オタクとギャルと……
「あのさー」
その女学生は、指で自分の髪を弄りながら気だるそうに話しかけてきた。
「なななな、なんでしゅか!?」
いつもならば紳士に返事を返しているのだが、突然の事もあり返事を噛んでしまった。まさか彼女の方から僕に話しかけてくるとは思ってもみなかったからだ。
しかし、彼女は何をしてるんだと、ゴミを見るような冷たい視線を僕に向けていた。
「アンタが飲んでるソレ、何?」
僕の目の前に置かれたペットボトルを指差して彼女はそう述べた。
眼鏡をクイッと持ち上げ彼女に向かって僕は高らかに声を上げた。
「これは彼の有名なマッドサイエンティストも愛した知的飲料『ドクターペッパー』ですよ!」
「はぁ」
聞いているのか聞いていないのか、彼女はスマホを弄りながら生返事を返した。
「このドクターペッパー、通称『ドクペ』は1885年にアメリカで発売された炭酸飲料で、最も歴史が古い炭酸飲料なんです!」
「へぇー」
「アメリカでは大人気のドクペなんですが、日本ではこの独特な味わいが功を奏してか余り人気がないんですよねー」
「それって単純にマズイだけだろ」
「なな何を言ってるんですか! ドクペには愛好家も数多くいて、かく言う僕もその一人で……」
僕が話をしている最中だというのに彼女は徐に僕の目の前に置かれたペットボトルをひょいと持ち上げた。
「ななななな、にゃにをしてるんですかぁ!?」
「何って味見じゃん」
そう言って彼女は何の躊躇もなく蓋を開けると、僕の飲みかけのペットボトルに口をつけた。
「うげぇーマズッ」
「…………ッ」
か、関節キス……
彼女はドクペを一口飲むと、不機嫌そうに顔を歪め僕を睨んだ。
「よくもまぁこんなマジーもん飲めるよなー」
「…………」
そう言い残すと彼女は再びスマホを弄りだした。僕の手の中には彼女に押し返されたドクペのペットボトルがあった。返されたドクペは少し温くなっていた。
ドクペ美味しいですよねー
僕は大好きですよ?