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デュラハンの弟子  作者: 鴉山 九郎
【第7章 戦いの果てに夢見た世界は】
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88.始動する世界

 サイモナとツノは出立の挨拶をするために、ウィズドムの邸宅を訪れていた。旅装束をまとった二人の手には大きな荷物があり、彼女達が長旅を想定していることが分かる。

 ツノの頭にはターバンが巻かれている。角を隠すためだ。

 亜人が堂々と陽を浴びられる世が来たとしても、ツノには関係のないこと。彼女は亜人ではない。この世界の者ですらない。今回の事の真相――本当の魔王の正体を明らかにしなかった以上、異世界人の存在は隠しておいた方が良い。

 それがサイモナとツノの判断だった。


「本当に行くのか?」


 ウィズドムが残念そうに言う。

 優れた研究者はこの街の資産だ。彼としては、彼女にトムセロへ留まってほしかった。研究室も研究に必要な道具も、すべて揃えると言った。無料で貸し与えるとさえも。これ以上ないくらいの待遇だ。

 それなのに、サイモナはその話を断り、街を出ていこうとしている。

 サイモナは頭を下げた。


「私には勿体ないぐらいの話でした。いつか、私がこの街に戻って来た時、まだ私の研究に価値を見出して下さるのなら、その時にまたお願いします」

「……戻ってくる気は、あるのだな?」

「見聞を広めるための旅ですから。今回のことで痛感したのです。研究室に籠もって魔法陣と睨めっこしているだけでは駄目だと」


 ちゃんと考えがあっての行動らしい。そう分かると、ウィズドムは頷いた。


「そうか。なんなら、今、投資しても構わないのだがな。旅の支度金として」

「そ、そんな、私なんかに投資する前に、もっと他にお金をかけるべきことがあるでしょう。まずはトムセロに商人を呼び戻さなくては」

「はは、もっともだ」


 サイモナに正論を言われ、ウィズドムは笑う。話を静かに聞いていたツノも、少しだけ微笑んでいた。

 彼女達はウィズドムと握手した後、彼に見送られながら旅立っていった。




 街を出たところで、ツノはサイモナに話しかける。


「見聞を広めるための旅。それは本当か。と、わたしは聞く」

「慰安旅行だとでも思ったー?」

「聞き方を変える。他に目的があるのではないか。と、わたしは聞く」


 サイモナは観念したように頭をかく。


「ツノはするどいなー」


 まだ自分の頭の中で組み立てている最中の計画を、どこで気取ったのだろう。実はこの異世界人、角のない相手の思考も覗けるんじゃないのか。サイモナはそんなことを思う。

 ツノ相手に隠し事はできなさそうだ。


「実はちょっと、試したいことがあってねー。自分なりに、せっかく訪れた平和を維持するための方法を模索したんだよー。今回はその下見」

「案外まともだった。と、わたしは驚く」


 サイモナは苦笑する。自分の頭の中がまともだとは、到底思えなかった。確かに、志自体は立派なものだ。だが、それを実現するための方法は、おそらく常人には理解できない。普通の思考を持つ者なら、踏みとどまってしまうようなものだから。

 詳細を聞かれると面倒だと思い、サイモナはこっそり話題を変える。


「そういえば、当たり前のようにツノを連れてきちゃったけどー、よかったー?」

「問題ない。帰る場所もないから。この世界で生きて、この世界で死ぬ。わたしは――わたしは、そう決めた」


 きっと、余所者であるツノはこの世界の理には組み込まれない。生は、今あるこの一回限り。転生はできない。

 だが、それを残念だとも思わなかった。

 一度だけの人生。ならば、なおさら、思う存分に生きればいい。




 二人と入れ違いになるようにして、自警団はウィズドムのもとを訪れた。サイモナとツノはもう行ってしまった。そう聞くと、サルバドールは落胆してうなだれる。


「ええ……、もう行ってしまわれたのですか」

「残念だったな」

「キュミアさんの時も間に合わなかったんですよ」


 ここのところ、サルバドールを含めた自警団は忙しくしている。ウィズドムの人手が足りないからだ。彼に任された業務をこなしているうちに、いつの間にか時間に追われるようになっていた。

