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よなおし!

作者: こちんま

この世は魔王に支配されようとしていた。

日々強まる闇の気配、混沌とした世界。

魔王の使い魔達に人々は襲われ、傷つき…そして様々な物を奪われた。

食べることさえ満足にできず、人々は草や木の実、あるいは虫を食べ生き延び、時には誰かが隠し持っていた食料を奪い合う事もある。


商売人の掛け声、街の人々の声、街の喧騒、静かになり活気がなくなった城下町を見つめ、王は口を開く。

『民を守れずして、何が王であるか』

かつて魔王をしずめ世界の平和を手に入れたと言われる王…。

日々力が衰えていく年老いた自分に何ができるのかと…白髪も増えシワも増えた窓ガラスに写る顔を見て情けなくつぶやく。

あの恐ろしき魔王は欲望に取り憑かれている…

食われてしまう…我が子らをあのような場所に行かせる事ができようか…

過去を思い出し今でも震えてしまう。


王の部屋、そのすぐ下の階では各国の精鋭達が集まり魔王討伐の会議が行われている。

しかしその会議室は誰もいないように静まりっていた。


『っ俺が行こう!』

世界の人々を救おうと立ち上がる一人の男。

この国の第一王子のネイアン、金色の髪の内側にあるブラウンの瞳は強く輝く。

…誰も魔王のもとへは行きたくないのだ。

誰か…誰か…と顔色を伺っていた臆病者共をよそに彼は言い放った。

『怖じ気づいた者が来ても足手まといになるだけだ、我はこれより旅たつ!世界に平和を取り戻すために!』


彼が自ら団長を務める騎士団の精鋭数名を連れ旅にでた。

すぐにでも帰ってくると思われた王子は帰らなかった。

人類最強の剣士は帰ってくる事はなかった。

待てども、待てども、王子は帰らなかった。


ーー。

城下町、人であふれた街は閑散とし、使い魔の気持ち悪い笑い声と羽根の音だけが、クスクスと聞こえている。

変わり果てた街を城の屋上から見る一人の少女がいた。


お兄様、待っていてください。

私は…私はあの強く優しく…どんな時でも輝いていたお兄様が死んだなどと、信じる事はできません。

彼女の名はリザベス、ネイアンの妹。

風に流れる金色のロングヘアー、真っ赤な鎧を身につけている。

手に取った細剣がはるか遠くを指している。


『お父様、お話がございます』

王の部屋の前まで戻り、かたく閉ざされた扉越しにリザベスは下を向きながら話しかけた。

『お兄様が帰って来ないのは私も信じられません、しかしこのように何も、何も行動せずには…!』

言葉の途中、扉が開き王が現れた。

『お父様…!』

リザベスが顔を上げるとそこには、顔を紅潮させた王がいた。

『ダメだ!ダメだ!行かせはせぬ!あのような恐ろしき場所には行かせられん!ましてや我が娘を!いくら男勝りとはいえ…魔王に…食われてしまうなどと…!』

言葉の途中、王はふらつき扉にもたれかかった。

『しかし何もせずにはおれません!兄が城を出て5年、お父様は寝る事も食べる事もあまりされてないと聞いています!このままでは、このままでは…私は兄も父も失っ…て』

言葉の途中、押し殺していた感情と涙があふれた。

あふれ出る涙を抑えようとくちびるを噛みながら続けた。

『私も18になります、あの時の兄と同じ年になりました、今では私より剣の腕がたつ者は、この城にはおらぬことをお父様も知って』

王はリザベスに近づき、強く抱きしめた。

『リザベスわかっておる…リザベスがこの父の言うことを聞かぬのは、昔からよく知っておる、城を抜け出し街に行き、時には街の少年らとイタズラや、喧嘩をしておったことも知っておる』

王は過去を思い出し、涙ながらに続けた。

『魔王は今や山のごとき大きさにまで膨れ上がっている、どうしても行くと言うのなら、剣は置いていけ』

王の矛盾したような言葉にリザベスは困惑している。

『宝物庫にゆけ、黒い布をかぶせてある、それを持っていけ、それこそ魔王に対抗できる唯一の武器、ネイアンのエクスカリバー一つでは手が足りんだろう、きっと待っておる生きておる、諦めずによなおしをしてまいれ』

