ヘラの嫉妬
神殿で女性が舌打ちしている。
「チッ、ヘラクレスを殺すことができなかったか・・・」
侍女が女性をなだめる
「ヘラ様、怒りをお沈めください」
ヘラ:「これが怒らずにはいられるか!夫のゼウスは、こともあろうに愛人に生ませた子に私の母乳を与えようとしたんだぞ!」
侍女:「いいではありませんか母乳ぐらい」
ヘラ:「よくない!いいかイリス!これは重大なことなんだぞ!
私はゼウスからのプロポーズを何度も断ったのだ、ゼウスの妾になるつもりはなかったからな。
それをどうしてもというので、ゼウスの正妻になったのだ。それだって3番目の妻だぞ!
それで、愛人の子に母乳を与えては、どっちが正妻で、どっちが妾かわからないでなないか!
それと言っておくがな、ゼウスは私の弟なのだ!」
イリスはびっくりした顔をして口に手を当てた。
ヘラ:「それがゼウスはどんどん外で子供を作るわ、私の眠っている隙に母乳を飲ませようとするわ。
私が結婚の神でなければ、とうに離婚しておるわ!」
イリスは黙ってゆっくりとうなずいている。
怒りだしたヘラをなだめる方法は、これしかないのだ。
ヘラ:「しかも、あのヘラクレスという赤ん坊、すごい力で吸い付きおって、まだ痛みがひかん」
イリス:「ヘラ様のお気持ちもっともですわ、少し横になって休みましょう。あ、そうだ美味しいネクタルがありますわよ。」
こうして、イリスはいつものようにヘラをなだめて、寝かしつけた。
神にとっての1年(1神年)は、人間界の8年に相当し、ヘラクレスはヘラに気づかれることなく成長していった。
ゼウスには他にも沢山の子供がいたので、ヘラはヘラクレスだけに構っていられなかったのだ。
幼少のヘラクレスは、ミケナイ王家の血を引きく人間の父アムピトリオンから馬術をならい。
「ヘラクレス!馬術の練習だ!」「はい!」
他の多くの師匠から様々な術を学び剛勇無双となっていく。
「ヘラクレス!武器の練習だ!」「はい!」
「ヘラクレス!格闘の練習だ!」「はい!」
「ヘラクレス!弓術の練習だ!」「はい!」
「ヘラクレス!武術の練習だ!」「はい!」
ヘラクレスは思った。
神の子として生まれ、ミケナイ王家としてこうした英才教育を受けられる。素晴らしいな!
だが、王家とは良いことばかりではない。王家には王位争いがあるのだ。
ヘラクレスの人間の父アムピトリオンは、確かにミケナイ王家ではあったが、
王位争奪に破れ、今はテーバイ王クレオンのもとに身を寄せていた。
クレオン:「困ったなぁ・・・またオルコメノスが税金を上げてきたぞ」
それだけではない、弱い国は強い国に税金を納めなければならないのだ。
その為、王家の子供達は強くなければならなかった。その為の英才教育なのだ。
アムピトリオン:「テーバイ王、いつも世話になってばかりでは申し訳ない、王がお困りであれば一緒に、オルコメノス軍と戦いましょう。」
クレオン:「ありがとうアムピトリオン殿、だがオルコメノス軍は強いぞ、どうにもならん」
アムピトリオン:「息子のヘラクレスがおります」
クレオン:「アムピトリオン殿、いくらヘラクレスが強くても軍を相手ではどうにもなるまい」
アムピトリオン:「実はヘラクレスは私の息子ではありません、全能の神ゼウスの子です」
クレオン:「なんと!」
アムピトリオン:「私の留守中にゼウスが、私になりすまし妻に生ませた子です。」
クレオン:「アムピトリオン殿は知っておったのか!?」
アムピトリオン:「神託で知りました、ですがあの神のような力、間違いなく神の子です。」
テーバイ王は、しばらく考えて言った。
クレオン:「わかった戦おう」
青年になったヘラクレスは、まさに神のような力を持つようになっていた。
ヘラクレス:「いよいよ実践の時だな、この鍛え上げた筋肉が飾りでないことを証明して見やる」
