第三話 共同生活(2)
「テメーが何時間も寝ていやがったせいで、オレ様はスゲーさびし…ヒマだった」
昨日は結局朝もそれほど早く起きた訳でもなかったので、ルナが二度寝から起きた頃には、既に日が沈んでいた。
夜はとことん付き合え!と張り切っていたウィルにルナは、夜は寝る時間、と無慈悲に告げ、晩御飯と入浴を済ませた後、すぐに寝てしまったのだ。
ウィルはあからさまに不機嫌な顔だ。
「それは、夜中に少女の家に窓ガラスを割って不法侵入した男のせい」
つまりお前のせいだと、ルナは表情で訴えてくるが無視する。
「だから、今日はとことんオレ様に付き合ってもらうぜ」
「お昼寝…」
「よーし今日は昨日と違って天気も良いし、出掛けるか!」
「…」
ルナは絶望的な顔をした。
「寒い」
ルナの住まいは日本の、東京だ。
ウィルは観光気分で人間界に来たのかもしれないと、ルナは思った。
「悪魔が堂々と人前をうろついて大丈夫なの?」
「見た目はテメーら人間と大差ねェからな」
確かに、人間より少し耳が尖っていて、口元からたまにちらつく牙に、今は隠れているが本来生えているであろう尻尾以外、何ら変わりはない。
「オレ様のこの漆黒のコートも、この辺でテキトーに買ったンだ」
「へー」
心底興味なさげに、ルナは気の抜けた返事をする。
「やっぱりよー、魔王って言ったら血のような赤と、常闇を閉じ込めたような黒が…」
「ねぇ」
突如始まったウィルの拘り話を遮り、ルナは声をかける。
「ウィル以外にも、悪魔いないの?」
「あ?そンなの聞いてどーすンだ」
「気になる」
「いるぜ、数え切れねー程にな」
ニヤリとウィルは妖しい笑みを浮かべる。
「そもそも、悪魔っつーのは人間の憎悪や悪意、そーゆー汚ねェ感情から生まれたモンだ」
「だから、人間がそういった感情を持ち続ける限り、悪魔は生まれ続ける」
この人混みの中にも、悪魔の気配はする。
「テメーが人間だと思ってたヤツが、実は悪魔だった…なンて事もあるかもしンねーぞ」
「ウィルの知り合いの気配はないの?」
「オレ様は悪魔の頂点に立つ男だぜ?強者は誰ともつるまねェよ」
「…」
これほど説得力のない言葉があるだろうか。
「あ!て、テメーは別だからな!そのあれだ、ま、魔王には小間使いが必要だろ」
居候の身で何を言っているのだろう、と思うが、口に出すとうるさそうなので、黙っておく。
「どこに行こうとしてるの?」
「オレ様がこのコートを買った店だ」
「そんな所に行ってどうするの?」
「オマエの服を買う」
「は?」
ウィルは腕を組み、ルナを頭のてっぺんから足の爪先まで見据え、
「オマエの服装、ダサ過ぎンだよ」
「!?」
珍しく衝撃を受けた様に目を見開き、固まるルナ。
「テメーなァ…、何着持ってンのかわかんねーけど、普段いつも着てるその間抜け面の生きモンが描かれたセーターに、ダッセー無地のコート着ただけじゃねェか」
ウィルの言う通り、ルナは無気力そうな猫のイラストが描かれたセーターの上に無地のコートを羽織り、ダルダルの短パンからダルダルのズボンに履き替えただけだった。
「だからこのセンスに溢れたオレ様が…」
「この『だるにゃんこ』の魅力がわからないなんて、人生の全てを無駄にしている…!」
「その間抜け面の生きモンはどんだけ偉大なンだよ!」
思わず突っ込むが、ルナは気にせず鼻息荒く続ける。
「この『だるにゃんこ』は今一番人気のゆるキャラで、グッズはもちろんアニメ化、ゲーム化も考えられている。殆ど閉じられているような瞳、もはや突っ込むのを阻まれる程の絵の適当さ加減!これと言った個性もなく取り柄もないが、逆にそれが特徴的になっている何もかもが手抜き過ぎるキャラ!」
「イイ所が一つもねェな!」
「開発者は何故これが売れると思ったのかわからない、だけど、売れた」
普段と比べものにならない程、饒舌になったルナに、若干引き気味のウィル。
「オマエのくだらねェ拘りなンてどうでもいい!オレ様の小間使いたる者、もっと身なりを整えろ!」
そんな理不尽なことを怒鳴ると、ウィルはルナを強引に引っ張って、歩き出した。




