オイカリアの弓術大会
ヘラクレスはオウカリアの弓術大会にやって来た。
オイカリア王エウリュトスはヘラクレスの弓術の師匠でもあった。
ヘラクレス:「師匠、お久しぶりです」
オイカリア王:「このあいだのアルゴナウタイは残念だったな」
ヘラクレス:「友人を失ったのは残念でした」
オイカリア王:「そうであったな・・・言葉もない。だが今日は楽しんでいってくれ」
ヘラクレス:「かならずイオレ姫を手に入れてみせます」
オイカリア王:「お主にできるかな?」
この大会にはオイカリア王自らも出場し、その息子イーピトスも参加するのだ。
2人とも弓の名手として知られていた。
オイカリア王は、狩りの女神アルテミスの双子の弟アポロンから弓を習い、アポロンから弓も貰っていた。
大会は、オイカリア王、イーピトス、ヘラクレス、それと無名の狩人の4人が残った。
まずは、オイカリア王と無名の狩人の対戦が行われ、
次に、イーピトスとヘラクレスの対戦が行われる。
そして最後に、双方の勝者が対戦をすることになった。
大会の優勝候補は、アポロンの弓を使うオイカリア王自身だった。
だが、大波乱がおこった。
無名の狩人にオイカリア王が負けてしまったのだ。
オイカリア王:「ば、馬鹿な!お、おまえはいったい何者だ!」
無名の狩人:「オイカリア王、私ですよ私」
よく見てみると、狩人の変装をした人間サイズのアポロンだった。
アポロン:「私の弓を使うのはズルいと思ってね、私も参加させてもらったのだよ」
思わぬ客に、オイカリア王はビックリしていた。
オイカリア王:「これはアポロン様も人が悪い。寿命が縮まりましたよ」
アポロン:「たまには負けるのも悪くないだろう」
オイカリア王:「自分の未熟さがよくわかりました」
ヘラクレスはかつて自分が恐怖を感じた相手をまじまじと見ていた。
アポロン:「ヘラクレス、お前の活躍は天界でもウワサなっている。確か以前どこかで会った事があったな」
ヘラクレス:「ああ、ケリュネイアの鹿狩りの時にな、弓術とはいえ、こんなに早くあんたと対戦が出来るとは思ってもみなかった」
アポロン:「私はオイカリア王と対戦したかっただけだ、後の試合には参加しない」
アポロンが棄権したことで、イーピトスとヘラクレスの対戦が決勝戦となった。
ヘラクレスは内心ほっとしていた。いつかはアポロンを打ち負かしたいと思っていたが・・・
ヘラクレス:「・・・確かに弓術では分が悪い」
ヘラクレスはアポロンの事で頭が一杯だったが、次の相手はイーピトスだ。
ヘラクレス:「気持ちを切り替えないとな」
イーピトスにオイカリア王が耳打ちする。
オイカリア王:「お前が負けると、妹がヘラクレスの嫁になるからな。絶対に負けるなよ」
イーピトス:「もちろん負ける気はありませんが、ヘラクレスの嫁ならいいではありませんか。」
オイカリア王:「ヘラクレスは前の嫁を暖炉に投げ込んで殺しているからな」
イーピトス:「・・・」
試合は拮抗していた。
しかし、修羅場を潜り抜けてきたヘラクレスの弓の腕はイーピトスを少し上回った。
ヘラクレス:「ありがとう。いい試合だった。全力をだせたよ」
イーピトス:「ああ、さすがヘラクレスだ。負けたよ」
二人は握手を交わしたが、イーピストは妹の事を考えると、顔がひきつってしまった。
ヘラクレス:「どうかしたのか?」
イーピトス:「いや、負けたのがショックで・・・」イーピトスは慌てて嘘をついた。
大会の表彰が行われたが、イオレ姫の話は出てこなかった。
ヘラクレス:「イオレ姫との婚姻の話はどうなったんだ?」
オイカリア王:「すまんヘラクレス、イオレも突然の事でな、まだ心の準備ができとらんのだ」
ヘラクレス:「そんなはずはあるまい、大々的に公言されていたではありませんか」
イーピトス:「ヘラクレス、妹には俺から良く話しておく、今日の所は俺に免じて引き下がってくれないか」
ヘラクレスはイーピトスの顔をたて引き下がった。
ミケナイに戻ったヘラクレスは、イオレ姫の事を考えていた。
ヘラクレス:「イオレ姫とは、俺も贅沢だったかもしれないな」
実際、自分とは不釣り合いのように思えるイオレ姫の事を考えて、ヘラクレスはこれで良かったのかもしれないと思った。
ヘラクレス:「そういえば、美の女神アフロディーテが夫の顔見て不機嫌そうにしてたもんな・・・」
しばらくして、オイカリア王が所有している牛が盗まれる事件が起こった。
オイカリア王:「誰が、ワシの牛を盗んだのじゃ!」
オイカリア兵:「それが何処に牛が行ったのかまったく手がかりが掴めません」
オイカリア王:「ぐぬぬぬ・・・こんなマネが出来てワシを恨みそうなヤツは・・・」
オイカリア王には、一人の人物しか思い付かなかった。
オイカリア王:「ヘラクレスのヤツめ・・・許さん!」