泣くのをやめたリザベスは王をまっすぐに見つめ返事をした。

その晩、魔王討伐とネイアン捜索の作戦会議が行われた。

ーー。


日が変わり太陽が出て間もない頃、魔王を目指し数頭の馬が朝陽をあびながら草原を駆けていく。

『このまま走り続ければ、昼過ぎには魔王の元へ着く、使い魔は放っておけ、どうせ武器は当たらぬ!』

先頭の赤い鎧に身を包んだリザベスが声を上げた、その時、強烈な風と雨が降り注いだ。

『太陽が出ているというのに、なぜ雨が降る!』

困惑するリザベスに、身の丈以上の槍を背負い、漆黒の鎧を身につけた小柄な少女が横に並ぶ。

『リザベス、これは魔王の力だと思うの、たぶん魔王は昨日の作戦会議の時よりもっと動いていると思うの、それにこの変な臭いは使い魔にも似てるけど、もっと強いの、だから近いと思うの』

気怠げな口調で喋る彼女の名前はミーレット、眉間にしわを寄せている。

強烈な悪臭を放つ雨と風は、魔王に迫るリザベス達を苦しめていた。


ーー。

先ほどまでの雨と風は嘘のようにやんだが、悪臭は強まるばかり。

駆ける馬は脚を止めることなくつき進み、リザベス達の視線の先に一つの山が見えはじめた。

『このままだと臭いだけで死んじゃいそうですぅ』

鼻をつまむミーレットが口にした言葉に皆はうなずいた。

先頭を駆けるリザベスも例外ではなく、悪臭に苦しめられていたが、ある異変に気づく。

『皆、あの山を見てみろ!何かがおかしい!』

鼻をつまみながら喋るリザベスが指す方向には、みるみるうちに形を変えていく山があった。

転がるように、伸びるように、コブができるように、何度も何度も姿を変える見たこともない山の様子に、馬ですら脚を止め立ち止まった。

『ま、まさかあれが…魔王?!』

馬からおりたリザベスはその圧倒的な大きさに驚愕した。

どうやって戦うか、それよりもどうやって殺されるか、どうやって自分が死んでいくかを、たった一瞬で、その絶望をいくつも見せられた。

もう…逃げられない。

腰が抜け座りこみ鼻をつまむリザベス達に使い魔が群がり魔王を呼び寄せるようにギヒギヒと笑いはじめた。

『魔王さまぁ〜、食事のご用意ができております〜、魔王さまぁ〜』

雌型の使い魔の呼び声に応じるよう、山が転がるように迫ってきた。

間違いなくあの山が魔王のようだ。

欲望のままこの世界を食い尽くし、醜く太った魔王が地鳴りとも思える声で語る。

『余は魔王』

『そうです…あなたは魔王です』

一匹の使い魔が魔王の後に囁く。

『余はこの世の全てを食い尽くし者』

『そうです…あなたは魔王です』

『余は魔王…余は魔王…』

そう語ると魔王は一部分を高く伸ばし、リザベス達を向き、まるで洞窟のような口のような穴を開かせた。


『い、、いただきます』

魔王が語ると同時にリザベスの視界は暗く染まり仲間の悲鳴だけが聞こえていた。



ーー。

お兄様…お兄様…

お兄様…お兄様…

やぁ、リザベスー!元気だったかー?

