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居候悪魔  作者: 天音詩音
第一章 居候悪魔
2/6

第一話 アクマサマ

窓ガラスが盛大に割れる音が響く。


その次に続き、カツカツと少しずつ、だが確実にこちらに向かっている足音。


笑い声と無機質に響く足音。


その音を聞き続ける少女は、もうすぐそこに近付きつつある足音と嘲笑(ちょうしょう)を聞いても、無表情のまま動かない。


そして、


「オレ様は…」


「窓の、弁償代」


ドアを開け放ち、獰猛(どうもう)な笑みを浮かべ自己紹介を始めようしていた男の言葉を遮り、一千万と書かれた紙を差し出す少女。


「………あ?」


「窓の、弁償代」


先程と全く同じトーンで、同じ台詞を繰り返す少女。


いつの間にか電気が付けられており、二人の容姿がはっきりと分かる様になった。


黒髪のロングストレートに、藤色の無気力そうなタレ目。

背は150㎝丁度くらいで、だるだるのセーターに、だるだるの短パン。

セーターには、少女と同じ様に無気力そうな猫のイラストが描いてある。


一方自己紹介を遮られたおかげで、少女の家に堂々過ぎる無断侵入をした正体不明の男、という肩書きのままの男は、無造作に肩の辺りまで伸ばした赤い髪に、金色の瞳。

背は大体175〜180㎝程。

服装は首回りにファーの付いた黒いコート、ベルトには重そうな金具が付いている。

首にはチョーカーの様な物を付けており、全体的に黒く、パンクな衣装だ。

怪し過ぎる男だが、それを除けば美形だ。


「テメェ、ふざけてんのか?何様のつもりだ、このオレ様の言葉を(さえぎ)るなんて」


「それより、窓の弁償代、はい」


男の言葉に聞く耳を持たず、先程の一千万と書かれた紙を、再び男に差し出す少女。


「んだよコレ、窓とか今の状況で関係ねェだろ、つーか、どう考えてもぼり過ぎだろ」


「とても関係ある、窓割れてる、寒い、眠れない」


その言葉を表す様に、少女はブルブルと震えだす。


今は冬。真冬だった。


「凍死、する」


ガクブル、ガクブル


「あー!うっせェな!まずは名乗らせろ!」


少し躊躇(ためら)いを見せた男だったが、すぐに元の粗野(そや)な態度に戻り、自己紹介を始めるべく咳払いをし、


「オレ様は悪魔だ、テメェの魂をもらいに来た、覚悟しやがれ」


「アクマさん、窓直して」


「悪魔は名前じゃねェーよ!種族だ種族!わかってンのかガキ!」


「痛々しい設定なのはわかった」


「設定じゃねェ!事実だクソガキ!」


冷静な少女と打って変わって、自らを悪魔だと言い張る男はご立腹だ。


「なら、人間とは違う?」


「当たり前だろ、オレ様を貧弱なテメーらと一緒にすんな」


自信満々に言い切る男。少女は(しば)し沈黙し、


「じゃあ、窓、アクマの力で、直せる?」


「当たり前だろ、ンな事、朝飯前だ」


簡単に乗せられる悪魔だな、と少女は思った。








いざ窓ガラスの割れた場所に来てみると、そこは予想以上の寒さだった。


「雪、入ってる…これも掃除して、全知全能のアクマサマ」


「全知全能!まさにオレ様にピッタリの言葉じゃねェか!任せとけ!」


ちょろい悪魔だな、と少女は思った。


「じゃあ、いくぞ、少し下がってろ」


言われた通りに下がる。


男は何事かを呟く。


すると、男の立つ床に赤い陣の様なものが出来上がる。

更に、周囲が一瞬光に包まれたかと思うと、次の瞬間には、窓ガラスも雪塗れになった床も元通りに、綺麗になっていた。


「はぁッ…は…終わっ、たぞ」


ぜひゅーぜひゅーと、今にも倒れそうな程息も絶え絶えだが、素晴らしいドヤ顔で期待気にこちらを見てくるアクマサマ。


「凄い、まさに全知全能、魔王になれる」


「は…ぜぇぜぇ…ハハ、当たり前、だろ」


少女は思った。


本当に悪魔だったんだなぁ、と。


赤い陣みたいなものが出てきた時は、凝った演出だなぁ、くらいにしか思わなかったが、窓ガラスも雪塗れの床も、元通りの綺麗な状態に戻されたのだから、信じるしかないだろう。

