第二話 共同生活
チュンチュンと小鳥の心地よい囀り…、
が聞こえる筈もなく、今日は朝から大吹雪だった。
「寒い、こ、凍る」
もぞもぞと、温もりを求めてベッドの中を這い回る少女、ルナ。
「あったかい…」
隣に温もりを感じ、体を寄せるが。
寝惚けた頭でルナは考えた。
ナゼ、一人で寝ていた筈のベッドに、自分以外の温もりがあるのか。
温もりの正体は薄々感付いていた。
ボッサボサの赤い髪。
黒い長袖のTシャツ。
無駄に整った…、
そこで少女は毛布を翻し、どこかへと駆けて行った。
「…さみぃ…」
一人残された悪魔の男、ウィルは、寝ぼけ眼で毛布を引き寄せると、二度寝を開始したのだった。
「まだ怒ってンのかよ」
「…」
朝の食卓の場にて。
少しバツの悪そうな顔をしたウィルと、無表情のルナが居た。
「勝手に入って来られるのは、困る」
「しょーがねーだろ、寒かったンだから」
はぁぁ、とルナが重々しい溜息を吐く。
「単細胞…」
「ああ!?」
ちょっと小馬鹿にした様なルナの呟きに、ウィルが目敏く反応する。
「寒いなら、最初からそう言えばいいのに」
昨日の晩、ルナは寒いだろうから、一緒に寝るかと平然と提案したのだが、慌てた様子のウィルは、オレ様は悪魔の頂点に立つ男だから寒さには屈しねェ!とか何とか言って、ソファで寝てしまったのだ。
「朝、いきなり隣に誰か居たら、うっかり脳天割りをしてしまいそうになる」
「わかった、次から事前に言っとく」
悪魔の頂点に立つ男は、小心者だった。
「それにしても、悪魔も食事するんだね」
「人間界に居ると、体力の消耗が激しいンだよ、だから腹が減る。魔界に居れば数ヶ月は保つ」
「へー、魔界。…じゃあ何でわざわざ人間界に?結局、魂も食べてない」
ルナは朝食の食パンにジャムを塗りたくりながら、質問する。
「それは…あれだ…その、久しぶりに人間の魂でも喰いに行くか的なだな…」
ごにょごにょと、歯切れの悪い受け答えをするウィルに、ジャムを塗りたくりながら、ルナは首を傾げる。
「それに、どうして魔界に帰らないの?行くところがないって言ってたけど」
「それは…その、色々と帰れない事情があってだな…」
更に口篭るウィル。
「あー!もうオレ様の事はどうでもいいだろーが!それよりも…」
話を強引に切り上げ、ジャムを塗りたくるルナを見る。
「今はテメーのそのジャムの方が問題だ」
「…?」
「自覚ナシかよ…テメーなぁ…どんっだけジャム塗りまくってンだ!見てるコッチが胸焼けしてくンだよ!」
「この上にハチミツもかける」
「うっ…」
信じられないという風に口を抑えるウィル。
「美味しいのに」
少女は無表情で、大量のジャムとハチミツを塗った食パンを頬張った。
「そーいえばよ、この家にはテメー以外誰も住ンでねェのか?」
一通り家の中を見物し終えたウィルは、そう少女に問いかける。
「住んでない、私一人」
「一人で今までどうやって…」
「親、海外、仕送り、私、ハーフ」
「は?」
朝食を終えてからというもの元から口数の少ないルナが、断片的というか、本当に必要最低限のワードしか言わなくなっていた。
今のは訳すと、親は海外に住んでおり仕送りをしてくれている、自分はハーフだ。
「テメー、さっきから目が半開きだが、まさか…」
「…」
「おい」
「……」
「ルナ!」
「っ!」
びくりと肩を揺らし、ルナは顔を上げる。
目が虚ろだった。
「テメー、立ったまま寝てやがったのか…」
「寝る」
ウィルの言葉を無視し、一言それだけ言い放つと、ルナは規則正しい動きで寝室で向かい。
「…zzZ」
「マジで寝やがった…」
ウィルは愕然と呟く。
「おいテメー起きろ!オレ様がヒマだろーが!」
「…zzZ」
「おいルナ!テメー起きなかったらこのまま喰うからな!」
「…zzZ」
「ほ、本当だからな!嘘じゃねェ!オレ様は本当のことしか言わねーぞ!」
「…zzZ」
「おい、頼むから寝るなって…」
「…ZZZ」
「…」
5時間後、目を覚ましたルナが見たのは、体育座りでいじけている悪魔の姿だった。