イーピトス:「待ってくれ父さん、ヘラクレスはそんなことをするヤツじゃないよ」
オイカリア王:「いや、ヤツはイオレを嫁に出来なかった腹いせに牛を盗んだに違いない」
ヘラクレスが犯人だと思い込んだオイカリア王は、イーピトスの話を聞こうとはしなかった。
イーピトス:「では、私がヘラクレスに直接会って話をつけてきます」
イーピトスはヘラクレスに盗まれた牛を一緒に探してもらおうと思っていた。
実は、この牛泥棒の犯人はアルゴナウタイで一緒だったヘルメスの息子アウトリュコスだった。
だが、それを知る人は誰もいなかった。
ミケナイについたイーピトスはヘラクレスの家にむかった。
ヘラクレス:「イーピトスじゃないか、どうしたんだ?」
事情がわからないヘラクレスはイーピトスを歓迎した。
世間話をした後、イーピトスは切り出した。
イーピトス:「実はエウボイア島で飼っていた牛が盗まれたんだ」
ヘラクレス:「それは災難だったな」
イーピトス:「なにか知らないか?」
ヘラクレス:「?・・・なんで俺が知ってるんだ?・・・俺を疑っているのか?」
疑われたヘラクレスは不機嫌になった。
ヘラクレス:「確かにイオレ姫を手に入れられなかったのは残念だが、牛を盗んでも仕方ないだろ」
酒も入ってか、ヘラクレスは怒りが収まらなくなってきた。
ヘラクレス:「だいたい姫を渡すと公言しておきながら約束を守らず、今度は牛泥棒扱いか!、ふざけるのもいい加減にしろ!」
ヘラクレスのすごい剣幕にイーピトスは言い訳を始めた。
イーピトス:「俺はヘラクレスが妹のイオレと結婚する事には賛成だったんだ、だが親父がヘラクレスが前の嫁さんを暖炉に投げ込んで殺したと言って反対したんだ」
ヘラクレス:「な、な、なんだと・・・」
ヘラクレスは忌まわしい過去を思い出して具合が悪くなってきた。
目の前がクラクラして吐きそうになる。
イーピトス:「だ、だいじょう・・・ぶ・・ラク・・ス」
ヘラクレスはイーピトスの言葉がよく聞こえなくなっていった。
あれからずいぶん経つが、ヘラから飲まされた呪いの酒が体の中に残っていたのか、ヘラクレスは悪夢を見た。
気がつくと、イーピトスの姿はなく、ヘラクレスも外にいた。
ヘラクレス:「お、俺はどうしちまったんだ・・・」
ヘラクレスは慌ててイーピトスを探した。
ヘラクレス:「イーピトス!イーピトス!、た、たのむ返事をしてくれ!」
翌朝、イーピトスは崖の下で発見された。息はしていなかった。
ヘラクレス:「お、俺は・・・」
また、人を殺してしまったのではないかという思いがヘラクレスを蝕んでいった。
ヘラクレスは、デルポイにやって来た。
はじめて女神アテナの声を聞き、10の試練の啓示を受けた場所だ。
ヘラクレスは、アポロン神殿に乗り込み、もう一度神託を受けようと巫女に頼み込んだ。
ヘラクレス:「た、たのむ俺に、もう一度神託を与えてくれ」
ヘラクレスは藁にもすがる思いだった。
ところが、巫女は神託を与えようとしなかった。
巫女:「ここはアポロン神殿です、あなたの神は別の方なのでは?」
神の事をよく知らないヘラクレスは、神殿を略奪して直接神託を賜ろうとした。
ヘラクレス:「もうお前になどには頼まん!自分で何とかしてやる!」
ヘラクレスは巫女を振り払い、儀式に必要な道具を奪った。ヘラクレスは完全に病気だった。
自分の神殿が荒らされたアポロンが、ヘラクレスの前に現れる。
アポロン:「俺の神殿を荒らすとは、いい度胸だな」
ヘラクレスは笑った。
ヘラクレス:「ははは、またアンタか」
気の触れているヘラクレスは、6メートルの巨人アポロンを前にしても動じなかった。
ヘラクレス:「俺は、いつかアンタと殴り合いたいと思ってたんだ」
ヘラクレスの異様な雰囲気にアポロンも身構えた。
二人が取っ組み合いを始めようとした時、まぶしい光と、ドーンという心臓を揺さぶる音がして、
二人の間に雷が落ちた。
「やめないか!」大神ゼウスの声だった。
ゼウス:「ヘラクレス、お前は病気だ」
ヘラクレス:「そんなことはわかっている!だがどうすることも出来ない。だから神託を受けようとしているのだ!」
ゼウス:「・・・アポロン、神託を与えてやれ」
アポロン:「し、しかし」
ゼウス:「お前は、神託の神だろ!」
アポロン:「わかりました。ゼウス様」
アポロンはヘラクレスに神託を与えてやった。
アポロン:「お前は奴隷として売られ、そこで3年間奉仕するのだ、そしてオイカリア王にイーピトスを殺した代価を払うのだ」
ヘラクレス:「それが答えなのか?」
アポロン:「そうだ」
ヘラクレスはゼウスの伝令使ヘルメスによって売られ、リューディアの女王オムパレに買われた。
ヘラクレス:「これからの奴隷生活が、俺の苦痛を取り除いてくれるというのか・・・」