人間には出来ない事だ。

つまり、この男は本当に悪魔。


「…」


だったら、確かに窓ガラスとか言ってる場合じゃないな、と少女は考えた。


男はまだ激しい息切れをしている。


「…」


ゼヒューゼヒュー


逃げよう。少女がそう決断した時だった。



バタ



悪魔はとうとう倒れた。


まさか本当に倒れるとは思っていなかった少女は、逃げる体勢のまま固まる。


別にこのまま逃げても構わないか、相手は悪魔らしいし、死にはしないだろう。


だが、


「…はぁッ、は…ッ……」


「…」


本気で苦しそうな見た目は人間の悪魔を、放置するのは、少し躊躇いがあるので、


「引きずって行こう」


結局なんとかする事にしたのだった。







***







「…ッ、…ここは…」


「気が付いた?」


「!?」


いきなり目の前に少女の顔が現れたからか、驚いた悪魔の男は、そのまま横に転がってベッドから落ち、バックステップする。


「そんなにおどろ…」


「驚いてねェ!!」


フシャーッと猫の様に威嚇(いかく)する悪魔の男。


しばらく考え事をする様に、少女の顔を見つめていたが、


「テメェ、何で逃げなかった?」


「?逃げるって?」


少女を睨みつけたまま、悪魔の男は続ける。


「すっとぼけてんじゃねェーよ、オレ様が息切れてる時、逃げようとしてただろーが」


「うん」


全く否定しない少女に、悪魔の男は怒りを忘れ呆気に取られた表情をしてしまう。


「じゃあ、何でまだここにいるんだよ…」


悪魔の男はほんの一瞬、寂し気な表情をした様に思えたが、


「!」



ドサッ



不意に少女を床に押し倒し、悪魔の男が少女の上に跨る。


「そんなンじゃあ、喰われても文句言えねェよなぁ?」


そのまま悪魔の男は、少女の首に手をかけようとしたが、


「苦しそうだったから」


「…あぁ?」


「まるで人間みたいな苦しみ方するから、放っておけなかった」


その少女の言葉に、悪魔の男の手が震える。


「それに、窓ガラス、直してくれた」


「オレ様が割ったモンだしな」


「うん」


「…オレ様が苦しそうだったから、助けた?ハッ、だったらテメーはただの偽善者(ぎぜんしゃ)だな、どうせオレ様がこうして、いざ魂を奪おうとすれば、テメーはバケモンだなんだと騒ぎ立てンだろ」


悪魔の男は続ける。


「助けなければよかったって、いう…」


「言ってないよ」


少女は最初と同じ様に、悪魔の男の言葉を遮って喋り始める。


「言ってもないし、思ってもないよ」


「助けたのは私の意志だから、そうした事によって自分が危ない目に()ったとしても、私はあなたを責めないよ」


「助けてって頼まれた訳でもないのに、勝手に助けて、自分の立場が危なくなったら責める、そういうの、嫌いだから」


今までにないくらい饒舌(じょうぜつ)になった少女に、悪魔の男はまた呆気に取られる。


そして、


「オマエ、馬鹿だな」


むにっ


「いひゃい」


少女の頬を止めていた手で抓った。


「でもまー、嫌いじゃねェよ」


そう言って、悪魔の男は照れた様に笑った。









「だが、テメーを見逃したワケじゃねェぜ」


「うん」


「だからよぉ…、そこで素直に頷かれるとコッチが調子狂うンだよなァ、まぁいい」


悪魔の男は赤い髪をガシガシ掻き、言葉を続ける。


「だが、オレ様はテメーが気に入った、そこで選ばせてやる権利をやる」


「?」


「オレ様に魂を喰われるか」


心なしか赤い顔で、悪魔の男は続ける。


「オレ様と、と、トモダチになるか、だ!」


少し噛んだが、何とか言えた様な悪魔の男。


「…」


「…」


「…」


「おい!何とか言いやがれ!喰うぞ!」


初めは赤い顔ながもドヤ顔で待ち構えていた悪魔の男だったが、少女の無表情無反応に堪えきれなくなったのか、更に顔を赤くさせ声を上げた。


「はっ、…ごめん」


「まさか、寝てたとか言うンじゃねェだろーな?」


さすがにそれはない、と少女は否定する。


「思いの外可愛い要求で驚いていた」


「かっ!?可愛い!?馬鹿にしてッ!」


ズイ、と少女は悪魔の男の言葉を無視して、顔を近付け、


「いいよ、友達、なろう」


と、言った。


「え…」


「じゃあ、自己紹介…どうしたの?」


急に静かになった悪魔の男に、少女は心配気に顔を覗き込む。


泣いていた。


「泣くほど、嬉しかったの?」


「ッ!泣いてねェーよ!」


黒いコートの袖で目元をゴシゴシと拭う。


一息をつき、元の自信満々な顔に戻ると、


「なら、まずは自己紹介だな」




「オレ様は悪魔の、ウィルだ」


「私はルナ」







こうして、悪魔と少女は出会った。










「あ、ちなみにオレ様、行くとこねェから、ここに住むからな!」


「え」





更に共同生活も始まった。





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