本当の嘘
処女作です。
拙作ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
黄昏の街並み
大きな夕日が目に眩しい
のろのろと歩いていた顔をふと上げると、一人の子どもが少し先に立っていた
どうしてこんな所にいるのだろう
そんなことを思いながらその子を見つめる
晴れなのにポンチョを着ていた
逆光でもシルエットからそれがわかる
あちらも気づいたようだ
何を思ったかまっすぐこちらに駆けてくる
あどけない足取りでパタパタと
青い服に白い肌が映える
「やぁ、久しぶり。」
鈴のような声だった
――久しぶり?
子どもにそんなことを言われる覚えなんてない
そもそも、このご時世に親しくする他人の子などいないだろう
訝しげな視線を知っているのかいないのか
子どもは構わず話しかけてくる
「せっかく会えたんだ、ちょっといいかな?」
返事をする前に勝手に先を続ける
もともと聞く気がないようだ
「ずっと不思議に思ってたんだ。どうして君は真実を求めるんだい?」
――は?
唐突過ぎる
言っている意味がわからない
真実を求めるってなんのことだ?
「だって、そうでしょ?君は嘘を嫌うじゃないか。他人に騙されたと怒り、親友に裏切られたと悲しむ。やっぱり、君は真実を欲してるよ。」
意味はわかった
だけど、それがなんだ
誰しも嘘は嫌だろう?それをなぜ、この子に聞かれなきゃいけないんだ
「でも、君も嘘を言うよね。学校に行きたくなくて風邪ひいたふりをしたり、似合ってない服でも似合ってるって言ったりさ。」
――そんなの、誰だって言う
苛立たしげにそう吐き捨てるのを見て
その子は実に楽しそうに笑った
黒真珠の目が覗きこんでくる
「そうだよ、みんな嘘を言ってる。でも君にはそれが嘘かどうかわからないでしょ?君にとってはそれこそが真実。嘘だとわかるのは言った本人だけ。」
ケラケラと声を上げる子どもに
今更ながら不気味なものを感じる
「こう思ったことはない?ここには嘘しかないって。」
いっそう近づき、顔を寄せる子ども
思わず後ずさる
「君の周りは他の人の嘘で作られ、気づいてないのは君だけだってさ。」
――……そうだったらなんだ?何が変わるもんじゃないだろ?
強がりだ
当たり前のことでも、こんなことを考えて冷静でなどいられない
「変わるよ。」
子どもは相変わらず無垢な表情をしていた
「だって、これが君一人の話なワケないじゃないか。この世界の住人すべて、ううん、この世界そのものが嘘なんだよ――」
静かに彼は手を動かした
夜の戸張が降り始めた街に立っていたのは彼一人
その手に握られた一冊のノートとひとつの消しゴム
「――ここは僕が作った虚構世界なんだから。」
× × ×
そこまで書くと、私はスマートフォンをポケットにしまった。その先の展開に行き詰まったからだ。こういう時は気分転換をするに限る。馴染みのカフェにでも行こうか。
お気に入りの黒いバックを肩にかけ、桜並木を歩く。見頃を過ぎた桜の樹から舞い降りる、たくさんの薄紅色の花びら。今日はお散歩日和だ。
花吹雪の後ろで
蒼い小さな影が過ぎ去った
タイトルをふと思い付き、そこから勢いで書きました。
人に見せられるものを書くのって大変……