レルネのヒュドラ
町外れで、気絶した獅子を起こすヘラクレス。
獅子も敵わないと思ったのか、ヘラクレスの様子を伺っている。
ヘラクレス:「お前に言ってもわからんだろうが、俺はお前を殺す気はない」
獅子は警戒して、ヘラクレスの周りをグルグル回る。
ヘラクレス:「だが、今度、人を襲ったり、家畜を襲った時はお前を殺さねばならん。」
獅子は何か言いたそうに、ヘラクレスを見つめる。
獅子:「・・・・・・・では、俺はどうやって生きていけばいいのだ!」
あっけにとられるヘラクレス
ヘラクレス:「お、お前、喋れるのか・・・」
獅子は続けた、
獅子:「俺に木の実でも食べて生きろというのか!」
ヘラクレスも負けてはいない。
ヘラクレス:「自分がどう生きるかは、自分で決めることだ、人に決めてもらうことではない」
獅子は唸り声をあげ吠えた。グルグルグル・・・グオァー!
獅子:「今回はお前に勝てなかったが、いずれお前を八つ裂きにしてくれる!」
そう言って獅子はヘラクレスのもとを走り去った。
小さくなっていく獅子の背を見ながらヘラクレスは呟いた。
ヘラクレス:「あの獅子、負けたとは言わないんだな・・・」
ヘラクレスが、レルネの近くにやってくると村は荒廃し村人達は病で苦しんでいた。
村人の話だと、ヒュドラの放つ息には毒があり、直接毒を当てられたものは死んでしまうという。
この村の病も、ヒュドラの毒気によるものだった。
さてどうしたものか・・・普通に考えて、毒はかなりまずい。
ガスマスクがあるわけでもなし、布を巻いて防げるとも思えない。
遠くから、焼き殺すのが良さそうだ。
ヘラクレスは油をヒュドラの住む沼に流し込み、火矢を放って火をつけた。
火はいっせいに広がった。それだけではない、あちこちで爆発がおこった。
どうやらこの沼にはガスも溜まっていたらしい、ヘラクレスもその爆風で吹き飛ばされそうになる。
ヘラクレス:「こいつは豪快な事になったな」
ふと空を見上げると、ウネウネした塊がこっちに向かって飛んでくのが見える。
どうやらヒュドラが爆風で、こっちに飛んできたようだ。
ヘラクレスの前に現れたヒュドラは、すでに瀕死の状態だったが、ヘラクレスは構わずヒュドラの頭を踏み潰した。
ヘラクレス:「くたばれ!」
ヘラクレスが頭をどんどん踏む潰していったが、それは逆効果だった。
頭が再生して、1本の頭から2本の頭がはえてくるではないか・・・。
ヘラクレスは、慌てて距離をとり茂みに隠れる。
ヒュドラの姿をよく観察して見てみると、焼け焦げた頭からは再生はしていないが、踏み潰した頭からは再生している。
ヘラクレス:「こいつは一度でなおしだな」
そのころ天空では
ヘラ:「最近、ヘラクレスは何をしておるのだ?」
イリス:「そういえば、先日ネメアの獅子を倒して、今はヒュドラと戦っています」
ヘラ:「なぜ早く言わん!」
イリス:「ヘラ様はヘラクレスのことが気になるんですね。うふふ」
ヘラ:「はぁ?私は何故だか知らんがヘラクレスが憎いだけだ」
イリス:「ヘラ様は、気がついてないのですよ。」
ヘラ:「何を言いたいのか知らんが、あそこに大きな蟹がおっただろう」
イリス:「カルキノスの大蟹ですか?」
ヘラ:「それだ!」
ヘラは何か呪文を唱えて蟹を魅了する。
ヘラ:「カルキノスよ!ヒュドラを援護するのだ!」
村に戻ったヘラクレスは、村人から松明と鎌を借りて、大急ぎでヒュドラの所に戻った。
まだ瀕死状態のヒュドラだったが、ヘラクレスの姿を見つけると、再生した首で襲いかかる。
そのうちの1本が、ヘラクレスに向かって毒を吹き付けた。
ヘラクレスは、ここぞと松明を振りかざすと、爆発が起こり、ヘラクレスもヒュドラも吹き飛ばされる。
ヘラクレスはよろめきながら立ち上がった。
ヘラクレス:「やはりな、こいつの毒は可燃性だ」
毒を吐こうとしたヒュドラの頭は吹き飛び、新しい頭が再生しようとしていた。
ヘラクレス:「はやく、焼き払わないと・・・」
よろめきながら、ヒュドラのもとへ向かうヘラクレス。
グチャ・・ヘラクレスの足元で何か音がした。
みると、大きな蟹がヘラクレスの足を掴もうとしていたが、ヘラクレスがよろめいて蟹を踏み潰してしまっていた。
ヘラクレス:「・・・すまない」
ヘラクレスは、殺してしまった蟹に謝った。
ヘラ:「・・・」
イリス:「・・・」
ヘラ:「かわいそうなことをしたな」
イリス:「・・・ですね」
このカルキノスの蟹を哀れに思ったヘラは、天に上げ星にした。これが蟹座である。
こうして、ヘラクレスはヒュドラの頭をすべて焼き払い、ヒュドラ退治を完了させた。
ヒュドラの死骸から立ち去ろうとするヘラクレスに声が聞こえる。
「ヒュドラの肝袋をとりなさい、その毒が今後の戦いに役立つでしょう」
ヘラクレス:「またあんたか、この毒の入った肝袋、直接さわっても問題ないんだろうな!」
やはり、返事はなかった。
言われるままに、ヒュドラの肝を取りながら、ヘラクレスは思った。
あの獅子のやろうに「自分の人生を人に決めてもらうな」って言ったが、
俺の人生は「あの声に従っているだけかも知れないな・・・。」
こうして、ヘラクレスはミケナイに帰っていった。
ヘラクレス:「ミケナイ王、これで2つの試練が終わった次の試練を言ってくれ」
ミケナイ王:「確かに、お前は2つの試練を終わらせた、だが2つ目は無効だ。」
ヘラクレス:「なぜだ、ヒュドラを倒したではないか」
ミケナイ王:「確かに、お前はヒュドラを倒した。だが国の天然記念物も殺しただろ」
ヘラクレス:「天然記念物?」
ミケナイ王:「カルキノスという大蟹だ!」
ヘラクレス:「・・・あれか」
天然記念物を殺した事により、ヒュドラ退治の賞金は無くなり、
しばらく次の試練を待つことになったヘラクレスのもとに、次の試練が告げられる。
それは、女神アルテミスの聖獣、ケリュネイアの鹿を連れてこいというものだった。