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月の猟犬  作者: ふじやま
1st episode:Das Wunderkind Is Still Under Studying
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Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-7)

「まあ、いいや。十分反省はしてるみたいだからね。

 で、そこから後、君が見たのは、原作シュネー・脚本ソーニャ・演出ソーニャの、即興劇だ。

 クラマー中佐の安全を確保したところで、ボクは考えた。

 シュネーみたいな完璧な脚本は、ボクには作れない。だからそれに乗っかって、走り続けるのが一番いい。

 だったらこの完全に想定外な状況から、なんとかして君をクラマー中佐のポジションに押し込めないだろうか?

 もしそれが可能なら、シュネーの脚本をほぼそのまま使い続けて、最後まで走りきれる」


 そういう、ことか。確かに、理にかなってる。


「幸い、君の肩書は申し分ない。『なんでこんな奴が中佐の代わりに?』みたいな部分を補うストーリーを作る必要は、ない。

 だからボクは、君にハク(・・)をつけることにした。

 まぁ、まさか出会って一発目に、あんなことを言われるとは思ってなかったけど」


 ソーニャ嬢が、思い出し笑いをする。


「君はね、実は、帝都の裏社会において、かなり特異なポジションを得たんだよ。

 〈魔弾の射手〉が直接会って話をしたことがある警察局関係者は、極めて少ない。警察局関係者と会うとき、基本的にボクは仮面を着用してるから、素顔のボクを見たことがある警察局関係者ってのは、君と、君のお養父さんくらいかもしれない」


 そうなのか! あの会見は、そこまで異常な(・・・)ものだったのだ。

 なるほど、内事課に巣食っていた密告者たちが、慌てて僕をターゲットしたのも、むべなるかなだ。

 ――ん? あれ、でもそれって、もしかして。


「君がトイレでリンチされたのは、2つの意味がある。

 1つは効果測定。ボクと君が会って話をしたっていう事実が、ちゃんと『虫』たちを誘い出すに十分な効果を発揮しているのか。どれくらい『虫』たちが君に執着するのか。それを確認する必要があった。連中が君を殺しかねない勢いで袋叩きにするのを見て、これは上手くいったな、と確信したよ。

 もう1つは、レイチェルの提案による、“君へのお灸”。どう見ても個人的な意趣返しだけど、ボクとしてもそれに反対する理由はなかったから、まあいいかなって。君が殺されることはないだろうし」


 うう、やはりそうか……。でも、それに文句が言える立場ではない。


「で、とりあえずクラマー中佐のポジションに君を送り込むことに成功したっぽい、ってのをシュネーに報告したら、シュネーからはそのまま進めろって返事が来たから、予定通り君に会って『そのまま進めろ』と伝えた。

 あの時間の、あの場所に、君が来れないなら、そんな無能に伝える言葉はない。一人で好きに踊って、勝手に一人で死ねばいい。

 でも、君は来た。君は、自分の能力を証明した」


 ソーニャ嬢に褒められて、思わず頬が緩みそうになる。が、ここで頬を緩めると、シュネー嬢のヒステリーとやらが爆発してもおかしくない。というか僕が彼女の立場なら、間違いなく「愚物のくせに何をニヤニヤしてる!」とか叫んで、目の前のウスラトンカチをぶん殴るだろう。


「あとはまあ、微調整の繰り返しかな。

 君をクラマー中佐ポジションに押し込んでの『虫取り』は、とりあえず上手く機能した。君は真面目に働き、ボクらはそこに吸い寄せられる虫を捕まえる。

 そうそう、君が脳筋セベッソンと組んで厳戒態勢を敷いてくれたおかげで、クルスカ一家とストラーダ一家の麻薬取引はキャンセルされた。クルスカ一家は、突然の厳戒態勢をストラーダ一家の裏切りと理解したみたいで、キャンセルってより決別っていう感じだったね。

 ボクとしては〈魔弾の射手〉の仕事が激減したぶん、こっちの仕事に集中できたから、助かったよ。ありがと」


 そういえばあの頃、帝都のマフィアたちはやけにしおらしくなっていて、「ヤクだけはダメだ」とかなんとか語っていた。

 あれは帝都のマフィアたちからの「警察局はストラーダ一家に唆されて動いたんだろうが、俺達はストラーダ家と取り引きする予定はもうない」というメッセージだった、というわけだ。


「さて、ボクが(・・・)やった仕事は、以上だ。

 で、さ。これはボクのカンなんだけど、君ってさ、ベアトリーセが最初の乾杯の音頭をとったとき、『ブレンターノの暗殺も、警察局の綱紀粛正も、フィッツ伯の粛清も、なんとなくなら推測できる。でも僕がやらかした、大失態って何だろう?』みたいなこと、思わなかった?

 いやさ、ボクって他人の顔色を読むのが商売みたいなものだからさ。

 で、君はホント、こっちがビックリするくらい顔にでるから」


 ぐぐぐ、図星だ。


「ここまでの話で、ブレンターノ暗殺と、警察局の綱紀粛正については、分かったよね。もちろん、君がやらかしたミスも。

 どれか1つでも、君の『なんとなくの推測』が的中してる部分、あった?」


 ぐ、ぐ、ぐああああ……は、恥ずかしい。

 穴があったら埋まりたい。


「ない、です。まったく。カスってもいません」


「じゃあ、名誉挽回のチャンスだ。軍人さんは、名誉が大事だからね。

 さて、フィッツ伯の粛清に関しては、何が起こってたと思う?

 ボクとしては、君はもうこの問題について、ほぼ正解にたどり着いていると信じている(・・・・・)

 だから君の見解を、聞こうじゃない」


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