第四話 悪魔ディビッド
「よし、着いたぜ、ここだ」
半ば無理やり連れて来られたのは、かなり凝った外装の、髑髏やら翼やらが飾られている店だった。
中は黒で統一された、全体的にロックな印象の内装。
この店に私のサイズの服はないだろう、とルナは思う。
こんな事だろうと思っていたので、ただ疲れたとしか感じないが。
ウィルに話して、さっさと帰ろうと思ったが、
「これなンかどうだ?」
「…」
なんと子供用があったようだ。
その事にも驚いたが何より驚いたのは、平然とゴスロリ服を勧めてくる目の前の男の神経だった。
「………」
「なンだよ、その変質者を見るよーな目は」
「趣味を押し付けないで欲しい」
「べ、別に趣味とかじゃねーよ!つーかせっかくオレ様が選んでやってンのに何だその態度!!」
「頼んでない」
そのまま暫く言い争いを続ける二人だったが、
「きゃー!なにこの服ちょお可愛い!!」
少し離れた所で上がった女口調の声に、ウィルがピタリと動きを止めた。
「ねぇちょっと店員さん!この服、私が着れるくらいのサイズないのかしら?」
「申し訳ありませんが、お客様のサイズは当店では扱っておりません」
「あらそうなの…残念だわぁ」
その女口調の人物が持っていたのは、今ウィルが持っている物より少し大きいかくらいの、ゴスロリ服だった。
「なーんてね。アタシはオネェであってオカマではないから、女物なんて着ないわよぉ」
………。
「では、こちらなど如何でしょうか?」
「あら、素敵じゃない!試着してみても良いかしら?」
渡された男性用の服を持ち、そのオネェは試着室へと入って行った。
「…それで、そのゴスロリ服の事だけど」
何事もなかったかの様に、話を続けるルナだったが、
「おい、ルナ」
「え?」
「今すぐ帰るぞ」
そう言うなり、この店へやって来た時と同じように強引にルナを引っ張って歩き出すウィル。
「無理やり連れて来て、いきなり帰り出すとか、意味がわからない」
少し怒ったように言うルナに、ウィルは僅かに申し訳なさそうな表情をする。
「それ、は…悪かった、が、どうしてもあの店には居られない理由が出来たンだよ」
「居られない理由って?」
「魔力の気配を完全に消してたのか、オレ様が油断してたのもあるだろーが」
ウィルは心底嫌そうに顔を顰めて、
「あの気色ワリー喋り方のクソオカマ野郎は、あく…」
「もー、ウィルちゃんたら相変わらず釣れないのね!傷つくわぁ〜」
「ま…ッッ出やがったなクソオカマァ!!オレ様に近づくなオカマが移るだろーが!!」
そう怒鳴って後退り、威嚇するウィル。
「オカマじゃなくてオネェだっていつも言ってるでしょぉ」
「どっちも同じだクッソオカマ野郎!!」
「…」
完全に状況が飲み込めないルナは、とりあえず傍観に徹する事にしたのだが、
「急に消えちゃって心配してたら、まさかこぉんなに可愛い子と一緒に居るなんて」
いきなり話題の矛先が自分に向けられ、げんなりと表情を曇らせた。
ウィルの背後に隠れ、相手を観察する。
金色の髪は綺麗に切り揃えられており、長過ぎず短過ぎず、ほどよい長さに整えられている。
赤い瞳は切れ長で、理知的な印象を与える。
更に手足はスラリとモデルの様に長く、色白だ。
かなり優良な容姿だが…、
「ふふ、恥ずかしがってるのかしら?隠れちゃって可愛いわねぇ」
「テメーの気色悪さに怯えてンだよ!相変わらず自分の都合のイイよーに解釈しやがって!!」
「恥ずかしがらないで出ておいで〜、オネェさんは怖い人じゃないわよぉ」
いくら容姿が優れていようと、話を全く聞かないオネェでは、台無しである。
「ルナ!目を合わせるンじゃねェぞ!ヤツは目を合わせちゃいけねー変態だ!!」
散々な言いようだ。
「ウィルの、知り合い?」
「ちがっ…!!」
「うーん、ちょっと違うわねぇ、ウィルちゃんとは知り合いよりももっと深い仲で…」
「こいつは悪魔のディビッドで、オレ様とは本当にただ顔見知りなだけだ!!」
ウィルは蒼白顔で、おぞましい事を口走ろうとしたオネェ悪魔、ディビッドの言葉を遮る。
「どうして、人間界に…?」
「あら、人間界をうろついている悪魔は、結構居るものよ?まぁ、アタシは確かに目的があって、ここにやって来たんだけど」
そう言って、ディビッドは完璧な笑みを作る。
「目的?」
「えぇ」
「ウィルちゃんを連れ戻すっていう目的が、ね」




