容疑者 少年R
謹慎から一週間たった。
この日が待ち遠しかった。
大袈裟じゃなく本当に待ち遠しかった。
村上たち(あいつら)の復讐がくる事はもう分かっている。
っていうか自分が何をあいつらに仕掛けたなんて分からないけど…
別に何をされても耐えぬく自信はあった。
暴力?恐喝?仲間外れ?
でも大丈夫だ。俺の中にはチームメイトがいる。
「行ってきます」
そう言って家をでた。
学校についた。学校につくなり沢山の人が声をかけてくれた。
良介はそれを全部笑顔で返した。
「おーい、チャイムなってんぞー!
早く座れー」
先生が入ってきた。
「よーし朝のHR始めるぞー!あ、その前に一つ、いいお話がある!それは…」
「せんせーい!知ってまーす。関口君が帰ってきたんでしょー」
「そうか!覚えてくれていたか、松下!良かったな、関口」
「はい…」
「いぇーい!!」
松下ら吹奏楽部の女子や村上たちが喜んだ。
あからさま俺を馬鹿にしていた。
笑いの輪に入っていない人たちはとても困り顔だった。
と、いっても今日何かされたと言えばこれくらいだ。
何も起こらないことがなんだか不気味だった。
どういう事だ?
さっき村上たちのグループと廊下ですれ違ったが、何も言われなかった。それどころかこっちすらほとんど見てこなかった。
俺の警戒のし過ぎか?
そう思いながら家に帰った。
しかし、それは勘違いだった。
自分の考えがどれだけ甘かったか思い知らされた。
「ど、どう言うことだよ…」
2時間目の後、会議室に良介は呼び出された。
そこには担任の若松先生、生徒指導の加藤先生、校長先生に2人のスーツを着た男たちが逆のUの字を作るように席に座っていた。
「君が関口良介くんだね?」
目の前に座るスーツを着た青いネクタイをしている方が話しかけてきた。
「はい…」
「まあ、そこに座って」
準備されていた椅子にすわる。
「まあ、突然こんな俺たちに呼ばれたってよく分からないだろう。自己紹介をしよう。僕は兵庫県警捜査課の高木だ」
「同じく捜査課の田辺です」
青ネクタイ (高木)の横に座っていた赤ネクタイの男が続いて自己紹介した。
「早速だが、本題にいこう。まず関口くん。警察と聞いて何か心当たりはないかな?」
青ネクタイの高木が少し微笑みながら尋ねてきた。
「あの事故の事情聴取ならもうされたはずなんですけど…」
良介はこたえる。
「うん、そうだね。一回目の事情聴取はもう終わっているよ」
「一回目…? あの事故の事情聴取は何回もするなんて聞いてなかったんですけど…」
「うん、そうだね。我々もその件についての事情聴取は一回しかしない予定だったんだが… 少し意外な事がいくつか分かってね。関口くん、君はさっきから事故、事故と言っているが、もしかしたら違うかもしれないんだ」
「これは事件だったって事ですか?」
「まあ、そういうことだね。警察も最近、事件という方向で捜査を始めたよ」
「ど、どう言うことだよ…」
つい、口に出てしまった。
あの事故が実は事件だっただって?
チームメイトは。仲間は。皆の夢、努力は…
何者かの手によって潰されたと言う事なのか。
この事実は受け入れられなかった。
むしろ受け入れたくなかった。
「でだ、関口くん。だから僕はさっき何か心当たりはないかって聞いたんだよ」
「いえ、全くありません…」
もしかして、疑われているのか俺?
ふと思ってしまった。
でも、それは本当だった
はぁ…
青ネクタイの高木は一つため息をして言葉を口にした。
「まだ、決まったわけじゃないが実は警察は君が犯人の可能性があるとみているんだ」
「ど…どういう事ですか!!?」
その場に立ち上がってしまった。
俺が疑われている?
俺があいつらを殺すなんてありえない。
絶対、絶対にありえない。
「ごめんね。少し入り方が雑過ぎた。
まだ証拠もなにも説明してないのにね。今から説明するから座ってもらっていいかな?」
良介は言われた通りに再び席につく。
「まず警察が関口君を容疑者として挙げた理由は3つある。1つ目は事件現場にバスのブレーキ痕がなかった事。2つ目は君以外の人皆から薬物反応が出た事。3つ目はたまたま燃えなかった君の指紋が付着した、その薬物?薬品?と同じ物が入っているペットボトル1本が見つかった事だ」
青ネクタイの高木が少し早口に言う。
「つまり、関口君は少し毒性がある薬物をなにかしら手にいれペットボトルに何らかの方法で入れ、それを運転手を含むバスの乗員全員に飲ませた。そして体調不良の効果が表れるのを待った。案の定運転手の体調が急に悪くなりアクセルを踏んだまま気を失った。
そして事故は起きた。という風に警察は推理しているという事だ」
赤ネクタイの田辺が続いた。
「違うかい?」
青ネクタイの高木が 聞く。
「で、でも!僕本当になにもしていません!信じてください!そ、そんな、チ、チームメイトになんかできないですよ…」
今すぐここから逃げ出したかった。
でも足が動かない。
「そうなんだ。警察は動機がよく分からないんだ。話してくれないか?きっと楽になるから」
高木が諭すように話しかけてくる。
「そうだぞ、関口。楽になる。人はミスを起こしてしまうものだ。怖がらないで」
「だ、だから!僕はなにもしていません!」
どうして誰も信じてくれないんだ。
みんな、、、
「分かった。今日はここまでにしておくよ。気が向いたら話してください。
それでは。先生方、本日はわざわざありがとうございました」
そう言って部屋から出て行った。
担任の若松先生は僕の背中を2回叩いて部屋から出て行った。
僕はいつまでも膝の震えが止まらなかった。