Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-7)
「まあ、いいや。十分反省はしてるみたいだからね。
で、そこから後、君が見たのは、原作シュネー・脚本ソーニャ・演出ソーニャの、即興劇だ。
クラマー中佐の安全を確保したところで、ボクは考えた。
シュネーみたいな完璧な脚本は、ボクには作れない。だからそれに乗っかって、走り続けるのが一番いい。
だったらこの完全に想定外な状況から、なんとかして君をクラマー中佐のポジションに押し込めないだろうか?
もしそれが可能なら、シュネーの脚本をほぼそのまま使い続けて、最後まで走りきれる」
そういう、ことか。確かに、理にかなってる。
「幸い、君の肩書は申し分ない。『なんでこんな奴が中佐の代わりに?』みたいな部分を補うストーリーを作る必要は、ない。
だからボクは、君にハクをつけることにした。
まぁ、まさか出会って一発目に、あんなことを言われるとは思ってなかったけど」
ソーニャ嬢が、思い出し笑いをする。
「君はね、実は、帝都の裏社会において、かなり特異なポジションを得たんだよ。
〈魔弾の射手〉が直接会って話をしたことがある警察局関係者は、極めて少ない。警察局関係者と会うとき、基本的にボクは仮面を着用してるから、素顔のボクを見たことがある警察局関係者ってのは、君と、君のお養父さんくらいかもしれない」
そうなのか! あの会見は、そこまで異常なものだったのだ。
なるほど、内事課に巣食っていた密告者たちが、慌てて僕をターゲットしたのも、むべなるかなだ。
――ん? あれ、でもそれって、もしかして。
「君がトイレでリンチされたのは、2つの意味がある。
1つは効果測定。ボクと君が会って話をしたっていう事実が、ちゃんと『虫』たちを誘い出すに十分な効果を発揮しているのか。どれくらい『虫』たちが君に執着するのか。それを確認する必要があった。連中が君を殺しかねない勢いで袋叩きにするのを見て、これは上手くいったな、と確信したよ。
もう1つは、レイチェルの提案による、“君へのお灸”。どう見ても個人的な意趣返しだけど、ボクとしてもそれに反対する理由はなかったから、まあいいかなって。君が殺されることはないだろうし」
うう、やはりそうか……。でも、それに文句が言える立場ではない。
「で、とりあえずクラマー中佐のポジションに君を送り込むことに成功したっぽい、ってのをシュネーに報告したら、シュネーからはそのまま進めろって返事が来たから、予定通り君に会って『そのまま進めろ』と伝えた。
あの時間の、あの場所に、君が来れないなら、そんな無能に伝える言葉はない。一人で好きに踊って、勝手に一人で死ねばいい。
でも、君は来た。君は、自分の能力を証明した」
ソーニャ嬢に褒められて、思わず頬が緩みそうになる。が、ここで頬を緩めると、シュネー嬢のヒステリーとやらが爆発してもおかしくない。というか僕が彼女の立場なら、間違いなく「愚物のくせに何をニヤニヤしてる!」とか叫んで、目の前のウスラトンカチをぶん殴るだろう。
「あとはまあ、微調整の繰り返しかな。
君をクラマー中佐ポジションに押し込んでの『虫取り』は、とりあえず上手く機能した。君は真面目に働き、ボクらはそこに吸い寄せられる虫を捕まえる。
そうそう、君が脳筋セベッソンと組んで厳戒態勢を敷いてくれたおかげで、クルスカ一家とストラーダ一家の麻薬取引はキャンセルされた。クルスカ一家は、突然の厳戒態勢をストラーダ一家の裏切りと理解したみたいで、キャンセルってより決別っていう感じだったね。
ボクとしては〈魔弾の射手〉の仕事が激減したぶん、こっちの仕事に集中できたから、助かったよ。ありがと」
そういえばあの頃、帝都のマフィアたちはやけにしおらしくなっていて、「ヤクだけはダメだ」とかなんとか語っていた。
あれは帝都のマフィアたちからの「警察局はストラーダ一家に唆されて動いたんだろうが、俺達はストラーダ家と取り引きする予定はもうない」というメッセージだった、というわけだ。
「さて、ボクがやった仕事は、以上だ。
で、さ。これはボクのカンなんだけど、君ってさ、ベアトリーセが最初の乾杯の音頭をとったとき、『ブレンターノの暗殺も、警察局の綱紀粛正も、フィッツ伯の粛清も、なんとなくなら推測できる。でも僕がやらかした、大失態って何だろう?』みたいなこと、思わなかった?
いやさ、ボクって他人の顔色を読むのが商売みたいなものだからさ。
で、君はホント、こっちがビックリするくらい顔にでるから」
ぐぐぐ、図星だ。
「ここまでの話で、ブレンターノ暗殺と、警察局の綱紀粛正については、分かったよね。もちろん、君がやらかしたミスも。
どれか1つでも、君の『なんとなくの推測』が的中してる部分、あった?」
ぐ、ぐ、ぐああああ……は、恥ずかしい。
穴があったら埋まりたい。
「ない、です。まったく。カスってもいません」
「じゃあ、名誉挽回のチャンスだ。軍人さんは、名誉が大事だからね。
さて、フィッツ伯の粛清に関しては、何が起こってたと思う?
ボクとしては、君はもうこの問題について、ほぼ正解にたどり着いていると信じている。
だから君の見解を、聞こうじゃない」




