トラキア王の人喰い馬
トラキアに向かう途中、人喰い馬の話を耳にした。
なんでも、トラキア王は軍神アレスの息子で、旅人を捕まえては、自分の4頭の馬に食べさせているらしい。
ヘラクレス:「なんとも悪趣味な野郎だ。」
そのため最近、旅人が少なくなり、物資を運ぶのも一苦労で、兵隊にお金をつかませてトラキア王のいない道を教えてもらっているのだとか。
トラキア兵:「おい!止まれ!」
ヘラクレスが乗っていた乗合馬車が止められた。
一緒に乗っていた老人が祈る。
老人:「どうかトラキア王に見つかりませんように」
トラキア兵:「何をしてるんだ?」
運転手:「はい、イリオスまで荷と人を運んでいるところです」
トラキア兵:「知っていると思うが、最近、物騒でな旅人が獣に襲われて亡くなっている。」
運転手:「噂は聞いております」
トラキア兵:「この先、道が2つに分かれている、右にいくか、左にいくか、お前さんの自由だ」
運転手はトラキア兵に小さな袋を渡した。
トラキア兵は中身を確認すると言った。
トラキア兵:「右に行け」
運転手:「ありがとうございます」
運転手はトラキア兵に軽く頭を下げ馬車を走らせた。
しばらく馬車を走らせると、軍隊が見えた。
運転手:「どういうことだ」
あわててヘラクレスが外を見ると、兵隊が順番に馬車を止め、中の旅人を王の前に連れ出していた。
老人:「あんた!ちゃんと兵隊に金を渡したのか!」老人は運転手に詰め寄った。
運転手:「当然だ!俺も死にたくはない!」
そういって、馬車をUターンさせ、左の道に入った。
しかし、こちらにも軍隊がいて、馬車は軍隊に捕まってしまう。
老人:「もう終わりだぁ・・・」
一人一人、王の前に連れ出される。
最初は老人だった。
トラキア王は、痩せ細った老人を見て言った。「行け!」
老人は別な馬車に乗せられトラキア内に入っていった。
次に運転手が王の前に引っ張り出された。
運転手:「わたしはお金も払いました、トラキアに物資も運んでいます。トラキアにとって有益な人間です」
トラキア王は、丸々と太った運転手を見て言った。「行け!」
運転手は、丘の陰に連れて行かれた。
運転手:「や、や、やめてくれぇ!」
ギャァー! ボリボリ ボリボリ
運転手の悲鳴と、なにかをむさぼる音が聞こえた。
最後はヘラクレスだった。
トラキア王は、筋骨隆々のヘラクレスを見て言った。「お前がヘラクレスだな」
ヘラクレス:「わかっているなら話がはやい、この馬鹿げたショーを止めてくれないか」
トラキア王は手に持っていたムチで地面を打つと、パシッーン!という甲高い音が鳴った。
すると、丘の上に大きな4頭の馬が現れる。
ヘラクレス:「なるほど、変だと思ったんだよな、肉食の馬なんて」
確かに丘の上に現れたのは、4頭の馬だったが、頭が4つある馬だった。
いや、正確には、こいつは馬じゃない、キマイラだ。
トラキア王が、ムチを打つと、キマイラはヘラクレスに向かって突進してきた。
ヘラクレスは、受け止めようかと迷ったが、すんでの所で身をかわした。
ヘラクレス:「あれを受け止めるのは危なそうだな・・・。」
パシッーン! トラキア王がムチを鳴らす。
キマイラは向きを変えて、またヘラクレスに向かってくる。
ヘラクレスは、かわすと同時に、馬の首に手を回し、キマイラの背中に飛び乗った。
ヘラクレスは、たてがみを掴み、手綱をさばく要領で、キマイラを大人しくさせようとする。
ヘラクレス:「どう、どう、どう・・・」
トラキア王はヘラクレスを睨み付け、またパシッーン!とムチを打った。
今度は、狂ったようにキマイラが暴れだし、ヘラクレスを振り落とそうとする。
ヘラクレスは、トラキア王の手にしているムチを見て呟く。
ヘラクレス:「あれか」
ヘラクレスは振り落とされたふりをして、トラキア王の真上に落下した。
ヘラクレスとトラキア王の格闘が始まる。
トラキア王も軍神アレスの息子だけあって、なかなか強い。だが、ヘラクレスほどではなかった。
ヘラクレスは、トラキア王の持っていたムチを奪い、パシッーン!とムチを鳴らした。
キマイラは魔法で合成された生き物で、そのキマイラをコントロールするには魔法のアイテムが必要だったのだ。
キマイラはトラキア王に襲いかかった。
トラキア王:「や、や、やめろぉー!」
ギャァー! ボリボリ ボリボリ
ヘラクレス:「うわぁー」ヘラクレスはたまらず、トラキア王から目をそらした。
ミケナイに帰ったヘラクレスが、ミケナイ王の広間にやってくる。
トラキア王の最後は、ミケナイ王にも知らされていたようだった。
キマイラとムチを持ったヘラクレスを見て、ミケナイ王は何も言わず報酬をくれた。
その後、キマイラは野に放され、ヘラクレスもムチを何処かに無くしてしまった。
兵士がヘラクレスに次の試練を伝えるためにやってきた。
兵士:「次は、アマゾンの女王の腰帯を持ってきてください」
ヘラクレス:「これは、また変わった試練だな」




