第五話 悪魔ディビッド(2)
「アタシはウィルちゃんを、人間界から魔界へと連れ戻しに来たのよ」
オネェ悪魔ディビッドは、見る者を魅了する完璧な笑顔を浮かべる。
「ハァ!?意味わかンねー何でテメーがそンなことッ!」
「まぁまぁ立ち話もなんだし、どこか入らない?」
「勝手に話を進めンな!!」
もうオレ様は帰る!と言ってウィルは背を向けようとしたのだが。
「ッ!??!」
背後のディビッドから、尋常じゃない程の魔力を浴びせられ、体が竦む。
「?」
対するルナは、急に立ち止まったウィルを不思議そうに見つめている。
「あら、その子は魔力に耐性があるのね」
「耐性…?なんのこと?」
「えーと、今アタシは魔力をウィルちゃんに向かって放ってる状態なの。悪魔っていうのは自分より優れている悪魔の魔力を浴びせられると、金縛りの様な状態になるのよ」
ウィルは悔し気に歯軋りしている。
「どうして私は平気なの?」
「人間は悪魔とは性質的に違うから、元々魔力というものに鈍感なのよ、けど、魔力の発生源のすぐ側に居れば、多少気分が悪くなるものなんだけど……」
そう言って一旦言葉を区切り、ルナをじっと見つめるディビッド。
値踏みする様な鋭い視線に、ルナは落ち着かない気分になる。
「うーん、ま、とりあえずこの話は置いときましょう!」
すぐに人懐っこい笑顔に戻り、話を切り上げた。
「とにかく、どこか…あらあのお店外装ちょお可愛くなぁい!?あそこにしましょ!」
「なっ!おい離っぐぇ!!」
抵抗しようとしたウィルの襟元を掴み、力づくで引きづって行くオネェ悪魔の後を、ルナは仕方なくついて行った。
***
「〜っ…首が……相変わらず馬鹿力のオカマ野郎だな!」
首を抑えながら、涙目で悪態をつくウィル。
「ちょっと、店内で騒がないで、さっさと座ってちょうだい」
「誰のせいだとッ」
「座れ」
にっこり笑顔で、だが禍々しい空気を纏ってオネェ口調ではなく、命令口調でそう言うディビッドに、ウィルは顔を青くして従う。
会った時から感じていたが、このオネェ只者ではないとルナは思った。
「ほんと、なかなか言う事を聞いてくれないのは相変わらずねー」
「……」
青白い顔をしたウィルは、もはや反発することなく静かに水を飲んでいる。
「えーと、あなたのお名前は…ルナちゃん、だったかしら?」
「…うん」
名乗った覚えはないが、きっとあの服屋でディビッドは既に自分達に気付いていて、そこでウィルが呼んでいた名前を覚えていたのだろう。
「ウィルちゃんに酷いことされてない?この子基本はとっても良い子なんだけど、何せ素直じゃなくてね〜」
「ウィルが良い悪魔なのは知ってるよ」
「!!」
ちびちびと水を飲んでいたウィルが、生気を取り戻した輝しい瞳で、バッとこちらを見てくる。
「我儘で粗暴で口が悪くて勝手だけど、良い
悪魔だと思ってるよ」
「褒めてンのか貶してンのかどっちだ」
再び不貞腐れたように机に突っ伏している。
「全部照れ隠しなんだよね」
「そーなのよ!嬉しいわぁ、ウィルちゃんの事をよく分かっていてくれて!」
「そンなンじゃねェし…」
机に突っ伏したままボソリと呟くウィルは、耳が赤くなっていた。
そんなウィルの様子を見て、自然と優しい笑みを浮かべるルナ。
「でもね、」
心なしか、声のトーンが下がったディビッドは、
「人間っていうのは、結局最後は離れて行くものでしょう?」
そう言って、冷ややかな目をした。
「……!!」
ガタッ、と音を立て、ウィルは顔を上げる。
そして、ディビッドを思い切り睨み付け、
「一体なにしに来やがったと思ったら、そーゆー事かよ」
低い声でそう告げた。
「…コイツはアイツみてーにオレ様を怖がったりしてねェだろ」
「そうね、でも、もし何かあったら?」
有無を言わせない口調で、ディビッドは続ける。
「アナタは、他の悪魔と比べて未熟よ、それは自分でもわかってると思うけど」
「……」
「何かの拍子に、この子に酷い怪我をさせたら?」
あの時の様に…ディビッドがそう言った瞬間、ウィルは彼の胸倉を掴みあげた。
「黙れよ」
「忠告してあげてるのよ」
ディビッドは、自らの襟元にあるウィルの腕を掴むと、捻りあげる。
ウィルは小さく呻き、手を離した。
「今は店の中よ、目立つ様な行動は謹んでね」
幻術をかけといたけど、とディビッドが付け加えた。
道理で、ウィルがあの様な暴挙に出ても、周りの視線が集まらない訳だ。
きっと、周りの注意を相殺する術などをかけたのかもしれない。
どれほど大掛かりな術なのかはわからないが、窓ガラスを直したウィルと今の平然としたディビッドとの違いを見るに、彼の方が優れているのは確かなようだ。
「クソが!」