 これはちゃんと給与を貰わねばならないな。最近、サルバドールはそんなことを思っている。明らかに、自警団の活動とは逸脱した業務だ。

 今だって、二人の旅立ちに立ち会いに来たわけではない。ウィズドムに用があったから訪ねたのだ。そのついでに、顔を見られることを期待していたが。


「仕方ないですね。じゃあ、さっさと用を済ませちゃいましょう」


 ティピカがカトゥーラに目配せする。突然のアイコンタクトに、カトゥーラはあたふたと資料を探り始める。準備ができていなかったらしい。

 慌てたためか、紙の束がばらばらと落ちていく。

 仕方がないので、ティピカは資料がなくても話せるようなものから話していくことにした。世間話に限りなく近い。


「亜人達はすっかりトムセロに馴染んでしまいましたね」

「この街はいつだって大陸の最先端だ。これが未来の光景だぞ」


 ウィズドムは誇らしげに言った。つい先日も、有翼人の女に店を出す許可をした。こんなことができるのは、この街ならではだ。

 カトゥーラはやっと取り出せた資料を見つめ、遠慮がちに声を出す。


「あのぉ、そのことなんですが……」


 ウィズドムは不審そうに彼女を見る。


「なんだ?」

「カーチェフ領が、ラヌート山のアラクネと提携したらしくてぇ……」


 カトゥーラは困惑したように資料を読み上げる。


「つまり、友好都市になったということらしいです。……山を都市と言っていいのか分からないですけど」


 資料から顔を上げると、ウィズドムが絶句していた。

 サルバドールはくつくつと笑う。


「先を行かれましたね」

「そっ、そんな馬鹿な!」


 トムセロでもやれていないことが、一領地に先を奪われた。その事実にウィズドムは焦燥する。しかも、相手はつい最近まで厳格なカリム聖教信者だと知られていた――いや、だと思われていた領主が治める地。

 カーチェフ領の変わり身の早さに、ウィズドムはもはや乾いた笑いしか出てこなかった。



 *****



 ウィズドムをあれだけ戦慄させたというのに、カーチェフ領主ウェンデルにはまだ隠し事があった。

 書斎のソファでだらしなく横たわるウェンデル。彼の代わりに執務をやってあげていた部下は、いい加減に我慢の限界がきて、嫌味をぶつける。


「いつまでそうしているつもりですか」

「俺は今、傷心なんだ。そっとしておいてくれ」


 ごろり、と寝返りを打ってウェンデルは顔を背ける。

 部下は不可解な顔をする。


「傷心? 貴方が傷付くようなことがあるんですか?」

「ひどいな。君も知っているだろう。俺はアウトローチェにフラれたばっかりなんだよ」

「フラれた……って、あれ本気だったんですか!?」


 部下が動揺して、紙の束をばさばさと落とす。ペンが転がる音も聞こえる。彼がそれらを慌てて拾い集める気配を感じても、ウェンデルは手伝おうともしなかった。

 随分と親しげにアラクネのマザーの名を口にしたこの男。そう、ウェンデル・シックザールはマザー・アウトローチェに求婚したのである。つい数日前のことだ。結果は彼が言う通り、惨敗だったが。

 ウェンデルはその時のことを思い出し、ため息をつく。


「やっぱり、年齢が駄目だったかなあ。自分ではまだ若いつもりでいたけど、俺もいいオッサンだしね。やっぱり、こんなオッサン嫌だよね。お互いに晩婚だし、いけると思ったんだけど」

