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カカシ  作者: 命令形
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最終話

 カカシは不敵に、ケタケタと笑っている。

「なかなか面白い話じゃないか。先ほどまでとは比べ物にならない」

「そうだろう。かなり自信があるんだ」

 元々風一つ吹かない草原。ここにいるのは自分とカカシだけ。今となってはこれまでこんな簡単なことに思い至らなかった事の方が不思議である。

「しかし仮説と言うからには、それなりの根拠が必要だ。君が言うからには、まさか全くの出まかせだなんてことはないだろう?」

 仮面というのも馬鹿馬鹿しいが、カカシが何を考えているのか、その表情からは窺い知れない。

「勿論あるとも。例えばこれはどうだろう」

 カカシは黙って聞いている。

「この世界には私とお前の二人だけだ。ならば少なくともどちらかが、この世界の存在に大きく関わっていると考えるのが妥当だろう」

「それはどうだろう?」

 カカシは口を挟む。

「君がさっき言ったように、この世界が誰かの夢だと仮定しよう。しかしだとしても、どこかの物好きがこんな奇天烈な夢を見ている可能性だってあるだろう」

「確かにそうかもしれない。しかしその可能性は低いだろうな」

「ほう、それはどうして?」

 カカシの態度に余裕が見える。

「簡単な事さ。もし他に誰かが居るのなら、私たちから見えないなんておかしいだろう」

 それを聞いて、カカシは笑い出した。

「まあ、君の暴論は今に始まったことではない。続けてくれ」

「ではお言葉に甘えて。そうだな、次はこれだ」

 と、一瞬の間を置く。

「ここがこんなにも奇妙な空間だと言うのに、だ。私は人間としてここにいて、人間の域を逸脱してはいない。しかしお前はどうだろう。お前はあくまでカカシだと言うのに、話しもすれば笑いもする。これが何を意味していると思う」

「分からないな。教えてくれたまえ」

 カカシはあっさりと答え、続きを促す。

「この異様な空間で、ただお前だけが、本来あるべき範疇から逸脱している。しかしそれは裏を返してみれば、本当の姿から敢えてカカシに身をやつしているとも言えるのではないか」

 流石のカカシも面食らったのだろうか。何も言わずに固まっている。

「理由などこじつけようと思えばいくらでも思いつくが、この位にしておこう。」

「それはどうして?」

 カカシはすかさず問いかけてくる。しかしそれに対する答えも元より決まっている。

「お前は何か勘違いをしていないか」

「勘違い? それは一体?」

 カカシは白々しくもそう言った。

「これは確かに仮説だ。正しいかどうか判断するには、何らかの根拠が無くてはならない。しかしどうだ。わざわざ私が御託を並べるより、もっと簡単に証明する方法があるだろう」

「ほう。それは何だろう?」

 見当もつかないとでも言わんばかりだ。

「何、簡単な事だ。これがお前の夢かどうか、お前に聞けば良いに決まっている」

 私がそう言った時、カカシは初めて笑うのを止めた。今までずっと聞き手に回っていた彼は、私に問いかける。

「しかしそれは、見方を変えればとても悲しい仮説になるわけだ」

「悲しいとはどういうことだ」

「簡単な事さ。この質問は前にも言ったね。でも改めて聞こう。これが僕の夢ならば、君はどうなるんだ?」

 カカシは悲しそうに私を見ている。

「さっきも言っただろう。私は私だ。それ以外の何者でもない」

「でもこの世界に君がその答えを出すという事は、君自身を否定することに他ならない。違うかい?」

 カカシは私の瞳を捉えて離さない。

「ああ、違うな」

 その言葉は今度こそカカシの予想外だったのだろう。カカシは目を丸くして、黙ってしまった。

「これがお前の夢ならば、私の存在はこの世界以外には有り得ない。だから、それを私自身が認めることは自殺行為に等しい。お前はそう言いたいのだろう」

「ああ、その通りだ。」

 カカシは素直に首肯する。

「だがな。それは違うのさ」

 カカシは困惑しているようである。

「この世界以外に私が居ようと居まいと、そんなことは私には関係がない。私は今、確かにここに居るのだからな」

「そうかい」

 カカシは一瞬笑って、言葉を続けた。

「君は強いね。それはもはや傲慢の域にさえ達している。」

「そうだな。私はこういう人間なんだ。もっとも、私が人間と形容するのにふさわしいか、私には分からないがな」

 それを聞くと、カカシは笑った。

「人間でも何でも、好きなように表現するが良いさ。誰も君を止められはしない」

「そうか。なら好きにさせてもらおう」

 そして、私は続ける。

「ところで、肝心なことを忘れているようだが」

「おや、一体何だろう?」

 そう言ってカカシはとぼける。

「決まっているだろう。私の仮説について、まだお前の答えをもらっていない。」

「そうだったね。まだ話は途中だった。」

 カカシは少し考えるように、瞑目する。そして何か悪戯でも思いついたかのように、切り出した。

「しかし、それに答えることは簡単だけれども、どこか面白みに欠けるね」

「自分の考えが正しいのか、或いは間違っているのか、知りたいと思うのは当然だろう。ただ一言、それで終わるのだ」

 カカシは不敵に笑う。

「そうだね。しかし僕に答える義務があるわけでも無いだろう?」

「ああ、その通りだ。」

 そして、カカシは笑いながら言った。

「だから答えは保留としておこう。いつか分かる日が来るかもしれない」

 カカシは答える気は無いようだ。別に私もそこまで期待していたわけではないのだが。

「さて、僕はそろそろここを去らなければならない」

 急に、カカシは言い出す。

「それはまた急だな」

「思い立ったが吉日と言うだろう?」

 それは意味が違う気もするが。

「ここを去って、どこに行くのだ」

「さあね。自分で考えてみると良い。」

 相変わらず意地の悪いカカシだ。

「しかし、君は良いのかい?」

 カカシは僕に問いかける。

「何がだ」

「ここから僕がいなくなったら、どうなるのか分からない。また君と会えるのかもね」

「そうか。私は別に構わん」

 そう言うと、カカシは笑い出した。

「全く、君は変わらないな」

「変わる理由もないからな」

 それを聞いて、カカシは満足したようだ。

「じゃあ、この後君がどうなるのかも、また会えるかも分からないが、お別れだ。何か言い残したことはあるかい?」

「いや、特にないな」

「全く、君は変わらないな」

 カカシはケタケタと笑い、そして消えてしまった。

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