると、うまくものが言えないというか・・・緊張してるのかヘラクレス!
ヘラクレスは心の中で叫んだ。
ヘラクレスが戸惑っていると女性はさらに話しかけてきた。
女性:「あなたも、一杯やらない?」
女性はヘラクレスにもワインを勧める。
ヘラクレスは逆らうことが出来なかった。
言われるままに、部屋に入り、ワインを手にしていた。
俺はどうなっているんだ・・・
また、心の中の自分の声が響く。
部屋の入口から声が聞こえた。
ヘパイストス:「できたぞ!ヘラクレス!」
この声で、ヘラクレスは我に返った。
ヘラクレス:「あ、ありがとうございます」
部屋に入ってきたヘパイストスに、ヘラクレスが話しかける。
ヘラクレス:「綺麗な女性ですね」
ヘパイストス:「愛と美の女神アプロディテじゃからな、ワシの妻じゃ」
ヘラクレス:「ええ!」
ヘラクレスは、思わず声を出してしまった。
部屋を後にするヘラクレスにアプロディテは微笑んだ。
ヘラクレスは、どうすれば美の女神アプロディテを嫁さんにできるのかヘパイストスに聞きたかった。
しかし、どうみてもヘパイストスとアプロディテは不釣り合いだった。
そして、ヘパイストスを見たときのアプロディテの顔が不満そうに見えた。
やはり、この件に関しては聞くべきではないなと、ヘラクレスは思った。
ヘパイストスの部屋につくと、胸当てとお揃いの腕当てが出来ていた。
ヘパイストス:「まぁ、完璧とは言わんが、これでなんとかなるじゃろ」
ヘラクレスは、胸当てと腕当てを装備して、感触を確かめた。
ヘラクレス:「こうした装備を頂けるのは有りがたいが、やはり送り主を・・・」
そう言い掛けたところで、ヘパイストスが遮った。
ヘパイストス:「おお!そうじゃった、そうじゃった!」
ヘパイストスは、キュクロプスの部屋から金属で出来た丸い箱を持ってきた。
ヘパイストス:「これはキュクロプスたちを起こす目覚まし時計じゃ、これでステュムパロスの怪鳥をおびき出せばよい、使い方は・・・」
この目覚まし時計、まさに現代の目覚まし時計と同じだった。動力はゼンマイらしい。
ヘラクレスは、胸当て、腕当て、そして目覚まし時計を持って、この屋敷をあとにしようと思ったが、どうやって元の場所に帰ればいいんだ?
そう思ったとたん、また世界が真っ白くなり、気がつくと元の場所にいた。
ヘラクレス:「結局、あんたが誰なのかわからず仕舞いだったな・・・」
怪鳥が棲んでいるという、ステュムパロス湖畔の森についたヘラクレスは、
早速、目覚まし時計を試すことにした。
大きな目覚まし時計の音が鳴り響くと、慌てた怪鳥たちが狂ったように森の中から姿を現した。
それを一匹一匹、矢で仕留めていくヘラクレス
しかし、怪鳥たちは目覚まし時計の鳴る方向へ向かってやってくる。
ヘラクレス:「逃げるどころかこっちに来るぞ」
急いで、矢をつがえて放つヘラクレスだったが、すべてを打ち落とすことはできず、
接近戦になり、棍棒を振り回すがうまく当たらない。怪鳥の鋭い羽先がヘラクレスを切りつける。
たまらず、ヘラクレスは湖に飛び込んだ。
怪鳥たちは目覚まし時計の回りをクルクルと旋回している。
ヘラクレス:「胸当てと腕当てがなければ酷い事になってたな」
しばらくして、目覚まし時計が鳴り止むと怪鳥たちは森の中に帰っていった。
ヘラクレス:「ヘパイストスが目覚まし時計で、おびき出すと言ってたけど、これで餌の時間でも知らせていたんじゃないのか?」
ヘラクレスは、この目覚まし時計作戦を何度か繰り返し、ほとんどの怪鳥を退治した。
ミケナイに戻ったヘラクレスを見て、ミケナイ王は少し嬉しそうだった。
ヘラクレスが、怪鳥に切り刻まれた姿が痛々しかったからだろう。
こうして、ミケナイ王から怪鳥退治の報酬をもらい、また城の外で待っていると兵士がやって来た。
兵士:「次はクレタ島だそうです」
ヘラクレス:「なんだ、ミノタウロスでも倒すのか?」
兵士:「いえいえ、違います。そのミノタウロスの父親になるポセイドンが送り込んだ牡牛です」
ヘラクレス:「そんな牛がいたんだ」