「い、いやいや――」

「それとも顔? 自分ではイケてる方だと――あ、こういう自惚れ屋なところかな。駄目なのは」

「そうじゃないでしょう……」


 どこから突っ込みを入れていいものか。困惑した部下の声音は、いつもより覇気がない。今回ばかりは本気で、上司の考えていることが分からなかった。


「まあ、分かってるんだけどな。何がいけなかったかなんて」


 ふと声色が真面目なものに変わる。いかにもイジけてます、という演技を止め、ウェンデルはソファから起き上がった。


「彼女が俺をフる時、なんて言ったか教えてやろうか?」


 ウェンデルは自嘲気味な笑みを浮かべる。


「“一人の息子の父親にもなれなかった男が、何百といる娘の父親になれるの?”だってさ。まったくもって、その通りさ。お見通しだったというわけだな」


 マザーがなぜそのことを知っていたのか。ウェンデルは特に疑問を持たなかった。

 息子の最期は、ミァンに聞いていた。凄惨な死にざまだったらしいが、そのことで件の少女を恨もうとは思わなかった。自分に、その資格はない。むしろ、頼みを受け入れて話をしてくれたことに感謝すらしている。

 マザーはおそらく、息子の肉を口にしている。死者に敬意を払う、アラクネなりの弔い方法。死者の魂の一部は、食した者の身体に宿るという。マザーは息子の生前の記憶を垣間見たのかもしれない。


「……それも、まあ、あるのでしょうけど。一番の障害は、人間とアラクネという点じゃないですか」


 ウェンデルの言ったことが、やはり予想とはズレていたので、部下は仕方なく自分の口から言う。

 指摘されると思っていたのだろうか。ウェンデルはにやりと笑った。


「人種が違う、というだけじゃないか。大きなくくりで見れば『人類』という同じ種族だ。人間と亜人の間には、子供ができるしな。なにも問題ない」


 部下は首を振った。これは生物学的な問題ではないのだ。


「教国の態度がだいぶ和らいだとは言っても、亜人との結婚なんて……認められるわけないじゃないですか」

「そう、そこなんだよ」


 良いところに気がついた、とでも言いたげにウェンデルは指を立てる。その仕草に部下はイラッとした。

 また勝手に何か企んでいたのだ。この奔放すぎる領主は。


「こういう問題は、早い時期に提起しておいた方が良い。今後、いつか必ず、直面する問題だからな。その時に、愛し合う若き男女が結ばれないなんて可哀想じゃないか。制度なんてもののせいで。――あと、一番最初に亜人と結婚したってなったら、話題性があるかなと思った」


 せっかくまともなことを言っていたのに、最後の一言でぶち壊しだ。自分から台無しにしてしまった。そこには、ある種の照れ隠しが混じっていたのだが、部下はそれに気付かない。


「話題性ですって? まさか、アラクネと提携したのも話題性なんて言わないでしょうね?」

「まったくないとは言わないけどさあ。違うって」

「では、なぜ?」


 まったく信用していないような目を向けられて、ウェンデルは少しだけ傷付く。自身のふざけた態度が原因であることは、充分すぎるほど理解していた。


「……デグラ荒野ではオーパーツが見つかるって話があったろ」

「それがどう関係するんです?」

「まあ、聞けって。あの地にはかつて、人間と亜人が共存する小さな国があった。そこでだけ見つかる、前時代の優れた道具。そこに目を付けて、俺はある仮説を立てた。――オーパーツの正体は、人間と亜人が手を組んだ時に初めて出来あがる品なのではないか、と」


 いくら人間が繁栄しても、再現のできなかった発掘品の数々。少なくとも二百年は前の物なのに、いまだにどうやって作られたのかは不明。中には、素材すらよく分かっていない物もある。


「アラクネの糸――あれは、加工さえすればどんなに引っ張っても切れないロープにもなるし、美しい織物にもなる。ただ、その製法は分からない。アウトローチェはそう言って首を傾げていたな。どうやってもアラクネの手ではべたつきを抑えることができないそうだ」