「ああもうだから目立つ行動はやめろって…一発入れておくか…」
そう言って、再び暴挙に出ようとするウィルを実力行使で沈めようとするが、
パシャッ
「!」
「あまりウィルに酷い事をしないで」
そう言って、ルナはなんと手元にあった水を、ディビッドにかけたのだ。
「オマエ…!」
ウィルは心底驚いた様に、目を見開く。
水をかけられた張本人であるディビッドも、同じ様に驚いた表情のまま固まっていた。
「なにやって…!!」
パシャッ
「………」
「ウィルも落ち着いて、というか、どっちも落ち着いてほしい」
水を滴らせている悪魔達に、冷たい空気を纏って、無表情で言い放つ。
「二人で勝手に話を進められて、すごく居心地が悪い」
隣ではウィルがガタンガタン机を揺らし、目の前ではディビッドが禍々しいオーラを放っている状況、本当に流血沙汰になりそうな雰囲気だった。
「そもそも何で、オネェさんは、私がウィルを怖がる前提で話をしてるの」
まだ呆然としていたディビッドだったが、声をかけられ正気に戻る。
「だって、人間はそういうものでしょう」
「極端過ぎる」
バッサリとルナはディビッドの言葉を、一言で切り捨てた。
「その言い方だと、この地球に存在する人間約数億人が全員一人残らず、同じ反応をすると言っているみたい」
「に、人間ってそんなに居たの!?」
「オマエそんな事もわからなかったのか…」
「だって、人間なんかに興味なかったから」
昔はそんなにいなかった、とディビッドは言い訳がましく呟く。
「人間に興味ないなら、尚更、どうしてそんな分かった様な事を言っている?」
尋問の様な質問の仕方に、ディビッドは冷や汗を流す。
「話の流れから推測するに、昔、一人の人間から畏怖の感情を向けられた事がトラウマになって、それ以来人間が信じられなくなった…ちがう?」
「ち、違わないわ」
「一人の人間が怖がる反応をすれば、全ての人間も同じ反応を返すと思っているの?」
どうしてこの子供はこんなに子供らしくないのだろうか、ディビッドは戦慄する。
「少なくとも、私はウィルが原因で怪我を負ったとしても、怖がったりしない」
嘘をついている様には見えない。真っ直ぐ目を見られて、逆にディビッドはたじろいでしまう。
「私は、ウィルを怖がったりしないよ」
そう、ルナは断言した。
「そもそも、そんな反応を返すなら、最初からウィルと友達になってない、無理って断ってる…平気だって嘘ついて友達になっても、最終的にはどちらかが傷つくって、わかってるから」
「…友達?」
「ウィルと友達になったの」
「…アナタは、ウィルちゃんが悪魔だってわかってて…」
「わかってたよ、魔法、使う所も見てた」
「………」
「これでわかってもらえた?」
それに、とルナは一度目を伏せ、
「私はずっと一人だった、だから、ウィルが来てくれて、嬉しかったのもある」
壁側に座っていたウィルは、驚いた拍子に、壁に後頭部を思い切りぶつけた。
「でも、今更誰かと一緒に生活するってなっても、どうしていいかわからなかったから、あまり構ってあげられなかったけど」
「ルナ……」
何とも言えない様なむず痒い感情を暴れさせているウィルは、顔を真っ赤にさせている。
「だから、ウィルは私が責任を持って預かる、安心してほしい」
キリッと凛々しい表情で、ルナは男らしい発言をした。
「ルナ……!」
ウィルは乙女の様に、真っ赤な顔を両手で覆っている。
その様子に、ディビッドは吹き出した。
「アナタ達、役割がまるで真逆ね」
「わかってくれた?」
「…ええ、よーくわかったわ」
ディビッドは先程の様な冷たい雰囲気を消し去り、言った。
「アナタになら、ウィルちゃんを任せられるって」
「そう、良かった」
ルナも、柔らかい雰囲気になる。
だが、
「なら、次はこっち」
「へ?」
再び発せられる絶対零度の冷たさに、ディビッドは間抜けな声を出してしまう。
「あなた達がガタガタグラグラ煩いせいで、私のこの期間限定版だるにゃんこセーターが…」
ゆっくりと、ルナは立ち上がる。
「机にあったミルクココアでぐっしょりなの…」
「「……………」」
「元どおりに、できるよね?」
この少女は人間ではないかもしれない。
背後に幻の悪鬼を浮かばせこちらを見下ろすルナを見て、二人の悪魔は思った。
今回は書きたいことが多過ぎて、いつもと比べるとかなり長くなってしまいました!
すいません…>_<…!
前半後半と分けようとも思いましたが、区切り所が見つからなく、長々と書いてしまいました。
いつもの倍の文字数ですので、ちゃんと確認はしましたが、自分では見つけられなかった間違い、誤字などがあるかもしれません。
もし見つけたら、ご指摘して頂けるとありがたいです…!