この時代は、化け物みたいな生き物や神の子たちがいても、銃器やミサイルはないからな、
この鍛えた肉体、剣や鎧が最大の武器。まさに俺の時代だ。
オルコメノス軍は強かったが、神の子ヘラクレスにかかれば、大したことのない敵だった。
ヘラクレスの前に敵兵達は、次々に投げ飛ばされ、戦意を失っていった。
このヘラクレスの大活躍に、テーバイ王クレオンは大喜び。
クレオン:「よくやったヘラクレス、どうだうちの娘と結婚してはくれぬか」
アムピトリオン:「これはありがたい、ヘラクレスお前も嫁をもらって落ち着け」
そうか、結婚か・・・前世ではしたことなかったからな・・・一度しておくか。
ヘラクレス:「そうですね父上、是非おねがいします。」
クレオン:「おお!こんな立派な婿をもらえばテーバイも安泰というもの」
こうしてテーバイ王の娘メガラとの結婚が決まった。
メガラは美しい女性だった。
この人が俺の嫁さんか・・・悪くないな。
ヘラクレスは、メガラとの間に子供をもうけ幸せに暮らしていた。
ヘラクレスは子供を抱えて満足そうに微笑む
ヘラクレス:「おい坊主、また大きくなったな」
メガラ:「この子も大きくなったら貴方のような立派な人になるわ」
見つめ合い、幸せを噛み締めるヘラクレスとメガラ
しかし、こうした幸せな日々は長くは続かなかった。
嫉妬にもえるヘラが黙ってはいなかったのだ。
ヘラ:「なんですって、ヘラクレスに子供ができたですって!」
イリス:「いいではありませんか幸せに暮らしているのですから」
ヘラ:「よくない!ヘラクレスは活躍しすぎよ、それでまたヘラクレスの子孫が増えてご覧なさい大変なことになるわ!」
イリス:「ヘラ様、落ち着いてください、美味しいネクタルでも飲みましょう。」
ヘラ:「ネクタルなんて要らないわ!・・・?」
ヘラを不適な笑みを浮かべて、なにかを思い付いた。
ヘラ:「やっぱりネクタルがいるわ、持ってきて。」
イリスがネクタルを持ってくると、ヘラはネクタルに呪文を唱えだした。
ヘラ:「イリス、このネクタルをヘラクレスに飲ませてきて」
イリス:「・・・」
ヘラ:「早くいきなさい!」
イリスはしぶしぶそのネクタルをヘラクレスに届けるのだった。
イリスはヘラクレスの飲むお酒を、このネクタルとすり替えヘラクレスに飲ませることに成功する。
ヘラクレスがネクタルを飲むと、急に眠くなり床についた。
朝目覚めると、オルコメノス軍がテーバイに責め込んでるではないか。
ヘラクレスは慌てて、外に出て応戦する。
「くそ!いつのまに、メガラは子供を連れて逃げろ!」
そういってヘラクレスは、オルコメノス軍を蹴散らしていく。
どのくらい戦ったのだろう、また急に眠くなり意識を失うヘラクレス。
まわりから、人々のざわついた声が聞こえてくる。
アムピトリオン:「どういうことなんだヘラクレス!」
クレオン:「おお!わが娘メガラ!なんてことだ!」
うっすらと意識がもどるヘラクレスの目に、破壊された家と愛するメガラと子供の亡骸がうつる。
どうなってるんだ、いったい・・・。
まわりの話を総合すると、どうやら俺が愛する妻と子供を暖炉に投げ込んだらしい・・・。
ふざけるな、俺がそんなことをするはずがない。
だが、どうやらそうしてしまったらしい。
俺は、テーバイでの居場所をなくし、しばらく野外をさ迷いながらデルポイの町へたどり着いた。
ヘラクレス:「俺は、これからどうすればいいんだ。」
ヘラクレスがアポロン神殿の前を通ると、どこからともなく声が聞こえた。
「ミケナイ王のもとに行きつかえよ、そして10の勤めを果たせ」
ヘラクレス:「あんたは俺をこの世界に送り込んだ神なのか?それとも俺の父ゼウスなのか?」
返事はなかった。
今の俺に出来ることは、誰だか知らないが神とおぼしきヤツの声に従うだけだ。
ヘラクレスは思った、これは愛する妻と子供を殺してしまった贖罪の旅だと。