「ウェンデル様……見直しました」


 部下はあっさり先程までの評価を覆す。

 ウェンデルは溢れ出る笑みを隠せなかった。この産業が上手くいけば、この土地は冴えない田舎領地ではなくなる。民はもっと豊かになる。

 そして何より、産業を通してアラクネとの親睦は深まるだろう。



 *****



 話があると呼び出されたベラドンナは、屋敷の庭園でその男を待っていた。この屋敷はシルドウィング家のものだ。主人のブルーノは、軍人のくせして園芸が趣味だという変わった人物。

 彼女が今待っているのは、その息子。リチャードだ。

 フーフバラの内戦が収まってから、よく顔を合わせるようになり、今では話をする機会も多い。ベラドンナがフーフバラに帰ってきたと知るなり、リチャードは彼女に連絡を取ってきた。

 久しぶりに会うので、ベラドンナは彼女なりに楽しみにしていた。リチャードが花束を持って、庭園に現れるまでは。

 彼の言う話がどんなものか、彼女はその時までまったく想像していなかったのだ。


「なんだ? その花は」


 嫌な予感を胸に抱く。自分は、そんなにも思わせぶりな態度を取っていただろうか。彼が何かを言い出す前に、ベラドンナは反省を始める。やはり、自分はサキュバス。普通に振る舞っているつもりでも、相手は勘違いしてしまうのだ。


「ああ、君にと思って」


 リチャードは恥ずかしげもなく、花束を差し出す。

 ベラドンナは、それを拒否することができなかった。こういう態度がいけないのだと、内心で自分を叱咤する。誘惑に負けて花束を受け取ってしまう、この態度が。

 だって、仕様がないではないか。生き生きとした花が、とても美しかったのだ。


「美味しそうだ」


 ベラドンナは嬉しそうに、花束に顔をうずめる。花粉が顔に付くのもお構いなしに。花の香りが鼻いっぱいに広がる。それを思う存分吸い込んだ後、ベラドンナは花達にキスをした。

 そうすることで、花の美しさはベラドンナのものとなる。

 彼女が顔を上げた時には、色鮮やかだった花はすっかり萎れて茶色くなっていた。余韻を味わうように、ベラドンナはぺろりと唇を舐める。

 普段なら生気の吸い殻はすぐに捨ててしまうのだが、この時はなぜか、枯れた花束に目を落としてしまった。これが、先程と同じ花束だとは思えない。


「普通の女なら、きれいな花だと言って喜ぶのだろうな」


 自虐気味に、ベラドンナは言う。自分は人間の女とは違うのだ、と遠回しにリチャードに伝える。

 リチャードは首を傾げた。


「君が花を食べている姿、私は好きだ」

「それは……告白か? 女として、私を好きだと言っているのか? 異性として?」


 その言葉はサキュバスにとって、敏感にならなければならないものだった。何度も何度も、同じ意味の問いを投げかける。神経質そうに。それもそうだ。それは、時に命取りとなる、呪いの言葉なのだから。

 リチャードは肩をすくめる。


「さあ、よく分からない」


 だが、彼の返答にベラドンナは拍子抜けしてしまった。肩すかしを食らったような気分だ。

 ぽかんとしている彼女に、リチャードは言う。


「愛だの、恋だの、今まで縁がなかったせいか、私にはさっぱりだ。君に抱く感情が何なのか、自分でも分からない」

「分からない……?」

「私は案外、こういう人は多いのではないかと思うけどね。恋愛を知らないのは、何も淫魔だけの話じゃないと思う。どこにでも一定数いるよ、たぶん」


 ベラドンナは言われたことに考え込む。

 そんな彼女をよそに、リチャードはさっぱりとした顔で言い切った。


「君といると楽しい。今は、それで充分だ」


 その先のことは考えていない。少なくとも、今は。

 ベラドンナが首を傾げる。


「そのことを告げるために、私をここへ呼んだのか?」

「あ、それは違う。もっと大切な話がある」


 今の話は大切ではなかったのか。心のどこかでむっとした自分がいることに気付いて、ベラドンナは焦る。この感情を何と呼ぶのか、彼女もまた、まだ知らなかった。

 リチャードはベラドンナが抱く枯れた花束を見る。


「淫魔が人の生気を奪わずに生きる方法。その解決の糸口が見つかった」


 本当だったら、リチャードをそそのかして彼の生気を直接食べる方が、効率は良いのだろう。それなのに、彼女は手土産の花束で我慢してくれている。健気に、嬉しそうな顔までして。


