表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の猟犬  作者: ふじやま
1st episode:Das Wunderkind Is Still Under Studying
27/67

Das Wunderkind Is Still Under Studying(4-6)

「そんな感じで自分から展翅板の上に舞い降りた蝶たちの運命は、しかしながら、もう一段階こじれてしまう。

 というのも、当時のボス・クルスカは、ブレンターノの死によって、別の頭痛のタネを抱え込んでいたからだ」


 うん? それは一体なんだろう……あ、いや、そうか!

 そうか、そういうことか! あれも、あれも、すべては、そう繋がるのか!


「気づいたようだね。

 クルスカ一家は、ストラーダ一家と麻薬取り引きの約束をしてた。

 クルスカ一家は、実のところ、麻薬は得意分野じゃあない。元貴族のコネを使っての武器密輸と、美術品や骨董品の密売。それがクルスカ一家の本業だ。

 でもブレンターノは、警察局内部の協力者から、麻薬を仕入れられる。しかも『危機的状況』にある彼は、万が一に備えての身代金を用意しておくという外事課のシステムを利用して、警察局から麻薬を合法的に仕入れる(・・・・)ことすらできてしまう。

 だからボス・クルスカは、今こそ事業拡大のタイミングだと判断した。その第一歩として、帝都のマフィア社会にとってはまだまだよそ者であるストラーダ一家からの取り引き提案を受けるというのも、合理的な判断だね」


 ストラーダ一家の根拠地は、帝国南部だ。レインラント帝国は伝統的に南部と北部で仲が悪く、北部の中心地たる帝都は、ストラーダ一家にとって敵地にも近い。

 そんなあやふやな地盤でもストラーダ一家の名前が帝都に響いているのは、ひとえに帝都に出張っているストラーダの幹部が、〈魔弾の射手〉だからだ――いまとなっては、幾重にも納得できる理由。


「ところがブレンターノが死んで、あろうことかブレンターノが持っていた2000万ターラー相当の麻薬も消えた。

 ボス・クルスカは、さぞ胃が痛かったと思うよ。まさかここでストラーダ一家に向かって、『売る予定だった麻薬がなくなったので、取り引きはナシだ』なんて言えない。当然だけど、帝都の他のファミリーに向かって『よそ者に売る麻薬を、俺のところに卸してくれないか?』なんてのも論外だ。そんなの、メンツが丸つぶれなんて騒ぎじゃあない。

 かくしてボス・クルスカは、奪われた麻薬をなんとしてでも取り返すか、あるいは警察局から新たに麻薬を仕入れなきゃいけなくなった。フィッツ伯はブレンターノとクルスカ一家を支援してくれてはいたけど、ボス・クルスカが勝手に始めた事業の不始末までは、助けてくれない。

 かくして、愚かな密告者たちには、新たな使命が授けられた――『ブレンターノを殺った奴が奪った麻薬を取り返してこい』ってね」


 ここまで話が進んだところで、急にシュネー嬢から不機嫌そうなオーラが漂い始めた。あれ? 僕はまた何か悪いリアクションをしてしまったのだろうか?


「あはは、シュネーが思い出し怒りするのも仕方ないよ。

 君がやらかした(・・・・・)のは、まさにこのタイミングだ。

 シュネーの脚本は、こうやってボス・クルスカから命がけの使命を授けられた密告者たちが、必然的にクラマー中佐のところに集まってくるように作られてた。

 なにしろブレンターノ自身が、『自分をマフィアに密告しようとしているのは内事2課のクラマー中佐だ』っていう報告を出してるんだからね。麻薬の強奪犯として最初に疑うとしたら、彼しかいない」


 ……ああ。ああ。

 あああああああああああ。

 あああああああああああああああああああああああああああああああ。


 恥ずかしい。

 恥ずかしくて死にそうだ。

 というか死ね、僕。

 いますぐ恥ずかしさで死ね。


 こんなにも綺麗なシュネー劇場を、僕の自分勝手で厚顔無恥な一言が、一撃のもとに粉砕してしまったのだ。


 頭を抱える僕に追い打ちをかけるように、シュネーが口を開いた。


「あなたが愚かな一言を口走ったとき、既にクラマー中佐の安全確保と、『虫取り』の準備は終わっていた。トリーシャとベスが内外で中佐の身辺を警護し、レイチェルが“虫取り”をして、必要ならアインが“先制”する。捕獲した“虫”は、ベアトリーセが尋問。あとは入れ食いだ。

 だがあなたが我々の偽装(カバー)を危機に晒す一言を吐いたおかげで、この体制を崩してでも緊急対応する必要が生じた。でもそうなると、クラマー中佐の安全が保証できない。

 しかもあなたはご丁寧に、『クラマー中佐を攻撃するなら今ですよ』と、内通者どもに向かって宣言したのだ! 一瞬の、たった一言で、すべてをぶち壊す一撃! こんなもの、予想できるものか!

 やむなく、極めて遺憾ながら、私はソーニャに緊急連絡を送り、現場の対処をソーニャに任せた。

 私にとっては、仲間とこの組織を守るほうが優先度が高いからな」


 ぐああああ……ぐあああああああー


「まー、あれだね。一応ボクからも、ひとつだけ説教しとくよ。

 ボクはねえ、御存知の通り、〈魔弾の射手〉なんですよ。野蛮で残虐な南の狂犬、ストラーダ一家の上級幹部として、毎夜帝都のマフィアとは殺し合い、ストラーダ家内部では序列闘争してるわけ。

 そのボクに、シュネーからほぼ偽装ゼロの連絡が舞い込むってのは、ボク的に言うと『論外』なのね。心のなかでシュネーに『ボクを殺す気!?』って叫んじゃうくらいに」


 う、お、おおお……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