遠くからお兄様の声がする。

ここは、死後の世界なのだろうか。

地に足を付いてるでもなく体が、不思議な感覚に包まれている。

『うぅっ…』

リザベスが目を開けると、ネイアンがいた。

『リザベス、大きくなったな』

ネイアンはそう言うと、笑ってリザベスの頭を撫でた。

『お兄様、申し訳ありません、私も死んでしまいました』

リザベスは涙をこらえ起き上がる。

『馬鹿言うなよ、まだ死んでなんかいないよっ』

はにかむネイアンはリザベスの額をペチンと叩いた。

痛覚がある、死んではいない、兄がいる、見覚えのない臭いに困惑した。

『一体どういうことなのですか!お兄様!』

わけのわからない状態に困惑するリザベスの鼻をつく悪臭、リザベスはまた鼻をつまんだ。

『臭ぇだろう?ここはな…魔王の腹の中さ』

『これは俺の勘なんだが…もともと魔王もただの人だったらしい、斬ると血が出るんだ真っ赤な血が…魔王に真っ赤な血が流れているわけないしな…』

『たぶん使い魔がそそのかして欲望のままに暴飲暴食させた結果がコレなんだろう』

ネイアンの言葉に驚き、立ち上がり周囲を見渡すと、赤黒い壁の洞窟のような場所にいる事がわかった。

下り坂のようになった通路を壁つたいに歩きだした。

『生きた心地のしない臭いですね、お兄様はよくここで5年間も過ごせたものです』

リザベスは鼻をつまんでいないネイアンを不思議そうに見つめた。

『そりゃあ、俺だって最初はそうだったさ、もう鼻がおかしくなっちまったんだろう』

慣れとは恐ろしいものだと苦笑いするネイアンは奥の方を指差し、ついてくるように手招きをした。

少し弾力のあるような地面を恐る恐る進み狭い場所を抜けると、先の狭まった広い空洞にでた。

空洞の内部には赤黒くそまる体内よりももっと黒ずんだ幾つかの突起物が心臓が動くように脈をうっていた。


『アレを見てみろよ、俺がきた時はアレが、今歩いてきたところから、ここ一面にあったんだ』

ネイアンは突起物を指差しリザベスに振り向いた。

歩きながら不思議そうに顔を傾げてリザベスはその突起物に手を触れさせる。

『馬鹿っ!やめろ!』

ネイアンが言うときには、すでに遅く、突起は先端の穴からガスを発生させあたりに撒き散らした。

鼻をつまんでも効果のない悪臭に襲われたリザベスは悲鳴をあげ天を仰ぎ倒れた。

『あっちゃー』

遅かったと、ネイアンは顔に手を当てた。

『お、お兄様、アレは一体何なのですか』

と、目を回しながらリザベスはネイアンに問う。

『アレは俺にもなんだかわからねぇ、ただ俺はここに来た時にとにかく気持ち悪かったから、皆で斬って斬って斬りまくったんだよ、そしたら血は出るし、だんだん魔王が縮んできたんだ…』

ネイアンは5年間に起こったことの全て、そして生還できるかもしれないと話した。

『ただアレをぶった切ろうにも俺のエクスカリバー1本じゃどうしようもないほどの数があるわけで、なんかこう一気に片付けらんねーかなって』

魔王の体内に無数にある突起を一本一本切断していくのはとても根気のいる作業。

どうやらお兄様の仲間も生きてはいるが、先の見えない作業に心が折れ魂がぬけたようになっているらしい。

『お兄様、私には秘策があります、さっき変な夢を見て…』

リザベスは先ほど気を失いかけた時に、不思議な夢を見ていた。

少年たちが木の棒と球で遊び、走り回って荒れた地面を不思議な形をしたもので整地していたことを思い出し、あの形はもしやと。

『お兄様、私がここに落ちてきた時に持っていた黒い布に包まれた鈍器のようなものを見ませんでしたか?!』

リザベスの表情には力が戻っていた。

『あぁ、あの変なのならミーレットが奥の方でぶん回してたよ』

奥の方に走っていくリザベスはミーレットを呼び寄せ、武器を受け取った。

『お、おい、なんだよそれ、なんかトンボみたいな形だな』

あとからついてきたネイアンはおかしいような顔をして、武器を見てそう言った。

『お兄様!見ていてください!これはこう使うのです!』

リザベスは手に持った武器の先端を地面に寝かせたまま、腰をおろし突起に向かって走り出した。

みるみるうちに突起の数は減りリザベスの持つ武器により奥の方へと追いやられていった。

『お兄様ーーー!これならそう長い時間もかからず終わると思いませんかー!?』

『そうだなぁ、皆にも知らせてくる!』



ーー。

かくして魔王の体内の突起は全て、リザベスたちと共に魔王であった者のケツの穴から排出された。


このような恐ろしき場所に、向かわせられないと行った王も過去には食われ、腹の中を掃除し、ケツの穴から排出させられていたのである。

これが世直し、いいえ(余直し)だったのでふ。













カッとなってやった。

反省はしていない。

いいえ、すいませんでした。

魔王を人間に戻すために腹の中から治していく物語でした。

突然の雨と風は奴のくしゃみですすいません。



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