「自分だけでは、いくら考えても答えなんて見つからない。そもそも、頭を使うのは苦手だ。だから、そういうのが得意な人達に託してきた」

「誰のことだ?」

「トムセロの市長と話をつけた。そしたら、街の研究者達に頼んでみるって」


 彼もまた、つい数日前にフーフバラに戻ってきたばかりだった。神聖王国軍がトムセロへ攻めてきた時、トムセロ側の援軍として戦いに参加していたのだ。ペガサス騎兵の活躍は、ベラドンナの耳にも入っていた。

 トムセロの市長は見返りとして、そんなことを言ったのだろうか。そうでもなければ、人間が淫魔のために働くとは思えない。

 ベラドンナはそんな卑屈な思いを口にする。


「淫魔なんかのために、人が動くだろうか」

「今回のことは君達が影で働いてくれたおかげで、スムーズに事が運んだんだ。新しい教皇の指針を、人々はすんなりと受け入れた。そのことも市長に伝えてきた」


 ベラドンナは首を横に振った。

 妹分達と大陸中を飛び回り、人々の印象を変える手助けはした。だが自分達だけでは、到底今の段階までは来られなかっただろう。風向きが大きく変わったのは、やはり、亜人混合軍が教国軍を打ち倒したあたりからだ。

 ベラドンナ達はその後すぐに、神聖王国軍の恐怖感、焦燥感、不安感といったものを煽ったにすぎない。募りに募ったそれは、開戦と同時に表面化した。瓦解する軍隊をこの目で見た時、ベラドンナは確かに達成感を味わった。

 淫魔達は裏方として、一役買っていたのだ。


「……なんとかできる問題だとは思えない。淫魔はずっと、この食事を行ってきたんだ。今更、変わらない」

「それは、変わる必要がなかったからだ。これまでの淫魔は、他の人種と共存する考えなんて毛頭なかったのだろう? でも、君達は違う」


 リチャードは断言する。


「人間が一緒になって考えれば、何か方法は見つかる。必ず」


 どこからそんな自信が出てくるのか。ベラドンナは不思議に思う。

 励ますためでもなく、かといって根拠があるわけでもなく。彼は確信だけを持って、そう言っていた。

 リチャードの他意のなさそうな笑みを見つめながら、ベラドンナは枯れた花束を優しく抱きしめる。この花束を水につけたら、たちまち鮮やかな色を取り戻し、蘇るのではないか。今なら、そんなことも信じられそうだった。




 物陰から、こっそりと二人のことを見守っていたのは彼女の妹分達。ダチュラ、サフラン、ナツメグの三人だ。オマケで、鴉の姿もある。こちらは言わずもがな、サジュエルである。

 重なるように身を寄せ合うサキュバス達の眉間には、しわが寄っている。見守っていたのはいいが、話声は届いていなかった。思わず目を細めるが、それで耳がよく聞こえるようになるわけでもない。

 視覚情報しか入らない中でベラドンナが微笑むと、彼女達は小さくわっと湧く。


「なに……話してるのかな……?」

「分かんないけど、楽しそうだねっ」

「お姉さまがあんな顔を人間に見せるとは、うむむ」


 騒ぐサキュバス達の肩に乗ったサジュエルは、微笑ましそうに男女を見ていた。


「新たな物語の誕生ですかな?」


 彼のくちばしから新たな物語が紡がれるのは、そう遠いことではないかもしれない。


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